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オーガの再来

 安全が確認できたところで、これ以上の戦闘にならないようにすぐに死体を埋めていく。この作業をしておかないとゴブリンの臭いに惹かれて上位の魔物が寄ってきかねない。


「疲れた~。こっち側なんだからいつものところに行こうぜ!」


「そうだね。あそこなら安全だろうし……」


 いつもの場所とは町の東側の北にある崖の上だ。今までも一度も魔物には出会ったことはない場所だから二人の言うことは分かる。だけど、私は少し気がかりだった。オークに出会う前にあの近くで何体かの気配を感じたからだ。

 そろそろ香の効果も切れただろうし、湖の手前で休憩してからにしたい。


「待って、できれば湖で休憩しない?」


「どうしたんだよアスカ。すぐそこだろ?」


「実はオークが出て来る前にその辺りで反応があったの。何かがいるかもしれない」


「なるほど、きちんとした休憩をするならそこの安全を確認しないとってことだね」


「全く、今日はどうしたんだろうな。もう少しばらけて出てくればいいのによ」


「そうだね。それじゃあ、行こう」


 いったん湖の端に行って、休みを取る。あれから少しずつ色々な干し肉の味付けを試しているから、今はそれが携帯食だ。もちろん、ライギルさん監修のやつだ。


「ノヴァたちも食べる?」


「いいのか?」


「貰えると嬉しいよ」


「味は期待しないでね。ライギルさんと色々なものを試してる最中なの」


「了解」


 私たちは簡単に食事を済ませ、休憩を終えた。干し肉の評価はノヴァには好評だったけど、リュートにはイマイチだった。リュートはライギルさん作のいつものを食べたことがあるからしょうがない。私も同じ評価だったし。


「さあ、行こう」


「うん」


 いよいよ少し前に反応があったところへ行く。もう時間が経っているから何もいないと良いんだけど……。この辺りはまだ明るいところだけど、今は逆に不気味だと感じる。


「もうすぐだな」


「うん」


 そして崖に到着した。


「これは……」


「魔物の死骸だね」


 そこにはウルフの死骸が横たわっていた。数は六匹ほど。死んでからまだあまり時間は経っていないみたいだ。死体は殴られた跡や、つぶされた跡があるからオークの可能性が高いのかも。


「さっきのオークの群れと戦ってたのかな?」


「そうだといいんだけど……私が感じたのは本当に直前だったから」


「怖いこと言わないでよ。ただでさえ今日はもう戦い続きなのに」


《グォオー》


 リュートがそういい終えて直ぐ、雄叫びと共に奥から飛び出してきたのは何とオーガだった。


「げっ!」


「うわっ! みんないったん距離を」


 私たちはオーガと距離を取る。今回は逃げるどころではない。こんな町の近くに出てきては対処するしかない。


「二人とも左右から注意を引いて!」


「おう!」


「うん!」


 二人を私から離すと、まずは魔法で牽制する。


「二人とも下がって! ウィンドカッター!」


 左右から二人が注意を引き付けている間に、三つの風の刃でオーガを攻撃する。


「どう?」


《グオォォッ》


 傷は付いたみたいだけど、やっぱりオーガの硬い皮には効き目が薄い。このままじゃ話にならない。皮膚を貫いて臓器まで達するには矢のような一撃が必要だ。


「二人とも、もう一度お願い!」


「ああ、わかったぜ!」


「了解」


 オーガがぶんぶんとこん棒を振り回す。二人とも以前よりは余裕があるようだけど、当たったら一撃でどうにかなるから油断はできない。


「くっ! さすがに速い」


「ノヴァ、いったんこっちに任せて!」


「ああ!」


「さあこっちだよ」


 ノヴァが態勢を整えるまで、果敢にもリュートが一人でオーガの注意を引き付ける。リュートは後ろに木が迫ったところで左に飛び退いた。それと同時に短剣を目に投げつけ、オーガに一撃を入れる。

 しかし、それにも関わらず勢いを削ぐことなく振り下ろされたこん棒は木を削り倒した。


「うっひゃ~、すげえな」


「ノヴァ、タッチ!」


「おう、任せとけ!」


 ノヴァが武器のなくなったリュートと交代してオーガに立ちはだかる。オーガは片目となってなお、威圧してくるけど、さすがに視界の低下が大きいようでノヴァをまともに捉えられなくなった。


「これなら! ノヴァどいて!」


「わかった!」


 オーガのこん棒が木に当たり、動きが止まったところでノヴァが体を使い大きく飛び退く。


「貰った、ウィンドアロー!」


 周囲の風を巻き込んで一本の魔法の矢が放たれる。矢は狙い通りオーガの心臓付近に突き刺さり、オーガは活動を止めた。


「ふぅ~、何とかなった」


 前は解放状態だったけど、今回は能力を抑えた状態で戦えたのは大きな収穫だ。もちろん危なくなれば力を解放したけど。


「やったぜ!」


「やったねアスカ!」


「うん、二人とも大丈夫?」


「ああ、そこまで大きい傷はないと思う」


「本当に? 一応回復魔法掛けておくね。エリアヒール!」


 ノヴァとリュートの傷が治っていく。大きい傷はないって言ってたけど、やっぱりオーガともなれば見えないところにも結構傷があったみたいだ。


「ありがとうアスカ……って大丈夫?」


 私は魔法を一気に使ったからかちょっとよろけてしまう。


「だ、大丈夫。ちょっと魔法を使いすぎただけだと思うから……」


 そのままぺたんと座り込んで体力の回復を待つ。


「ほんとに大丈夫かよ。さっきも知らない魔法使ってたし」


「あ、あれはおばあさんのところで最近買った本に載ってて、結構貫通力があるの」


「アスカ。しばらくは喋らずに休んでたら?」


「そうする」


「でも、アスカのお陰で助かったよ。あのままこっちに来てたら僕らも疲れててやられちゃったかも」


「だよな。だけどなんでこんなところにオーガなんていたんだろうな? もっと王都寄りの都市にしかいなかったはずだろ?」


「そうだよね。ウルフを追ってきたとしてもここまで来たなんてどうしたんだろう?」


 私も考えてみようとするけどうまく頭が働かない。どうやらまだまだ疲れが抜けていないようだ。ひとまず深呼吸をして落ち着かせる。

 ……ようやく呼吸も安定してきた。二人はそういうこともないみたいだし、もう少し体力をつける必要がありそうだ。このままだと私のせいで途中休憩になりそうだし。今は日帰りだけど、後々のことも考えていかないと。


「アスカ、もう大丈夫?」


「うん、多分ね。それより素材を取ってすぐに埋めないと……」


「そうだったな。牙と角だけだよな?」


「そうだね」


「なら、俺がやるからリュートが穴を掘ってくれ」


「分かったよ、だけどうまくいくかなぁ」


「そこはいかせろよ」


 リュートが風の魔法を使って穴を開ける。最初こそ小さかったけど、少しずつコツをつかんだみたいで効率よく掘っていく。


「そんなもんで大丈夫だ。オーガだから浅めでいいしな」


「なら埋めよう。せ~のっ!」


 ここでも風の魔法で一気に体を穴に入れる。血の付いた土も入れたら、上に土をかぶせて完了だ。


「よし! ここにずっといたくないし今日はもう帰ろうぜ!」


「僕もだよ」


「うん。私も疲れちゃった」


 意見も一致し、早い時間だけどもう帰り始める。だけど、今日は町の近くでも警戒は怠らない。あの位置にオーガがいること自体がおかしいのだ。結果、何も出なかったけどとても緊張していた。


「おう、お前たち今日はやたら早いじゃないか?オークから逃げでもしてきたのか?」


「違うよ。見てくれよこれ……」


 ノヴァが門番さんにオーガの角を見せる。


「おいこれって……」


 オーガの角を見せると門番さんの顔が険しくなる。


「オーガが出たんです。それも町の近くです」


 私は地図を開いて、正確な場所を伝える。


「こんな近くにか……隊長に伝えてくるからちょっとだけ待ってろ」


 門番さんは真剣な顔をして奥で話をしている。きっとあの人が隊長さんなんだろう。話を伝え終えると、隊長さんらしき人を連れて、直ぐに戻ってきた。


「君たちがオーガを見たというパーティーか?」


「はい」


「見たところ子供の集まりのようだが、その後オーガはどこへ?」


「一体は私たちが倒しましたので、他にいるかまでは……」


「君たちがか? 証拠は?」


 隊長さんは訝しげな表情で聞き返す。まあ、私たちの装備じゃそう捉えられてもしょうがないよね。


「これだぜ!」


 やや乱暴にノヴァが血の付いた角と牙を見せる。


「こっ、これは確かにオーガの……。すまない、それで近くに人はいなかったか?」


「ウルフが六体ほど倒されていただけでした。鈍器や拳で殴られた跡があったので、その場にいたオーガの仕業だと思います」


「なるほどな。この前も東側は南で報告があったんだが、北でもか……冒険者も動員して一度大規模に生息調査を行った方がいいかもしれんな」


「生息域が変わることなんてあるんですか?」


 隊長さんの言葉が気になったので、聞いてみる。


「ないわけじゃない。しかし、オーガとなると厄介だな。俺たちやアルバの冒険者の武器は物理系と極端に相性が悪いからな。何にせよこちらでも情報は押さえておく。君たちもギルドの方へ必ず言っておいてくれ」


「はい!」


 隊長さんと門番さんに見送られて私たちは町に入り、そのままギルドへ向かった。



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