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君はいつも気まぐれ  作者: みさき
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始まりの音

この世の中はつまらない。毎日同じように三食のご飯を食べ、少し活動すると睡魔がやって来て、寝る。普通に学校にも行っていて、話せる友達もいるはずなのにつまらない。私には、そんな毎日が退屈で仕方なかった。

 

 そんなつまらないこの世界に彩りを加えてくれたのは、推しだ。推しの為なら今日も頑張ろうと思える。電車に乗っている時や、どんなに退屈な授業でも、推しのことを思うと楽しく思えた。世界の中心に立っているのは、いつも私の推しだと思えた。それくらい、底なしの私の原動力だったのだ。

 しかし問題がある。それは金銭面だ。推しに背中を押され、憧れのモデルになる為に入りたかった芸能高校に入った。推しにお金を使うのは中学までで、高校からは貯金する!そう心に決めていたはずだった。でもいざアルバイトを始めると、自由に使えるお金が毎月万単位もあることに感動し、気がつけば足はアヌメイトに向かっていた。

 お金がない中学時代とは違い、今は欲しいものがある程度確実に手に入るようになった。あんなに買えないと嘆いていたものも買える。その喜びと感動と物欲に負け、私は毎月三万円程、推しにつぎ込んでいた。それが幸せで、きっとこれからもそうなんだろうな、と思いながら、やはり放課後は自然にアヌメイトへと向かっていた。

 

 ある時、そういえばこのアニメ流行っているよな、という興味だけで新しいアニメを見始めた。通称『呪い』という、何と捻りのないタイトルなんだと思いながら観ていると、気がついたらハマっていた。なんと言っても好みのキャラがいたのだ。短髪だが前髪が長く、普段はあまり喋らないが実はギャグ線が高い。そして何より顔が整っていて声が良い。私は自分好みの男が居るとすぐその作品にのめり込んでしまう。もしかすると面食いなのかもしれない。いや、きっとそうだろう。

 そんなしょうもない事ばかり考え、アヌメイトへ向かいグッズを買う。最早日常茶飯事だ。それが私の幸せであり、日常だ。

 

 そして今日も、憧れのモデルに一歩でも近付くため、レッスンを受けに学校に登校していた。大好きな推しの缶バッジ付きトートバッグを持って。

 

 「実はさ、私最近呪いってアニメにハマってるんだよね〜」 

「えっそうなん!?私も私も!あの五戒くんかっこいいよね!七話の!」

「あ〜分かる、あそこの台詞は見すぎて覚えた」

 

 どこからかそんな会話が聞こえた。私はやけに推しと作品の話題には敏感だから、こういう話題だけはやたら盗み聞きしてしまう。ふとその先を見ると、クラスの陽キャラ代表と言わんばかりの仲良し二人組だった。あ、にわかだな、と何故か反射的に思った。適当に聞いておいて関わらないでおこう、そう思っていた。

 

「私もそれ好き!呪いだったら、誰が好きなの?」

 ……あれ。私は半分無意識に彼女たちの話題に入ってしまっていた。他人の推しはどうしても知りたくなる性分とはいえ、どうして自ら苦手なタイプに話しかけたのだろうか。自分でも分からなかった。

 

「あ、みさちゃんも好きなんや!私は五戒くん!」

「私は圧倒的祐二やわ」

「いやそこは五戒くんやて」

「はぁ?祐二の良さも分からんってあんたも相当頭湧いとるよ」

「は?良さが無いとか言ってへんやん、話にならんしもうええわ、そう言うみさちゃんはどうなん?誰推し?」

「私は渡根くん!」

「渡根くんかー、可愛いよな!」

 

 良かった。殺されなかった。この話の流れだと、渡根くんなん?なんで?と圧をかけられてもおかしくはなかった。所詮まだ上辺だけの関係なのが救いだったのだろう。それにしても、五戒くん推しの梨々花ちゃんといい、祐二くん推しの咲ちゃんといい、このノリとテンションに付いていくのは苦労すると思う。その中でも、やはり推しの事となると楽しくて話してしまうものなのだが。そんな事を思いながら、その後も三人で語り尽くした。

 

(疲れた……)

 流石に今まで話さなかったタイプの人間と話すと疲れる。語り尽くした後の私はぐったりしていた。今日はまっすぐ帰ろう。

 

「みさちゃん?」

「え」

 

 突然背後から話しかけてきたのは、さっきの二人組の一人の咲ちゃん。中性的な見た目で、顔は割と私のタイプだ。何となく話しかけづらくて今まで話して来なかった。

 

「駅まででいいからさ、一緒に帰らん?」

「…いいけど」

「よっしゃ!私みさちゃんと話してみたかったんだよね」

  

 これをきっかけに、私の日常は狂い始めた。

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