02
いつもより長くなってしまいました。
「もうこれで大丈夫」と母が3歳年上の相手を見つけてきた。
「何がどう大丈夫なのか?」と私は思ってしまった。
三歳年上にも関わらず婚約者がいないのはなぜ?と不思議に感じたが両親も今回は慎重になっていて、好きな相手は居ないか何度も確認を取っていたのでそれで私は安心してしまった。
好きな相手など居ないというサリバンの言葉を信じて婚約が成立した。
この時、私は14歳になっていて、とても多感なお年頃であった。
数度の交流で、サリバンはちょっと変だと気が付いた。
「なにか好きなものがあるか」と聞くと「昨日アリを眺めていたら一日が終わってしまった」と返答が来る。
「今度は何時会いましょうか?」と聞くと「曇りの日に」と言われ、2日後、曇りだったので会いに行くと「そんな約束はしていない」と会うことを拒否され、次の約束もなく私は帰ることになった。
それから一ヶ月、何度か手紙を出したが会えないままになってしまった。
二ヶ月が経った頃、サリバンから会いに来てくれたが、残念な事にその日は学園の生徒集会で私は帰るのが遅く、会えないままとなってしまった。
すると「3ヶ月も会わない婚約者など要らぬ」と一方的に婚約破棄すると言われ、両親は受け入れた。
がっぽりお金をむしり取ったらしい。
なぜ受け入れたのか泣きながら両親に聞いたがと、黙ったまま何も答えてくれなかった。
数日経った頃に兄の婚約者、リスカが私を見下したように話し始めた。
「サリバン様にはもう新しい婚約者が出来たそうですわよ」
「えっ?」
驚いた私に「喧嘩別れしていた彼女とよりを戻したそうよ」と鼻高々に話して聞かせてくれた。
あまりにも酷くない?
「もとよりアマンダなんか相手にされていなかったのよ。喧嘩別れした彼女の気を引きたくて利用されただけなのよ」
リスカは私を見て高笑いする。
「サリバン様はアマンダを利用したかっただけなのよ」
サリバンの頭には間違いなくアリが湧いていると思う。かなりの慰謝料を支払っているはずだ。
普通に仲直りできなかったのか?
私がこの人、変だと思っていた部分は好かれたら困るから態とああいう態度だったということが分かった。
私の経歴と心に1000%の傷を残した。
両親に、もう婚約者は連れてこないでくれと泣いて頼んだ。
子供の頃ならいざしらず、私もお年頃だった。
甚く傷ついたのだ。
掛ける言葉が見つけられなかったのか、反省したのか父は目を伏せ「わかった」とだけ答えた。
17歳になったある日、母が知らない男の子を家に連れて来た。
マルロイという子は遠縁の子で、私と同じように何度か婚約破棄された経験のある子だと言った。
「アマンダが婚約を嫌がっているのは解っていますが、成人が目の前です。あなたの我儘はこれ以上聞いてあげられません」
数日後、マルロイと婚約する事になってしまった。
マルロイは距離を詰めるのが上手な子で、次第に私も心を許すようになっていった。
週末、我が家にやって来て、家族の一員のように振る舞い、楽しい時間を過ごした。
マルロイとは学園が違ったために一緒の学園生活が送れなくて残念だと思うくらい、心を許してしまっていた。
親戚の家の夜会に招待され、兄妹で参加した。
兄も妹も婚約者連れで。私は1人。
私はマルロイを誘ったが、その日はどうしても外せない用事があると言って断られてしまった。
1人で行くのは嫌だったので、私は両親に不参加を伝えたが、親戚の家だから一人でも大丈夫と言って無理やり連れてこられてしまった。
1人佇み、やっぱり来るんじゃなかったとつまらなく思う。
背後から知った声に呼びかけられて振り向くと同じクラスのキャロットだった。
「夜会に来るなんて珍しいわね」
「親戚の家なの。両親に無理やり連れてこられちゃって」
「そう・・・1人なの?」
「婚約者はどうしても外せない用事があって・・・」
何度も婚約破棄されている私が婚約者がいると伝えても、マルロイを見たことがない人ばかりで信用されていないことは知っていた。
「そう、残念ね」
嫌味にとってしまうのは私の心が歪んでしまっているせいだろうか?
私達がいる場所の反対方向で何か大きな音が聞こえた気がした。
ザワザワとした人の話し声が大きくなり、大きな音が聞こえた方向に人だかりができる。
遠くに聞こえる声が兄の声な気がして、キャロットと共に人だかりに向かって歩き出した。
はっきりと兄の声だと認識できて人垣を分け入って前へ進む。
バルコニーで半裸になった女性と押さえ込まれた男性が目に入った。
妹を見つけて何があったのか聞こうとしたら、妹のほうが先に私を見つけ、腕を引っ張られて人垣から連れ出される。
アレクが母を連れて来て馬車に乗せられた。
「なに?お兄様が誰かを・・・」
「アマンダ、今はとにかく急いで帰りましょう」
何が起こったのかさっぱり分からず、連れて帰られた。
「お兄様は大丈夫なのでしょうか?」
私の問には誰も何も答えず、目を伏せた。
父と兄が帰宅して、ホッと息を吐いた。
「何があったのですか?私だけ何も知らないみたいなのですが・・・」
「今日はもう、休もう。疲れてしまったよ」
父も兄も本当に疲れた様子だったので、その日は何も聞けないまま就寝することになった。
夜会から2日ほど経った日、兄に父が呼んでいるので執務室に行こうと声を掛けられた。
そこには母も居て、何だか嫌な感じだなと思いつつソファーに腰を下ろした。
口火を切ったのは父ではなく母だった。
「マルロイとの婚約はこちらから破棄しました」
「へっ?」
「アマンダの婚約者として相応しくないと判明しました」
「相応しくないって何?」
「これ以上あなたが知る必要はありません」
「私の婚約のことなのに私が知る必要がないってなんですか?」
「以上です。下がりなさい」
「お母様!!」
兄に立たされ執務室から出される。
「お兄様はなにか知っておられるのですか?」
「私は知らない。部屋に戻りなさい」
何度か両親や兄に尋ねたが、相手にされなかった。
私は既にマルロイに心を許してしまっていたので、手紙を送ろうとしたけれど、それも許されなかった。
学園でリスカとすれ違いざまに嫌味を言われた。
「7度も婚約破棄した人を見たのは初めてですわ」
私は黙って俯くしかった。
「アマンダは教えられていないでしょう?でも、私は知っているのですよ」
ふっふふふっとそれは楽しそうにリスカは笑った。
「何を知っているの?」
「マルロイというあなたの婚約者は色んな女性と関係を持っていて、手を出してはいけない人に手を出してしまったのよ」
「嘘っ!!」
マルロイがそんな不誠実な人とは思いたくなかった。
「この間の夜会でその事が発覚して婚約が破棄されたのよ」
母は私に相応しくないって言っていた・・・。
「手を出してはいけない人って・・・?」
「公爵家のリッテン様。体の関係をおもちだそうよ」
「そんな・・・うそっ・・・」
「本当にかわいそうなアマンダ」
この世にこれ以上楽しいことはないという顔をして何度も何度も「かわいそう。可哀相な、アマンダ」と言った。