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ギルドマスター

 依頼を達成できて一安心した私にホルンさんが話しかけてくる。


「そういえば気になっていたんだけど、アスカちゃんのその背中のものは何?」


 ホルンさんの目線は私の格好に不釣り合いの弓矢だろう。ちらちら視線が行っていると思ったんだけど気のせいじゃなかったか。


「弓と矢筒です」


 真っ正面から答える。


「そうだけど、昨日は持ってなかったわよね?」


 スルーしてくれるかと思ったけど、だめだったか。まあ、魔物を倒したことも言わないといけないし。そういえばオオカミの牙も取っていたんだった。


「その…採取の時に実は魔物に遭いまして、ゴブリンが持ってたんです」


「大丈夫だったの?怪我はない」


 ホルンさんが慌てて確認しようとしてくれるが、運よく怪我も無く魔法で倒したことを伝える。ついでに顛末も話しておいた。


「よかったわ。ゴブリンを倒したって言っていたけれど、その時いたウルフの素材は何か持っていないの?」


「ありますよ。牙です」


「あら、ウルフは牙だけなのね」


「はい。私は剥いだりできませんし、バッグの中が汚れないか心配で…」


「そうだったの。なら心配ないわよ。中で混ざったりはしないから。ウルフの肉はあまり価値がないけど、毛皮は売れるから余裕があるなら持って帰っても大丈夫よ。言ってくれればギルドが解体を受け持つから。もちろんお代はいただきますけどね。じゃあ、これも鑑定するわね。他には何かないの?」


「これで全部です」


「それじゃあ買取はウルフの牙だけになるけどこれは大銅貨五枚ね。二個あるから合計銀貨一枚。これもカードに入れる?」


「お願いします」


 それにしてもオオカミ…この世界じゃウルフは毛皮も使えるんだね。次に倒したらちょっと怖いけどバッグに入れて持ち帰ろう。そう心に誓うもまだまだ先のことだと思う。そんなにポンポン戦いたくないし。私はいろいろ教えてくれたホルンさんにお礼を言う。


「でも、さっきのムーン草……ひょっとして森まで行ったの?」


「そこまでは行ってないです」


「そう……最初から無茶しないようにね。それとその弓はどうするの?」


「それなんですがこれって売れたりします?」


「売るねぇ……ちょっと見てもいいかしら?」


「どうぞ」


 私は弓と矢を渡す。ホルンさんは弓を見たり引いたりしている。実際どうなんだろう?ゴブリンが持ってるくらいだから売り物にもならないのだろうか。


「う~ん、思っていたよりしっかりした弓ね。Dランクぐらいまでなら使えないこともないわね。矢もフォレストウルフのものね。結構、しっかりしているけど本当に売るの?」


 そう言われても今の私には引けないのだから仕方ない。恥ずかしいけれど勇気を振り絞って話す。


「弓が引けないのでいいです……」


「うん?ごめんなさいもう一回言ってくれる?」


 恥ずかしさのあまり声が小さくなっていたようでホルンさんには聞こえなかったみたいだ。意を決してもう一度。


「弓が引けないんです!」


 思いのほか大きい声になってしまった。やっぱり緊張してしまうと声も大きくなるんだな。


 シーン


 急に大きい声を出したせいかギルド内が一瞬で静かになってしまう。あれ?結構みんなに聞かれた感じ?そう思うと恥ずかしくなってうつむいてしまう。


「……そっ、そう、それなら仕方ないわね。今度、武器屋の方に見てもらうから数日後に結果を伝えるわね」


 別段大きい弓でもないしホルンさんも予想外のセリフに慌てふためいている。と後ろから声がした。


「ワハハ。さすがのホルンさんも慌ててるな。でも、お嬢ちゃんももう少し筋肉をつけんとな」


 そう言った後にその人はまたワハハと笑う。でもまあ冒険者として私の力は壊滅的だし流石に言い返す言葉もない。


「ごめんなさい。冒険者にとってステータスを他人に知られることはいけないことなのに……」


 ホルンさんがしょげてしまっている。


「いいんですよ。弓が引けないのは事実ですし、きっとすぐに引けるようになりますって…多分」


「次はちゃんと気を付けるわ。本当にごめんなさいね」


 その時、二階の方から一人の男性が降りてきた。


「どうしたんだやけに騒がしいな」


「ギルドマスター……」


「なんだホルンのところか、どうした?」


 ホルンさんは申し訳なさそうにギルドマスターに説明する。


「そりゃ大変だったな。まあ、ホルンは冒険者として出てくこともないし仕方ねえな。次から気をつければいい」


「ギルドマスターさんは意外そうじゃないですね」


 私が弓を引けないのも当然という感じだ。


「ああ、月一で初心者向けの実践講座をやってるからな。十歳ぐらいのガキだと持たせただけでも重いやらなんやら言ってきやがるからな。そういえばお前は来なかったのか?」


「ああ、アスカちゃんは昨日登録したばかりなんです」


「へえ、今暇だからこの際だ。色々説明してやろうか?」


「いいんですか?」


「ああ、ベテランは言わなくても稼いでくれるが、ひよっこは言っても芽の出る奴は少なくてな。お前は見所がありそうだ」


「じゃあ、お願いします!」


「よし、二階へついてきな。ホルンも来るだろ?」


「ええ、ですがちょっと用事を済ませてから行きます。すぐ済みますので」


 そして私はギルドマスターに案内されるがまま2Fの一室へと入っていった。



「んで、どこが分からないとかあるか?」


 部屋に入ってそれぞれ席に着くとふいにギルドマスターから言われた。


「あっ、えっと…」


「その前に名前をまだ言ってなかったな。俺はジュール。このアルバの町の冒険者ギルドマスターだ。冒険者ランクは一応Aランクだ」


 一応なんて言っているけれど、ホルンさんの説明でいけば上から二番目のランクだ。きっと強いんだろう。


「私はアスカです。昨日、ここのギルドで登録しました新米冒険者です」


「あ~、まずは相談もあれだが、スキルを教えてくれるか?分からんとどうにもならんしな。勿論、言える範囲でいいぞ」


 そう言われて一瞬ためらったが、偽ったり隠したりしてもホルンさんに知られているし、隠ぺい以外のスキルについては教えた。


「なるほどな。魔力操作と薬学持ちか、初心者冒険者が最も欲しいスキルだな。まだまだ、伸びしろがあるだろうし無理しないで行けよ」


「はい。まずは実力をつけていずれは世界を回りたいと思っています。でも、しばらくは採取中心に活動したいと思ってます」


「そりゃいいことだ。無理ばっかりして身を崩す奴らが多いからな冒険者は」


 それから、ゴブリンの討伐についても話をして、森に入るようになったら気を付けることなども合わせて聞こうとしたところでドアがノックされた。


「ホルンです。入ってもよろしいですか?」


「ああ、入ってくれ」


 ホルンさんが用事を済ませたみたいで、私の横に座る。何となく三者面談みたいでむずがゆくなってしまった。


「なんだそっち側か?」


「当り前です。彼女はまだまだ新人ですよ」


「まあそうか。それでさっきは何を言おうとしていたんだ?」


「はい。あの弓ですがゴブリンが持っていたのを討伐して持ち帰ったんですが、今後森とかに入ったりした場合の注意なんかありますか?」


「へえ~、お前さんがゴブリンをね。まずはその話から聞こうか」


 私は受付でした話をジュールさんにもする。ウルフがゴブリンに襲われそれを見て逃げようとしたが、見つかったことも入れて。もちろん、能力のことについては触れなかったけど。


「なるほどな。確かにスキル的にも魔力的にもそこらの森に入るだけなら今でも問題ないだろうな」


「ちょっとマスター……」


「ああ、分かってる。だがな、まず森に入るというなら基本は一人で入らないことだな」


「一人だとだめなんですか?」


「ああ、森ってやつはそこら中に木が生えてて先が見通せない。おまけに毒草なんかも生えてるからな。どこから敵が来るかもわからない上に、体調を崩して生きて帰れるわけはねぇ。だから森に入る時は大体みんなパーティーを組むのさ」


「パーティーですか?」


「そうだ。今は自分のことで精いっぱいだろうからあんまり意識できないと思うが、辺りを警戒するだけでも自分と目線の違う奴がいるだけで全く違う結果になる。何より嬢ちゃんは力も体力もないんだろ?近づかれたらどうやって逃げるんだ。今日の話でいえば嬢ちゃんが次のウルフになるんだ」


「でも、私この町に来たばかりで知り合いとかもいませんし……」


「そういう時のためにギルドにはパーティー募集用の掲示板もあるから時期が来たら貼り出してもらうといい。ただ、一点だけ注意しろ」


「注意?」


「募集する時は必ず二週間…できればひと月はその町の冒険者ギルドで依頼を受けることだ」


「それはどうしてでしょう?」


「こんなことはあまり言いたくないんだが、たまに新しいメンバーが欲しいパーティーが受付と組んで、パーティーを探している冒険者が張り紙を出す前に声をかけてくることがあるんだよ」


「別に条件が合うんだったらいいんじゃないでしょうか?」


「そう簡単にはいかないんだ。そういう奴らはよりいい条件のために活動する利己的な集団だ。得てして犯罪やそれまがいなこと、パーティーが危険に陥った時に仲間を見捨てる奴が多い傾向にある。だから、その町の冒険者や受付がどんな人物か見極めた上で募集をかける。そうすれば面倒な奴と関わる可能性が減らせるんだ」


「なんだか怖い話ですね…」


 私からするとパーティーというのは気の合う仲間たちがわいわい言っている感じだけど、実際は違うみたいだ。命がかかっているんだからと言われればそうなんだけど、現実が来た感じだな。


「マスターはこう言っているけど、そういう人ばかりではないのよ。ただ、あなたの年齢で人を見極めるって中々できることじゃないから、今後も安全に活動できるように言っているの」


「まあ、そうなんだがな。信頼で結ばれているパーティーもあれば打算で繋がっているパーティーもあるってことだ」


「わかりました。まだまだ先のことになると思いますけど、早く一人前になれるよう頑張りますね」


「後は…ホルンから冊子はもらったか?」


「はい、とっても役に立ちます。作ってくれた人には感謝です」


「そ、そうか。そいつはよかったな」


「実はあれジュールさんがギルドマスターになってから作ったのよ。だから、他の町では置いてないの」


 ホルンさんが小声でこそっと言ってくれた。


「そ、そうだったんですか。ありがとうございます。倒した魔物の処置とかも載ってて助かりました」


「それはどうも」


 恥ずかしそうにジュールさんが答えてくれる。でも、実際あの冊子が無かったら薬学のスキルもしばらくは取れなかっただろうし本当に感謝だ。


「ん、そういや倒した魔物はどうしたんだ?」


「ちゃんと埋めました。こう魔法で」


 私は風の魔法で穴を作って埋めたことを話した。


「それはいい心がけだ。初心者の内からそういう基礎的なことはやっておかないといつまでも身につかないし、こういうことの積み重ねでパーティーを危険にさらすか遠ざけるか別れてくるからな」


「そうですね。でもアスカちゃん。いくら魔法が得意だといっても、一人旅の時にむやみに魔法で解決しないようにね。自分を守れるのは自分だけなんだから、いざという時に使えるだけのMPは確保しなさいね」


「はい、今日も倒したあとは動揺しっぱなしで…」


「でも、そういうことを自覚できるのはいいことよ。そこで自分は強いと思い上がったらいつか大けがするから」


「なんだか見てきたみたいですね」


「そりゃあ、私はこう見えて受付業務も長いから。帰ってきた冒険者の相手もしてきたけど、帰ってこなかった人の依頼を受付たのも私だから」


「悲しいですね…」


「ええ、それでも出ていく時はみんなちゃんと帰ってくるって言って行くわ。あなたは口だけにならないようにね」


「はい、きっと帰ってきます」


「よろしい」


 ホルンさんの態度がまるでお母さんのようで思わず笑ってしまう。つられてホルンさんも笑った。


「他には何かないか?」


「今は特にないです」


「じゃあ、講習はここまでだな。また何かあれば来るといい。前途有望な新人はいつでも歓迎だ」


「ベテランになったらダメなんですか?」


「あいつらはチクチクと色々言ってくるからな。可愛げがない」


 苦笑いで返しながら階段を降りていく。


「それじゃあ、今日はありがとうございました」


「ああ、これからもよろしくな」


 ホルンさんにもお礼を言って、私は鳥の巣へと帰る。明日は依頼どうしようかな? 思わず結構稼げたし、服でも買いに行こうか? そんなことを思いながら私の冒険初日は幕を下ろしたのだった。



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[気になる点] >「そういう時のためにギルドにはパーティー募集用の掲示板もあるから時期が来たら貼り出して 「注意?」 「募集する時は必ず2週間…できればひと月はその町のギルドで依頼を受けることだ」…
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