出発
「アスカ、今日もまた採取依頼なんだろ? どうせだったら討伐依頼も一緒に受けようぜ! この前だってオークが出てきたことだしさ」
「また、そうやってノヴァは……」
リュートが呆れながらノヴァをたしなめる。本当に二人はいいコンビだ。
「だけどさ、俺たちには討伐依頼の依頼報酬だって結構金になるだろ? 悪くはないと思うんだけどな~」
「受けちゃったら期日中に必ず討伐しないと違約金発生するけど、ノヴァは払う気あるの?」
「ないぜ! だってその間に倒せばいいんだろ?」
ちょっとは成長したと思ったのに……。
「それは普通に依頼を中心に受けている冒険者の場合だね。私たちって週に何回も受けてないから、出てこなかった場合は、わざわざ行かないといけないんだよ? 私やリュートは別の仕事があるし……」
特に私の場合は細工もあるから忙しいんだけどな。
「でも、俺はないしな~」
「ああ、そういえばノヴァにはまだ話してなかったっけ。お仕事できるかもって話」
「だけど、依頼よりは安いんだろ?」
「もちろんそうだけど、体がまだ成長途中のノヴァにとっては、必要な能力を鍛えながらお金が貰えるんだから、悪い話じゃないと思うけど」
「だったら、この後で案内してくれよ!」
「分かった、分かったから飛びついてこないで! まずは採取の依頼からだよ。これだって三日に一度行くっていう、きちんとした決まりになってるんだから」
「あっ、わりぃ」
それじゃあ出発ということで町の東側へ。こっちの方が危険も多いけどいいものが出るなんて本当にファンタジーだな。とりあえず門を出たところでちょっと北側へ。
「どうしたんだこんなところで止まって?」
「う~ん、この辺で採取したことはなかったから、ちょっと見てみようと思って」
「確かにほとんどの人は通り過ぎていて、今いるのは二人ぐらいだね」
「魔物が出るし、それなら西側の方が安全だからかな。ちょっと見てみてリラ草も品質を確認しなきゃ」
「リラ草があるのか?」
「多分ね。草原だし、ちょっと見てみよう」
こうしてみんなで一時間ほど探し回る。草原は森と違って見張りを立てなくてもいいのがいいところだ。特にここは町も近いから、凶悪な魔物の出る心配もないのがいい。
「二人ともどうだった?」
「俺は十本だけだ」
「僕も十三本だね。あんまり見つけられないね」
「ここはあんまりよくないのかあ。私も二十一本だったよ」
品質も良くないし、大量に見つかることもない。危険が大きいだけの場所だな。さっさと次のところに行こう。私は地図に×を書いて次へ進む。
「さあ、じゃあ森に入っていこう」
「おう」
森の中に入っていく。この辺りはそこまで木々も多くなく、木漏れ日も差込むので割と明るいところだ。地面の方を見ると、ところどころ人が足を踏み入れた跡が残っており、定期的に採取に来ている人がいると分かる。
「う~ん、ここも争いになりそうだし、採取場所としては向いてないのかもね」
「でも、成果なしで帰るわけにもいかないよね」
「そうなんだけど、あんまり進むとノヴァの言う通り討伐依頼の方がよくなっちゃうし、どうしようかな?」
「そういえばこの北側ってどうなってるんだ?」
「北側は結構切り立ってるから登ることは出来なさそうだね」
ノヴァの言葉で私たちは北側を見る。リュートの言葉通り高さはそこまででもないけど、登るには道具が必要そうだ。でも、魔法なら上がれるかも。
「それだよ! ちょっと行ってみようよリュート!」
「ええっ!? アスカちょっと」
リュートの制止を振り切って私は風の魔法で飛んで上を確認する。その場所は広くはないものの、人も大型の魔物も普段来ないようで、荒れた様子はない。
「ほらほら、二人も来なよ。ここなら探索し甲斐がありそう!」
私は久しぶりの開拓気分ではしゃいでいたので、大事なことを忘れていた。
「いや、俺飛べないんだけど……」
「あっ! ご、ごめんノヴァ。風の加護よ……。はい、もう大丈夫だよ」
ノヴァに風の魔法をかけて浮かせる。これでノヴァも私たちと一緒に上へ行けるね。
「おお、足場は悪そうだけど、結構薬草もありそうだな!」
「鳥ぐらいしか来ないだろうし、ちょっと回ってみよう」
こうして私たちは崖を登ったところで探索を続けた。
「ん? ちょっと変わったキノコだね。持ち帰ってみよう」
やっぱり違ったところを探すのは新しい発見があっていいね。その他にもリラ草の質のいいものやルーン草も見つかった。
「でも、鳥が食べるかもしれないからちょっと多めに残してあげよう」
「別にいいじゃんそんなの」
「そんなこと言ってると襲われちゃうよ。ここに食べ物がなくなって町に来るようになるかもしれないんだから」
「そうだよ。これぐらい採れればいい方だよ」
「ちぇ、リュートもそっち側かよ。わかったよ」
結局ルーン草はノヴァが十六本、リュートが十四本、私が十本だった。こういう岩場みたいなところだと、ノヴァの運動量がいいみたい。それからちょっと休憩して下に戻る。休憩の時も邪魔が入らないから、お昼を取るのにもいいかもね。
「結構早い時間だけど、どうしようか?」
「まだムーン草も取れてないんだよな」
「そうなんだけど今から取りに行っても、結構奥まで入らないといけないと思うの」
「確かにそうだよね」
「でも、依頼を残すっていうのもな……」
「う~ん、それは確かにわかるけど。どうしよう?」
ノヴァもリュートも悩みだした。私としても毎回依頼は片付けたいけど、危険な目に合うのもなぁ。
「じゃあ、この先何歩か数えて行って、その歩数からこっちに戻ってくるのは? それで見つからなかったら終わり」
「そうしようか。ずっと話してても仕方ないし」
「そうだな。奥に入って行ってまたオーガでも来たら不味いよな」
「あれはちょっとね……」
さすがにあんなのに毎回出遭ってられない。今日のところはこの辺りでやめておかないとね。
「さて、五十歩進んできたけど、どんな感じだった?」
「見た感じは何もなさそうだったな」
「行きと帰りだと見え方が違うから、帰りもきちんと見てね」
「はいはい」
こうして私たちは歩き始めるもののやっぱりこれというものはなかった。
「今日はこの辺にしておけって言う神様からの啓示かもね」
「そうかも。それじゃあ早いけど帰ろうか」
「なんだか、初心者のころに逆戻りだな」
「あ、それは僕もちょっとだけ思った。だけど、武器を揃えてから採取には行かなくなって、それが今またやってるなんて不思議だよね」
「まあ、この辺には生えてないけど伝説の薬草とかあったら、経験が役に立つかもね」
「あればだろ?」
「確かにそんな機会があるようなところへ行ければいいよね」
「なんだそういう意味かよ。それならいいかもな」
ちょっと未来の可能性を話したので、気になることを二人に聞いてみる。
「二人は大きくなったらどうするの?」
「どうだろうな。俺は別の町にも興味があるから、行ってみたい気もするな」
「僕も一度ぐらいは色々なものを見たいかも。本を読むのも好きだし、見たことない物語に触れられるしね」
「そっかぁ。私も町は出ちゃうし、みんなどこかに行っちゃうんだね」
町を出る時には二人はもういないのかなぁ。それとも私が先に旅へ出たりしてね。なんて考えていると、ノヴァから指摘された。
「そんなこと言ってもどうせしばらくはいるんだろ?」
「まあね。今のままじゃ危ないし、子どもだ子どもだって周りもうるさいでしょ?」
「アスカは大人になったらなったで苦労しそうだけどね」
「どうして?」
「その時になったら分かると思うよ」
「そう?」
今日は帰るだけなので話しながら町まで戻る。もう街道沿いだしそこまで警戒しなくても魔物は出ないだろうから楽なものだ。
「おう、お前ら今日も早いな!」
「無理はしない方針なので」
「それがいい。最近は森の途中でオーガを見たなんて奴も出てるぐらいだ。オーガはベテランでも苦戦する奴だからな」
知ってます、とは言えず神妙にうなずく。実際、普通の武器じゃ役に立たなかったし、魔法でも物理系のは効かなさそうだった。ああいう手合いはパーティーによっては危険だろうし、ソロだともっと大変だろうな。
私も魔法が効かない魔物相手だと逃げるしかないわけだし。オーガキラーみたいな特攻武器もあったりするんだろうか?
「一応清算はしておこうぜ」
「そうだね。さすがにゼロは厳しいかな」
「じゃあ、行こう!」
私たちは多少の疲れもあり、若干重い足取りでギルドへ行った。