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お部屋製作

 部屋に戻った私ははたと気づく。


「そういえばみんなヴィルン鳥のこと聞かなかったよね?」


 というかあの子はあの場にいなかった気がする。どうしたんだろうと部屋の窓を開けると……。


《チチッ》


「あれ? 今までお外にいたの?」


 ヴィルン鳥は返事をする代わりに私の頭の上を飛ぶ。


「まだ他の人に合うのは怖いのかな? それじゃあ、あなたにふさわしい家を作ってあげるから、ちょっと待っててね」


 やっぱり私の言葉が分かるみたいでヴィルン鳥は窓のへりにつかまってじっとしている。どうやら作業が終わるのを待つことにしたみたいだ。


「さて、それじゃあ、お家を作るんだけどヴィルン鳥の生態が分からないんだよね」


 寝る時は木に掴まるのか、巣みたいなのを作るのかも分からない。でも、崖のところに巣はあった気がするからそれ前提で作ろう。


「とりあえず上から見下ろせるように箱を作ろうかな?」


 ヴィルン鳥の家はこれまでに買ったオーク材の端材を使って作ることにした。内部は小部屋と大部屋に分けて、水を置ける器やご飯台も作る。水を置く場所はこぼれないよう穴を開けて型を作り、そこに器がはまるようにした。こうすればぐらつくこともなく、こぼれないだろう。


「他に必要そうなものはあるかなぁ。とりあえず部屋は作ったけど」


 後は屋根になる分を作らないと。定番の三角形の屋根もいいんだけど、家の外にいても止まれるように、屋根の上には止まり木を作る。


「ほらこれで完成だよ。何か気に入らないところがあったらまた言ってね!」


 私はお家を壁にかけてからヴィルン鳥に呼びかける。


《チチッ》


 すると、『は~い』と了解したかのように鳴いてやって来て、家の状態を確かめる。中を確認した後は、正面の丸く空いた入り口からひょこっと出て、ひょこっと入る。


「かわいい~」


 何度か出入りを繰り返した後、彼もしくは彼女はピィと鳴いた。どうやら足りないものがあるらしい。私は屋根を外すと何が足りないのと問いかける。すると一か所でぴょんぴょん飛び跳ねた。


「足りてないのって、ひょっとして巣かな?」


 私がそう言うとバサバサと翼を広げて飛ぶ。どうやら合っていたらしい。ヴィルン鳥は巣で眠るみたいだ。


「とはいっても巣の材料とかは分からないし、どうしよう。試しに適当に木を削って重ねて行こうかな?」


 私はぶ厚めに削ったり、薄めに削ったりした木くずを集めてボウルのように成型する。


「後はこれに綿みたいなのを敷き詰められればいいんだけど、今はないしなぁ」


 何か代用できないものはないかと思ったけど、あるのはちょっと着古してきた服ぐらいだし、これを綿にはできないよね。


《チチッチチッ》


 ヴィルン鳥がいらない服の上で跳ね回る。今度は何を言いたいんだろう?


「この服を小さく細切れにすればいいのかな? 一度試してみよう。どうせもういらないし」


 風の魔法で細切れになった服はヴィルン鳥によって巣に運ばれ、さらにくちばしでつつかれて綿のような感じになる。それでもまだ布切れという感じだけど、それをしばらく繰り返して満足したのかヴィルン鳥は自作の巣で休みだした。


「それでいいんだね」


《チッ》


 短く答えたかと思うと作業に疲れてしまったのか、すやすやと寝息を立て始めた。


「ふふっ。これからよろしくね」


 そろそろご飯の時間かなと思い食堂へ下りる。時間を確認するともうすぐ二十時だった。思いの外、家作りに時間を取られていたみたいだ。


「あっ、おねえちゃんやっと来たね。何してたの?」


「実は帰りがけにヴィルン鳥が一緒についてきちゃったから、今まで家を作ってたの」


「あら、ヴィルン鳥は警戒心が強くて飼える人はほんの僅かだって聞いたわよ。見るだけでも大変だって言われているし、珍しいわね」


「勝手についてきただけですから、飼うのとは少し違うかもしれませんけどね。ミーシャさんはヴィルン鳥が何を食べるか知ってますか?」


「多分小鳥用のご飯なら食べるでしょうけど、好物となると何か本でも買わないことには分からないわね」


「そうですか……なら明日にでも当たってみます」


「それじゃあ、おねえちゃんご飯にしようよ。オークアーチャーの煮込み料理は時間がかかるから明日からだけど、煮込まなくてもいい部分を焼いて出してるんだ」


 エレンちゃんの言葉通り出された料理は筋が切られ、見事に焼かれているステーキだった。それも食べやすいようにちょっと薄切りにしてある。私はぶ厚い肉より食べやすい薄めの方が好みなので、いつもこうしてもらっているのだ。


「いただきます」


 運ばれてきた料理に舌鼓を打つ。こうして食事も終えた私は部屋へ戻った。今日は疲れもあってすぐに寝られると思っていたのだけど……。


「何でだろう? こんなに疲れているのに眠れないなんて」


 それに今になって昼間、リュートにウィンドでオーガの攻撃から助けてもらった時のことを思い出してしまう。あの時は本当に危なかった。


カタカタ


 何か音がする。


カタカタ


 何が鳴っているんだろう? そう思って耳を澄ますと、音が鳴っているのは自分の身体が震えているのだと分かった。


「どうして今になって……。あの時だって怖くなんて」


 だめ、思い出すだけで震えが収まらない。それどころか激しくなってきたとさえ思える。


「ど、どうしよう。どうすればいいの」


 あの時、リュートに助けてもらわなかったらと思い返すばかりだ。シェルオークの下でウルフたちに襲われた時でもこんなことはなかったのに。


「治まって……」


 必死に願うけど震えは止まる気配を見せない、そんな時だった。コンコンとドアがノックされた。誰だろうこんな時間に?

 不審にも思ったけど、今は誰かに会えるだけでも嬉しかったので、勢いよくドアを開けた。


「あいた!」


「ジャネットさん!?」


 私が勢いよくドアを開けたせいで、ジャネットさんの身体にドアノブがぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい!」


「しー」


 ドアをノックしたのはジャネットさんだった。こんな夜更けにどうしたんだろう?


「でも、どうして私の部屋に?」


「眠れないんじゃないかと思ってさ」


「な、なんで」


 一声かけられただけでじわっと涙が出てくる。まだ誰にも言ってないのに、とうしてこの人は私の心が分かるんだろうと思うと、止めどなく涙があふれてくる。


「ほら、まずは部屋に入れてくれるかい?」


「は、はぃ」


 ジャネットさんを部屋に入れ、薄暗いベッドの上に座って話をする。


「さっきから震えが止まらなくて、眠れないんです」


「リュートに後で聞いたけど、きっと今日のことがよほど怖かったんだろうね。正常な証拠さ」


「だけど、前に危険な時はどうもなかったんです」


「そりゃそうさ。前って言っても一人の時だろう。今日はパーティーだ。自分だって危険だったし、もちろん仲間のノヴァやリュートもだ。今までは自分の力を全力で使えば何とかなるって意識があったんだろ? でも、今日はそうじゃなかった」


「あっ!」


 そう言われて思い出す。今日はすでにオーガと戦うと決めた時から全力だった。それでも危険が訪れたのだった。


「どう頑張っても助からないんじゃないかという意識が芽生えちまったんだろうね」


「情けないですね私。冒険者なのに……」


「情けなくなんてないさ。その心をなくしたらただの無謀な人間だよ。あたしだってそうだったからね」


「ジャネットさんも?」


「前に話しただろ昔のパーティーのこと」


「はい」


「あれよりも前に一度壊滅的な打撃を魔物に受けたことがあってね。武器防具の質がなんて言う前に助かったというだけで儲けもんだった時さ。その時はあたしも一晩中震えてたもんさ。仲間にばれないように布団にくるまってね」


「そんな……」


「だから、アスカも一緒じゃないかと思ってね。まぁそれでもあたしよりずっと早くにその機会が訪れるなんて思わなかったけど」


「もう、ジャネットさんたら」


 話しているうちにちょっとずつ落ち着いてきた。今は震えも収まったけど、寝られるかというとあんまり自信がない。


「ノヴァたちは大丈夫でしょうか?」


「あいつらなら大丈夫だよ。生きることに意識が行っているからね。アスカみたいに目的があって余裕があるからそういう風に考えちまうのさ」


「余裕ですか? そんな風に考えたことはありませんけど」


「でもさ、戦ってる時は誰がどこにいるか見てるだろ? そういうこともできなくなった経験がなかったから、余計にきつかったんだろうね」


「そうだったんですね」


「じゃ、落ち着いたみたいだしあたしはこれで。頑張んなよアスカ」


 ジャネットさんが行ってしまう。そう思ったらまた、震えのようなものが来た気がした。


「あ、あの、今日だけ、今日だけは一緒に寝てくれませんか?」


「いいのかい? 寝相は悪いし狭いよ」


「はい。それよりも今はジャネットさんと一緒にいたいです」


「……しょうがないねぇ」


 こうして私はこの世界に来て初めて誰かと一緒に眠った。それまで恐怖に怯えていたとは思えないくらいの熟睡ぶりだった。


 

「おねえちゃ~……」


「し〜、今日は寝かせてやりな」


「昨日はやっぱり大変だったんだね。どことなく元気なかったから」


「ああ」


 その後、私が起きたのは二の鐘の音も過ぎた十時過ぎだった。



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