08
「お父様、お母様、行ってきます」
「土産話を楽しみにしているよ」
兄にゆるく抱きしめられ「気を付けていくんだよ」と送り出された。リスカは何も言わない。
境界門に到着するとカリュース家の使いの者だという人が迎えに来ていてくれた。
境界門といっても本当に門があるわけでなく、アデレート国とラーセスマイト国の両方の番所があり、それに伴う小さな村が双方にあるだけで、入出国は自由自在である。
その2つの村の意識は隣国だけど一つの村。と言う感覚だった。
ラーセスマイト国の馬車に私とヴィーノが乗り替える。
我が家の馬車はその後を付いてくる。
向かう場所は境界門から3日程掛かるマーベラス家のお屋敷だそうで、カリュースのご友人の家になるそうだ。
小さな村に泊まり、何事もなくマーベラス家に着いた。
ヴィーノが思わずといったように「す、ごい、ですね」と呟いた。ヴィーノの気持ちがよく分かった。
何をとっても大きいのだ。屋敷も庭園も何もかもが、我が家の三〜四倍はある。
個人宅で噴水が設置され、稼働しているのを私は初めてみた。
ポカンと口を開けて見ているとカリュースが笑いながら「よく来てくださいました」と挨拶をされた。
慌てて取り繕い「ご招待ありがとうございます」と返事をし「お世話になります」と遣り取りをした。
「妻を紹介したいんだ」と後ろを振り向き、二十代後半の女性と五〜十歳の小さな子供達が五人カリュースに並び立つ。
「その節は主人が、お世話になりました。妻のシャッテと申します」
「大したことも出来ませんでした。今回はお世話になります」と社交辞令を交わす。
ここに居る子供三人はカリュースの子供で、二人がマーベラスの子供だと紹介された。
どの子も貴族の子女らしく礼儀正しく振る舞っていたが、子供らしい好奇心は押さえられないようで「お父様、倒れていたのですか?」とか「助けてくれてありがとう」「小父様どこか抜けてるってお父様が言ってたよ」など話してくれた。
「この屋敷の主、ヴァレリー・マーベラスと細君のニーカだ」
「ご招待ありがとうございます。お世話になりますアマンダ・コールデンと申します」
その日はゆっくりさせてもらい、翌朝一緒の朝食をいただいた。
「馬車で四日ほどしか離れていないのに食事の味が違って驚くだろう?」
「ええ。驚きました」
調味料が豊かなようで、オムレツにかけるソースがあった。
「ラーセスマイト国の味は複雑ですね。とても美味しいです」
「喜んでもらえてよかったよ」
「ソースの作り方を教えていただいてもいいですか?」
「いいけど、アマンダ嬢が作るのかい?」
「はい。ヴィーノと二人暮らしなので自分のことは自分でしないと」
「自給自足の生活?」
「まぁ、それに近いです」
「話は変わるんだけど折角来たんだし、ラーセスマイトの王都まで行ってみないかい?」とマーベラスが誘ってくれる。
「王都ですか?」
「そう、一週間ほど掛かるけど、誰かさんみたいに迷い込んだ訳じゃなく、遊びに来たんだから王都へ行こうよきっと楽しいよ」
「あまり長くお世話になるのは・・・」
「遠慮しないで。私の命を助けてもらったんだからね」
「そうよ。せっかくだもの私達カリュース家にも来て欲しいわ」
誘っていただいたし、ここは遠慮なく「行ってみたいです」と私は答えた。
疲れていないか聞かれ、大丈夫だと答えると明日、出発と決まった。