受け渡しと報酬
さて、翌日になったわけだけど教会の女神像の依頼をどうしようか? 受けてからちょっと経ったし、実はそろそろ頃合いじゃないかと思ってる。明日は冒険に行く日だし明後日ってなると日も空くし、依頼状況の確認に来られても迷惑だしね。
「それじゃあ、依頼品の受け渡しと行きますか!」
あっ、だけど他の依頼品と昨日作ったものもあったよね…。一緒に持って行ったらかなりの量を一日に作れるってとばれちゃう。きちんと隠さないと!
「とりあえず仕舞ってる女神像を机の引き出しから取り出して、中身はOK、部品もOK。ごみもついてない。よし、これなら納品にいけそう」
こうして女神像を確認した私は朝ごはんを食べてからギルドへ向かった。
「ホルンさん、例のやつ持ってきました!」
「アスカちゃん、こんにちは。思ったより早いわね。本当にもういいの?」
「はい。今の私にできる一番の出来だと思います」
力も解放したし、銀のワンピースも着て作ったこのシェルレーネ様の像を超えるものはしばらく作れないだろう。
「分かったわ。それじゃあ、ここへ持って行ってくれる?」
ホルンさんから一通の封筒を渡される。見た目は普通だけど、魔力を感じるから何か細工がしてるみたいだ。
「この封筒に行き先が書いてあるんですね」
「ええ。こちらでも開けてはいけない決まりだからよろしくね」
「分かりました、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
こうして謎の封筒を受け取った私はギルドを出てこっそり封筒を開いた。
「やっぱり巫女様というだけあって大事にされてる人なんだね」
きっと、変な場所とか開けた人がどんな人物とかで対応が変わるとかあるんだろうな。だって、ファンタジー世界だし。そんなことを思いながら私は指定された場所に進む。そこはこの街の教会だった。ただし、正規の入り口ではなく、裏側のどの入り口かも記されている。
「ここかな? 扉らしきものはないけど……」
シュワワ
手が触れると壁が形を変えて扉になる。
「すごい! さすがだ。とりあえずこの入り口から入ればいいのかな?」
私は扉を開けて入り、奥へと進んでいく。
「あら、どなたでしょう?」
そこにいたのは光沢を持った青い髪の少女だった。
「あ、あの、私は教会の依頼を受けて神像を作ったものです。出来たので持ってきたんですけど……」
「えっ、あの依頼を受けたのあなたみたいな小さい子だったの?」
「あの……これでも一応十三歳なんですけど」
「でも、まだまだ小さいわね。私でも十六歳よ」
少女が立ち上がり、すらりとした身体を見せる。シスターとは明らかに違う恰好からしてこの人が巫女なのだろう。
「あの、巫女様で合っていますか?」
「はい、私はシェルレーネ様を祭る教会の巫女です。でも、あなたも災難ね。他の女神様はともかくシェルレーネ様は神託の回数も多いから、こういった無茶なものがあるのよ」
この巫女様、神様に対して結構強気に言ってるけど大丈夫なのだろうか?
「まあ、私たちは直接話しているから人となり? は知っているけど、結構わがままで人使い荒いのよね。前の巫女様からも話半分ぐらいでいいと言われていますし」
「でも、神様とお話しできるなんてすごいです!」
「だけど、話してる時は意識もしっかりしているのだけど、終わったらぼーっとしちゃうの。本気の神託の時は忘れないんだけど」
「今回のはどっちだったんですか?」
「当然本気の神託よ。しかも、『私だけ、私だけなの~』とか意味不明なこと言われたから頭から離れなくて……。神託って叶えられるまで頭から離れないようになってるのよね。私も普段なら他の街で待ってるんだけど、頭からすぐに消したかったからこうしてずっと待ってたの」
「それはご迷惑を……」
「いいの、いいの。それより早速見せてよ! 私、どんなものが作られたのか興味あるの。教会にある女神像は基本的に始祖の像といわれるものからの派生だから、デザインも似たり寄ったりなのよ」
「は、はい」
巫女様の勢いに押されて私はマジックバッグから女神像を取り出す。
「こちらのカバーを外すのでちょっと待ってくださいね」
私はギミックを動かしてカバーの固定を外す。外したカバーを横に置くと女神像があらわになる。
「えっと、これなんですけど……」
「こ、これがあなたの作った女神像?」
巫女様はじっくり女神像を眺めている。ちょっと俗っぽいのが気に食わないのだろうか? じ〜っと見ているしどうなんだろう。
「ど、どうでしょうか?」
「あなた名前は?」
「アスカですけど……」
「アスカはシェルレーネ様に会ったことがあるの? すっごくイメージが似てるわ。あの方はどちらかというと女神というより、高位の神官みたいな感じなのよね。それもちょっと不真面目な感じの」
「そ、そうなんですね。前にシェルレーネ様は地方では各村を守るイメージもあったって聞いたので、そちらのイメージに沿って作ってみたんですけど」
「ああ、そっちの話の方ね。でも、どうして教会の依頼なのにあえてそちらにしたの?」
「信者でない人間が作るのだから、そういった像が一体ぐらい教会に在ってもいいのではないかと。あとは単純に興味からですね。今まで作った女神様の像は神々しさを出していたので、そういうのを押し殺したものを作りたかったんです。だからこうやって、腰とかもちょっとだけですけど動きますよ。サンダルも履けますし」
私は実際にシェルレーネ様の像を手に取って稼働させたり、付属品を身につけさせたりと実演してみる。
「何これ? こんなことができるの? 着せ替えもできれば嬉しかったけど、これってこっちでも新しく手配すれば色々持たせたりできるわよね?」
「は、はい。サイズを合わせてもらえれば」
「すごい! いいなぁ。これは女神様からの依頼品だから中央神殿に捧げられちゃうの。そうなると一般に公開もできないし、私たち巫女もほとんど触ったりできなくなるのよ」
「えっ、そうだったんですか? じゃあ、また作りましょうか?」
作るのにMPが必要だけど、ちょっと時間を置かせてもらえればまた作ることは可能だ。
「いいの? あっ、だけどシェルオークを手に入れないといけないのよね……」
「あの木って貴重らしいですね」
「そうなのよ。今回の依頼もただのオーク材ならもっと安いんだけどね」
「なら、銀にします? 銀なら神聖な金属として認知も高いですし……」
「本当! じゃあ、今度また金貨四枚で依頼を出すわね」
「四枚も⁉」
「気にしないでよ! 巫女の給料はいいんだけど、あんまり外出できないから使い道に困るのよね。それに、これは絶対に必要な支出よ! これがあれば時間がつぶせそうだし」
「そ、そうですか。では、また依頼が来たら作りますね」
「うん。私はムルムルっていうの。ちょっと変わった名前だけど覚えやすいでしょ。よろしくね!」
「はい。ムルムル様ですね」
「うん。本当は様付けなんて苦手だけど周りがうるさくて」
「大変なんですね」
「そういえばアスカはシェルレーネ様に詳しくないみたいだったけど、他の神様を信仰しているの?」
「そうですね。アラシェル様っていう地方の女神様なんですけど……」
「ふぅん、どんな方なの?」
「もっと美人ですけど、姿は私にちょっとだけ似てますね。あとはとてもお優しいですよ」
マジックバッグからアラシェル様の像を取り出す。最近、持ち運べることに気づいたのでいつも入れるようにしているのだ。
「へぇ~、とても綺麗な方ね。それに見ているとどこか暖かくなるし、作り手の感情が込められているのね」
「そ、そうですか……」
「そういえば今回の像もアスカが作ったんだったわね。ねえ、このアラシェル様の像も作ってくれない?」
「えっ、他の宗教の神様でも大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。何せうちの教会はシェルレーネ様以外の神様を聖霊として一段下にすることで祭ってるからね」
う~ん、要は聖霊として扱えば信仰のほとんどが許容されるってことかな。それぐらいならアラシェル様も許して下さるだろう。
「分かりました。じゃあ、アラシェル様の依頼の分も追加しておきますね。ただこれは布教の意味もありますので合計で金貨六枚でお受けいたします」
「いいの?」
「はい。アラシェル様はここではまだまだ知名度が低くて、知っていただけるだけでも嬉しいんです」
「ちなみにどんな神様なの?」
「表現はしにくいんですけど、運命の一部を司るって感じでしょうか?」
転生って言っちゃうと私のことがバレちゃうし、こういう表現になるのは仕方ないよね。
「運命を司るなんてすごい神様ね。聖霊様の中にも高位の方がいらっしゃるけど、運命ともなれば相当高位のはずよ。もしかしたらシェルレーネ様より高位かもね」
「そんな……。それに信仰はみんなの心の中にあるものだと思います」
「ありがとうアスカ」
こうして私はムルムル様に神像を手渡し、無事に依頼を完了させることができた。後日、私には金貨四枚の報酬が入っていた。教会の依頼は依頼完了後に依頼料が改めて設定されるから、安くなることもあるらしいけど、額面通りな今回はかなり高評価らしい。