可食部を見極めよう
オークの集団を倒した私たちは辺りに散らばった死体を確認していた。
「しかし、どうするかねこの肉。今日は小さいのしか持ってきてないから、あたしのバッグに三体としてジェーンはどのサイズだっけ?」
「私のも小さいし、物入ってる」
「なら二体が良いとこだな。三体入れて中身がボンッてのも嫌だしね。アスカも持ってるんだったな?」
「はい! でも、私も色々入ってます」
「じゃあ、合計七体か……一体の半分はノヴァ、もう半分をリュートで持つとして四体分無駄になるな」
「水洗いする?」
「ジェーン頼めるか?」
「薬の調合で色々見慣れてるから、平気」
何だかジェーンさんの作る薬がどんなものか想像したくないな。とはいえ解体できるならラッキーだ。
「じゃあ、私が切るのお手伝いします」
「アスカ大丈夫か? 前に気分悪くなってただろ?」
「いけますよ多分。ちょっと慣れてきましたし」
「とりあえず首の位置で合わせて並べようか、ノヴァ達も手伝いな」
「ないのは?」
「一緒だよ。有るものとして考えな」
綺麗に並べられたところを私がエアカッターで一気に落とす。
「じゃあ、吊るしたいからロープを巻いてくれ」
ジャネットさんの指示でみんながオークにロープを巻いていく。
「アスカ、木に括りたいから風魔法で上げてくれ」
「は~い」
私はオークを風魔法で浮かす。浮かしたオークの体を大きな枝に通してロープで括り付ければ一体目完了。同じ要領で四体をいったん括り付ける。
「血が飛ぶかもしれないから離れてなよ」
ジャネットさんが吊るしたオークを切って血を抜く。血を溜めるところがないと辺りが血まみれになりまた処理が面倒だ。
「ウィンドカッター!」
ジャネットさんの後ろに穴を掘ってそこに血液が流れるようにする。
「アスカありがとな」
「じゃあここからは私が」
ジェーンさんが水魔法で肉を洗う。あまり好まれない内臓や端の肉をここで切り落とす。同じ作業を五体追加で行い合計九体を解体した。
「よし! ここまですれば入るだろう。アスカとジェーンが三体ずつ。あたしが五体、あんたたちが半分ずつだね」
「あのジャネットさん。ちなみにこのオークの肉の配分は?」
「もちろん、個人に決まってるだろ。じゃないとマジックバッグ買った奴が損だろう?」
「じゃ、じゃあ、俺一体持つ!」
「別にあたしはいいけど、襲われて逃げられない。怪我してポーション代金は自分持ちでもいいならね。無理は禁物だよ」
「うっ……半分でいい」
「まあ、オークってのはマジックバッグがなけりゃ、ゴブリンとそんなに変わんないもんだよ。肉は嬉しいけど、持って帰らないといけないからね。そうなるとその日は冒険は終わらざるを得ないんだよ」
なるほど、確かに冒険が始まって最初に出会ったらすぐに引き返しなんだ。私は宿にお土産とか色々使えるけど、ただ売るだけならウルフの牙とか毛皮の方が小さくて効率良いのかも……。
「じゃあ、帰るとするか。アスカ!」
「はい! ウィンド!」
穴にたまった血や肉の残骸が漏れ出さないように埋めていく。ただし、血の量も多く全部は隠せない。それでも近寄る魔物の数は減るというのだから、必ずしておかないと。
「終わったね。それじゃあ、出発だ!」
私たちは依頼も終わり、ギルドへと引き返した。急にオークの団体に出会ったため、即完了となったのはよかったのかな?
「おっ、ジャネット。今日は早いな、新人の教育は終わりか?」
「まあね。というよりオークの所為さ」
「なるほどな。余ったらたまには分けてくれよ!」
「ああ」
門番さんに通してもらってギルドへと向かう。
「こんにちは」
「アスカちゃんいらっしゃい。早かったのね」
「はい、オークが急に出てきたので」
「大変だったでしょ? あいつらは群れを作ることも多いのよ。まぁ、群れるだけなんだけど」
「そうですね、連係もなかったので良かったです。じゃあ、討伐依頼達成をお願いします」
依頼票とカードを渡す。
「ええと、オークの討伐が十二体ね。討伐報酬は銀貨三枚と大銅貨四枚よ。悪いけどスペースを取るから肉の方は解体場でお願い」
ガチャンとカードが読み込まれ依頼達成になる。
「解体場で肉は買い取ってもらえるみたい」
「じゃあ行くとするか」
みんなで解体場に向かう。今日はクラウスさんがいないみたいだ。
「おねがいしま~す」
「おお、解体か?」
「はい。オークなんですけど……」
「どんだけだ?」
「全部で十二体です」
「なら、三体は並べられるだろうから並べていってくれ」
おじさんの指示通りに私たちは並べていく。
「ふむ。この洗浄済みのは一体で大銅貨八枚だな。特に無駄もなく作業されている。未作業のも同じ値だ」
「えっ、未作業でも一緒なのか?」
「ああ、一応肉として食べられる部分や内臓も売れないわけじゃないからな。部位の不足分を手間がかからないことで消してるってとこだ。後は皮も加工に回すからな」
「じゃあ、解体しても洗ってなかったら?」
「せいぜい大銅貨六枚だな。半端に作業してたらそれ以下だが」
「覚えとかなきゃね」
「そうだな」
手間を掛けたのに報酬が減るのは嫌だからね。
「じゃあ、全部で解体済み九体と未解体三体で銀貨九枚と大銅貨六枚だな」
「あっ、私いいところだけ一体分、肉をください」
「じゃあ、僕らは普通のところで」
「あたしは一体丸々貰おうかな」
「私はいい……」
「ならちょうど銀貨八枚だ。おい! 聞いてたな、作業するぞ」
「こういうのってお金が追加でかからないんですか?」
ちょっと疑問に思った。さっきの話だと、洗浄の有り無しで買取価格が変わったのに。
「大丈夫。元から買取前に大体の価格として引かれてるんだよ。オークとかの珍しくないものはよほど小さくない限り一定の価格さ」
「なるほど」
私たちが話していると、目の前に肉がドンと置かれた。私が解体したオークの三割の大きさ、ノヴァたちが七割だ。だけど、値段でいったら私が大銅貨五枚、彼らの分が大銅貨三枚だ。ちょっとリッチだな私。
「じゃあ、報酬の分配だね。解体場では差し引きして、あたしが銀貨三枚と大銅貨二枚。ジェーンが銀貨二枚と大銅貨四枚、アスカが銀貨一枚と大銅貨九枚、お前らが大銅貨五枚だな。こうやって分けるとオークってのは中々、儲からないもんだろ。前に言ったか忘れたけど、マジックバッグを持ってくるべきだったな」
「借りるのに銀貨一枚。今日は三体だとして銀貨二枚と大銅貨四枚…確かに」
「その分あたしは儲かったからいいけどね。パーティーでも儲けは一律じゃないってことだ。厳密にやれば、解体の手間と洗浄でもうちょっとあたしとジェーンの取り分が多くなるから、あんたたちはほとんど儲けがないね」
「二人とも残りが大銅貨五枚じゃ、食料が確保できただけだもんね」
「そういえば討伐報酬どうしますか?」
「さすがにあたしとジェーンがもらうわけにはいかないよ。三等分して余った分はパーティー資金に入れたらどうだい?」
「余った分をですか?」
「本当は決めた分を入れた方がいいんだけど、今のリュートたちには厳しいだろ。後々の働きで返してくれたらいいさ」
「ありがとうございます、ジャネットさん!」
ありがたく報酬を銀貨一枚と大銅貨一枚ずつで分け、と余りの大銅貨1枚はパーティー口座へ入れてもらう。
「ジャネットさん、ジェーンさん。今日はありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「ありがとな」
「どういたしまして……」
「ああ、次に組む時はもうちょっと腕を上げとけよ」
こうして、私たちはジェーンさんとジャネットさんと別れた。
「さて、次の集まりは何時にしよう?」
「そうだな。俺たちは明日にでも行けるけど」
「だけど、今日教えてもらったことも練習しないといけないよ」
「そうだな……」
「じゃあ、とりあえずは三日に一回は行くってことでいい? それ以外は自由で。ただし、二人の時は無理しちゃだめだよ?」
「う、分かったよ」
「オークっていっても、僕らじゃ複数は相手にできないって分かったしね」
「それじゃあ、またね!」
ノヴァたちとも別れて、私も宿へ帰る。オークの肉を持って帰るのにマジックバッグは本当に便利だ。
「ただいま~」
「おかえりおねえちゃん。早かったね」
「うん、討伐の依頼だったんだけど、急にいっぱい出てきたからすぐに終わっちゃった」
「アスカってすごいわね。その歳でもう一人前の冒険者だもの」
私の言葉で勘違いしたのか、エステルさんが褒めてくれる。
「エステルさん、そんなことないですよ。まだまだ、活動して短いですからね。一年ぐらい活動出来て一人前だと思います」
「おう、さすがアスカは分かってるな」
「バルドーさん、どうしたんですか! まだ夕方じゃないですよ」
バルドーさんは冒険に出る回数も多いし、昼間見かけることはほとんどないのに。
「今日はちょっと寝坊してな。ろくな依頼がなかったからこうして飲んでる」
「う~ん。じゃあ、ちょっとつまみを作ってもらいますね」
私はライギルさんにつまみを作ってもらえるよう、お願いしに行く。
「ライギルさん」
「おお、アスカ。やけに早いが依頼は良いのか?」
「はい。それでこれ、お土産です!」
私はマジックバッグからドンとオーク肉を出す。肉を見たライギルさんの目が爛々と輝いている。
「お、おお。いいのか?」
「はい、今日は大量だったので。なのでまた今日と明日ぐらいの夕食は……」
「分かった。ちゃんと作ってやるよ」
「やった! 後、バルドーさんにこれでつまみを作ってあげてくれませんか?」
「ああ、あいつは今飲んでるんだったな。三分だけ待ってくれ」
「ありがとうございます」
私はキッチンから食堂へ戻る。
「バルドーさん、作ってくれるって!」
「本当か? ライギルの奴、最近はこういう時にあんまり作ってくれんからな」
「前は結構作ってもらったんですか?」
「ああ。だけど最近は新しくパンを作るようになっただろ? あのせいで暇な時間に作ってくれないんだ」
原因が私にもあったみたいで申し訳ない。あれからライギルさんは新しいパンに暇を見つけては挑戦中だ。魚についても私の案をもとに色々試しているらしい。切身一つで試作が出来るからと精力的なんだそうだ。
「ほら出来たぞ」
「おおっ! オーク肉の中落ちの炒めか、張り込んだな」
「いいから食えよ。EランクにたかるCランク様」
「は? これアスカが狩って来たのか?」
「一応。ジャネットさんとジェーンさんに助けてもらいましたけど」
「これを持ち帰れるってことは結構な数だったんだろ。大丈夫だったか?」
「はい」
「そうか、土産というなら遠慮なくいただこう!」
私の心配がいらないと分かると、がつがつとバルドーさんが美味しそうに食べ始めた。
「うまいっ! 食材がいいんだな」
「俺の腕だと言いたいところだが、業者も通さない新鮮な肉なんて冒険者からしか手に入らないからそうだな」
「そ、そんな。ライギルさんの料理美味しいですよ」
「ありがとなアスカ。でも、いい食材は手を加えると不味くなることもあるからそれでいいんだ」
なるほど! 確かにテレビとかでも素材の味を生かしてますってコメント見かけたもんね。
バルドーさんもつまみに満足したのか、それ以上は頼まずちびちびと飲んでいた。