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ガタゴトと揺れる馬車に乗って1日と半日。
小川の小さな橋を渡ると小さな家がある。
小さいと言っても部屋は6つ、従者用の部屋は4つある。
厩舎もあり、広大な土地がある。
別荘というか、何かあった時に避難用というような使い方をされていて、子供の頃は夏休みにはよく遊びに来ていた。
子供頃に兄と一緒に魚釣りをした小川を越えた。
昔と変わらない家がそこにあり、郷愁を感じた。
小さな家は隣国のラーセスマイト国との境界線に近い山の麓に建っている。
眼下には広大な畑があり、小さな集落でこの畑の世話をしている。
ここは災害の少ない場所で土地も肥ていて作物がよく育つ。
ここで生まれた若者は旅立って行ってしまうが、疲れた人が心と体を休めるにはとてもいい場所だった。
畑と小規模な酪農をしていれば自給自足でこの小さな集落で暮らしていける。
畑の収入で意外と高収入を得ていて、集落の者はそれなりに裕福だった。
御者が荷物を家に運んでくれる。
2日ほど力仕事を手伝ってくれ、御者は帰って行った。
ここに来るにあたって、メイドのヴィーノがついて行くと言ってくれてとても嬉しかった。
ヴィーノこそこんな所で隠棲生活をしていいような子ではないにも関わらす、私よりもこの小さな家での生活を楽しみにしているようだった。
ゆっくりとした時の流れ、急いで片付ける必要はない。ヴィーノと二人でゆっくりすればいい。
そもそも大した荷物もない。殆どが布類だ。
入居するにあたって、父が家に手を入れてくれたようでところどころ新しくなっていた。
「ありがとうお父様」
私の部屋に来た父の顔を思い出し、切なくなった。
ヴィーノと二人で庭に小さな畑を作ることにした。
自給自足しないといつまでも集落の皆に迷惑をかけているわけにいかない。
住民のおじいさん、バル爺に鶏を二羽もらった。
バル爺は私が子供の頃もバル爺だった。
産んだ卵を何羽か孵して育てるといいと、育て方を教えてくれた。
若い人たちが数人来て鶏のための小屋を作ってくれた。
初めはおっかなびっくりで鶏と相対していたが今はもう慣れ、夜にはちゃんと小屋に戻せるようになった。
静かにゆっくり時は流れる。
葉物の収穫が済み、イモ類の収穫も出来た。
集落の誰かが1日に1度様子を見に来てくれて、困ったことはないかと気にかけてくれる。
深く感謝し、自然と笑みが溢れるようになっていった。
たまに両親が遊びに来てくれる。兄も1度来てくれた。
懐かしいと言い、小川で釣をして釣果をありがたくいただいた。
当然、リスカは来たことがない。
両親、兄が「結婚しないのか」と言ってくるが、笑って「相手が居ない」と返事出来るようになった。
ここに来て同じ季節を経験することになった頃、小さなハプニングが起きた。