07
両親達に別れの挨拶をし、私の小さな家に馬で走る。
行きは急いでいたけれど、帰りはちょっとゆっくり走って周りの景色を楽しんだ。
今夜戻ってしまうと色々面倒なことになるので、小川の手前で一晩野営して、夜明けとともに出発する。
小川の橋を渡ると私の家だ。
「ただいま」
家に入るとヴィーノがちょうどこちらに向かっている姿を見つけた。
「アマンダ様、おかえりなさいませ」
「問題はなかった?」
「はい。サンスにも丁寧に接してくださっていました」
「そう、良かったわ」
「急いで朝食にいたしますね」
「カリュース様と一緒でいいわよ」
サンスがやって来て水汲みをしてくれて私のお風呂の用意をしてくれた。
「サンス、ありがとう。大変だったのではない?」
「優しい方で」
「良かったわ」
「お湯が入りましたよ」
「ありがとうヴィーノ」
私の身支度が整った頃カリュースが起きてきた。
カリュースは兄の衣装を身につけていた。
「アマンダ嬢、おはようございます」
「おはようございます。よく眠れましたでしょうか?」
「夢見のいい朝です」
「それはよかったです。朝食をご一緒してもいいですか?」
「喜んで」
「アマンダ嬢には大変ご迷惑をかけた。まさかあなたが使者に立つとは思っていなくて・・・」
「気になさらないでください。こちらこそご不便をおかけしたのではないでしょうか?」
「いえ、ゆったりとした楽しい時間を過ごしました」
「それはよかったです」
「ここからですと馬車で1日と半日ほどかかります。ラーセスマイト国とも連絡は付いていて、迎えの馬車を出してくださると連絡がありました。迎えがあるまで領主の館でお待ち下さい」
「お世話になりました」
「お気をつけて」
カリュース様を乗せた馬車が遠ざかっていき、サンスは大きく溜息を吐いた。
「大変だったでしょう?お疲れさまでした。これ、少ないけど」
少し多めの賃金を払い、鍋釜を買ってきたので皆に来てもらうよう頼んだ。
ヴィーノにも労をねぎらい、事後報告を受けた。
日常が戻り私の筋肉痛も治まり、またゆっくりと時が過ぎた頃、カリュース様から礼状と招待状が届いた。
ラーセスマイト国へ遊びに来てくださいと。
父からの手紙も一緒に届いており、お誘いは断らず遊びに行くといいと書かれていた。
ヴィーノに手紙を見せ「断れないみたい」と肩をすくめた。
「たまには公式の場に出たほうがいいですよ」とクスクス笑われた。
「手紙を届けに馬車で来るってどういうことかと思っていたらこのまま馬車に乗れってことね。今日のうちに準備をして明日立ちましょう」
住民に隣国へ行くため、長く留守にすることを伝え鶏や畑の世話を頼んだ。
収穫物は皆で分けるように頼んでおく。
快く了承をもらい、買って来て欲しいものを聞いて書き留めた。
「買って戻って来れるのはかなり先になってしまうかもしれないけど」
「無事にもどってきてくだされば十分です」
「行ってくるわね」
「行ってらっしゃいませ」
「只今戻りました」
「待っていたわ。暫くドレスを着ていないでしょう。明日からドレスで過ごしてね」
休む間もなく母が色々捲し立てる。
「サイズ変わってないでしょうね?とりあえずお風呂に入ってドレスに一度袖を通してみて。モスグリーンのドレスよ!!」
一番タイトなドレスのことである。
「それはちょっと・・・」
「あれが一番美しいもの。絶対あのドレスを着なさい」
母の勢いには勝てず唯々諾々と従った。
モスグリーンのドレスに袖を通すと、少しゆとりがあった事に驚いた。母はその姿を見た途端すべてのドレスに袖を通せとせっつく。
二十二歳にもなっているのだ。十代の頃に着たドレスの直しは必要ない。
「年齢に見合うドレスだけで十分です」
ため息を吐いて順番に着替えた。
ウエストを絞らなくてはダボついて見苦しかったのでメイド達が総出で詰めていった。
周りがバタバタとしている中、私はのんびりとしていた。
ここに居ると詰めたドレスを戻さなくちゃいけないんじゃないかしら?
リスカの嫌味でやせ細るかもしれないけど。
クスリと独り言ちた。