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休息そして

「それじゃあ、二人とも今日はありがとね。特にリュートは」


「ううん、僕の方こそありがとう」


「そんじゃな!」


 食事も終わり、ノヴァとリュートとも別れる。今日はエステルさんの上がり時間とも一緒になったので、三人で帰るそうだ。こうして後姿を見送っていると三人とも仲がいいのが分かる。


「どうしたんだい、アスカ?」


「いやぁ、幼馴染っていいなぁって」


「アスカにはそういう子はいないのかい?」


「私はセエル村に流れ着いた余所者ですから。母もあんまり村とは交流を持たなかったですし……」


「そうかい。それより前に住んでいたところは知らないのかい?」


「全く覚えていないんですよね」


 この体にはアスカとしての記憶がちらほらあるみたいだけど、セエル村より前のことは全く思い出せない。父親の顔も分からないままだし、もうこれは仕方ないんじゃないかと思っている。


「まあ、これから作っていけばいいさ。ほら、戻るよ」


「そうですね……って待ってくださいよ、ジャネットさん!」


 置いていかれないように慌てて私も食堂へ戻る。


「そんなに慌てて戻らなくても。別に同じ部屋というわけでもないしさ」


「あっ!」


 そうだった、ここ数日は一緒にいることも多かったから忘れていたけど、部屋は別なんだった。


「まあ、アスカも今日はもう休みな。寝たって言っても疲れ自体は取れてないだろうしさ」


「そうですね」


 ジャネットさんのアドバイス通り、私はベッドに入る。


《チチチッ》


「ミネルも心配してくれてたんだね。ありがとう」


 不思議なことにミネルは私が寝付くまで、私の頭上を旋回していた。あれは何の意味があったんだろう?



「ふわぁ~、良く寝た」


 昨日は色々あった割にはかなり疲れが取れている気がする。二回も寝たからかな?


「一応、状態を確認しておこう。ステータス!」


 名前:アスカ

 年齢:13歳

 職業:冒険者Dランク

 HP:150

 MP:1360/1360

 力:46

 体力:52

 早さ:61

 器用さ:141

 魔力:337

 運:65

 スキル:魔力操作、火魔法LV3、風魔法LV3、薬学LV2、細工LV3、魔道具LV2、弓術LV1、(隠ぺい)


「あれ? いつもならMPは半分とちょっとぐらいしか回復しないのに全快してる。どうしてだろう?」


 《チチッ》


 そんな疑問を口にするとミネルが飛び回る。


「まさかミネルが……なんてね」


 そんな貴重な能力があるなら、もっと色々な人に狙われてしまうだろうし、そんなわけがないとミネルの朝食を用意して食堂へ向かう。


「おはようございます」


「おはよう、アスカちゃん。今日はもう大丈夫なの?」


「はい。いつもはもう少し疲れが残るんですが、今日はばっちりです!」


「そう、くれぐれも無理はしないでね」


「大丈夫ですよ」


「そうそう。ヴィルン鳥……ミネルだったかしら。パンくずや野菜くずを出せるから必要なら言ってね」


「ミーシャさん、お願いできますか。他にもちょっとやりたいこともあったのでまた後で受け取ります」


「それじゃあ、今日の仕事終わりに渡すわね」


「はい、楽しみにしてます!」


 ミネルのご飯をもらえるなら、買い物に行く手間が省けるので思いついた方法が試せると、うきうきした思いで午前の仕事を終わらせる。


「今日はおねえちゃん機嫌いいね。昨日はあれだけ疲れてたのに」


「ちょっとね。出来たらエレンちゃんにも見せてあげるよ」


「楽しみにしてるね!」


 エレンちゃんと約束して、お昼の接客が始まる。今日は珍しく、リュートもエステルさんもお休みだ。孤児院組もたまには一緒に過ごせばとミーシャさんの計らいなんだけど、みんなきちんとわかってくれたかな? リュートがいるから大丈夫かなぁ。


「アスカちゃん、こっちお願い」


「は~い」


 注文の声で現実に引き戻された私は次々に追われる接客をこなしていく。とはいえ前よりも席同士の間隔も空いて、動きやすいためとても楽だ。エレンちゃんと協力して給仕を終わらせお昼ご飯になった。


「今日はおねえちゃん、どっちにするの?」


「私はお魚が欲しいから野菜の方かな?」


「そうなんだ、エレンはお肉だよ」


「エレンちゃんは伸び盛りだからその方がいいかもね。私はやりたいことがあるからそれでだし」


 そう言うとお魚を半分残し、お昼ご飯を食べ終えた。残した半分のお魚は厨房にあるぼろぼろの木の器に移す。


「アスカ、そんなぼろい入れ物じゃなくてこっちの使ったらどうだ?」


「あっ、大丈夫です。ちょっと試したいことがあったのでそれに使うんです。きっと使うと新しくても一回でぼろぼろになると思うので」


「なら助かる。皿も数がギリギリになって来てな……」


 ちらっとこちらを見ながら言うライギルさん。これは新しいのが欲しいのかな?


「依頼ですか?」


「悪いが頼めるか? 鉄板もあったらうれしいんだが」


 ライギルさんは前に私がお客さんに鉄板プレートで肉を出す店があったという話をしてから、かなりこの話に食いついている。料理人として出来立てを食べさせたいと意気込んでいるらしい。ここは話してしまった私が悪いということで諦めよう。


「アスカちゃん。言ってたパンと野菜のくず、ここに置くわね」


「ありがとうございます」


「なんだ。他にも使うのか?」


「はい。ミネルのご飯にもするんですけど、それ以外にも試したくて……」


「なら、出来たものを見せてくれ。お前の知ってる町の食に対する姿勢はすごいからな」


「そうですか?」


「ああ、料理人からすれば今すぐにでも行ってみたい場所だろう」


 私のイメージ的には朝から晩まで働いてるって言う、職人気質の結構きつい職場ってイメージなんだけど。


「それじゃあ、部屋にいますから何かあったら呼んでくださいね。あっ、ちょっと木をもらっていきます」


「おう!」


 木材の中から鉄板プレートを置けそうな木を選ぶと部屋へ持ち帰る。一度、試作品を作成するためだ。


「ミネル~ご飯だよ」


《チチッ》


 巣箱から出てきたミネルは私の肩につかまる。こうやって私が天板を取ってもいいと合図してくれるのだ。天板を取りご飯台に今しがたもらってきたパンくずと野菜くずを合わせて置く。水は……まだ大丈夫そうだ。


「じゃあ、私はこの間に試そうかな?」


 さすがに食べてる横で金属加工はかわいそうなので、窓を開けて以前に作った作業台の上に残したお魚の皿を置き、野菜とパンのくずを追加する。後はこれらを小さく切って準備完了。


「最近思いついたんだけど、フリーズドライは無理でも乾燥させることはできそうなんだよね」


 私が思いついたこととは、食品を乾燥させて長期保存を可能にするというものだ。うまくいけばレトルト食品のようなものにも応用できる。


「火よ、風よ、熱風となれ!」


 二属性を操り乾燥を促進させる。出てくる熱は直ぐに窓から出て行くようにして、かつ食品が飛んでいかないようにも注意する。こうして当て続けること十分ぐらい。


「そろそろいい頃かな?」


 水分も飛んで体積も小さくなったし、見た感じ表面もカリッとしている。いざ、口の中へ……。


「う~ん、ちょっとだけ芯の方に水分が残ってるかな? もうちょっとやろう」


 それから五分後、芯まで乾燥していることを確認し、作業を終える。


「もう少し薄く切れば、十分でも出来そうだけど、今度は具が小さくなり過ぎるかな?」


 この世界の料理は基本的に大味のため、切り身も大きい。その価値観からすればこれ以上小さくしてしまっては、逆に雑な料理に見えてしまいそうだ。


「さすがに料理を出す店でそれは駄目だよねぇ」


《チッ》


「なぁに、ミネルも食べたいの? だけど、これは固いから別のにしようね。旅の途中だったらこれを水で戻したものを食べるかもしれないけどね。パンはきちんとクルトンみたいな感じに仕上がってるな。でも、これは乾燥しすぎてるし、十分もあればいいかな?」


 一つ一つの食材についてメモを取っていく。葉物と根菜とパンと魚。とりあえず今回試したのはこれだけだけど、それでもそれぞれにかかる時間は違っていた。意外だったのは魚かな? ほぐしてさらすことができるので、案外短い時間でも乾燥出来た。


「やっぱり根菜の時間が長いなあ。これは小さく切っても水分が多いから別でした方がよさそう。一緒にしたら他のが痛んじゃうかも……」


 とりあえず、料理ごとに使えそうな分け方をする。野菜はまとめてではなく、戻し時間も変わりそうなので根菜と葉物は分ける。次に魚とパンを分けて完成だ。


「さあ、エレンちゃんたちにも見せてあげようかな?」


《チチッ》


「ん、食べたいの? でも、固いからな~。お魚ぐらいなら食べられるかな? きちんと水も飲むんだよ」


 私はご飯台にちょっとだけ乾燥させた魚を置き、食堂へ下りて行った。



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