女神像と友人
部屋に戻った私は早速、アラシェル様の像を作るために準備を始める。
「まずは力を開放して……」
あとは恒例となった銀のワンピース姿に着替えて準備完了だ。まずはこの姿で魔道具を使用して型を作る。細工でも魔道具での加工でも最近はずっとこのスタイルだ。こうして作った方が良いものが出来ると思っている。
「よ~し、折角作るんだから色々なポーズを用意しないとね」
湖面にたたずむアラシェル様、杖を掲げるアラシェル様、ちょっとラフな格好のアラシェル様と。とりあえずはこの三種類だね。これが人々に広まったらもう少し別のデザインも作ってみよう。
「さあ、そうと決まればやっていかないとね」
順番に魔道具を使って木を加工する。もちろん、シェルオークを使って作るのだ。女神様の像の型を作るのに適当な材料でなんてできないよ。売り物は価格の問題もあるから多少は妥協するけど、こっちは手元に残っていくものだし。
「とりあえずは一体目完成~。でも、これは湖面セットが付いてるから他に物を追加するのは無理そうだね。湖面の表現も細かくすると時間がかかっちゃうから。ちょっと値段を上げるか、誤魔化すしかないけどこの場合は値段だよね」
続いて次の像に手をかけて加工していく。
「こっちの像は杖を掲げてるだけだから色々できそうだけど、一番神様っぽいからこれを基本にして何もつけずに安価に提供できるようにしよう」
こうしてみると教会の像はあんまりバリエーションがないなぁと思っていたけど、あれにも理由があるんだなって思う。あんまり頑張ったものを作ると信者の人でさえ手が届かなくなっちゃうからね。
「最後の像だけど、ラフって言ってもミニスカとかはやりすぎだよね。あとは何があるかな?」
悩んだ末に下はフレアスカートで上はブラウスを胸元でちょっとくくった感じで羽織ったものにした。よし、イメージ画も完成! こういうちょっとでも迷った時はとりあえず絵にしないとね。作った時にぐちゃぐちゃなものになるし、鉄とかならいいけど銀とかシェルオークは高いから気を付けないと。この二か月で結構お金は入ったけど、まだまだ目標の金貨百枚には遠いんだから!
「そういえば、最近は討伐依頼を受けるようになってちょっと収入が下がってるんだよね」
この二か月の間に大きく変わったのは依頼の受け方だ。以前は採取だけだったのを一か月前から採取と討伐の依頼を同時に受けるようになったのだ。うまく行けば両方の報酬が入るけど、討伐依頼が達成できないと翌日も出かけたり、次の依頼日にわざわざ探しに行ったりと面倒なことになる。それで採取だけだったころよりも少し収入は下がっていた。私がそうだからノヴァやリュートはもう少し苦しいんじゃないかな?
「おっとそれより今は作業、作業」
アラシェル様の像の作成に戻る。イメージを強くして後は一気に加工する!
「できた~! あとはこれを量産していくだけだ」
てきぱきと材料となるオーク材を程よい大きさに切り取っていく。一緒に金属類もやってしまおう。銅はとりあえず五体分かな? これで今日のところは魔力を結構使ったので、大事を取ってお休みだ。残りの作業は木の細工のみに絞る。こうすればこれ以上魔力の消費もないので安心して作業ができる。
「さて、それじゃあ銅を切りそろえたものは机に入れて、こっちの木を彫っていきますか」
型取りだけ魔道具で行い、一心不乱に彫っていく。頑張って彫った結果、エレンちゃんが呼びに来た時には三体が完成していた。少ないと思うかもしれないけど、手抜きは嫌なのでこれぐらいが限界なのだ。
「おねえちゃんいっしょに食べよ!」
「いいよ。今日は何なの?」
「お肉だからハンバーグと、パンは……普通だね。形は四角だけど」
横にはトマトが載ったサラダもある。これはやるしかないのかな?
「よし!」
「どうしたのおねえちゃん?」
「今から見ててよエレンちゃん」
まずはパンを焼くはずだから…火の魔法でちょっとこんがり上下を焼いて、レタスにトマトとちょっとだけドレッシングもかけて、ハンバーグを乗せてソースもかけて……完成!
「何それ?」
「これはハンバーガーって言ってね、ハンバーグをパンで挟んだ料理だよ。ハンバーグ以外にも色々なものを一緒にはさんで食べられるんだ。ソースも色々なのがあるんだよ。今日は普通だけどね。それとこういう時のハンバーグは今日みたいに平べったいのだと食べやすいんだ。膨らんでるとはさんだ時にかさばるから」
そう言いながら食べ方も実演して見せる。うん、ちょっと酸味が効いてて美味しい!
「ん~、美味しい! やっぱりこういうのってたまに食べたくなるなぁ」
「それって、おねえちゃんの住んでいたところの料理なの?」
「う~んと私の国って言うか、よそのところが発祥だけどね」
その後もエレンちゃんとハンバーガー談義を続けた。食後にライギルさんへすぐに言いに行くのかと思いきや、前に放っておかれた腹いせに今度は情報を出し惜しみさせて、じらすつもりらしい。
「ありがとうおねえちゃん。いいネタ貰ったよ」
「存分に使って。ただしちゃんとあとで教えてあげてね」
「うん」
私は部屋へ戻りエレンちゃんは仕事に戻っていった。部屋に戻っても私はあいも変わらず作業に没頭し、結局この日は五体の像ができた。ただし、一番簡単な杖を掲げたアラシェル様の像が三体なので、明日から効率は落ちるだろうけど……。
「うう~、昨日頑張ったせいかまだちょっと眠い」
ちょっとだけいつもよりぼけーっとしながら食堂に向かう。
「おっ、アスカ。今日は眠そうだな」
「ジャネットさん、おはようございます。昨日はアラシェル様の像を作ってて」
「アラシェル様?」
よく見ると横にはジェーンさんもいる。
「あっ、ジェーンさんもおはようございます」
「おはよう……それでアラシェル様って?」
「アスカの信仰してる女神様だよ。何でも運命に関しての力を持っているらしいよ」
「ジャネットも……信仰してる?」
「一応はな。たまに祈り忘れるけど」
「私も見てみたい」
「ほ、本当ですか? すぐに持ってきます」
私は目も覚める勢いで一気に部屋まで戻ってジェーンさんの前に三体の像を並べる。
「どれがいいですか?」
「アスカ……こんなに動き速かったんだね」
「今のはあたしより速かったかもね」
「そんなことよりどうします?」
「……う~ん」
ジェーンさんが悩んでいる。よくよく考えれば押し売りみたいになってたかな?
「あの、無理にとは……」
「ううん、デザインが素敵で考えてた。私は水も使えるからこのやつにするね」
ジェーンさんが選んだのは湖面にたたずむアラシェル様像だった。作るのが一番難しいやつだ。でも、知り合いにこれを選んでもらえてとっても嬉しい。こういうのは苦労した分、余計にかも。
「ほんとに貰っていいの?」
「どうぞ。今度おじさんの店で扱ってもらえるサンプルみたいなものですから」
「そういえばあたしのとは違うものばっかりだね」
「ジャネットさんのは自分用に作っていた分の試作ですから全然違うものですよ。あれは私がイメージをただ形にしようと思っただけのものですから」
「……何だかそっちはそっちで羨ましいかも」
「冒険者としてはあたしの方がいいものだね。だけど、くれるって時のアスカの顔が一番だろ?」
「うん、大事にする」
「そういえば、この神様は珍しく運に作用するんだね。あたしもびっくりしたよ」
「それ詳しく!」
ジャネットさんの言葉を聞いてジェーンさんがジャネットさんに食いつく勢いだ。
「あ、ああ。何だか祈った次の日はたまに運のステータスが上昇している時があるんだよ」
「運は上げにくいし、滅多に下がらない謎のステータス。確実に上がる魔道具は貴重……。私はポーションとかを作ってるから、成功率に影響すると言われてて、とっても大事」
「ならよかったじゃないか」
「大事にしてくださいね」
「うん」
こうして楽しい三人での朝食を終えた私は、お休みを利用して女神像を作り続けるのだった。
「おねえちゃん。また、お昼抜くつもりなの? 降りてきなさい!」
「えっ、あっ、は~い!」