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2人の新装備

「う……ん……」


 体がちょっと重い。どうしてだろう? なんだか頭もあんまり働かないな。


「アスカ目が覚めたかい?」


「ジャネットさん?」


「武器屋でのことは覚えてるかい?」


「あ、はい」


「あの後、すぐに疲れて眠っちゃったんだよアスカ。今は宿の部屋だよ」


「そうだったんですね。ありがとうございます。連れてきてくれて」


 まだ、頭がぼーっとするので顔だけを向けてお礼を言う。


「いいよ。それにほら」


「アスカ大丈夫?」


「大丈夫か?」


「リュート、それにノヴァも。どうして?」


「あんたが気になるからって部屋に居座ってるのさ。年頃の女の子の部屋に入ろうとする悪いやつらだよ」


「そ、それは」


「ふふっ、ジャネットさんたら……」


「その調子なら大丈夫そうだね」


「はい。まだ、ちょっとだけだるいですけど」


「まあ、それは仕方ないね。ゆっくり休みな」


「二人とも買い物の途中だったのにごめんね」


「いいよ。アスカが心配だし、肝心のものは二人とも買えたからね」


「二人ともって?」


 ノヴァは買ってたけどリュートも買ったってことかな?


「ノヴァが剣と手入れ道具。リュートも手入れ道具と魔槍さ。あれから魔槍も大人しくなって、扱いやすくなったってリュートが言ってね。ゲインにも危険だったものの正体が分かっただろうって値切りに値切って手入れ道具とセットで金貨五枚にさせたんだよ」


「ゲインさん可哀そう……」


「何言ってんだい。あれだけ魔力を込めないと扱いきれないようなもの、この辺の武器屋じゃ手に余るよ。王都だって売れるかも分からない代物さ。それを扱う人物を見つけてもらっただけでも、ゲインに取っちゃありがたいことさ。最悪、買った奴からの苦情で店を滅茶苦茶にされるかもしれないんだよ」


「そんな……」


「それぐらいあの魔槍は人を選ぶからね。まあ、大事にならなくて良かったよ」


「確かに。戦いの最中に分かってもどうしようもないですもんね」


「そういうことだよ。ようやく手に入れた武器のせいで、パーティーが壊滅の危機になるなんて笑えないからね」


「まあ、これで俺もリュートも次の冒険の時には大活躍だぜ!」


「ノヴァ、もうゲインさんに言われた言葉忘れたの?」


「分かってるぜ。でも、ちょっとぐらいいいじゃんか」


 あんなことがあった後だけど、リュートたちはいつも通りで安心するなぁ。


「これからは西側で薬草採取の依頼をあまり受けられないね。銀の剣と魔槍を持った人が、西側で採取ばっかりっていうのは聞こえが悪いし」


「だからといって、あまり奥まで行かないようにしなよ。そうだね。次の時はあたしも一緒に行ってやるか。せっかく買った武器を使いこなせるか見てやるよ」


「げっ、いきなりかよ。一度、自分で確認しときたかったのに……」


「そういうなよ。最初が肝心なんだから。そこで危ない目に合うよりは、きちんと見てもらう方がいいだろ?」


 不敵に笑みを浮かべるジャネットさん。二人とも頑張ってね。私は得物が違うから別メニューだろうけど。


「そうだよ二人とも。せっかくだし見てもらおう」


「アスカはいいよね。関係ないんだから」


「もう~そんなこと言って」


「まあ、アスカとあたしじゃ分野がまるで逆だからね。武器が弓と魔法じゃあたしの出番はないよ。せめてフィアルでも捕まればいいんだけど、魔物の件で仕入れ先を考えないといけないから忙しいんだよ」


「そっか、ライギルさんも言ってたけど飲食店の人は忙しいんだ」


「まあ、仕入れの価格が変わりそうな話だからね」


 フィアルさんのお店は素敵で料理も美味しいし、ここは経営に専念してもらおう。


「アスカは弓も魔法も使えるんだよな。俺も剣以外の何かを始めようかな」


「どうしたの急に?」


「いや、こうしてみると俺って剣を持ったところで、ジャネットには敵わないだろ」


「そうだね」


「だからさ、それでもある程度戦えて、リュートやアスカと戦ったら勝てるぐらいの何かが欲しいなって」


「そりゃいい心がけだ。だけど、肝心な剣がおろそかにならないようにね。大したことない剣の腕で他に何してきたって怖くないからね」


「うっ、分かってるよ」


「それじゃあ、僕も色々考えないと」


「ふふっ、二人とも頑張ってね」


「アスカは何かやらないのか。お前、器用だろ?」


「他のことかぁ。細工とか得意だし、魔道具みたいなのを作りたいかな? 簡単なのは作れてるし、応用版みたいな」


「そりゃいいねえ。うまく行けばリュートやノヴァだって使えるようになるかもね」


「本当かよ! ならそれにしろよ」


「だけど、材料費が高いからあんまり期待しないでね」


「きっと大丈夫だよアスカなら」


「ま、焦らずにだね。旅に出ればそれなりに資金を食いつぶすよ」


「そうですよね。だから二人ともあんまり期待しないでね」


「ああ」


「うん」


 なんで二人ともそんな期待に満ちた目で返事をするのか。まあ、冷蔵庫的なものは私も欲しいし、これから時間ができるなら少しずつ試していこうかな?

 こうして、短くも長い二人の買い物は終わった。そして、時間を聞くともう十九時頃だと言われた。そう言えばお腹が空いたような……。ということで私たちは食堂へ行くことにした。


「あっ、おねえちゃんたちやっと降りてきたんだ。話長かったね」


「あ~、長いというかあれからアスカが中々起きなくてね」


「そうだったんだ。おねえちゃん無理してない?」


「大丈夫だよ、エレンちゃん」


 ほらと私は握りこぶしを作り、元気アピールをする。実際に私は寝ていたから元気なのだ。


「ちょっとだけ待っててね。もうすぐ空くから」


 エレンちゃんの言葉通り、二分ほど待つと席が空いたのでそこにみんなで座る。


「いや~、ここも席が増えて助かったよ」


 数日前に終わったばかりの宿の拡張工事によって、座席数も増えた。これで席に座れないということは少なくなるだろう。その分、忙しくなるかというとそうでもないみたいだ。

 ただ、みんなの滞在時間がちょっと伸びたのとそれに関連して、飲み物の注文が増えたぐらいかな?


「そうですね。席の間も少しですけど広がってやりやすくなりましたし」


「あっ、やっぱりそうだったんだ。僕もそうじゃないかと思ってたんだ」


「あれ、リュートはライギルさんから聞かなかった?」


「うん。でも、なんだか動きやすくなったって言うのはあったから……」


「それじゃあ、みんなの分の注文取るね」


 エレンちゃんが私たちの分の注文を取ってくれる。


「支払いは……」


「今日は僕が払うよ。アスカにも無理させちゃったし」


「いいの?」


「うん」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


「サンキュー、リュート」


「悪いねぇ。リュートに関しちゃ、あたしは付いてきただけなのに」


「いいえ、これまでもジャネットさんにはお世話になりましたし」


「うんうん、ノヴァにはこういう殊勝さが足りないね」


「はいはい」


 こうして、にぎやかな食事が始まった。最初はノヴァとリュートの話を聞いた。二人はあれから心配して来てくれる前にちょっとだけ新しい武器を使ってみたらしい。といっても軽い素振りだけだと言ってたけど。


「へぇ~、じゃあやっぱりノヴァはちょっと剣が重かったんだ」


「まあ、今の俺にはな。大丈夫だって! その内、簡単に使えるようになるからさ」


「早くその内が来るといいね」


「おう!」


「全くだよ。慣れる前に死なれちゃ勧めた方としても寝覚めが悪いからね」


「そうはならねーよ。最近は力もついてきたしな」


 どうだとノヴァは袖口をまくって力こぶを作る。確かに出会った時よりがっしりしたかも?


「確かにノヴァは、速さとかはほとんど変わってないのに、腕力はかなり伸びてるよね」


「まあな。これも親方のところで日々頑張ってる証だぜ」


「じゃあ、たまには売り上げに貢献できるものも頼んでくれよ」


「ライギルさん!」


 話が弾んでいるところにライギルさんがやって来た。手に持っているお皿には見慣れない料理が入っている。


「その料理なんですか?」


「エステルとオークの肉を成形する時に余る端肉の利用方法を一緒に考えた料理だ」


 どんと皿に盛られていたのは見覚えのある料理……ロールキャベツだった。


「えっ、これってロールキャベツ!?」


「なんだそれは? キャベツってのは聞いたことがないな。このカーグに似てるのか?」


「あっ、ええ。そうですね。これと同じように葉っぱがくるりと巻いている野菜です。それにひき肉を置いて巻く料理なんです」


「なるほどな。作り方も一緒ってわけか。それなら一つ聞きたいことがあるんだが……」


「なんですか? 私で分かる範囲だといいんですけど」


 私は色々な料理を食べたことはあっても料理人じゃないから、簡単なことだといいなぁ。


「いや、似たような試みは俺も前にしたんだが、毎回葉が開いて肉がバラバラになるんだ。何か解決策はないか?」


「葉の方は下茹でして巻いてるんですよね? だったら、後は串に刺せばいいんじゃないかと……」


「串か! 確かにそれなら開かないようにできるな。だが、それだと食べる時に危なくないか?」


「ちょっと面倒ですけど、お皿に移す時に抜いて出せばどうでしょうか?」


「なるほどな。他には何かないか?」


「他にですか。後は植物の茎か何かでひもみたいにしてくくるとかですね。それなら一緒に食べられますし」


「ほう……食べられるひもか。それはそれで色々な料理に使えそうだな。ありがとうアスカ!」


 その後、ライギルさんは私の返事も聞かず、すぐに厨房へ帰っていった。


「あの、この料理って食べてもいいんですよね?」


「いいんじゃないかい。もう覚えてないだろう」


「相変わらず料理となるとすごい人だよね」


「エステルさんが来たから余計かも。ミーシャさんもそこまでできる方じゃないし、私はほとんどできないし。これまでだって、誰かと一緒に作りたかったんだろうね」


「そう言えば、ここの料理も増えたよなぁ。俺たちが最初に来た時よりずっと多くなってるぜ」


「今やメニューのローテーションを考えると作りすぎちゃって、困るぐらいだもんね」


 食材の仕入れも前は特定の物が多かったけど、今は新鮮で安い物も一緒に仕入れるようになったし。残った食材はパンの試作に生かすことも出来るしね。


「そりゃ、あたしたちからすれば嬉しい悩みだね。名店でも同じ料理ばかりじゃ飽きちまう」


「でも、本当に美味しいなら飽きないって聞いたぜ」


「そりゃ、ずっと食べられない奴の言う事さ。あたしらみたいに明日死ぬかもしれないって職業の奴は意外と食にこだわるからね。気に入った町の店で食べては飽きて次の町へ行くなんて奴もいるんだよ」


「じゃあ、その人がこの宿に泊まったら一生出て行かないようにできるかもしれませんね」


「まあ、それができるなら一番だけど、後釜もいないとね」


「きっと、エレンちゃんがいい人を見つけてくれますよ」


「そこは妹任せなんだねぇ」


「姉は見守るのみです」


 それからも話は色々な方向へシフトしながら、楽しい食事となったのだった。



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