ギルドへ報告
ギルドに着いた私たちは早速ホルンさんを通じてジュールさんに連絡を取る。
「急ぎの用ってのは何だ? お前からなんてらしくないな、アスカ」
「それが町の近くにオーガが出たんです」
「そういえば前にも討伐したとホルンが言っていたな。どこだ?」
「ここです」
私は地図を取り出してジュールさんたちに発見場所を教える。
「なんてこと……こんな近くに」
「こんな町の近くにか。門番には言ったのか?」
「隊長さんに言ったら、見廻りとギルドに依頼を出して調査依頼を出すかもだってさ」
私の代わりにノヴァが説明してくれる。
「確かにその方がいいだろうし、うちも助かる。東側もこの近くまではFランクの立ち入りを認めているが、今後の結果では立ち入り禁止区域に指定しなければならん」
FランクとEランクには大きな差がある。それが、戦闘意思の有無だ。これによりFランクは討伐依頼を受けなくて済む代わりに採取場所も限られる。こうすることで、EランクやDランクの採取場所と被る部分を少なくするのだ。代わりにFランクは安全な採取場所の情報が得られ、程よく儲かるというわけだ。
「でも、そうなったら西側は大混雑ですね」
あの東側の場所だけでも結構人が出入りする。立ち入り禁止となれば、西側は森の近くまで人が来るようになるかも。
「それ以上に原因も気になるわね。この数年で近辺にオーガの目撃なんて二件ほどよ。それがこの数か月ですでに二件もの発見・討伐報告があるなんてね」
「そうですね。僕たちもかろうじてアスカのお陰で倒せましたけど、いなかったら、死んでいたかもしれません」
「そういえば、そのオーガの動きはどうだった? 速かったか?」
「前のオーガは僕たちより遅くて逃げきれそうでしたけど、今度のは結構ギリギリでしたね」
「ふむ、角とかあるか?」
「これだぜ!」
ノヴァがジュールさんに角を見せる。
「これはなってはいないようだがなりかけか……」
「どうしたんですマスター?」
「いや、これはオーガの上位種のオーガバトラーに変異している途中のものだ。完了していたらいくらアスカでも危なかっただろう。Cランク相当の相手だからな。動きも速くなり、魔法への耐性も上がる。単体での活動が多いからまだましだが、町に入れば大惨事だ。よくやったぞ」
「そうか……へへっ」
「いや、倒したのはアスカだけどね」
ジュールさんに褒められて、照れるノヴァとそれにツッコミを入れるリュート。本当に二人に何事もなくて良かった。
「二人が注意を引き付けてくれたおかげだから」
「まあ、そうだな。いくらアスカの魔法が強力でも、こいつの一撃には耐えられんだろう。魔法使いの弱点だからなそればっかりは」
「そうね。アスカちゃんが無事でよかったわ。とりあえず、オーガの牙と角だけど牙が二本、角が一本だから銀貨四枚と大銅貨二枚ね。それと今回の情報が銀貨七枚ね」
「オーガの牙とかもすごいけど、情報料ってそんなに高いのかよ!」
ホルンさんから買取と報酬の話が出ると声を上げるノヴァ。
「まあ、今回は特別だ。それぐらい重大なことだからな。自分たちで考えてみろ。去年までのお前なら、話を知らずに東側へ行って死んでいたところかもしれないんだぞ」
「そう言われればそうですね。僕らもあの辺で薬草を採ってました……」
「そういうことだ。何にせよお前らの情報は助かった。すぐにCランクパーティーを向かわせて調査する」
「もうですか? マスター」
「ああ、こういうのは早い方がいい。それと、特にアスカ!」
「はい!」
なんだろう? 私何かしたのかな。
「お前に言っておくが、オーガには発情期があって、もうすぐだ。そのころには群れることがある。決して油断するな!」
「はっ、はい! でもなんで私なんですか?」
「お前が一番警戒が緩そうだからだ!」
ひどい。確かに私が一番年下だけど、ノヴァやリュートよりしっかりしてるよ。
「そうね。アスカちゃんは注意しなさいね。それとは別に今回の受けてる依頼だけど……」
「そういえば、依頼の方は全然だったんだ」
「なんだ珍しいな? 採取依頼も討伐もそつなくこなしていたフロートが」
「それが、討伐依頼はオークもゴブリンも達成してるんですけど、採取が全く……」
「本当なの?」
「はい。最初はオークの集団に遭って、その後ゴブリンの集団を倒して疲れたから休憩したんです。それからアスカが気になるからと、行った先でオーガに出くわしたので……」
「さすがに俺も今日はもういいや」
「なんだそりゃ? よくDランクとEランク二人で生きて帰ってこられたな。俺なら死んでるぞ」
「ジュールさんはAランクですよね?」
まさかそんなはずはないと思って聞き返す。
「お前らと同じ頃ってことだ。Dランクの頃でもオーガとはそんなに戦わなかったぞ。武器も弓・斧・剣だったからなぁ。まあ、斧以外はろくでもなかったが」
「そういう意味だったんですね。私はジャネットさんの剣捌きとか見てるので、割と速い動きには強いんですよ!」
「そういえばアスカ、跳びながら弓撃ってたよな?」
「へぇ~、アスカちゃんやっぱり器用なのね」
「えへへ~、ちょっとかっこいいかなと思って、実は練習してました」
羽は生えていないけど、飛んだ状態で矢を放つのってかっこいいと思ったから、森の入り口で密かに練習を行っていたのが役に立った。
「そんな遊びみたいな感覚で強くなるんだからアスカはすげーな」
「ノヴァだって親方さんのところで技術を磨いたら何かできるようになるかもしれないよ?」
「そうかな?」
「そうだよ、きっと!」
私はノヴァを褒める。だって、彼もここ一か月で力も付いてきてるし、もっと強くなれると思ったから。
「後は依頼を受けていた分の報酬ね。オーク討伐が八体で銀貨二枚と大銅貨六枚。ゴブリン討伐が銀貨一枚と大銅貨七枚ね。合計で討伐依頼が銀貨四枚と大銅貨三枚。素材が銀貨四枚と大銅貨二枚。情報料が銀貨七枚ね」
「まあ、オーガに関してはアスカの働きが大きいから、お前らは二人で半分ぐらいだな」
「そうですね。僕は構わないけどノヴァもそれでいい?」
「ああ!」
「じゃあ、パーティー資金は二人が大銅貨二枚で、私が銀貨二枚。討伐報酬はノヴァとリュートがそれぞれ銀貨一枚で、素材の報酬は二人が銀貨一枚と大銅貨四枚でいい?」
「うん、いいよ。情報料はパーティーでもらったから、思い切ってパーティー資金にする?」
「そうだな。誰のっていうもんでもないしな」
「それじゃあ、それで入れてもらおう」
「はいはい。ちょっと待ってね」
ガチャンとそれぞれのカードに報酬が入っていく。今回の額はそんなに多い方じゃない。今の間隔だと採取がないと。
「じゃあ、これで一旦は報告終了だな。俺もちょっと動くからまたな」
「はい、ジュールさん」
私たちは部屋を出て解体場へと向かう。
「おお、アスカか。またオークを倒してきたのか?」
「はい。依頼は達成できたからよかったんですけど」
そう言いつつ私は三体のオークを出していく。
「ん? このちょっと大きいやつは傷が深いな」
「あ、一応苦戦した相手なので持って帰ってきたんですけど……」
「ふむふむ、これはオークガーダーだな。盾持ちというわけではなく、多くの攻撃に対応するという意味でつけられたやつだ」
「それで、魔法にも対応してたんですね」
「にしてもオークの亜種なんぞ先の町の周辺に行かないと出ないぐらいだぞ」
「そんな……」
ここでもイレギュラーに出くわしてしまった。いったい、アルバ周辺はどうなっているのだろう?
「一応ジュールには言っておくとするか。オーガもそうだが、集団で行動するオークの方が危ないこともあるからな」
「それにしてもなんか変だよな」
「早く落ち着いて欲しいよね」
「ああ、買取だったな。傷ついているが、ガーダーは銀貨一枚だ。こいつは少し筋張っているが、煮込み料理には最適でな、冬だともう少し高くなるぞ」
「そうなんですね。じゃあ、後はオーク二体ですから、銀貨二枚と大銅貨六枚ですね」
「アスカは相変わらず計算が早いな」
「えへへ。あ、そうだ! オークガーダーのお肉のいいところを半分お願いします」
「半分だな。大銅貨四枚だ」
「いいなあ、俺たちも買おうか?」
「そうだね。じゃあ、僕はオークのいい部分を半分と普通の方を三割」
「じゃあ大銅貨三枚と銅貨二枚だ」
「俺はオーク肉が半分」
「それじゃあ、お前は大銅貨一枚と銅貨五枚だな」
それぞれ代金を支払って肉を受け取る。今回はいつもとちょっと違うお土産もできたし帰ろう。
「それじゃあ、みんなまたね!」
ノヴァとリュートそれにクラウスさんにも挨拶をして宿へ帰った。