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バルドーさん最後の依頼製作

「う、う~ん」


 もぞもぞと動くと、ぽよんと何かやわらかい感じがする。疑問に思い顔を上げると、そこにはなぜかジャネットさんの顔があった。


「うえ?」


「おはようアスカ。ぐっすり寝たみたいだね」


 ……そう言えば昨日は一緒に寝てもらったんだっけ。それにしてもずいぶん寝た気がするなぁ。


「今日は随分とぼけぼけだね」


「ぼけぼけって、ジャネットさん今何時ですか?」


「今かい? 大体十時半ぐらいだね」


「十時半……十時!」


 大変だ、大遅刻じゃない! 急いで着替えないといけない。そう思って布団から出ようとしたところをジャネットさんに押さえつけられた。


「こら、たまにはみんなに甘えて休みな。エレンには言っといたから」


「エレンちゃんに? でも……」


「あの子も心配してたよ。みんなに心配かけるより、一日ゆっくり休んだ方がいいだろ?」


「確かに。それじゃあ今日はゆっくりします」


 そうと決まればジャネットさんの胸にダーイブ。


「うわっ! いきなりなんだい」


「えへへ、ここにきてあんまり甘えたことがなかったので、今日は午前中だけでも甘えてみようかなって」


 昨日も部屋に来てくれた時とっても嬉しかったし、お姉ちゃんみたいだったからつい甘えてしまった。


「まあ、いいけどね」


 それからは二人で色々話をした。ちょっとだけ恋とかの話もしたんだけど、二人ともそういうことには疎かったので話は弾まなかった。


《チチッ》


「おや、お前もいたんだね。主人を思ってか静かにしてたから気づかなかったよ」


「そう言えば、まだご飯あげてなかった! ヴィルン鳥って何食べますかね?」


「う~ん。小鳥を育てたことはないからねぇ。これでも食うかな?」


 ジャネットさんが取り出したのは、オークの肉だった。それも結構いい部位だ。それを小さく切ってご飯台に乗せとヴィルン鳥は恐る恐るついばむ。どうやら気に入ったようで食べられると分かればどんどん食べ始めた。


「記憶違いでなくてよかったよ。ヴィルン鳥は雑食だからあんまり好き嫌いはないんだ。ただ、誰からでもエサをもらわないだけでね」


「ご飯をもらう人を選ぶんですか?」


「ああ、懐いてないやつからは貰わずに、その場合は自分で探しに行くね」


「結構頑固なんだね君」


《ピィー》


 何だか威張るような態度で接してくるヴィルン鳥。いや、威張るところじゃないんだけどな。


「そういえば、名前とかは付けないのかい?」


「そうですね。これから一緒に住むんだったら名前を付けてあげないと。君はオスかな? それともメス?」


 《ピ ピィー》


 最初の問いかけには首を振り、次の問いには頷くように返事をする。


「そっかぁ~、女の子なんだね。それじゃあ……ミネルでいい?」


「また、変わった名前だね」


「私の住んでいた地方で崇められている知恵の女神からちょっとだけ名前をお借りしました。全部じゃないですけど。この子も賢いですし」


「気に入ったかいミネル?」


《チチチッ》


 気に入ったと私の周りを飛んで喜ぶミネル。これからよろしくね!


「それにしても昨日の今日でよくもまあこんなに立派な家を作ってやったもんだね」


「まだ、外だけですよ。中は巣とご飯台と水飲み場だけですから」


「それだけあれば贅沢だと思うがねえ。放し飼いも多くて戻って来ないこともざらだし」


「それだとかわいそうじゃないですか?」


「まあ、解釈次第だね。戻って来たくないぐらいには自由に生きたいっていう証なんだから」


「う~ん、そう言われると仕方ないですね。ミネルもそうなったら言ってよね」


《チチッ》


 それからは私も落ち着いてきたし、ちょっとお腹も空いたので早いけどお昼にすることにした。


「あっ、おねえちゃんおはよう! 起きたんだね」


「ごめんねエレンちゃん。寝過ごしちゃって……」


「いいよ。昨日も疲れてたみたいだったから、元気になってうれしいよ!」


「ありがとう」


「そうよアスカ。たまには何もしない日を作ることも大切よ」


「エステルさんも心配してくれてありがとうございます」


「これだけ心配されてるんだから、今後はもっと甘えなよ、アスカ」


「そうですね。本当にありがとうございました、ジャネットさん」


 お昼に出された料理は私の体を気遣ってか、オートミールのような料理だった。こんな時間に出してもらえるだけでもありがたいのに、なんだかジーンと来ちゃうな。


「お、お姉ちゃん! ど、どうかしたの?」


「アスカ、本当はまだ体調悪いの?」


「へ?」


「ほら、涙拭きな」


 いつの間にか私は泣いていたみたいだ。昨日からどうにも涙腺が緩んでしまっているらしい。ちゃんと締め直さなければ。


「まあでも、よくよく考えればまだ十三歳なんだし仕方ないわよね」


「あっ、いえ」


「いいのよアスカ。私もそこまで大人じゃないから頼りないけど、何かあったら言いなさい」


「はい!」


 私にはジャネットさんを始めとして、エステルさんにエレンちゃんまで、頼れる人がこんなにいてとっても心強いと思ったお昼だった。


「それはそうと午後からはどうするんだい?」


「午後ですか? やっぱり女神像制作ですね。もうすぐバルドーさんの出発日なので、今日と明日作った分をお渡ししようかと……」


「それじゃその次の日は?」


「冒険には出ませんけど、一応みんなで集まろうって」


「なるほどねぇ。その時はあたしもいてもいいかい?」


「もちろんですよ。ジャネットさんもメンバーですからね」


「なら、一緒に出させてもらうよ。場所は食堂だろ?」


「多分そうですね。来たら言いますよ」


「よろしく」


 これ以上拘束しても悪いと思ったので、ここでいったん別れて、私は女神像作りに励む。今日と明日は銅像を作る予定だ。


「残り少ない時間を有効に使わなきゃね」


 パッと着替えて、魔道具で銅像を作る。魔道具は消費MPに比例して精度だけでなく、製作速度も上がっていくため、そこまで時間はかからない。でも、あまりにも消費を大きくさせ過ぎると、数体作るだけでMPが空になるので注意も必要だ。


「下半身はこうで上半身は……」


 製作を始めて一時間半で一体目が完成。この調子なら今日は六体ぐらい作れそうだ。そのまま勢いに乗り二体目、三体目と製作する。

 しかし、三体目を作り終えたところで、ミネルが私の周りを回りだした。


「ん、どうしたのミネル。お腹すいた?」


《チッ》


 違うよと首を振るミネル。だけど、特に何かしたいわけでもなさそう。まあ、何か私も気が抜けたし飲み物でも貰ってこようかな? そう思い食堂へ行ってミーシャさんに飲み物を頼む。


「ミーシャさん。ジュースください」


「はいはい。今日は早い時間に休憩なのね」


「なんだかミネルにつられちゃって……」


「ミネル?」


「ヴィルン鳥の名前です」


「ああ、そう言えば飼うって話だったわね。その子にもこれをあげて」


「これは?」


「小鳥用の栄養ドリンクよ。アスカちゃんもいい相棒を持ったわね。休憩時間を知らせてくれるなんて」


「ええっ!?」


 そうか、それで急に私の周りを飛んでたんだ。ミネルは本当に賢いなぁ。じゃあ、お礼もかねて持って行ってあげないとね。


「ミネル~。お土産だよ」


 ミネルのお家の上に栄養ドリンクを乗せてあげる。最初はなんだと訝しんでいたミネルだったけど、一口飲むと美味しかったらしく、どんどん飲んでいる。


「それにしてもこの子大丈夫かな? 今日はオーク肉のいいところに、栄養ドリンクでしょ。美食鳥にならなきゃいいけど……」


 そのうち、「こんな料理では私は満足しないわ!」とか言って食べてくれなくなっちゃうかも。なんてね。

 結局、その日はそれからも頑張って合計六体の女神像を作ることができた。



「ふ~、今日はちゃんと時間通りに起きられた」


 寝つきも問題なく、時間通りに起きることができた。ちょっと心配していただけにほっとした気分だ。服を着替えて髪を整えると、今日も朝食後にお仕事が待っている。


「おはようございま~す」


「おはようアスカちゃん。今日はもう大丈夫なの?」


「はい、心配をおかけしました」


「いいのよ。だけど、きちんと無理せずに言ってね」


「わかりました」


 そこからはいつも通りにお仕事をして、お昼までの作業をこなし今日の仕事も完了だ。


「お疲れ様アスカちゃん。今日はもういいわよ」


「じゃあ、お先に上がります」


 部屋に戻って昨日の続きだ。今日も今日とてトンテンカンテン銅像作りに精を出す。今作っているグリディア様の像が終われば、次はアラシェル様の像の続きに入るから、しばらくは神像続きだ。


「思えばすごいものを作ってるよね……」


 確かに日本じゃ神様の絵なんてみんな描いてたようなものだし、色々な姿を見てきた。けど、こういう世界で神様の像って言ったら、すべからく神聖なものだ。重みが違うというか前者が軽すぎるというか。本当に不思議な感じだ。


「さて、そんなこと言ってる間に作っちゃわないと、今日目指すは四体だ!」


《チチッ》


「わかってるよミネル。無理はしないって」


 なんだかミネルの言いたいことが、ちょっとだけわかる気がするから不思議だ。そのうち会話もできるようになるのだろうか?



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