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再びの神像作成

 思いのほか、食材のお披露目に時間を取ってしまったけど、細工をするため気持ちを切り替えて部屋へ戻る。


《チチッ》


「ん、ミネル待っててくれたの?」


 部屋に入るや否やミネルが私の肩にしっかと捕まってきた。


「うんうん、あなたは聞き分けの良い子だね~」


 五分ほどミネルに癒された後で、私は作業を開始する。現在出来上がっているアラシェル様の木像は十五体。ただし、バルドーさんに三体譲ったので残りは十二体だ。


「う~ん、このまま木像を作るか銅像に移るかだけどどっちがいいかなぁ。ミネルはどう思う?」


 ここは思い切ってミネルに聞いてみよう。分からないと思うけど。


「ミネル~、木像と銅像どっちがいい?」


《チッ》


《チチッ》


 ミネルに聞くと木像では一声鳴いて首を振るしぐさをし、銅像の時はふた声鳴いて回って見せた。ふむ、ミネルはどちらかというと品質重視の考え方らしい。確かに私も出来の良くないアラシェル様の像が出回るのは嫌だな。


「そうと決まれば!」


 私はマジックバッグから銅を出して、魔道具を取り出し着替える。


「さて今回の像はどうしようかな?」


 これまで作った像は出会った時の姿に近いもの、そこに杖を足した通常バージョン。それに水辺をバックにしたものに、ラフな服装をしたものだ。この四タイプに新しく加えるとなると……。


「アラシェル様って戦ってる姿は思い浮かばないし、こうなってくると普段着のバージョン違いかなぁ。それとも神々しい服装を増やす? でも、そうすると何を司っているのかも分かりづらくなっちゃうしなぁ」


 あ~でもないこ~でもないと悩む私。


「うん。悩んでても仕方ないし、まずはいっぱい絵を描こう。そこから気に入ったものを作っちゃえばいいんだ」


 そう思い直した私はペンを手に取り、絵を描いていく。ここに来てから絵を描くのも楽しくなっていた。前世ではベッドの上の暇つぶしの一環だったんだけどな。さらさらとペンが進んでいき、まずは一枚描き上がる。他にもどんどん描いていく。

 思いつく限り描くのは効率が悪いかもしれないけど、今の私が描けるもの思いつくものを、未来の私が描けるとは限らないしね。


「さて三枚目に行こうかな~」


《チチッ》


「ん、ミネル遊んで欲しいの?」


《チッ》


 ミネルが肩に捕まって外の方を向く。


「たまには外に出たいよね。一緒に行こっか」


 私は町行きの服へ着替えて下りようとしたところでふと気付いた。そう言えばゲインさんに杖を見せるって約束してたな。そのまま杖を持って部屋を後にする。まあ、町行きの服装でもなんてことはないだろう。そう言えばマジックポーションも使っちゃったし、補充しないとね。


「さあ、行くよミネル!!」


《チチッ》


 私もミネルも元気よく宿を出る。一先ず目指すは武器屋だ。


「こんにちは!」


《チッ》


「なんだアスカか。今日はまたどうしたんだそんな格好で?」


「ゲインさんが杖を見たいって言ってたから持ってきたんです」


「おお、そうだったのか。変な格好で来るからつい何事かと思ってな。どれどれ」


 ゲインさんは杖を手に取ると、じーっといろんな方向から見る。アラシェル様がくれたものだからそれなりの物だとは思うんだけど。


「ふむ。これは中々の品だな。木も普通のオーク材とは違うようだし、何よりこの魔石のような物は集中力を高める効果もあるようだ。重量バランスもかなり考えられているカスタム品だな。きっとアスカ用に発注したんだろう」


「そうなんですか? じゃあ、思ってた通り良い物なんですね」


「残念ながらうちの武器屋でこれより上の物はないな。集中力向上だけなら上でもそれ以外の部分。例えば重量や、使いやすさの点で大きく劣る。いざという時に違和感なく使えるのも冒険者には重要だからな。これを差し置いてまで勧められるものはない」


「ありがとうございます。恩人から貰った杖なので、とても嬉しいです」


「そいつに感謝するんだな。きっとアスカの才能に気づいてお前が成長できるように作ったんだろう」


「はい!」


 アラシェル様のくれたものは思いのほか良いものだったらしい。この調子だとネックレスやローブにも何らかの効果があるみたいだ。今度、確認してみようかな?


「それはそうと次に行くよ。飲食店じゃお店で勝手に食べないようにねミネル」


《チッ》


 ミネルは片翼を大きく広げ、そんなことはしないというポーズを取る。うんうん、さすがはうちの子だ。


「こんにちは~」


「あら、いらっしゃい。アスカちゃんだったかしら?」


「はい」


「今日はどんなご用件?」


 冒険者ショップへ入るとこの時間はあまり人がいないようで、お姉さんも声をかけてくれた。


「前に買ったマジックポーションなんですけど、使ってしまったので補充に来ました」


「あら、それは良い心がけね。あれはそれなりの値段だから補充しないって言う冒険者もいるのよ。もっともその多くが初心者で、後になって泣きを見るんだけどね」


「そうなんですね。あ、それと携帯できる食料ってどこにありますか?」


「そっちの奥だけど、どこかへ行くの?」


「まだ分かりませんけど、少し遠出する時のことを考えて、今のうちにどんなものがあるか見ておこうと思って」


「なるほどね。勉強熱心なのはいいことね。……あら、その子は?」


「ミネルって言うんです。最近うちに来たんですよ。頭のいい子なんです」


《チチッ》


 ミネルが自己紹介とばかりにくるりとお姉さんと私の頭を一周してまた肩へと戻る。


「本当に賢い子みたいね。警戒も強いヴィルン鳥がそこまで懐くなんて。じゃあ、案内するわ」


 案内してもらった場所には果物の干した物や干し肉などがあり、多くのものがドルドと一緒だった。ただ、でかでかとお腹が膨れますと書かれた商品だけは見たことがなかった。


「これは?」


「ああ、これは冒険者ギルドの専売品よ。冒険途中にかさばらないし、お腹が膨れるんだけど味はないに等しいし、調理も困難なの。だけど、コストパフォーマンスは良くて結構人気なのよ。割と中堅クラスの冒険者も護衛依頼中には良く食べているわ」


「じゃあ、これを三つください。後はこれとこれを」


 私はドルドでも見たことのない干し肉や果物を選び、そこにマジックポーションをつけてもらう。


「そう言えばアスカちゃんのランクはいくつなの?」


「今はDランクですね」


「なら、気を付けてね。今、町の東側は危険だって通達が来てるわ。Dランクなら冒険には出られるけど、オークの変種やオーガも出たって書いてあったし、危険よ」


「はい。ありがとうございます」


 実際に戦って思い知ったから知っているとは言わずに、心配してもらえたことに感謝を伝える。


「それじゃあ、まとめて銀貨二枚ね」


「これで」


 私は袋から銀貨二枚を手渡すと、お姉さんがマジックポーションと保存食を分けて梱包し、一つの袋に入れてくれた。


「それじゃあ、また」


「ええ」


《チッ》


 三者三様の挨拶でその場を去る。


「さて、それじゃあ今日のアフタヌーンティーはこの携帯食だね」


 宿に戻った私はこの世界のコーヒーっぽいものを頼み、味のないと評判の携帯食と一緒に食べる。


「……何だろうこれ。もさもさしてるし乾燥してて水分が奪われる。なんていったらいいのかなぁ。味のないカロリーが取れるバーのような感じ。そこからさらにぼそぼそさをアップさせた、食べたく無いを具現化した形の物だね」


 とりあえず、一口食べてコーヒーを飲む。しばらくするとお姉さんの話の通りお腹は膨れてきた。


「あ~、確かにこれはお腹にたまるね。だけど、味がないし、栄養もなさそうだしあれとは別物だね」


 あっちは、食べてエネルギーと栄養を摂取できるけど、こっちは単純に腹持ちだけを考えた物みたいだ。


《チチッ》


「だ~め、ミネルは絶対食べちゃダメだからね。お腹が膨れちゃうよ!」


《チィ》


 ちょっと残念そうだけど、自分のお腹が膨らんだ姿を想像したのか、ミネルはそれ以上食いついてこなかった。


「今度ノヴァたちに会ったら食べたことあるか聞いてみよう。正直、これ以上食べる気にはなれないしね」


 誰かと一緒なら会話のアクセントとして消化できるかもしれないけど、一人で食べるなんて御免だ。後はこれを改良することだけど、そうしたらコストアップにも繋がるよね。また機会があったらエステルさんにでも相談してみよう。


「ライギルさんに直接言ったら、私の拘束時間が増えそうだし。そうと決まれば作業再開だね」


 こうして私はしばしの休憩ののちに、再びアラシェル様の絵を描き始めたのだった。




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