06
入浴中の彼に聞きに行くわけに行かず、ウロウロしているとサンスが来てくれた。
事情を説明して名前を聞いてきてもらう。
「相手は貴族みたいだから気を付けて接してね」
「わかりました」
「ローラン・カリュース様だそうです。マーベラス家の別荘に知らせてほしいとのことです」
「ローラン・カリュース様、マーベラス家ね、爵位を言ってらした?」
「いえ、何も」
「サンス、怖いかもしれないけど・・・お願いね」
「頑張ってみます」
引きつった顔のサンスは暫く立ち尽くし、アマンダを見送った
馬を休ませ、父の元に急ぐ。途中野営をして次の日の昼過ぎ、屋敷にたどり着いた。
「まぁ、お嬢様どうされましたか?」
「お父様はいらっしゃるかしら?急いでいるの」
「少々お待ち下さい」
メイドがバタバタと動き出す。
コップに入った水を差し出され、私は一気に飲み干す。
「お食事はされましたか?」
「まだなの。なにか軽いものでいいから用意してもらえる?」
リスカが階上からこちらを見下ろす。
「アマンダ、こんな時間に何の用なの?」
「リスカお義姉さま、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」
両親が部屋から出てくる。
「お父様、お話が」
「執務室に来なさい」
ソファーに腰を下ろした途端一気に疲れが出た。
「何があったんだ?」
「実は境界線を越えてこちら側に来られた方がいて・・・」
かいつまんで話をし、事情を話す。
「こちらから境界門に問い合わせを出しておく。カリュース様にもこちらに来ていただいた方がいいだろう」
「わたくしもそうおもいます。馬車を至急向かわせてください」
「わかった。アマンダも今日はゆっくり休みなさい」
「はい、そうさせていただきます。もうくたくたです」
父と執務室を一緒に出る。すると待ち構えていたのだろう、リスカが扉の前に立っていた。
父が背後にいるので不自然にならないようリスカに話しかける。
「あら、そう言えばお兄様は?」
「近くの村に出ています」
「そう、帰られたらご挨拶したいと伝えてくださる?」
「分かったわ」
リスカが言いたいことが言えず我慢しているのが手にとるように分かる。
側に来たメイドにお風呂の用を頼み、ダイニングへ行く。
両親と話をしながら軽い食事をとり、お茶を飲む。
兄が私に向かって走り寄ってきた。
「久しぶりだな。今日はどうしたんだい?」
「お兄様!お久しぶりです」
ぎゅっと抱きしめられ、歓迎を表してくれる。
「後でお父様から聞いてください。私もうくたくたで、休ませてもらうわ」
「ゆっくりお休み」
「ありがとう」
翌朝、目が覚めると体中が痛い。
運動不足ね・・・。
くるりと部屋を見回すと私の部屋は何も変わりがなかった。
私が持ち出したものがあるのでその分寂しく感じるけれど、部屋はそのままだった。
リスカが片付けてしまっているかと思ったのだけど。
翌朝、着替えて急いで階下へ降りる。
玄関には馬車が止まり荷物が運び込まれている。
「もう出発しますよ」と母に言われ「おはよう」と答えた。
「何日くらいこっちに居られるの?」
「明日の朝にはこちらを発つわ」
「もっとゆっくりすればいいじゃない」
「ヴィーノを残してきているし、カリュース様にご挨拶しないわけに行かないでしょう?」
「そうね」
母が酷くつまらなそうにする。珍しいことにどうしたのか訊ねると妹、私と続いて居なくなり、寂しいのだとポロリと溢した。
母の背を数度撫でポンポンと叩いた。
「今日は一緒にお茶をしましょう」
「そうね」
境界門からの返答があり、こちらへ迎えを出すことと、感謝の言葉があった事が伝えられた。
これで一安心ね。
母とお茶をしたり、父の執務を少し手伝って実家を堪能した。