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あれから

 あれから二か月の月日が流れた。その間も私は宿で働きながら、細工や冒険にいそしんだ。


「ミーシャさん、この新メニューのパンどうですか?」


「コロッケパンね。カツと一緒のソースで使えるし、何よりそのままメニューに出せるのがいいわね」


「ですね。アスカは相変わらずすごいわ。リュートも、もう少しアイディア出してくれたらね」


「エステルの新商品だってこの前打ち切られたでしょ。さすがにそうそううまくいかないよ」


 この二か月の間に鳥の巣では何度かパンの試作会が行われ、その都度メニューに追加された。ただ、毎回新商品が人気になるわけではなく、エステルさんとリュートの会話の通り、不人気メニューはすぐに打ち切りになっている。他にも材料の旬を過ぎたメニューがなくなったりしている。


「そういえばアスカちゃん。肉屋のおじさんがあなたに会いたがってたわよ。なんでも新しい肉の加工方法を試してみたって」


「あっ、燻製の件かな。あれからおじさん頑張ってくれたんだ……」


「じゃあ、今日はもう上がったら? 店の方も人数増えたし大丈夫だよおねえちゃん」


「本当? じゃあ行ってくるね」


 こうして知り合った人とも仲良くできているし、アルトレインでの生活は順調だ。肉屋のおじさんのところへ行くため、宿を出るとノヴァが目の前を通り過ぎようとしていた。


「おう、アスカどっか出かけるのか?」


「うん、ノヴァこそどこに行くの?」


「その先で建て前だよ」


「そうなの? 頑張ってね。そうそう、今度また新しい商品が追加されるから来てね!」


「おう、親方にも言っとくよ!」


 何だか二か月の間にノヴァも体つきが筋肉質になってきている。食事もバランス良く取れているみたいで、体力も力も付いてきた。最近は討伐依頼に行っても前衛でもかなり頼りになる。そんな今のノヴァの悩みは剣が軽くなって扱いにくいことらしい。


「おじさんいる?」


「おう、アスカちゃん! ようやくできたぜ!」


「おじさんこそちょっと言っただけなのに、頑張ってくれてありがとう」


「いや、こいつはすごい技術だ。簡単にはできないし、使う木くずでも味が違ってきちまう。最初は大工のところへ頼んで適当にもらってきてたが、そんな甘いもんじゃないって分かった」


 そういえば、桜チップとか燻製用の木材も色々あったっけ。


「でも、木を選んでたら加工とかも大変なんじゃ?」


「そこはうちの嫁が風魔法を使えてな。ある程度までは加工がしやすいんだ。まあ、使い慣れていないから集中力を使っちまうみたいだがな」


「そうなんですか? それだったら、魔道具を作りましょうか?」


 あまり魔法を使い慣れていないなら、魔道具で魔力を込めれば決まった動きをする方が楽かもしれないと思い提案してみる。


「いいのか? でもあれって高いんだろう? 嫁も使えたらって言ってたが、俺たちも結局値段を見て諦めたんだ」


「大丈夫です。風の魔法使い用に安いのができますから」


「本当か? 魔法も平民の俺らにはそこまで使えなくてな。毎回疲れるみたいで心配してたんだ」


「任せてください!」


「それじゃあ、肉の方を食べてみてくれ」


 私はおじさんから燻製のオーク肉をもらう。


 ぱくっ


「おいし~、これ絶対売れますよ!」


「だろ? ちょっと加工費はかかるが、絶対他の店に真似できないうちのとっておきだからな。アスカちゃん……ありがとな」


「どうしたんです急に?」


「いや、肉屋なんてこの辺じゃありふれててな。特色もないし値段だけの差だと思われてるのが、これで立派に胸張って肉屋って言えるぜ」


「そ、そんな大げさです」


「いいや! こいつはそれぐらいのものなんだ」


「じゃあ、今度新作ができたら食べさせてくださいね」


「おう、必ず食べさせてやるよ!」


 おじさんと笑顔で別れて次の目的地へ。本当にうまく行ってよかったねおじさん。肉もパンの具材として認知され始めたし、種類も増えて嬉しい限りだ。パンといえばクルミみたいな木の実の旬が来て今は大人気だ。それにジャミの実を干して作っていたレーズン風パンも結構人気がある。珍しさで買う人もいるけど、リピート率も結構高いんだよね。ただ菓子パンがまだまだ少ないんだよね。うちが冒険者向けの宿ということを抜いても菓子パンは少ない。フィアルさんの店にだってほとんど並んでないし。


「今度の課題は菓子パンを作ってもらうことだよね。私もせっかく料理をし始めたし、簡単なのは作りたいなぁ」


 今は料理も習えるぐらいに店も落ち着いてきたので、日々練習だ。聞いたら調理のスキルは結構みんな取れるんだって。私はまだ持ってないけどね。才能がないのかはたまた、努力不足なんだろうか? スキルなしではLV5相当の料理は厳しい世界なんだそうだ。そこまでとは言わないから、欲しいなあ。


「リュートはいいよね。もう調理スキル持ってるんだから」


 以前から料理の手伝いをしていたというリュートは、調理スキルを所持している。だけど、私も羨ましがっては居られない。エステルさんなんてもう調理スキルLV2だしね。おっと、今日は細工を納品する日だ。細工物のおじさんのところへ行かなきゃ。



「おじさんいる~?」


「ん~、アスカか。また依頼品持ってきたのか? 相変わらず早いな」


「うん。今日はプリファの追加分だよ。今回は魔石のあまりも使って表現してみた」


「そうか、ちょっとだけ高く買っとくからまたよろしくな。新作は?」


「あるけど数は作れてないんだよね」


 私は持ってきた細工物を納品する。


「それじゃあ、これが代金だな。銀貨八枚と大銅貨三枚だ」


 あれから私の納品したプリファの花飾りはかなり好評なようだ。デザインは同じでも花の色味も違うし値段も手ごろだということで、街の人への売れ行きがいい。ベル草もどんな宝石がふさわしいか、オリジナルか、はたまた元と全く違う色かと貴族や商人の中で楽しまれているらしい。他にも新作を出して売れ行き好調だ。それに私の細工師としての名前が最近上がってきたっておじさんは言ってた。何でも教会の依頼を成功させた話がみんなに周知されたらしい。


「宿の宣伝にもいいんだけど、目立っちゃうのはね」


「ははっ、人気者はつらいな。俺も対抗して気合いが入るから店自体の売り上げも上がって嬉しいぞ」


「そうだったんですね」


「そういえばまた教会からの依頼が来ていたらしいな。そっちはどうなったんだ?」


「あの依頼ならもう済ませました。でも、元々個人的な依頼なので成功とかはないですけど」


「そっちの方がすごいことだがな。教会から個人的に依頼なんて普通はないからな」


「そこはあまり聞かないでくださいね。そういえば以前にも言っていたんですけど、アラシェル様の女神像って扱ってもらえたりしませんか?」


「前は知名度ゼロだったが、聖霊様なんだろ。それに、アスカの知名度があれば何体かは扱ってもいいぞ」


「本当ですか? 早速作ってきます!」


「おい! 材料はどうするんだ?」


「きちんと確保してありますから。それにそこまで大きいものではないので」


 私は一気に駆け出して宿に向かう。もっとみんなにアラシェル様の姿を、優しさを見てもらいたい。


「あ~あ、行っちまった。本当にアスカは変なやつだな。にしてもあいつの作る女神像ってあれだよな。あの品質を作るのか? 売るにしても高くなるだろうな……最近アスカの作る細工物は貴族の中でも人気で、商人の間でも高値で取引されているらしいからな」



「ただいま~」


「お帰りなさいアスカ」


「おねえちゃんおかえり」


「あっ、エレンちゃんお願いがあるんだけど」


「どうしたの?」


「いまからまた細工するから、時間が来たら教えて欲しいの」


「わかった。でもあんまり無茶したらだめだよ。この前だって朝から晩までやってて、結局夜に呼びに行って初めてご飯食べたでしょ!」


「ご、ごめんなさい」


「全く、ほどほどにね!」


「は~い」


「二人ともどっちがお姉さんか分からないわね」


「絶対、私だと思います」


「どうだかね」


「そんな~」


 そんなことを話して私は階段を駆け上がり部屋に向かった。


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