成長した2人
「なあ、もうちょっと探しやすいとか、採りやすい技みたいなの無いのか?」
「ないよ。経験と考えだね。どうやったら今よりうまく行くか、前はどうして悪かったのかを考えてないと安定しないよ」
「はあ~、疲れるぜ」
「でも、自分のためだし頑張ろうよ」
「そうだな! 基本を押さえて後はお前に任せるよ、リュート!」
「ノヴァ、だめだよ。きちんとしよう?」
「……分かった」
今はみんなで林の横にシートを敷いてお昼を食べている。リラ草を交代しながら採ったせいで思ったより時間を取ってしまったからだ。本当は森の入り口近くまで行ってから、お昼にしたかったんだけど。
「にしても、アスカのパンは相変わらずおいしそうだな」
「冒険に行く日が今は決まってるんだから、ノヴァたちも買ったら?」
「だけど、パンだけで銅貨三枚だぜ。それなら銅貨一枚で買える普通のパンにするよ」
「そう? 私は美味しいも栄養だと思ってるから、こっちでいいや」
「アスカはそういうところは譲らないね」
「うん。だって私は世界中を見て廻って、その地方ごとの料理や景色を味わいたいの。そのためにも普段から美味しいものを食べておかないとね」
「相変わらず変なやつだな」
「……まあ、変わってはいるよね」
リュートまで私を変わってるって言うなんてちょっとショックだ。
「さあ、そんなこと言ってないで次の目的地に行こう。次はあんまり行きたくないけど森だよ」
「よ~し、魔物の素材なんかも手に入るかな?」
「あんまりそういうのは駄目だよ、ノヴァ。僕らだけじゃ余裕もないから素材も傷つけそうだし」
「そうだね。もう少し強くなったらいいかも」
シートを片付けて森へと進み出す。この森は私にとってこの世界で初めて目覚めた場所なので、感慨深い場所だ。
「ここが入り口なんだけど……」
「入り口って結構足跡があるね」
「多分西側にはそこまで強い魔物の目撃情報が無いからだと思う。オーク程度の相手ができるパーティーなら安定して狩れるし、薬草も割とあるみたいだから」
「ならここからは俺が先頭だな」
「じゃあ、僕が続くね」
こうしてノヴァ・リュート・私の順で森に入っていく。森の中は林より暗い。こっちの森の方が東側の森より無造作に木が生えている感じがする。
「二人とも気を付けて、何か反応がある!」
私は警戒のスキルがないため、風魔法を応用して周囲を警戒していたら反応があった。どうやら大きさから人間ではないみたいだ。
《ブヒー》
「オーク!」
「手前の大木に隠れよう。数を把握しないと」
「そうだね」
「おう」
来た道を少し戻ったところの木の裏に分かれて隠れ、オークの数を確認する。見た感じ周辺を警戒しているのが二体だけのようだ。他には探知できないし、ちょっと遠出をしてきたのかもしれない。目で二人に合図してタイミングを計る。最初の一体は私が、もう一体は二人に任せることにする。
「ウィンドカッター!」
三つの刃のうち二つが前の一体へ、もう一体には一つが向かう。前の一体は首と心臓付近に刃が刺さり崩れ落ちる。残り一つの刃は後ろのオークの左手を切り裂いた。
《ブルルル》
腕を負傷したオークは集中力を失いながらも二人に対処しようとする。しかし、動きの早い二人にうまくついていけないみたいだ。ノヴァがこん棒での攻撃をいなし、リュートが風の魔法で上空から、左右からと翻弄する。その内にオークは対応できなくなり――。
「はぁっ!」
最後はノヴァの一太刀で倒されたのだった。
「ようし、いっちょ上がり! 一体ならオークだって倒せるぜ!」
「もう、ノヴァ。さっきのはアスカが助けてくれたんだよ」
「だけど、倒したのは事実だからな」
「そうだね。連携もばっちりだったと思う」
「ほらな」
「調子いいんだから。さあ、解体しないと」
「そのまま入れりゃあいいんじゃないのか?」
「オークは大きいし、私のマジックバッグにはシートや道具とかも入ってるから、二体入れたら隙間がなくなっちゃうかも」
「折角のマジックバッグが勿体なくね?」
「私はそんなに力が無いし、荷物も減るからありがたいの。ノヴァだって剣を何本も買えるようになったら分かると思うよ」
「そうかなぁ」
今はよく分からないと言っているノヴァだけど、きっと将来は一番苦労するはずだ。ジャネットさんが言っていたけど、剣士の多くは魔法が苦手だから、上位になればなるほどマジックバッグの中身は属性剣になっていくらしい。各属性を一本ずつとなったら、お金もスペースもなくなるだろう。
「なんにせよ倒せてよかったね。前にジャネットさんと行った時は僕らじゃぎりぎりだったからね」
「あれから急に強くはなってないし、さっきのアスカの助けが大きいってことか……」
さっきは喜んでいたノヴァも神妙な顔つきに変わった。
「だけど、二人ならきっともっと強くなれると思うよ。頑張ってね!」
「おう。任せといてくれ!」
「頑張るよ。アスカの期待を裏切らないように」
そんな話をしながらオークを吊るし、簡単な血抜きだけしてからマジックバッグに保管する。こうすればもう少し余裕ができ、薬草も入れられるだろう。
いっぱいになってしまったらこの時点で戻ることも考えなければいけない。オークって美味しいけど罪づくりな魔物だね。
「じゃあ、もうちょっとだけ先に進もう。まあ、その辺の薬草とキノコを見るだけだけど」
「キノコって食べられるけど、そんなに金にはならないだろ?」
「そんなことないよ。キノコだってポーションの材料になったり、他の薬の材料になるものはある程度の価格で売れるよ」
「生えてるのが林とか一般の人にはちょっとだけ危険だから、採れるなら採って損はないって講習でも言われてたよ」
「ノヴァはまずメモを取って覚えることからかな?」
「げげっ!」
そう言いながら周囲を探索する。思った通りこの辺は冒険者も良く入るようでめぼしいものはないみたいだ。
「森の入り口付近はペケと」
「何書いてんだ?」
「私たちでも新人にでもいいけど、初心者が行っても仕方のない場所も書いてるの。この森がそうだね。私たちじゃ手前の方しか入れないけど、人がたくさん来るから採れるものはないみたい」
本当はこの辺に生える薬草とかキノコが欲しいんだけど、簡単に来れるから競争率も高そうだ。みんな考えることは同じだね。
「ここに来てもオークの肉を持ち帰るだけになりそうだね」
「そうならないためにも今のうちから色々書いとけば将来役に立つかなって」
「色々考えてんだなぁ」
「ノヴァも今のうちから剣の取り扱い方とか学んで、将来引退した時は剣術道場を開くとか考えておいたら?」
「剣術道場かぁ。でも、ああいうのって騎士の領分だろ?」
「騎士は魔物が普段どこにいるとか、このキノコや薬草はどこで採れるかは教えてくれないでしょ。冒険者としてやっていくのに剣だけじゃなくて他のことも覚えられるの。ノヴァは最初に覚えてこなかったから、教えるのに向いてると思う」
「なんでだよ」
「私は薬草を小さいころから見てるから、これはリラ草であっちはルーン草みたいな感覚だから、区別はとか言われても正直分からないし……」
「自然とできるようになってるからだね」
「だから、今のうちから意識してると、将来たくさんの生徒を抱えるようになるかも」
「教えるのってめんどくせぇし、できるかなぁ」
でも、実際教えてもらった時に理解して覚えてるみたいだし、向いているんじゃないかな? 知り合いの欲目かもしれないけど。
「でも、ここには薬草の類はなさそうだね。あっ! あそこにあるのはツルキノコだね。お土産にしよう」
木の近くにツルキノコが群生していた。数は百本ぐらいあるけど、エノキみたいなキノコなので群生する本数が元々多い。これでも大銅貨一枚分ぐらいだ。
とりあえず七十本ぐらい採っておいておけばいいかな。パンにはさむ以外にも味や食感もエノキに近くて、色々な料理に入れられるから便利なんだよね。
「軽く掘ってと、後は根の近くの土を風で落として」
手が汚れるので風魔法で揺らして土を軽く落とす。後はマジックバッグに入れて終わり。
「アスカ、採り終わったか? そろそろ戻ろうぜ。もう用事はないんだろ?」
「そうだね。リュートは何か気付いた?」
「僕にはさっぱりだよ。キノコは種類が多いから」
「それならホルンさんに言って〝食用キノコのすゝめ〟をもらってきたら? 前に余ってるって言ってたから」
「じゃあ、今度聞いてみるよ」
「お前ら冒険者をやるためとはいえ、よくやるよな」
「私は元々読書が好きだし、その延長で冒険の役にも立つから、趣味でやれてるだけかも」
「僕も似てるかな? 色々なことを知れるから面白くて、勝手に読む感じ。でも、本は高いから殆どが読み聞かせだったんだ」
「なら、今度時間があったらお婆さんの本屋に行く?」
「いいね」
お互いの好きな本のジャンルを話しながら森を抜ける。さてこれからだけど……。
「今日はここまで来ちゃったし、この先は泊まりになっちゃうから戻るけど、もうちょっと採取する?」
「やりたくないけど、今日の稼ぎも俺は底が見えてるからな……」
「じゃあ一度、林のところまで戻ろう」
私は林までみんなと戻る。
「ここに戻ってきたけど僕らってもう採取したよね?」
「実はこの辺はぐるっと回ると奥の方に簡単に入れるの」
前は襲われたし、いい思い出はあまりないけど。
「こっちだよ。草の背が高いからちょっと浮かすね」
「は?」
「へ?」
風魔法を使って二人を浮かす。大体地面から四十センチぐらい。これぐらい浮かせば草に衣服を汚されることもないし、入り方も知られないのだ。
「それじゃあ行くよ」
二人を魔法で連れていき、林をぐるりと回って奥の方へ。
「到着~」
「うえ、変な感じ」
「だね」
「二人ともこういうの駄目だった?」
「駄目って言うか初めてだったから」
そういえばエレベーターもエスカレーターも見たことないし、足元がふわりとする感覚ってあまりないのかな?
「ちょっと休んだらこの奥に入ろう」
「そ、そうだな。少し休ませてくれ」
珍しくノヴァはぐったりしている。距離とかはそんなになかったんだけどな。