清算と報告
ライラさんに指摘され私たちは依頼の報告をする。
「まずは東側のオーク討伐とゴブリン討伐ね。これは今、討伐へ行けるパーティーも限られるし、危険度も高まっているので、銀貨三枚と大銅貨五枚ね」
「よっしゃ!」
「ノヴァ。喜んでちゃだめだよ。その分、頻度が半分になるんだからね」
「わかってるよ、リュート」
報酬が上がって喜んでいるところにリュートから注意を受けて口をちぇ〜と尖らせるノヴァ。
「ああ、それと今回のことで東側の依頼に関しては依頼期限が伸びるようになるから、合わせて確認しておいてね。また早いうちに連絡板に乗せておくから」
「はい」
「それじゃあ、後は薬草類の確認ね。見せてもらえるかしら?」
「じゃあ、俺から」
ノヴァから薬草を受け取るとすぐに種類ごとに分けるライラさん。さらに品質別に分けると、そのうちの二、三本を鑑定していく。ホルンさんと違って同じ品質のものを一部しか鑑定しないのが、通常の受付だ。
「ノヴァ君は銀貨六枚と大銅貨六枚に銅貨九枚ね」
「こんなもんなのか?」
最初に鑑定を終えたため、微妙な反応に留まるノヴァ。
「次は僕で」
ノヴァと同様に薬草を出していくリュート。結果はどうかな?
「リュート君は銀貨七枚と銅貨二枚ね」
「うっ、リュートにまた負けたぁ~」
「今回は僅差だし、ノヴァも頑張ってるよ」
ノヴァを慰めながらもリュートの口元には笑みが浮かんでいる。予想よりもちょっぴり良かったのかな?
「最後は私だね」
私も二人に続いて薬草を出していく。ライラさんは途中、手が止まりながらも慣れた手つきで処理していく。
「アスカちゃんは一割をパーティー向けにだったわね。分けて入れて置くわね」
「なんだよ。俺たちの分は言ったんだから言ってくれてもいいのによ〜」
「ノヴァ、別にいいじゃないか。それに、ほら……」
ライラさんもちょっと困った顔をしている。入れられた金額を確認すると、合計で金貨二枚を超えていた。あんまり本数は取ってないはずだから、恐らくどちらかにSランクのものがあったんだろう。
「それより他に素材はない?」
「あっ、そう言えばこれって売れるんですか?」
私はライラさんの言葉で思い出した、ゴブリンの上位種か変異種と思われるものの角と牙を見せる。
「これは買取可能よ。ちょっと他のより魔力も多くて魔力矢に加工しやすいの。大銅貨二枚と大銅貨一枚が二つで大銅貨四枚ね」
「へぇ~、こんなのまで狩ってたんだ。あんたたち」
「はい。最初に行った場所で遭遇しまして」
「ますます面倒だね。この辺しか知らないやつらは変異種なんかも見たことないだろうしね」
「ジャネットさんの言う通り、買取自体珍しいですね。王都やレディトの冒険者さんがたまに持ってくるぐらいです」
私たちは知らなかったけど、アルバ周辺ではレアな魔物だったみたいだ。
「後はこの角と牙だね」
「これってウォーオーガですよね。少数での戦いが得意で魔法にも耐性ありの。さすがはジャネットさんです!」
「あ、ああ、まあね」
口裏を合わせているので歯切れが悪く返事を返すジャネットさん。
「アスカさんたちも良かったですね。これに出会うとDランクの人でもほとんど帰ってこないと言われているんですよ」
「そこまでなんですか?」
「ほら、どうしてもパーティーって足の遅い人が一人ぐらいはいるじゃないですか。このオーガは足も速いから必ず誰か逃げきれないので……」
なるほど、確かに回避も魔法耐性も高かったし、私ぐらい突出したパラメータがないと倒せるどころか、逃げるのも難しいのか。こっちは最終手段で空を飛んで逃げられたけどね。
「まあでも、持ちこたえられただけでもすごいだろ? 並の冒険者じゃ、やられてただろうね」
「そうですね。新人の中ではひと際堅実ですし、みんなの頑張りね。それじゃあ、これは角が銀貨四枚、牙が銀貨三枚の一組で合計金貨一枚ね」
「ありがとうございます」
ライラさんにお礼を言って私たちはギルドを後にする。後はオークの買取が残っているので解体場へと足を向けた。
「おう、アスカたちにジャネットか。今日もご苦労だな」
「ああ、よろしく」
まずはジャネットさんがデンとオークとオークアーチャーを二体ずつ。私も午前中に取っていたオークを三体出す。
「ほお~、見事なオークアーチャーだな。また護衛依頼か?」
「これはアスカたちが倒したんだよ。残念ながら私は運んだだけさ」
「お前たちもう護衛依頼を始めたのか? 早すぎるぞ」
「そうじゃないって、ここ最近の話はあんたも聞いてんだろ? 実際にそうなりそうだってことさ」
「解体師からすれば嬉しくはあるが心配だな」
ジャネットさんの言葉を聞いてこの場にいる解体師さんたちが真剣な顔つきになる。冒険者と直前顔を会わせるから余計に心配なのだろう。
「今んところは大丈夫だと思うけど、しばらくは持ち込みも減るだろうよ」
「そうか。買取はオークアーチャーが銀貨一枚にオークが大銅貨八枚だ。価格はいつも通りだな」
「思ったよりオークアーチャーって高くないんだな」
ノヴァが私と同じ感想を言ってくれる。亜種だからもう少し高いかと思った。
「こいつはオークより肉が少し筋張ってて硬くてな。そこが良いんだが、肉質としてどちらが良いとも言えず値段はあまり高くならんのだ。ガーダーとは大違いだな」
「あっちは完全に上位の肉だからねぇ」
「そうなんですね」
オークの肉は焼いてよし煮てよしだったけど、硬いってことはアーチャーの肉の用途って限られてるのかな?
「ほれ、カードに入れるぞ」
「ああ、それなんだけどあたしは配分なしで」
ジャネットさんが今回の件を簡単に説明する。
「それは大変だったなアスカ」
「いえ、ジャネットさんに助けてもらいましたから」
「それではまとめて銀貨六枚だ。運ぶ手間を入れてアスカが銀貨四枚でお前たちが一枚ずつだな」
「これがあるからな~」
「悔しかったら、マジックバッグの一つや二つ買ってみせることだな」
「そうですね」
悔しがるノヴァとしょうがないと言うリュート。反応は対照的だけど、二人とも残念そうだ。
「私はアーチャーのいいところをもらえますか? 初めてだし興味あるんです」
「そうか。なら大銅貨五枚だ」
「大銅貨五枚なんて安いんですね」
「こいつのいい部分もちょっと固めでな。癖がある分、どうしても安くなるんだ。逆に普通のところはちょっと弾力はあるが筋さえ処理すれば固くもなく、そこそこ人気があるんだぞ」
「なら俺はそっちにしようかな?」
「僕はいつも通り、オークの方で」
思い思いに肉の部位を選んで用意してもらう。こういうところが冒険者の醍醐味だ。
「それじゃあ、今日は解散だな!」
「一応、三日後にまた集まろうか」
「そうだね。じゃあ、場所は鳥の巣でいい?」
「ああ、わかったぜ!」
次の予定も立てたら二人と別れて私たちは宿に向かう。
「あれ、ジャネットさん。今日は依頼受けなくても良いんですか?」
「ギルドでもライラが言ってただろ? 報告期限も伸びたし、今日はもう十分に働いたよ」
「あはは、そうですね」
「にしてもこいつは利口だね。さっきから喚いたりしないし」
《ピィ?》
ヴィルン鳥は大人しいと言うより、こっちが話しかけたりしないと鳴いてこない。なんだかこちらの言葉が分かっているような子だ。
「そうですね。でも、宿に住むならミーシャさんたちにも了解を得ないといけませんし、お家も必要ですよね?」
「別にその辺にポンとおいときゃいいだろ?」
「駄目ですよ。きちんと自分の場所を作ってあげないと! ね?」
《チチッ》
「贅沢な鳥だね」
「でも、その方がこの子に愛着も持てますし」
「そんなもんかねぇ」
「すぐにジャネットさんも分かりますよ」
「はいはい。おっと、着いたね。帰ったよ」
「あら、ジャネットさんにアスカじゃない。二人が一緒なんて聞いてなかったけど」
「ああ、それなんですけど……」
「まあまあ、詳しい話は落ち着いたらってことで、ちょっと食事をもらえるかい? あたしはまだ昼を食べてなくてね」
「はい。昼の残りになりますが良いですか?」
「それでいいよ」
エステルさんは三分ほどでジャネットさんの食事を運んできた。ついでと言って私にもパンをくれた。
「アスカにもはい。最近ずっと頑張ってるからね」
「ありがとうございます」
「それでどうしたんです、ジャネットさん。今日は隣町までの依頼だって言ってましたよね?」
「そのことなんだけどね」
ジャネットさんが私の代わりに今日あったことを話し出す。
「アスカ、大変だったわね」
「そうなんです。その前にも私たち苦労してて」
簡単ながら、オーガたちに遭うまでのことも思い出しながら話す。こうして人に話していると、自分は生還できたんだなぁと改めて実感する。
「まあ、そういうわけだから宿に泊まる連中にも情報をやってくれ。ここまで情報をつかんでおいて犠牲者は出したくないからね」
「分かりました。シーツの交換や食事時にでも話します。二人はゆっくりしてくださいね」
恐らく昼の片付けが途中だったのだろう。話を聞くとエステルさんは厨房の方へ戻って行った。代わりに少しして裏口の方からエレンちゃんの姿が見えた。
「あ~、おねえちゃん早いね。最近ずっとこの時間じゃない?」
「言われてみたらそうかも。だけど、あんまり嬉しいことじゃないんだけどね」
「どうして? 私はお仕事早く終わったらうれしいけどなぁ」
「終わったというよりは、疲れて帰ってきてるだけだからね、私たちの場合」
「あ~、それは嫌かも。私もそれならゆっくり自分のペースでやりたいかな?」
「でしょ。やっぱりエレンちゃんとは気が合うね」
エレンちゃんにも私の苦労はなんとなく通じたみたいだ。さすがは私の妹だ。
「アスカ、エレンが来たことだし土産を見せてやりなよ」
「ああ、これですね」
食べ終わり、綺麗になったテーブルにオークアーチャーの肉を置く。
「うん? これっていつものオーク肉じゃないの?」
「これはオークアーチャーの肉なんだよ。エレンは煮込み料理が好きだろ?」
「うん。味がしみこんでておいしいからね」
エレンちゃんの堂に入った答え方がちょっとおじさんっぽく見えた。ごめんね、エレンちゃん。
「なんだ。またアスカがやらかしたのか?」
「またって……」
私たちが話していると、休憩を取りに来たのか厨房から出てきたライギルさんに話しかけられた。
「まあ、やらかしたというか、やれたと言うかだね」
「おっ、それはオークアーチャーの肉じゃないのか? この辺じゃあ、ちょっと珍しくて手が出せないんだよ」
鳥の巣のモットーは客が第一だ。それは美味しい料理を少ない量出すよりも、いつでも同じぐらいの量を、同じ値段で食べられることに比重を置いている。こういう美味しいけどちょっと値の張るものや珍しいものは仕入れの関係で普段使えない食材なんだ。
「今日出遭った分なので新鮮ですよ」
「だが、アスカは大丈夫なのか。オークアーチャーってことは隣町近くまで行ったんだろう?」
「ああ、ライギルさんにも言っとく方がいいね。出たのは町の東側すぐ北のところだよ。詳細は調査中だけど、しばらく新人は向こうには出られないようになるよ」
「そうか。なら仕入れにも影響が出るかもしれないな。ありがとうジャネット」
「構わないさ。あたしもここには世話になってるからね」
「普段はあまり西側からは仕入れないんだが、商人に話をしておくか」
こうしてジャネットさんとライギルさんたちは色々な話をし始めた。私はちょっと手持ち無沙汰になってきたので、一度部屋に戻ることにした。
「それじゃあ、私は戻りますね」
「ああ、お疲れ様」