03
ネガティブ回です。
リンゴーン・リンゴーンと大聖堂の鐘が鳴る。
私はブーケを手に粛々と歩く。
先を歩くのは妹と父。
今日は妹とアレクの結婚式だった。
扉の前に父と妹が立ち、私は裾を直してブーケを手渡す。
「お父様、落ち着いてね。こけたりしないでね」
「わ、わかってる」緊張でカチコチになっている父がとても心配。
妹に父を頼み、私は親族席に着席した。
自分の元婚約者と妹の結婚。
妹には幸せになって欲しいと心から願う。
けれど、私の中の感情はそれだけではなかった。
私にはもう、着れないだろうウエディングドレスを着て、幸せそうに笑う妹を心から祝えない自分が嫌になってしまった。
両親は妹の花嫁姿に嬉し涙をこぼしていたのを、私は少し冷めた気分で眺めていた。
私はマルロイとの婚約破棄の後、誰とも婚約しなかった。
話は何度かあったけれど、また婚約破棄されるのではないかと思うと怖くて踏み切れなかった。
アレク、サリバン、マルロイが残した傷は両親や周りが思っているほど軽くはなかった。
たとえ私に問題はなくても、アレクの前に4度も婚約破棄されているのだから。
私は悪くないと誰が言っても、私は私が悪いのだと思ってしまう。
私はもう以前のように笑えなくなっていたし、人の目が怖くてしかたなかった。
兄の婚約者のリスカは笑顔で近づいてきては毒を吐く。
その毒が全身に染み渡っていく。
私が結婚を諦めたのが分かるのか、時々母は小言を言う。
私は苦笑してやり過ごし、父はなにも言わずに目を伏せる。
兄の結婚が近づいてきて、領地の隅にある小さな家に住みたいと両親と兄に伝えた。
絶対に駄目だと受け入れてもらえなかったが、リスカが嫁入りしてきたら私は邪魔になるのでそのうち認められるだろうと思っていた。
リスカの成人を待って兄は結婚した。
リスカは私に当たりが強かったので、内心では家に入ってほしくないと思っていたけれど、笑顔で歓迎した。
リスカの当たりが日に日に強くなっていく。
兄の夫婦関係にもよくないと思い、私はまた小さな家に移り住むことを提案した。
父と兄の執務を手伝い、なんとか自分の居場所を作っている居心地の悪い自宅。
兄夫婦のことよりも私が自由になりたいと思った。
誰の目もない所ではリスカに嫌味を言われる。
「7度の婚約破棄で貰い手のないアマンダ」
「あら、行けず女のお通りね」
「あらごめんなさい。気が付かなかったわ行けずの年増さん」
同じ年なのに年増はリスカにも返っていく言葉だと心の中では言い返した。決して口にはしない。
よくこれだけ悪口が出るものだと妙に感心してしまった。
次期当主の妻の仕事をリスカから奪っているのは私なので、嫌味の一つや二つは我慢しなければならないと自分に言い聞かせ我慢した。
なるべくリスカには関わらないよう生活していたが、一緒に暮らしているのだ。
食事は一緒になるし、リスカの私室より私の部屋の方が奥にあり、リスカの部屋の前を通ると測ったように出てきて嫌味を言われた。
リスカの機嫌は日に日に悪くなり、兄と時々言い争っているのが聞こえた。
私はまた父に領地の端っこにある小さな家に住みたいと頼んだ。
父と兄はそんな隠棲した生活などよくないと大反対したが、暫くすると兄の反対する勢いが小さくなっていった。
父は絶対に駄目だと強固に反対していたが、兄夫婦の喧嘩の理由が私にあると気付いていたので、自宅にはもう居場所がないことを両親に説明した。
時間は掛かったが、両親、兄の了承を得ることが出来た。
了承をとれた後の私の行動は早かった。
元々準備していたのもあったし、リスカと一緒に暮らしていたくもなかった。
人目のない場所で暮らせることを心より望んでいた。
出立する前の夜、父が私の部屋に訪ねてきた。
「私の浅はかな行動がアマンダをここまで追い詰めてしまった」
「違いますよ。お父様。私の運命はこう決まっていたんですよ」
「そんなことはない。アマンダは幸せになるために生まれてきたんだ」
「ありがとうございます。今でも十分幸せですよ」
「最後に一度だけでいい。結婚相手を捜している人がいるんだ。年周りも悪くないんだ。一度、一度だけでいい会ってみないか?」
「お父様、ごめんなさい・・・」
「そうか・・・」
父は泣きそうな顔をして退室していった。