加工に初挑戦!
自分の部屋に戻ってきた私は早速、加工をするために着替えてシートを敷き準備をする。
「今日の分は一気にしたいし、リベレーション!」
ステータスを本来の数値まで戻し、作業に入る。
「宝石や魔石を削る時に割れないよう、最初は魔道具で試そう」
その後で安い宝石を試していこうと思い、とりあえず最初の一つを加工する。手に取ったのはオレンジ色の宝石。赤みがかっているから質の悪いルビーかな? 宝石の性質は詳しくないし形だけ整えよう。
はめ込む形に加工してから、綺麗に面取りして表面をつるつるにする。こういうのはパターン作っといた方がいいよね。
「じゃあ、次の魔石の分はもっと多面加工しよう!」
前世でもよくあったクリスタルの飾りのような感じでカットしていき、はめ込む形にする。
「カットしておいてなんだけど、これだったら別にカット面が増えただけで面白くないなぁ。そういえばこの魔石は薄緑だし、さっきの宝石を中央に埋め込んでみよう」
私は魔石の中央部をすこし削って、半球に加工した宝石を入れる。後はそのまま髪飾りにはめ込んで完成! ここまですれば単なる銀と魔石ではなくなるし、バリエーションももっと多くできるだろう。
「これで、おじさんの分はいいから次はバルドーさんの分だね」
バルドーさんから依頼された女神像だけど、以前は持ち運ぶ時の強度も考えて金属製だった。今回はオーク材だからインテリアだ。それならいっそ細かな細工もしてしまおう。幸い木の細工は得意だし、最近はハンガーに模様を入れる練習で慣れてきたしね。
「じゃあまずは一体目だね。女神様は立ってて、剣を授けるようなポーズかな? 渡す人の顔は判らないから女神様だけだね。剣は水平で抜き身、姿は冠を被ってローブ姿かな? 戦の女神様って言っても常に鎧姿じゃないだろうし」
ある程度大まかに削ってから、イメージ通りに細部を削っていく。材料を多めに買っているので、まずは魔道具で加工してから、仕上げは通常の細工道具で作っていく。時間はかかるけど、これもいい練習になる。
ところが下半身ができたところでかなり時間が経っていることに気づいた。
「このままじゃ時間が足りなくなっちゃうな。先に魔道具での加工までは終わらせよう。二体目は鎧姿の女神像で剣を前方に突き出して、指示をしている姿だね。今回は兜も被せてフル装備だ」
まずはリアル等身のデザインを決める。そしたら次はミニキャラの方だ。こっちは厳かな雰囲気も少なめで、趣味も入れていく。
「ミニキャラは前髪、兜、冠と使い分けられるようにしよう。服はローブ姿で、鎧がはめ合わせられる造りに。腕も稼働型にして剣を持つ手、本を持つ手と、何も持っていない手の三種類で台はどうしようかな?」
そこまで考えたところで台について悩む。後ろから挟んで固定するタイプか、台と足を一体化させるかだ。
「う~ん、アラシェルちゃんが一体型だから挟む形にしよう。そうすれば浮いた感じとかも表現できるし、長さも変えていくつか作ろう!」
次々とアイデアが浮かんできたので、私は夢中になって作業を続けた。本当に夢中になっていたのだ……。
「おねえちゃ~ん」
「うわっ!」
気がつくとすぐ横にエレンちゃんの顔があってすっごくびっくりした。後は武器の作成だと思っていたところだったので、ちょっと気が抜けた瞬間だったのもある。
「エレンちゃん、どうしたの? というか部屋の鍵開いてた?」
鍵を閉め忘れて不用心だな~と思っていると。
「違うよ! 何回呼びかけても返事がないから、お母さんに開けてもらったんだよ。集中するのもいいけど、ほどほどにしてよね!」
外を見ると辺りは真っ暗だ。部屋も結構暗い、私ってどうやって作業してたんだろう?
「ねえエレンちゃん。こんなに暗くて私ってどうやって作業してたの?」
「何言ってるの? 小さい火の玉浮かべて照らしてたよ。近くに手を近づけても熱くなかったから明かりじゃないの?」
私ってそんな器用なことが出来るんだ。出来れば意識してもしたいな~。
そう思っているとエレンちゃんが言う通り光の玉がぽわ〜っと出てきた。火の玉というよりは光の玉というのが近いだろう。
「そうそう、こんなの。危ないから気を付けてよ。それと夕飯食べよ」
「う、うん」
エレンちゃんに引っ張られるように食堂に向かう。今日は忙しく、エレンちゃんもエステルさんも食事の時間が遅くなったので、一緒に食べようと誘ったら全く出てこないから心配して入ってきてくれたんだって。これじゃあどっちがお姉さんか判らないな。
「あっ、アスカ大丈夫だった?」
「エステルさん、ごめんなさい。細工に夢中になってて……」
「そうだったの。アスカの細工はすごいってみんな言ってたし、集中力がすごいのね。でも、きちんと食べないと駄目」
「はい」
「それじゃあアスカ。昨日と同じになってしまうが、オーク肉の煮込みだ。油が溶け出してうまいと評判だったんだぞ」
そういうとライギルさんが私たちの食事を持ってきてくれた。運ばれてきたのは牛すじ煮込みに近い感じだ。この場合は豚煮込みになるのかな?
とろっとろのいいお肉から出た油が溶け出して、見た目にも美味しそうだ。
「いただきます!」
みんな一斉に口に入れる。
「ん~、美味しい。お父さん美味しいよ!」
「今日は材料がいいなんて言われないように準備したからな!」
「エレンの言う通りです。口でとろける感じが疲れた体に染みわたります」
「美味しいです」
美味しい料理をみんなと楽しく食べた私はエステルさんを見送ってから作業に戻る。今日完成させてしまわないと……。冒険者として冒険に行く時は万全の状態を維持できないのは駄目だからね。
「さて、残るは女神様の武器だけど、剣はともかく後は何がいいかな? 弓はこの手だとちょっときついよね。杖は採用するとして、思い切って魔力がそのまま武器になるような形にしよう。それ以外だと槍と斧と短剣……短剣を持った女神様っていうのはちょっと違うかな。踊り子みたいな姿ならいいんだろうけど」
結局悩んだ末に、大鎌を追加した。これを作り終えたらバルドーさんの依頼もひとまずは終了かな?
普段の細工物についてはちまちまと加工するし、銅像の分も冒険から帰ってからにしよう。
「ふぅ、完成~~」
さすがに長時間の細工で疲れた私は片付けを終えると、すぐに眠りについた。
「うぅ~ん」
目を覚ますと身体を軽く動かしてみる。ちょっと疲れが残ってるな。だけど、今日は宿で働く日だし頑張らないと。
「おはようございます〜」
「あら、昨日の疲れがまだ残ってるの?」
挨拶をしただけでミーシャさんに疲れていることがバレてしまった。ここは正直に言っておこう。
「そうみたいです。きちんと寝たんですけどね」
「それなら、今日はエステルちゃんの仕事を監督してくれる? そろそろ色々な仕事を体験させたいの」
「料理とかですね。分かりました、ありがとうございます」
ということで今日の私はエステルさんの後ろについてシーツの回収や掃除、洗濯などの作業を見ていくのが仕事になった。でも、どれもきちんとできているので、特に言う事がない。
「こんな感じでやってきたけど、どうだったアスカ?」
「全く問題ありませんでしたよ、エステルさん。もう私よりできるんじゃないんですか?」
「そんなことはないわよ。アスカが洗ったシーツは綺麗だってみんな言ってるわ」
「そ、そうですか。えへへ……」
褒められるとどうしてもにやけてしまう。そんなこともありながら無事に作業は終わった。後は昼の接客だけど、これはミーシャさんもやっているので私が確認する必要はないだろう。
「エステルちゃんはどうだった?」
「全く問題ありませんでした」
「なら、明日から空いた時間には厨房にも少し入ってもらおうかしら」
「ほ、本当ですか?」
エステルさんがすごい食いつきだ。
「すごくうれしそうですね、エステルさん」
「もちろんよ! 私は小さい頃からレストランを持つのが夢だったの。ここに来れば料理も教えてもらえると聞いていたからとてもうれしいわ!」
そうだったんだ。みんな夢があるんだなぁ。私の今の夢は世界中を回ることだけど、その間にこの世界での夢を見つけることができるんだろうか? この日は、そんなセンチメンタルな思いにふけった日になった。