夜勤は嫌でも周ってくるし熱中症は対策しててもかかってる 1/2
時は二〇二二年、或いは令和四年、なんとなく語感がよくないお年頃。先進国日本の誇る大都市東京は、今日も人と排気ガスと無数のビルに覆われている。
今年の八月はなんといっても暑い、もはや熱い、そしてしんどい。おまけに低気圧で頭が痛い。例年のことではあるが、何億年日本に住んでもきっとこの猛暑と異常気象に慣れることはないだろう。
この俺、本庄悟・二十七歳、至って平凡な工場勤務の独身男性。十人十色なこの東京砂漠において、俺の担当色は間違いなく灰色から黒にかけての場所にある。要するに個性もなんもない、得意なことといえばツッコミが鋭いくらいの面白味のない一般ピーポーなのである。
現在時刻は朝七時四十分。俺は出勤中? いやいや絶賛退勤中。何を隠そう夜勤明け。昼間しっかり寝たはずだがやはり生活リズムの乱れは堪えるもので、今日も元気に吐き気・腹痛と格闘中だ。熱中症なんてとうの昔にかかっているので、経口補水液は必需品。
さて諸君、東京といえば何を思い浮かべるだろうか。そう、誰もが真っ先にこう答えるであろう、「交差点」と。そんなことない? 俺がそうだと言っているのだからそうなんだ。ここは、ここだけはあくまで俺の独白、俺が主役の一人称に過ぎないので異論は認めない。
そんなわけで俺は今、世界に羽ばたくTOKYOの象徴、アメリカニューヨークでいう自由の女神的なポジションである交差点にて、歩行者信号と睨み合っている。こいつは俺がやってくるタイミングで図ったように赤になる。特に今日のような疲労度マックスのときにパァ! という感じで赤くなられると、それはもう俺の顔まで真っ赤になってしまう。原因は怒りではない。ただの熱中症である。
しかし、しかしだ。スキマ時間を有効活用してこそできるオトナというものだ。俺はそんなスマートなカッコいい男ではなくくたびれたスーツに着られているダセェおっさんに過ぎないのだが、まあだから彼女いない歴イコール年齢なのだがうるせえな、それでも俺だって空いた時間を無駄にするほどのデキナイオトナではないのである。俺だってこの待ち時間にマスクをちょこっと下げて、カバンの中の経口補水液のペットボトルを取り出して、カッコよくスマートに水分補給及び熱中症対策ができるのである。もうかかってんだけど。