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教会からの依頼

「ただいま~」


「お帰りおねえちゃん」


「お帰りアスカ。今日は採取だけだったんでしょ。どんな感じだった?」


「そのはずだったんですけど、これどうぞ」


 私はオーク肉の塊をエステルさんに渡す。


「これって……」


「オークの肉です。結局、今日も森に入ったところで出遭っちゃって」


「店としては嬉しいけど災難ね」


「そうなんです。二人に採取のやり方を教えようってところで出てきて……」


 エステルさんに説明しながら肉を渡すと、エレンちゃんも近寄ってきた。


「あっ、でもこれ量が少なめだね」


「ほら、三日前もオーク肉を持ち帰って、次の日から二日間は肉料理といえばオークだったでしょ? みんな飽きないかなって思って少なくしたの」


「え~、そうだったんだ。宿としても食べる方としても大歓迎だよ。何せ肉屋に卸されることがほとんどなこの部分を持ち帰ってくれるのはおねえちゃんぐらいなものだし」


「そうなの? オーク肉って結構量が取れるから、いい部分も食べる機会が多いのかと思った」


 私以外の冒険者の人たちも、それなりに持ち帰ってるみたいだし。


「オークの肉は通常の外皮から中央までの部分が七割を占めていて安いの。そこは大した値段にならないから私たちでも食べる機会は多いのだけど、中央とかの希少部は高くて滅多に食べないわ」


 う~ん、普通の赤身と霜降りヒレ肉みたいな感じなのかな? それなら、泊まってる店へのお土産としたら豪華かも。


「まあ、おねえちゃんみたいに自分も食べるからって冒険者の人がくれることもたまにあるけどね。その時はあまり量がないから、宿の方で食べちゃうんだ」


「そうそう、前にアスカが持ち帰ってくれた肉も二日目は大変だったのよ。常連さんから噂を聞きつけて、初めての人が来たしね。基本的には泊まりの人を優先しているから制限したけど」


「そんなことがあったんですか。結構勤めてますけど知らなかったです」


「アスカが持ってくる前はあそこまで多く持ってくる人はほとんどいなかったから当然かもね。私もそれで知ったもの」


「おねえちゃんが宿に貢献してくれたからだね!」


「でも、今回のこれは賄賂なんだよ」


「わいろ?」


「実は一緒に冒険してるリュートって子と私が干し肉の作り方を学びたくて。ほら、オークって肉がいっぱい取れるけど、冒険途中だと町に戻れないこともあるでしょ? そういう時に捨てなくて済むように干し肉の作り方を学ぼうと思って」


「なるほど。干し肉にすればそのまま量を減らして持っていくことが出来るのね」


「そうなんです。マファルキノコの干し方と一緒に教えてもらおうと思って。最近は冒険にもよく行くので」


「それぐらいなら簡単だから、お父さんもすぐに教えてくれるよ。じゃあ、お肉運ぶね~」


「お願い。ああ、それと箱一個分はエステルさんに分けてあげてね」


 最近は持ち帰り用に、ちょっと大きめの木箱を作った。丁寧に面取りをしてワックスも塗ったから簡単には汚れないし、ふたも工夫したものだ。


「いいのアスカ?」


「はい。エステルさんも一緒に働く仲間ですから!」


「ありがとうアスカ。大切に食べるわ」


「腐らせないうちにお願いします」


「フフッ、そうね」


 二人に挨拶をして一度荷物を置きに部屋へ戻る。今日は食事まで時間がないからすぐに食堂へ戻った。おいしいパンに魚料理を食べて、体を拭いて今日も眠る。


「アラシェル様に感謝を……」


 さあ、明日は教会の依頼をしなくちゃ。




「ふう、よく寝た~」


 やっぱり冒険した日は疲れるからかすぐに眠れるなぁ。いい目覚めを迎えた私は早速、朝ご飯を食べに食堂へ向かう。


「おはようございます」


「おはようアスカちゃん。毎回お土産悪いわね」


「いえ、いつもお世話になってますから」


「ちょっと待っててね」


 そういうとミーシャさんは奥に引っ込んでライギルさんを連れてきた。


「アスカ、悪いないつも。それで、料理を教えて欲しいんだって?」


「はい。干し肉とマファルキノコの干し方です。私もなんですけど、メインはリュートって子で。後、時間は短くてもいいので、できたらその子も雇ってほしいんです」


「なるほど。実は大工の親方と調整がついてな。家と宿の連絡通路のところを拡張して、席数をちょっと増やして、前から言っていたパン専用の販売口を作ることになったんだ。商売敵の息がかかった人間も雇いたくなかったし、新人を見つけてくれたのは助かる。それと風呂の件はもうちょっと待ってくれ。材料が殆ど集まったそうだ」


「本当ですか! いつできるか決まったら知らせてくださいね。それにリュートもきちんとした時間働けるなら喜ぶと思います。それで、その親方さんの話なんですけど……」


「ん、どうかしたのか?」


 私はノヴァを大工の親方のところで週に四日ほど雇ってもらえないか相談する。ノヴァの性格なら親方のところでも委縮しないし、速さを重視した型じゃなくて、力を生かした剣士としてノヴァが強くなるためにもいいと思ったのだ。


「なるほどな。打ち合わせでこれからも何度かうちに来るからその時にでも言っておく」


 これに関してはライギルさんも私も大きく関与できないから、後は親方さんとノヴァ次第だね。


「にしてもまたこいつを扱えるのかぁ……」


 ライギルさんがオークの希少部位を前にして目が輝いている。


「そこまで珍しいんですか?」


「傷むのも早いし、冷たいまま保管するのも魔法が必要で売価も高くなるんだ。わざと販売数を抑えて凍らせて保管することで、希少性を出してるところもあるぐらいだ」


「でも、部位としては結構量があると思うんですけど……」


「そこが絶妙でな。うちみたいな店やフィアルさんのところだと、メニューに組み込むにはそれなりに量を仕入れないといけないから、向こうも強気の値段なんだよ。最近はこっちが買わないからちょっとは値下がりするかもな」


 何だか肉屋のおじさんには悪いことをしてるなと思ったけど、その店の店主は強欲で他の店は知り合いだと適正な価格で売ってくれるらしい。

 知り合い限定なのは通常の値段にすると、その店に雇われた男が買い付けに来るのを防ぐためだそうだ。


「商人ギルドは何も言わないんですか?」


「ギルドといっても食材自体は冒険者ギルドから卸してもらうからな。卸値からある程度上乗せするぐらいじゃ、中々強気には出られないんだ。冒険者ギルドだってその買取があるから商人ギルドの店に売ってるんだしな」


 ああ~、悪循環になっちゃってるんだ。悪い店が高値で売る→仕入れにも少しだけ反映させる→仕入れ元のギルドも高値で買い取るそこへ売るって構図になってるんだ。

 ギルドだって、冒険者に買取価格が下がりますっていうのは言いづらいだろう。何とかできればいいのにね。


「まあ、料理と雇い入れの件は分かったよ。そいつはいつ来るんだ?」


「今日か明日には来ると思うんですけど、正確な時間は分からなくて」


「ならアスカがうちにいる時に一緒にやるでいいか?」


「はい」


 こうしてこの世界に来て私が初めて作る料理は干し肉に決まったのだった。料理の件を話し終えた私は中断していたグリディア様の神像の制作に入る。なんといっても今日は依頼お休みの日だ。


「武器セットがまだ途中だったんだよね。後はカバー部分もきちんと作らないとだし」


 今回、一番重要なのは多分このカバー部分だろう。今まで作った神像と違ってバルドーさんの銅像は長期の移動を想定して丈夫な作りを意識した。


「木像自体は置物になる形なんだけど、移動には船を使うんだよね」


 神像を船に乗せるとなれば扱いは貨物。この世界の貨物がどうなってるかは知らないけど、きちんと衝撃が吸収できないようであれば、きっと壊れてしまうだろう。幸い木は加工しやすいのでそれを生かしてしまおう。


「大事なのは簡単に抜けないようなカバーを作ることだよね。でも、カバーだけじゃ不安だから溝を作るか、くるっと布を巻こうかな?」


 ただ、神像を売る時に商人がいちいち布を外してる姿って微妙だよね。


「う~ん、カバーは上からかぶせる感じにして、台座のレバーでロックする感じかな?」


 こうしておけば外れにくいだろう。次々と台座部分のデザインが決まっていく。このデザインを使い回せば、今後の制作物も楽に出来る。


「後は実際の作業だよね。木像だから加工は手作業でしたいよね」


 こういうところでスキル経験値を稼がないと。LV4のスキルはまだないけど、どれかで目指したいと思う。細工関連は各地を回ってる間こそ必要ないけど、いつか定住する時にあったら便利だし。


 「それじゃあ、始めよう!」


 少しずつ木を削っていく。一体目はかなり進んでいたのでそこまで時間はかからなかった。そのままの勢いで二体目に手を付けていく。そうしてしばらく時間が経った。


「おねえちゃんいる〜?」


「は~い」


 今日は程よい集中だったので、エレンちゃんのノックに答える。


「おねえちゃん、お昼だよ〜」


「いま行く~」


 どうやらもうお昼らしい。程よい集中だと思っていたけど、鐘の音が聞こえないぐらいには集中していたみたいだ。


「エレンちゃん、お待たせ!」


「準備はできてるよ。今日はもうエステルさんも私も休憩だから一緒に食べよ」


「うん」


 みんなで奥のテーブルに座るとライギルさんが肉中心の定食を三つ持ってきてくれた。


「わわっ!? 今日は結構、がっつりだね~」


「がっつりってどういう意味?」


「あ、ええと、男の人が好きそうな量が多くて油が多いもの……かな?」


 改めて問われるとうまく表現できないけど、まあそんな感じだろう。


「ふぅん。中々いい表現ね。お店の定食も肉定食や魚定食で分かりやすいけど、表現が味気ないって思ってたの。私が店を出す時には使わせてもらおうかな?」


「ぜひ使ってください!」


「話もいいけど二人とも食べようよ」


「そうだね」


 エレンちゃんに急かされ、私たちは手を合わせる。


「「いただきま~す」」


 ん~、相変わらず美味しいな~。トンテキっていうのかな? だけど、油は上品でやわらかいし、ライギルさんの使ってるスパイスも絶品だね。前世でこれが売られてたら絶対買ってたよ。


「そういえば、オーク肉のことノヴァやリュートは何か言ってた?」


「孤児院の子たちが何だか食いつきが悪いとか言ってたような……」


「やっぱり。昔はこの肉じゃなくて、宿でもよく出る肉が月に一度食べられるかどうかだったのよ。それが、この前私が持っていってから、前の肉はないのかって言われるようになっちゃって……」


「一度、食べたら忘れられないもんね~」


 エレンちゃんが口いっぱいに肉をためて答える。


「次の日にもう一度リュートたちが行くって言ってたから心配してたんだけど……」


「追及されないようにはしました」


「良かった。ノヴァがまた何か言いださないかと思ってたの。リュートは薄々気づいてると思うけど」


「でも、あの二人が強くなれば解決しますよ」


「あまり危ないことはしてほしくないけどね」


「でも、彼らが選んだ道ですからね」


「そう、そうよね……」



 食事も終えた私は二人と別れ再び細工に戻る。今度は二体目が中途半端なので、最低限そこまでは今日中に終わらせておきたい。


「再開するぞ~。とりあえず足元は完成したからあとは上半身の途中部分だね。こっちの剣のデザインを考えたら、次は地に剣を刺してる感じかな?」


 イメージを再び巡らせて作業は進む。できるだけ次の日に持ち越したくないので、頑張って作っていく。上半身ができ、武器のところも形になっていく。ようやく全ての作業が完了した頃には辺りが真っ暗だった。


「いまって何時ぐらいだろ? かなり時間が経ってると思うけど。ひょっとすると二十二時ぐらいかもしれない。明日リュートが来るかもしれないんだからすぐに寝ないと」


 夜遅いので魔法を使って音を消しながらそーっと片付けていく。しかし、今回は木くずも量が出たので中々に大変だ。一度、窓の外にゴミ箱を出して部屋中のほこりと木くずを風でかき集める。集めたゴミはゴミ箱に入れて外の焼却場所まで持っていく。


「こういう夜の探検っていうのあこがれたなぁ」


 そんなことを考えながら裏口を通ってゴミを捨てたら部屋へ戻る。部屋に戻ると急に疲れが襲ってきたので、すぐに眠りについた。



 夜が明けて、今日はリュートが来る日だ。


「おはようございます」


「おはようアスカちゃん」


 いつもの通り挨拶をして朝食を取る。今日もオーク肉のスープがおいしい。


「あのう……」


 朝からお客さんなんて珍しいと思ったらリュートが来た。


「おはようリュート。どうしたのこんな早い時間に?」


「この前アスカが言ってた料理を教えてもらおうと思ったんだけど、時間を決めてなかったなって思って」


「ごめんごめん。待ってもらうことにはなるけど、時間的には昼とかじゃなければ大丈夫だから」


「そうだったんだ」


「それともう少ししたらパンを売り出すから売り子が欲しいんだって。私がそっちに行ったりエステルさんが行ったりするかもだけど、リュートも働けそうだよ」


「ありがとうアスカ。今の状態だと依頼を受けに行く日以外にも収入があるだけで嬉しいよ」


「もし、リュートたちがお金に困らなくなったら、孤児院の子たちに引き継げるようにしたら? そうやって仕事を身につけて、少しずつ町で暮らしていくの」


「なるほどね。宿の人にも院長先生にも時期が来たら話してみるよ」


「それじゃあ、まずはミーシャさんに挨拶だね。ミーシャさ~ん!」


「アスカちゃん、どうしたの?」


「この子がリュートです。前にエステルさんの知り合いでうちに来たことがあって、うちで働きたいって。それと、今日はライギルさんに料理を習うんです」


「そう、パンの販売もあるしお昼も忙しくなってきてたから助かるわ。よろしくお願いね」


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 リュートは慣れない自己紹介なのか緊張してるみたい。私と話してる時とは違って新鮮な反応だ。


「後、料理に関してはあの人は妥協しないから頑張ってね」


「頑張ります」


「それじゃあ、早く来てもらって残念だけど、昼の仕込みが終わらないと作業に移れないから、先に午前の仕事をしちゃおう。いいですかミーシャさん?」


「ええ、昨日の分もちょっと残ってるしお願い」


 私はエステルさんの時のようにリュートを連れ立って各部屋を回ってシーツを集める。


「ほら、こうやったら簡単に集められるでしょ。それで取った場所の札は机の上に置いてもらって翌々日の朝までに出してもらうの」


「へぇ~、っと結構重たいんだね」


「そうそう、一枚一枚は軽いのに集まると結構重たいんだよ。あんまり一気に運ぼうとして転ばないようにしてね」


「うん、怪我したら治療費も高いし注意するよ。これをどこに持っていけばいいの?」


「裏庭に持っていくんだよ。ついてきてね」


 シーツを集めたらリュートを連れて井戸の前まで行く。


「うわ~、きちんと囲いに屋根まであるんだ。作業がしやすくていいね」


「えへへ~すごいでしょ。この前私が作ったんだよ。あっ、でも広めないようにしてね」


「うん。でもどうして?」


「あんまり目立っちゃうと依頼が来ても困るから。私、ゆったりと生活したいんだ」


「分かったよ。洗濯はこの桶を使うの?」


「そうだよ。じゃあ一緒にやっていこう」


 リュートは洗濯を以前からやっていたみたいで作業自体は中々の速さで進み、エレンちゃんが追加分を持ってくる時にはもう終わりかけていた。


「あれ? 新人さんって聞いてたのに早いね」


「エステルよりも洗濯や掃除は僕の方が早かったから」


「それじゃあ、掃除とかも簡単に説明したら任せていい感じだね。私もお父さんに言っておくから売り子はその日で変わるかも」


「うん。別に裏方とかでも構わないよ」


「なら、料理の時間を増やすためにも、すぐ洗濯を終わらせないとね」


 私は残っていたシーツを一気に洗うため魔法で宙に浮かせて一気に洗う。これが一番早いし、少しでも早く料理を覚えるためだもんね。


「す、すごい!」


「多分慣れたらリュートにもできるよ。水はちょっと温めてるから無理かもしれないけど、くるくる回してるのは風の魔法だけだから」


「僕にはまだ無理かな」


「それじゃあ、桶の中で回す方法でも練習するといいよ。あっちだったらこぼれても影響は少ないし」


「アスカは普段からこうやって魔法の訓練してるんだね」


「ただ単に楽がしたかっただけどね」


 こうして、いつもより一時間ほど早く昼前の作業が終わったのだった。



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― 新着の感想 ―
おがくずは火口に使わないのか……しょんぼり。
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