けむる
私は何人殺してきたのだろう
人間も沢山殺したし
動物も沢山殺した
今日は空が泣いているから
私が誰も殺すことはない
私は沢山大きくなることができる
そこに熱さえあればどこまでも。
殺してしまうのは私の意志ではない。
笑われるかもしれないが
私は自分の意志で行動したことがないのだ。
ただ風の吹くままに流れて生きてきた
誰も私に注目することなどないだろう。
時に私は熱の中、黒い姿に形を変え
人を動物を殺すことになる。
そこに何の感情もない。
本人に自覚があるかどうかは私の知るところではないが
私を生み出すのは、その者達自身であることが大多数を占める。
昨日も涙という液体を頬に伝わせながら
死にゆく者を私は見た。
そんなに悲痛な顔をするのに
何故自ら私を産み出すのか私には理解できずにいた。
そんな事を考えていると、私の記憶は一度途絶えた。
次に私の意識が戻った時には
小さな民家の熱によって産み出されいて
目の前には幼い姉妹が座っていた
皆が私を煙たがるはずだが
彼女たちは違った。
幼い姉妹の妹が姉に向かってこう言った。
お姉ちゃん、あったかいね。
お姉ちゃん、ありがとうね。
お姉ちゃん、やっと幸せになれるねと。
姉の方はこう言った。
ごめんね。
本当にごめんねと。
涙をいっぱいにしてずっと謝っていた。
妹は姉と居る事に安心感を感じながら
ずっと笑顔だった。
私はこれから彼女たちを殺すことになるだろう。
そこに何の感情もない。
私はそんな存在なのだから。
存在だったのだから。
私は気づくと自分の意志で
その家の窓から出た。
初めてのことだった。
何故そうしたのかは解らない。
私は風の吹くままに動いてきた。
人に煙たがれる存在だった。
初めて私を喜んで受け入れてくれる
彼女たちを私は初めて自分の意志で拒絶した。
彼女たちは生きるべきだと、そう思った。
彼女の周りの大人たちは奇跡だというかも知れない
私にとっても自分がこんな事をするなんて
奇跡だと思う。
しかし、それは本当に奇跡だろうか?
彼女たちの真摯さが生んだものを奇跡という言葉で
片づけてしまっていいのだろうか?
私に感情が産まれるなんて、だれも信じないだろう。
信じられないもの、目には見えないものは
すべて奇跡なのだろうか。
私があの家か窓の外に出ると
また空が泣きはじめて、そこで私は消えた。
あの姉妹のありがとうが聞こえた気がした。