依頼完了
ひとまずはオークを収納して、後はゴブリンなんだけど……。
「このゴブリンの角と牙は使えるかな?」
私が相手をしていたゴブリンのものだけ他のより角も大きくて、何かに使えそうだったのでリュートに聞いてみた。
「う~ん、上位種とか変異種ならもしかしたら買い取ってもらえるかも。場所も取らないし、僕の袋に入れておく?」
「頼める、リュート」
ゴブリンの角と牙を取ってリュートの袋に詰める。残った死骸は埋めないといけないんだけど、数もいたから結構手間がかかりそうだ。
「半分ずつでいい?」
「なら、向こうは僕がやるね」
「じゃあ、私は魔法も使うからリュートはノヴァと一緒にやって」
私は万が一の事態も想定して、リュートとノヴァには二人で作業をしてもらう。作業中は注意力も落ちるから注意しないとね。私は素早く風魔法で開けた穴に魔物を放り込んでいく。
「後は埋めて終わりだね」
リュートたちの方を見るともう少しかかるみたいだ。だけど、二人での作業とは言え彼の魔力で私とそこまで時間が変わらずにできるんだから器用だと思う。
「こっちも終わったよ」
「ならここを離れよう。臭いを嗅ぎつけてくるかもしれないし」
「そうだな。ちょっとぐらいどこかで休みたいしな」
こうして少し道を戻って、街道沿いまで進む。途中の少し開けたところを休憩場所に決めたからだ。
「この辺りならすぐ街道に戻れるしここにしよう」
「確かにここは別のパーティーも使った跡があるみたいだし、安全そうだね」
私はシートを広げて昼食の準備をする。各々持ってきているけど、最近は二人のメニューも変わってきている。前は本当に味気ないパンだったのが、試作の干し肉だったり、他の料理だったりとバリエーションに富んできた。私はというと、あれから干し肉は作っていないので、宿でもらったパンとドルドで買った携帯食だ。
「でも、さっきのことを思い出したら、こうやってみんなで一斉に飯を食ってるのがちょっと不安だな」
「それならみんな別の方向を向いて食べる?」
「一回やってみようか」
冗談で言ったつもりだったのにリュートが乗ってきてしまった。こうして図らずも私が街道を、リュートが斜め前、ノヴァが斜め後ろを見るというおかしな食事風景になった。
「これってさ、他の人たちから見たら喧嘩してるパーティーだよね」
「そうかも。だとしたら原因は誰なんだろう?」
「アスカだろ?」
「何で私なの?」
「最近注意とかうるさいしさ、午前中のことで怒ってるんだよ」
「それはノヴァが無茶するからでしょ! それならリュートだって、ノヴァが言うこと全く聞かないから怒ってるかも」
「えっ、僕を巻き込まないでよ。だけど、ノヴァの言う通りなら原因はノヴァのままだよね。危ないことを注意されても直さないんだから」
「えっ、あっ、そっか……」
「ほら! 私はちゃんと考えて言ってるんだから」
年齢的にはお兄さんなんだからしっかりしてよね。ちょっと騒がしくなった昼食を終えて、私たちは今後の動きを考える。
「薬草は一応集まったから、後はオークをもう少し倒すだけなんだけど、さっきのところに今度来るとしたらあれ以上の大群か、両方の陣営から目の敵にされると思うの」
魔物は人間より嗅覚の優れてるものが多いので、きっと私たちが両方を相手にしたことが分かってしまうだろう。そうなってしまうと、上位種のオークとゴブリンの大群の相手を同時にするのは難しい。
「なら、今日のところは戻る?」
「それだと、この前みたいに依頼が残っていくじゃねえか。せっかくまだこんな時間なんだから、もう少し依頼を片付けようぜ」
「そうだよね。まだ、お昼なんだから正直帰るのは早いんだけど……」
さっきの場所には戻れないから別の場所を考えないと。
「湖のところとかどうだ?」
「あそこか~」
ちょっと見晴らしが良すぎるし、今までの経験から集団で来ることが多いから、今は不安があるんだよね。
「……いったんここから入口まで戻って、崖の上の岩場で休憩していくのはどう? そこから湖に行くまでに依頼が達成出来たら帰るってことで」
「なんだよ消極的だな~」
「でも、いい案かも。あの辺りでもオーガが出てるんだし、湖で数体出たら大変だよ。見晴らしもいいから隠れられないしね」
「ならそうするか。俺も早くいい剣を買って一人前にならないとな」
「そんなこと言ってたらジャネットさんから半人前になったばかりだろって言われちゃうよ。もうちょっと身体を鍛えなきゃ」
「そうだね。まずは今月中にはDランクにならないとね」
「あん時のアスカはすごかったな。改めてすごいと思ったぜ。試験官もびっくりしてただろ?」
「まあ、試験内容は知ってたから……」
試験内容を知らなかったら、きっともっと苦労したと思う。
「それより、十分に休憩も取ったし行こう!」
ごまかすように言って私たちは休憩を終え、崖へのルートを取る。行きには通っていないルートなので、ついでに薬草を探しながら進む。
森の入口まで戻る途中に私がリラ草を十三本、ルーン草を五本、ノヴァがリラ草を十五本、ルーン草を七本、リュートもリラ草を十五本、ルーン草を八本見つけた。ムーン草は見つからなかったけど、移動しながらの発見だったことを考えれば十分だろう。
「じゃあ、ここからは当初の予定とは違うけど、北側に行こう」
「おう」
「うん」
こうしてまずは崖へと向かうために、私たちは進み始めたのだった。
森の入り口までくるといったん警戒を強めて進む。ここは以前にオーガに出会った場所だから、二人もちょっと気にしているみたいだ。
「行こう」
そして崖のところまで進んでいく。崖の下は特に異常もなく、そのまま登っていく。
「ん~、いつ来てもここはいい場所だね」
相変わらず切り立った上にあるからか薬草は取られていないみたいだし、住処にしている鳥たちものんびりしている。数回来るうちに鳥たちも私たちに慣れたのか、警戒する様子もない。
「こいつら相変わらずアスカに懐いてるな」
「ヴィルン鳥だよね。滅多に見かけない小鳥だけど、頭が良くて相性が良ければ飼うこともできるらしいよ」
「へ~、ここで暮らしてる子たちは人懐っこいし、私も生活が落ち着いて機会があったら飼ってみようかな?」
冗談交じりに私がそう言うとリュートは難しい顔をする。
「でも、町で見ないよ。無理やり連れてきても頭が良いから懐かなかったり、逃げたりするんだ。それに魔物使いになるの?」
「そうなっちゃうのか。残念」
小さくても魔物だから一般人が飼うのは大変そうだ。そんなことを話していると、急に鳥たちが飛び立つ。
「なんだ!?」
「登ってきた方とは逆側から声がする……」
私が魔法も使って聞き耳を立てると、小さいながら崖の向こうから人の声が聞こえてきた。
「わっ、こっちに来るなよ!」
「くそっ! 町まで後少しなのに……」
「この崖登れないのか?」
「登ってる間にやられちゃうし、まさかその後は飛び降りるの?」
私が一点を見つめているのでリュートたちも異常に気がついたみたいだ。
「どうしたんだ?」
「誰か魔物と戦ってるのかな?」
「私が様子を見てくる!」
急いで反対側に向かうと、人影が四人ぐらい見えた。その奥にも影が見えるからどうやら魔物に追われているみたいだ。
「大丈夫ですか?」
「あなたは?」
「冒険者か、助けてくれ! 俺たちじゃ敵わないんだ!」
「落ち着いてまずは上に避難を!」
「登れないんだ、こうしてるうちにも奴らが……」
冒険者が事情を説明しているところにヒュンと矢が飛んで来た。これじゃ上に登っても危ないかもしれない。だけど、この人たちの状態だとここにいるのはもっと危険だ。
「舌噛まないでくださいね……フライ!」
四人を一斉に浮遊させて崖の上に無理やり上げる。急なことでノヴァやリュートもびっくりしていた。
「か、風の魔法……」
「魔法使いだったのか」
「た、助かったわ」
「それより、何に追われてたんですか?」
「そうだ、オークとオーガに追われていたんだ!」
「なんだって!?」
「オーガが異種と行動するなんて話は聞いたことないけど……」
ノヴァに続いて、私たちの中で魔物の生態について一番詳しいリュートも驚く。
「だが、俺たちは見たんだ! この装備じゃ、オーガには歯が立たない」
大声を上げる冒険者たちの装備はノヴァたちの前の装備と大差ない。しかも、ノヴァもリュートも防具は買い替えたから、一撃の危険度は段違いだろう。
「分かった。弓を使うやつもいるみたいだけど、それはオークとオーガのどっち?」
「お、オークだ」
「OK。あなたたちはこのまま町まで行って門番さんに伝えてきて。魔物が町に向かうと大変なことになるから」
「あ、あんたたちは?」
「俺たちと同じEランクだろうどう見ても」
「オーガならまだ私の魔法で何とかなるし、一応私はDランクなの。皆さんの装備だと一撃でやられちゃうかもしれないですから町へ向かってください」
「だけど……」
「マット、ここは彼女に従いましょう。少なくとも私たちはあいつらを見てパニックになっちゃったんだから」
「そうだな、シェラ。じゃあ、頼む。必ず人を呼んでくるからな!」
「お願いします。フライ!」
もう一度彼らに魔法をかけて町側の崖下に降ろす。ここから町までは彼ら自身の足で頑張ってもらわないといけない。その間にもヒュンヒュンと矢が飛んでくる。私は崖下に風を送ることで、矢の軌道を変えて攻撃をやり過ごした。