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清算

 私たちは気分が悪くなったノヴァの体調が整うまで、五分ほど休憩した。


「さあ、休憩はおしまい。二人とも行こう!」


「アスカって冒険に出たら元気だよな」


「そうだね。アスカは元気でも、大人しい子って感じだったのに」


「冒険は楽しいし、今の私にとってはどこに行っても新しい発見ばかりだから」


 入院生活が長かったから、自由に動き回れること自体楽しいしね。


「そんなもんかな」


「まあ、世界中を見て廻りたいって言ってるぐらいなんだから、そうだよね」


「うん。そのためにも行くよ」


 私は二度目となる林の中へと入っていく。前はウルフに襲われたのとシェルオークが取れたんだよね。今回も取れたらいいけど、あんまり使い道も思いつかないなぁ。

 だけど、話を聞く限り神聖な木だって言うし、持ってる分には問題ないよね。


「ここはちょっと進むとムーン草があると思うから。だけど、ウルフにも襲われたし気を付けてね」


「おう!」


「うん」


 みんなで周りを警戒しながら進む。少し進んでシェルオークのところまで来た。


「変わった木だね。外からだとあるのが分からなかったよ」


「これがシェルオークの木なんだって」


「シェルオーク?」


「神聖な木で枝や木を切り落とそうとすると、不幸が起きるって言われてる木だよ。落ちてる枝ぐらいしか持ち帰られないから大きい木はすごく高いんだ」


「なら、この木を切ったら大儲けじゃん」


「ノヴァ、アスカの話聞いてた? 勝手に切ったら罰が当たるよ」


「へーきだって。なぁ?」


「駄目! 私は前にこの木のお世話になったんだから!」


「わ、悪い。冗談だよ……」


 そんなことを話していると――。


 ガンッとノヴァの頭に何かが落ちてきた。


「いってぇ~」


 ノヴァの頭の上に落ちたのはシェルオークの枝だった。私とリュートの足元にも続いて枝が落ちてくる。よく見ると私とリュートの枝は新しく、葉も綺麗で生い茂っている。ノヴァのはというと、ところどころ虫食いもあり古い枝のようだ。


「何だよ。俺だけこんな古っちい枝かよ」


「何を言ってるの。木がくれたんだから持っておけば?」


「う~ん、アスカが言うなら持っとくか」


 渋々と言った感じだが、ノヴァが自分の袋に枝を入れる。リュートの分と私の分はマジックバッグに入れる。こっちは葉が付いていて傷みやすいからね。


「さあ、後はこの周辺で何かないか探そう!」


「そうだね。アスカの話だとムーン草があるらしいからね」


 こうして私たちはまたもや見張りを付けて、薬草を探して回った。今回は私が最後まで見張り役で、二人に探してもらった。

 リュートは見えにくい奥まったところを探して、ノヴァは見つけやすいものを摘んでいく。同じムーン草でも見た感じ、リュートの方が品質はよさそうだ。今回は採り方というより、生育環境だろう。元々の質が違うみたいだ。


「よっし、俺はムーン草十本にリラ草七本だ」


「僕はムーン草が八本とルーン草三本にキノコが六本だけど、これはなんだろう?」


「後はコークスキノコ二つとマファルキノコだね。マファルキノコは干して出汁も取れるし、リュートが料理できるなら売ってもいいし、すぐ使ってもよさそうだね」


「これがマファルキノコか。一つでも値段が高いから孤児院にいる時は使えなかったんだよね」


「なら、取って置いたら? 使い方や干し方はライギルさんに聞くといいよ」


「宿のおじさんだね。分かったよ」


「それじゃあ、帰ろう」


「アスカはいいのか?」


「あんまり長居して魔物に出会っても嫌だし、採りすぎは注意だよ」


「そっか、わりぃな」


「気にしなくてもいいよ。お金は欲しいけどゆっくり集めたいからね」


「なら、遠慮せずに貰っとくな!」


「うん。だけど、次に来れるのはまたひと月ぐらい後になるから、その間は別のことをして頑張らないとね」


「それなんだよな~。アスカは細工したり、宿を手伝ったりしてるだろ? 俺たちは特に何もないんだよ。まだ今のステータスじゃあ、大人の仕事はあんまりさせてもらえないし」


「かといって他の子たちの仕事を取るわけにはいかないよね。今はステータスを上げることに集中するか、自分で出来そうなことを探すしかないんじゃない?」


「そうだよね。僕も料理屋とかで働きたいんだけど、保証がやっぱり難しくて……」


 二人で働けるところかぁ。リュートはともかくノヴァに接客業は難しいかも。出来ないとは思わないけど、トラブルが起きるのが目に見えるようだ。お世話になってるところに紹介するのは難しいな。後は力仕事だけど……あそこならどうかな?


「二人とも仕事ならある程度何でもいいの?」


「うん? ああ」


「別に選べるわけでもないしね」


「ならリュートは宿の仕事ができないかライギルさんに話してみるね」


「俺は?」


「ノヴァはその……お客さんと何かあったら心配だし、別のところに心当たりがあるの」


 やんわり、ノヴァには別の仕事を紹介してみる。反応はどうかな?


「そんなところがあるのか? 確かに客と話をするなんて性に合わないし、別のでいいぜ!」


「それじゃあ、帰ってからその話はするとしてまずはギルドまで清算しに行こう」


 私たちは林を出て、また私の魔法で浮いて街道沿いに戻る。今日はもう帰るだけだ。



「ただいま戻りました」


「あら、アスカちゃんたち早かったわね。どうだった?」


「そこそこですね。後、シェルオークの枝何ですけど……」


 最後の方は小声で周りに聞こえないように話す。


「ああ、それなら仕入れたみたいよ。ちょっと奥まで来て」


 ちょっと頼みごとをしていた感じでホルンさんが私たちを二階へ通してくれる。こういうところがありがたいなぁ。


「また、アスカか?」


「またって言うのやめてくださいよ、ジュールさん」


「だけど、お前ぐらいしか中々ここまで来ることはないからなぁ。それで今日は何の用なんだ?」


「マスター。例のシェルオークの件ですよ。また、取ってきたらしくて」


「はぁ。また面倒なものを……」


「面倒? どうしてですか?」


 この前聞いた限りだと葉っぱだけでも色々な調合に使える有用な素材だって言ってたのに。


「実は昨日、お前宛てに女神像を作ってくれって教会から依頼があったんだよ」


「すげぇなアスカ!」


「すごいのはすごいけれどね……教会に女神像を作るってことは、下手な物だと彼らに文句を言われることもあるのよ。それが嫌で引き受けてくれる人もあまりいないの。だけど、アスカちゃんは最近細工をよくしているでしょう? 教会の仕事も受けられるようになれば名前も売れるのは間違いないわ」


「だがな、名前が売れればそれなりの価格で取引されるが、逆に気にいらないものを作ってしまったらこの先、細工師として辛くなる結構なリスクなんだ。そこで、こっちも冒険者が片手間に教会向けに作るんだから多少の粗は認めることと、女神像に相応しい材質で作ることっていう条件を付けたんだ」


「それがシェルオークですか?」


「そうよ。決して悪人には手に入れられないという材料で作ったなら、それだけで教会に信心深い人間の作品だと言えるわけ。つまりアスカちゃんの腕は二の次になるわけね」


「簡単に手に入る素材でもないから時間も稼げると思ったんだが、こうして自分で持ってきちまうなんてな」


 二人とも私のことを色々考えてくれたんだ。嬉しいなぁ。


「でも、私なら別にいいですよ。ちょうど他の女神像を作ってるところだったんです。ただ、教会の信仰してる女神様を知らないので、何か絵が欲しいですけど」


「……分かった。後で届けさせる。それ以外には何もないな?」


「はい。今日採取してきた物を見てもらうぐらいです」


 私たちが森と林で採ってきたものをホルンさんに見てもらう。結果は私が銀貨一枚と大銅貨四枚に銅貨六枚。ノヴァが銀貨二枚と大銅貨七枚に銅貨八枚。リュートは銀貨六枚に大銅貨六枚と銅貨二枚だった。


「リュートすげえ!」


「そんなこと言っても、ノヴァと違ってキノコがあったから。あれがないと銀貨四枚だったし…」


「それでもノヴァよりは多いわ。同じような条件で採ったのだから、それはあなたの能力よ」


「これが僕の能力……」


「そうよ。冒険者として謙虚なだけではだめよ」


「はい!」


 リュートがホルンさんの言葉を受け元気よく返事をする。こうやって少しずつでいいから自信を付けていってほしいな。


「俺は逆に少ないな」


「ノヴァは見つけた数自体少なめだし、それに採る場所の品質があんまり良くないから。人によく採られる場所ほど質が良くないみたいなの。リュートは奥や何かの下に隠れてるものを採ったからだと思う」


「そっか。まだまだ奥が深いんだな」


 うんうん、ノヴァも採取に興味が出てきたみたいだ。


「私は思ったより入ったし、大銅貨二枚ぐらいパーティーに入れようかな?」


「アスカはそっちにも入れるのか? 俺たちも入れた方がいいか?」


「あった方が便利だと思うけど、無理にはいいよ。二人はまだまだ生活がきついんでしょ?」


「それでも将来は必要になるんだと思うし入れるよ」


 結局、三人で話をして当面の間は私が通常の素材の一割、二人がそれぞれ大銅貨一枚ずつ入れるということになった。私は変動で二人はたとえ何も見つけられなくても、必ず冒険に行けば一枚を入れるようになったから、これでパーティー資金も貯まっていくだろう。



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― 新着の感想 ―
なんだかノヴァは知能足りなさすぎて早死にしそうな予感しかしませんねえ。
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