女神像3種目
ギルドに戻ってくるとホルンさんが待っていた。カウンターにはまだ早い時間ということもあり誰もいない。
「今日はまたずいぶんと早いわね」
「採取のポイントを町を出た頭から探してたんですけど、やっぱりあんまりないですね」
「それはまあ町の人間でも探せるところだったら、Fランクの人でも取りに行くでしょうからね」
「にしても少ないよな」
「とりあえず見てもらおうよ」
不満を言っていても仕方がないので一人ずつ採った薬草を出していく。パーティーだからまとめて出すべきかもしれないけど、空いているから大目に見てもらおう。
「まずはノヴァからね。あら、結構いいんじゃないかしら。全部で銀貨六枚に大銅貨二枚と銅貨六枚ね」
「やったぜ!」
「だけど、ルーン草の本数が多いからということも忘れちゃだめよ」
「へ〜い」
「続いてリュートね。銀貨六枚に大銅貨九枚と銅貨三枚ね。ちょっとだけルーン草の品質が安定していなかったわね」
「あっ、後半はノヴァに結構本数に差をつけられていたから焦って取った分だと思います」
「良品一本が普通の十本分近くになるのよ。焦ってもいいことはないからね」
「気を付けます」
リュートもノヴァ相手だと対抗心が出るんだな。まあ、同い年だし今回みたいにならなきゃ良いことだよね。
「アスカちゃんは銀貨六枚と大銅貨六枚ね」
「げげっ、俺負けてるのかよ。ルーン草の本数かなり多いのに……」
「まあ何事も精進よ」
「後、ホルンさんこれなんですけど」
私は途中見つけた見たことのないキノコを二株見せる。
「うん? これは……キキノコね。珍しいものを見つけたわね。これを合わせて金貨二枚と銀貨一枚ね」
「は? いや、そんなに高いのか?」
金額の跳ね上がり方にノヴァが声を上げる。私も内心びっくりしている。
「似たような毒のあるキノコと間違えやすいからこれでも安い方よ。自分たちのパーティーで鑑定できたら一番ね。ただ、毒キノコの方が猛毒だから要鑑定品なの」
「そうだったんですね。見たことないから軽い気持ちで取ったんですけど」
「何でそんなに高いんだ?」
「このキノコの粉末は薬の効果を高めるのよ。ポーションを上位の物にしたり、研究でより効果の高い薬の開発に使ったりと人気なの。ただ、数が出ないのよね」
「どうしてアスカはそういうの見つけられるんだ?」
「ん~、どうって言われても変わったキノコがあるなぁって思っただけだから……」
ノヴァの質問にも上手く答えられず、私は曖昧に首を傾げながら返事をする。
「多分、アスカちゃんは普段採れる薬草やキノコを覚えているからそれ以外にも目が行くのよ。ノヴァはルーン草取る時にルーン草を探していたでしょう?」
「当たり前だろ」
「アスカちゃんはルーン草がぱっと見で分かるから、採る時以外は注意を払っていないと思うの。あなたたちは逆にルーン草以外が視線から外れているのよ。もっと見分けがつくようになれば同じようにできるわよ」
「本当なのアスカ?」
「うん、まあ、ルーン草とか基本のものは色々見慣れてるし、他にも薬草ならもう少し見分けがつくかな?」
たまにこの世界のアスカの記憶が戻ってくるからか、まだこっちに来てから見たことのない薬草も分かる。もし、薬草辞典でもあればきっともっと種類も分かるだろう。
「なるほどな~」
「そういうのも大事なんだね」
ノヴァたちもホルンさんの説明で、納得してくれたみたいだ。
「でも、私は採取が好きだけど、ノヴァたちは鍛える方が好きでしょ? そっちは譲るよ」
「将来的にはそうなりたいよね。今は全然だからね僕らは」
「じゃあ頑張っていこう! そうだ、ノヴァは案内するとこがあるんだったね。リュートも一緒に行く?」
「一緒に住んでるし、案内してもらおうかな」
「それじゃあ一緒に行こうか」
私はあらかじめライギルさんに聞いておいた場所にノヴァを連れていく。
「はい、ここだよ」
「ここって、大工?」
「うん、前にノヴァに十分な力がないって話をしてたでしょ? ここなら力も付くし、きちんと給料も出るよ」
「本当に大丈夫なのか?」
これまでもいくつか断られた経験があるのか、ノヴァは不安そうだ。
「ライギルさんから話は行ってるはずだけど確認してみるね。すいませ~ん!」
「ああ、なんだ?」
「ライギルさんからお仕事の話をもらってきたんですけど……」
「棟梁~、客ですよ」
「おう、アスカちゃんだな。話は聞いてるぞ。それでどいつだ?」
「この子です。ノヴァ」
「よ、よろしく」
親方さんにノヴァを紹介する。親方さんはすごく背の高い人で、体格もがっしりしている。もうそのまま冒険者と言っても差し支えないぐらいだ。
ノヴァも体格差のある人には戸惑ってるみたいだね。私は前に見たことがあるから大丈夫だけど。
「本当に大丈夫なのか、こんなちっこいので?」
「なっ! 大丈夫だ!」
「まあ、アスカちゃんやライギルの頼みだし聞いてやるけどな。おい! ノヴァって言ったか。しばらくはうちに住めよ」
「なんでだ?」
「お前を教えるのにうちに来てからじゃ時間がもったいないからな。合間に教える」
「別に俺は大工を目指さないけど」
「む、いいか! 目指すとかじゃなくて、仕事なんだ。ここをきちっとできるようにならないと何も身には付かんぞ!」
「わ、わかったよ」
こうしてノヴァは親方さんにそのまま連れられて行った。何だかんだ言って宿代が浮きそうなので本人はちょっとだけ嬉しそうだった。でも、そうなったらリュートはちょっと寂しいかもね。
「リュートは宿に一人だけど大丈夫?」
「大丈夫だけど、泊まるところは考えないとね。今の部屋は二人で借りてて安くなってるから、一人で借りると高くなっちゃうんだ」
「それならうちの宿に泊まったら? 職場も近いし」
私はリュートに提案してみる。合宿みたいだし、職場までゼロ分で連絡だってすぐに付く。
「近いっていうかもうその場所だよね」
「遅刻もないし楽でいいよ」
「一泊はいくらなの?」
「大銅貨二枚で夕ご飯付き。朝も銅貨三枚に+二枚で美味しいパンが食べられるよ」
「月に銀貨六枚で夕食ありなら安いかな……。ちょっと考えてみるよ」
「うん、よろしくね」
私もリュートと別れて宿に戻る。今日は思ったより魔法も使ってないし、今のうちにできることをしてしまおう。
「まずやることといったら、女神像の制作なんだけどね。教会からの依頼って言われてたし、ちゃんとしたのを作らないと」
とりあえずはギルドから貰った絵を確認してみる。教会からも一応貰って来たけど、教会の方は神々しいというか慈母の感じが溢れている。
もう一方の絵はちょっと気さくな感じだ。ちらりと見比べてみるけど、やっぱり気さくな感じの方かな。
「服装は思い切って女神っていうより、ハイプリーストって感じかな。上質な絹のローブを再現した感じで、杖も先端に大きい魔石が付いて、前に突き出した感じで」
デザインが決まれば絵を描いてイメージを固めていく。ローブも白地ではあるけど青いラインも少し描いて、飾りも付けておこう。耳はピアスに頭はティアラではなくてプリースト用の帽子かな。
「やっぱりイメージが決まると筆の進みがいいなぁ」
当初の予定よりイメージが固まるのが早かったおかげで、すらすら進んでいく。杖の魔石は黄色にして、足は思い切ってサンダルで。ネックレスには盾のデザインだね。みんなを守る魔法を使うっていうイメージで。こうして描かれた絵を元に制作の作業に入っていく。
「作業に入る前に着替えてと、リベレーション!」
本来の力を解放した私は女神像の作成へと入っていく。貴重なシェルオークを余すところなく使いたいので、まずは杖を削り出して先端を曲げ、杖の湾曲を表現する。その先端部分には、この前買った小さい魔石をはめ込めるように加工する。
「ここまで出来たら、後は本体の方だね。今回のギミックは武器や衣装をこだわる感じでもないから、それ以外だよね。木で削り過ぎるのが怖いけど、頑張ってみよう」
今回は上半身と下半身を分けて作ることにし、先に下半身の切り出しを行う。そして切り出したものを削っていく。削り出し以外にも足のところは綺麗にしてかかとにピンを作り、それを台座にはめ込むようにする。
「ただ、はだしの足を作った後にサンダルをつけるのは思ったより面倒だね」
でも、ここまで来たらやるしかないと気合を入れ直し頑張る。ようやく下半身が完成したので、つなぎ目のでっぱりのサイズも調整する。ここもしっかり作らないと、上半身が変な方に曲がってしまう。
「ようやく完成した~。後は上半身だ」
上半身は逆に細かいところが多いものの、肉感は少ないので結構さらりと進む。服以外で付けるのもティアラぐらいだろう。後は頭と髪形を調整して、手のポーズも確かめたら完成だ。
「さすがにここまで集中しちゃうとヘロヘロだ」
私は作業を終え、椅子から立ち上がるとそのままベッドへ倒れこんだ。