能力開放!
私たちは逃げてきた冒険者たちと別れて、今後の対応に意識を向ける。
「ごめんね、ヴィルン鳥たち。ここを戦場にしちゃって……」
ピィピィと鳴く小鳥たちに当たらないよう気を付けながら矢を防ぐ。
「だけど、どうするのアスカ。さすがにオークの変異種とオーガだと危ないと思うけど……」
「そうだぜ、俺たちも逃げないと!」
「でも、街道の方に出られたらそれこそ厄介だよ。彼らが援軍を呼んでくれるなら、ここで足止めしないと!」
二人の言い分も分かるけど、誰かがここで踏ん張らないといけないんだ。
「でも、オーガにはアスカの魔法しか効果はないし、どうするんだ?」
そうなのだ。オーガはともかく弓まで使うオークとなれば、こちらの身の保証はできない。もしあるとするなら――。
「二人を信じてるから、絶対黙っててね」
「へ?」
「おう?」
「リベレーション!」
私は封印していた魔力を解放する。同時に周囲へ張り巡らせていた風のバリアも強化する。
「余裕ができたからあなたたちにも……」
私はヴィルン鳥にもバリアをかけて、敵の位置を探る。
「アスカ、前にオーガと戦った時と一緒の……」
「やっぱりリュートは気づいて黙ってくれてたんだね。ありがとう。敵は全部で七体、大きいのが三体と、それより少し小さいのが四体。そのうち矢を撃っているのが二体いるからオーク四体とオーガ三体の集団だね」
「げっ、オーガが三体もいるのか……」
「幸い、向こうはこっちに登ってこれないだろうから、ここから魔法で狙ってみる?」
「そうだね。リュートの言う通り、まずは相手の弓使いを倒そう。悪いけど、二人は的になってもらえる?」
「任せろ!」
ノヴァとリュートに身を乗り出してもらい、相手の弓を使うオークの姿を視認しやすいようにする。私はその間に上空へ飛び上がり姿を探す。
《ブモー》
オークが見つけたと言わんばかりに二人に狙いをつける。
「させない、ウィンドアロー!」
私は弓を構える動作をして、風の矢を放つ。この魔力なら二本の矢を同時に放てる。
《ブヒィ》
オークに風の矢が命中して二体とも倒れる。残りは五体。しかし、ここにきて残りの魔物がわき道から登ろうとしている。どうやら街側からは崖のようだけど、向こうからは何とか登れそうな地形のようだ。
「来ないでよ!」
風の魔法をぶつけて登ろうとするオークを落とす。しかし、その横をオーガが勢いよく跳んで来る。
「オーガは防ぎようがない。ここに来るまでが勝負だね。嵐よ、我が前に立ちはだかるものを切り刻め……」
私が魔法の詠唱中、ノヴァとリュートも懸命にオーガの接近を防ごうと下に降りてくれるものの、オークにも邪魔されてうまくできないようだ。
「それでも、今の魔力なら……ストーム!」
以前使用した時とは違い、地面からではなく手からオーガの集団に向けて嵐の魔法を放つ。
「ちょっとだけ私が早かったみたいだね」
嵐の中を風の刃が幾重も重なりオーガに進んでいく。オーガたちも必死に抵抗しようとこっちに向かってくるけど、嵐の中心こそこの魔法の威力が一番高いところだ。二体のオーガをこの魔法で倒すことができた。もう一体は奥にいたため何とか回避したようだ。
「リュートそっちは?」
オーガだけでなくオークの足止めもしている二人に状況を確認する。
「こ、こっちはなんとか」
「オーガは後一体だよ。そっちを先に片付けよう!」
「おう!」
励ましながら崖下に駆け下りて二人の加勢に入る。
「風の加護を……」
「足が軽くなった!」
「それで、一気に相手に近づけるはずだよ!」
「ありがとな。行くぞ、リュート!」
「うん!」
一気に距離をつめる二人に対応しようとオークとオーガが身構える。
「これで気が散れば……ファイアアロー」
魔法を付与した火の矢を敵の中央へ向かって射る。少し遅い矢はオークたちに避けられ後ろの木に直撃した。そして木に刺さった火の矢は一気に燃え上がった。
ゴオォォォと突然後ろで上がった炎に魔物たちが一瞬ひるむ。
「隙ができた。今だよ!」
「「分かった!」」
ノヴァとリュートがそれぞれオークに近づき一気に切り伏せる。
「これで後はあなた一人ね」
三対一となり一瞬オーガはたじろぐが、すぐに戦闘態勢を取る。あれだけの人数差をひっくり返された今、逃げるよりは戦うことを選んだようだ。
「残りは一体だけど気を付けて!」
「おう!」
しかし、最後に残ったオーガの動きは他の奴よりも速い。これは思ったより長期戦になるかも……。
「はぁ!」
「下がってノヴァ! ウィンドカッター!」
《オォー!》
オーガは傷を受けながらも致命傷になるところは持っている武器で刃をかき消し防ぐ。
「この……」
「アスカ下がって!」
「きゃっ!?」
オーガは魔法をかき消すと、私に一直線に向かって来た。これまでと違って、全力の魔法を潜り抜けてきた魔物にびっくりした私は一瞬身動きができなくなる。
「風よ!」
とっさにリュートが使った風魔法で私は吹き飛んで難を逃れることができた。
「リュ、リュートありがとう」
「どういたしまして、でもこいつ強いね」
「そうだね……二人もできるだけ近づかないようにして」
もう一度二人に補助魔法をかけて距離を取る。この状況を何か解決できることがあればいいんだけど……。
「アスカ!」
その時、後ろから声がした。オーガへの注意もしながらちょっとだけ振り返ると、ジャネットさんが来てくれたみたいだ。
「相変わらず無茶してるね」
「えへへ」
心強い味方が来てくれたことで私は冷静さを取り戻す。相対しているオーガは炎上した木の前に立ってさながら鬼神の様だ。……燃えている木。
「ノヴァ、リュート、二人とも下がって!」
「うん」
「あたしが代わりに前に出るよ」
ノヴァとリュートをもう一度下がらせてジャネットさんに前に出てもらい、私は思いついた戦法を実行する。
「ジャネットさん、オーガに隙が出来たらそこを!」
「任せな!」
「いけっ、ウィンドカッター!」
魔力操作によって緻密に制御された風の刃がオーガへ襲いかかる。しかし、オーガはさっきと同じようにその刃を消し去る。ただし、残りの一本の刃はオーガの後ろに抜けて、炎上している木の根元を切り落とした。
《ウガッ?》
根元から切断された木はギギギとオーガへ向かって倒れる。それを見たオーガは咄嗟に木を横に倒した。
「甘いねぇ」
ジャネットさんがその隙を逃さず、一気に間合いを詰めてオーガに切りかかった。
ザシュという音ともに、物理に強いオーガを見事一撃でジャネットさんが倒した。
「さすがはジャネットさん!」
「まあ、あれだけ弱ってればね。それよりアスカは大丈夫かい?」
「はい。それにしてもジャネットさんが何でここに?」
「いやあ、依頼を受けて門を出ようとしたら、オーガが出たって言うじゃないか。しかも、相手をしてるのが子どもの三人組って聞いてね。間に合ってよかったよ」
そう言いながらジャネットさんは剣を鞘に納める。
「そうだったのか。ありがとな」
「ありがとうございます、ジャネットさん」
「やけにお前ら殊勝だね」
「さっきのオーガの動きが速くて、私たちじゃなかなか倒せなかったんです」
戦いが終わり、これまでの戦況を簡単に説明する。
「そりゃ、あれは上位種だからね。そこに転がってるのもオークアーチャーだろ? こいつも変異種だし、変な相手につかまったね。何にせよ、死ななくてよかったじゃないか」
「そうですね……」
「まあ、そう簡単には死なないぜ!」
「だけど、助けを呼びに来たあいつらなら全滅してただろうね。それぐらい実力が離れてた相手だ」
あっ、あの人たちもちゃんと助けを呼んでくれたんだ。
「いや~、でもまたアスカのお陰で助かったぜ! すごい魔法だったな」
「魔法?」
ノヴァの言葉に思うところがあったのか、ジャネットさんはオーガたちの登ってきたところを確認する。そこの地面はえぐれており、木々も多く倒れていた。
「ふぅ~ん、アスカはやっぱりねぇ。あたしが見込んだ通りだったね」
「な、なんですかその目は。べ、別にジャネットさんが思っているほどじゃないですよ」
「だったら、このままギルドの連中を呼んでもいいんだね?」
「う、それは……」
のんびり生活を希望する私にとって、面倒なことになるのはごめんだ。何とかここは乗り切らないと!
「なぁに、大体の魔力値をこそっと言うだけでいいからさ……」
「本当にこそっとですよ。本当~にですからね」
「疑い深いねぇ。言われたくなきゃさっさと言いな」
観念して私は数値を言う。この前確認した値だから少し違うかもしれないけど。
「335ぐらいです」
「なんだって! そりゃすごい。バレずに来てるのもすごいけど、それだけあればもっと威張ってもいいと思うんだけどねぇ」
「なんだ、なんだ?」
私とジャネットそんの会話が気になったのかノヴァが話しかけてきた。
「あんたたちにはまだ早い話だね。アスカは経験こそ不足してるけど、実力は確かだって話だよ」
「確かに。アスカに今回も助けてもらったしね」
「そういうことさ。そうだね、二人があたしと一緒に冒険できるようになるぐらいになれたら教えてやるよ」
「ジャネットさん、本当に約束ですからね?」
「アスカもしつこいね。まずはギルドや兵士が来る前に現場を片付けないと」
「あっ、そうでした!」
私たちは急いでオーガの角など換金可能な部位を取ると目立つ部分を整えて、ある程度現場を保存する。今回の一件についてはギルドや兵士たちに実際の現場を確認してもらい、次の調査につなげる必要があるからだ。
「大体こんな感じなら、最初はあんたたちで善戦して後であたしが来て倒したって感じになるね。特にノヴァは自分たちの功績を主張するんじゃないよ」
「何で俺だけ」
「実際に頑張って倒したのはあんたたちで、あたしはほとんど何もやっていないんだからね。事実と違う話になっても怒るなって言いたいんだよ」
ちぇ〜と言いながらもノヴァがうなずく。良かった、これで大ごとにはならなくて済みそうだ。
「でも、本当にいいのアスカ? これだけの魔物を倒したんだから、別に誇ってもいいと思うけど……」
「私は有名になりたいわけじゃないし、リュートに助けてもらわなかったら危なかったしね。まだまだだよ」
「アスカはすごいねぇ。本当にできた子だよ」
ジャネットさんに頭を撫でられる。気持ちいいけど、恥ずかしいからみんなの前ではやらないでほしいな。
「だけど、オーガの上位種まで出るなんて本当に予断を許さなくなってきたね」
ジャネットさんの評価も受けながら、私たちはギルド職員と兵士たちの到着を待ったのだった。