表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/491

番外編 ホルンのため息

 私はホルン。アルバの町で冒険者ギルド職員をしている。もう、五年目のベテランといってもいい部類だ。今日も私のカウンターは空いている。私のスキル『物品鑑定』のおかげだ。


 ギルドの受付は鑑定役も兼ねている。スキルがある人はスキルで、ない人は魔道具を使って調べる。しかし、魔道具を使う人は元々魔力が低い人も多く、少量の素材には使わずに自分の目利きでする人も多い。

 その為、良くも悪くも私のところに並ぶと問答無用で鑑定され粗悪品を弾くため人気がないのだ。目利きではすり抜ける品質もあるし、鑑定スキル持ちもそこまで多くないから仕方がないことだけど、楽でいいとは内心思っている。


「今日も暇ね。そろそろお昼かしら?」


「ホルン先輩、もうちょっとありますよ〜」


「ライラはこんなお昼に来ると思うの? それも私のところに」


「分かりませんよ〜、ひょっとすると……あれっ? 見慣れない子ですね」


 ライラの言う通り、昼近くに少女が一人来た。小さくて、ギルドで見かけたこともない子だ。格好もちぐはぐだわ。初めてギルドに来たという事が分かる動きに似合わず、ややぶかぶかなローブや杖はしっかりしている。気になったので少し装備に鑑定をかけてみる。何か訳ありだったら大変だもの。


 白のローブ…普通のローブ。魔除け・魔法耐性小

 杖…ただの杖。魔法使用に対して効果あり


「へ?」


 何だろう、この最初の一文と全く合わない後半部分は。私はほぼ毎日鑑定を使うため、鑑定スキルはかなり高い。ひょっとして鑑定スキルの低いものは最初の一文しか見えないのでは? 後でライラに確認させよう。ともあれ少女がキョロキョロする前に声をかけないと――。



 声をかけると幸い空いていた私のカウンターにそのまま来てくれた。名前はアスカね。スキルは……火と風の二属性。標準的な属性だけど相性もいいし有望そうね。


「じゃあ、水晶に触れてみてくれる?」


 ステータスを確認するために少女ーアスカに触れるよう伝える。出てきたステータスは……。


 HP40にMP200ね。あら自己申告した通り、魔法使い型ね。次は腕力5、体力12……これはちょっと問題ね。腕力5なんて七歳ぐらいよ。体力もやけに少ない。十三歳の平均値は30ぐらいだったかしら? 女の子としてもかなり低いわね。肝心の魔力はと……70! これは結構、いい数字だわ。


 正直、ギルドで右も左もわからない感じじゃなければEランクからでもいい位ね。知識があって特別試験結果が良ければDランクもあり得たかも。スキルの方はと申告通り火と風がLV2。高くはないけど最初から戦える水準にあるのはいいわね。ん、横にも一つ……魔力操作。



 私はアスカに話をして魔力操作は冒険者登録用紙に記載しない旨を伝える。魔力操作は魔法使いが欲しいスキルの一つだ。威力の強弱から範囲の指定までありとあらゆる操作をしやすくする。魔力の低い魔法使いの高ランク冒険者は全員持っているとまで言われるスキルだが、残念ながら冒険者全体では保持者が少ない。それ故にあまり知られない方が良い。


 そういえば、MPの残りがやけに少ないと話すと、登録に条件があるか判らず練習してきたとのこと。外でここまで消耗するのは危ないと言っておいたけど、これも魔力操作のせいだろう。手足のように魔法が使えるため、夢中になって使う人が多いと聞いたことがある。


 その後、依頼はどうするかと聞くと宿が決まっていないという事で今日は受けないとのこと。結構、落ち着いた子ね。私はその他にも決まりやランクの話など基本的なことを説明し、その隙を見てライラに頼み事をする。


「ライラちょっと」


「先輩どうしました?」


「今私が受け持ってる子の杖とローブ鑑定してみて」


「いいんですか?」


「お願い。後で何かおごったげるから」


「は~い。賜りました」


 それからアスカは少し話をして出ていった。


「ライラどうだった?」


「ただの杖とローブですよ。なりたての冒険者だから当たり前ですよ。先輩、約束は守ってくださいね」


「ええいいわ」


 やっぱり、スキルといい装備といいなんだか訳ありのようね。しっかり見てあげないと。そう思い気合を入れてカウンターに戻る。なお、本日はその後4時間で2名が私の元を訪れた。ああ、暇なのも困りものね。



 翌日にアスカちゃんが再び受付に来た。どうやら採取の依頼を受けるみたいだ。話をすると薬草の知識があるようで改めてステータスチェックをかける。


「あら、薬学LV2がついているわね」


 そんなに簡単に身に付くことでもないんだけど、話を聞いたら親が薬師なので手伝っていたそうだ。冊子で判別がつくようになったからかしら? どっちにしても期待のできる新人ね。そう思って見送ったもののやっぱり気になってしまう。


「どうしたホルンさんよ。そんなに浮ついた顔して」


「ああ、ガルさん。いえ、昨日入った新人がちょっと気になってね。まだまだ小さい子だし」


「そりゃ心配だな。だが、ただの手伝いだろ?」


「採取よ。町の外に行くのはやっぱり心配だわ」


「採取程度じゃ大丈夫だろ」


「そうだといいのだけど…」


 それから昼を過ぎてもアスカちゃんは帰ってこなかった。まあ、マジックバッグを借りて早々に帰ってきても困るのだけど、この調子じゃ明日ぐらいかしら? そんなことを思っていたら十六時ごろに帰ってきた。思ったより早い、何かあったのかと手招きしてこっちに来るように促す。


 受付に来たアスカちゃんをよく見ると背中に弓と矢を背負っている。弓を使えるなんて昨日は言ってなかったし、騙されて武器屋で買ったのかしら? そんな店はこの町にはなかったと思うのだけど。


「おかえり。早かったわね」


 簡単に挨拶を済ませて買取に入る。色々採ってきたみたいだけど、とりあえずはリラ草から出してもらう。マジックバッグの取りだし方を聞いてくるのに思わず笑みが浮かぶ。本当にかわいいわね。



 でも、ここからは仕事。出されていくリラ草を鑑定していく。初めてだからそこまで期待してはいない。これから上手くなっていけばいいのだから。見ていくとやっぱりCランクが多いのだけど、中にはAランクのものもあり将来性を感じる。それに、雑草が混ざっていないのもいいわね。似ている花や草は多いから結構無駄になるのよね。それが嫌で採取をやめる冒険者もいるし。


「じゃあ、次はルーン草を出しますね」


 そう言って彼女はルーン草、続いてムーン草を出していく。特にムーン草を出した時は驚いた。あれは初心者には見分けがつきにくく、夜間に採取されることが多い。しかし、夜間だと光って目立つため魔物に襲われることも多い。だから、低ランクの冒険者からはほとんど採取したという話は聞かないのに。さらに、この二つの薬草についてはリラ草より状態がいいものが多い。何か気を付けて取っているのだろうか? それにランク分けしている途中から冊子を出してメモを書いているのも気になる。ちょっと聞いてみましょう。


「何か書いているの?」


 アスカちゃんに尋ねるとどうやら、リラ草の採取の仕方は勢いよく取った方がいいらしい。でも結構な音量でしゃべっているため、周りの冒険者にも聞こえているだろう。私は気づかれないようにガルさんに目配せして、今いる冒険者を帰らせないようにお願いする。こういう情報は本来無償で手に入るものではないからだ。


 その後も鑑定を続け、彼女に結果を伝える。合計金額に驚いている様だけど、薬草は数本あればポーションができる。上位の素材は鮮度に関わらず常に引き渡し待ちなのだ。しばらくはアスカちゃんのお陰で苦情も減りそうだわ。話もまとまってきたので私はついに話題を彼女の背中、弓矢へと向けた。しかし、アスカちゃんはごにょごにょと言葉を濁すせいでよく聞き取れなった。そんなに聞きづらいことだったかな?



「弓が引けないんです!」


 再度聞き返すと、大きな声で答えが返ってきた。ユミガヒケナインデス…弓が引けない。何という失態だ。受付の役割は二つだ。買取や鑑定、依頼の受付などの業務と冒険者の情報を守ることだ。それなのに私がステータスをばらしてしまうなんて…。見た目で大型の弓ではないからきっとここにいるみんなはすぐに彼女の力が一桁だと分かっただろう。確かに身なりから魔法使いだという事は分かるけれどそこまでばらしてしまうなんて。


「ワハハ」


 落ち込んでいるとガルさんが私に話しかけてくる。言い方はあれだけど、正直受付として失格な行為だから怒ってくれてもいいのに…。そうこうしているとギルドマスターが降りてきた。騒動に気づいたようで直ぐに私は説明する。アスカちゃんもマスターもいいとは言ってくれるけれど、私は決意も新たにする。ギルドマスターは新人のアスカちゃんに何か思うところがあったみたいで、説明をしてくれるみたいだ。勿論私も行くけれど野暮用を済ませないと。


「さあ、皆さん。彼女から得たリラ草の採取の情報について買取を希望の方は?もちろんいらないという方はこの場で必ず忘れていってくださいね」


 都合よく偶々聞きましたとは言わせない。あの情報はランクの低い冒険者程有用なのだ。後はパーティー内に薬師のいるところもね。その辺のリラ草にもひょっとするとAランクの価値があるかもしれない情報だからだ。さっきの失敗の分まで、アスカちゃんのために頑張らないとね。



 最終的にその場にいた冒険者たちから合計金貨三枚で買取、彼女には気づかれないように報酬に少しずつ上乗せしていくことで合意した。冒険者たちには今のパーティメンバーに限り話すことを許し、後は個人だ。時期が来たらアスカちゃんには話をして情報料としてギルドが買い取るか、商人ギルドに設計料登録をするか聞いておきましょう。その前に商人ギルドのマスターには情報を登録しないように口添えしておかないと。私は商人ギルドのマスター宛に手紙を書くことを思いつくと、アスカちゃんが待っている二階へと上がっていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ