初、討伐?
「え~と、討伐証明、討伐証明……」
昨日見た項目を読んでいく。そして、魔物のところに行きついた。
「何々……討伐証明部位はありません。ただし、有用な部分は持ち帰ることが望ましい……」
そうだった。昨日、さんざん倒すだけでいいなんて優しい世界だなぁと思ったんだった。じゃあ、汚い耳とか切らなくていいんだね。後は死体の処理については『できれば埋めること。臭いで他の魔物が寄ってくることがある』う~ん、穴を掘る道具とかないけどどうしよう? 風魔法とかで掘れないかな……。
「物は試し! ウィンドカッター!」
さっきより多くの刃を生み出して地面に当てる。それから風を起こして土を飛ばす。
「うん、なんとかできそう。じゃあ、順番に入れていこう。そうだ、この弓とかって売れたりするのかな?」
ゴブリンを埋める前に所持品を見てみる。剣は錆びてるしボロボロだから無理だろうけど、弓と矢は比較的新しそうだ。ニつ目の弓は私の魔法で真っ二つだったけど。
「とりあえず矢筒一つに矢はまとめて、後は弓を背負う感じで……」
弓を肩にかけ矢筒を背にローブを着て杖を持つ女。
「今の格好は絶対鏡で見れないな。それとオオカミはどうしよう……」
ゴブリンたちが仕留めたオオカミだけど、私は森暮らしの経験もなければ猟師でもない。オオカミなんて捌けないし、皮を剥ぐなんて夢のまた夢だ。
「やり方なんてわかんないし仕方ないよね。とりあえず牙だけでも持って帰ろう」
オオカミ(名称不明)の牙は矢じりにも使うらしく有用だと書いてあった。大きく出っ張ったニ本の牙を風魔法で切り落としバッグに入れる。
「さすがに薬草と混ぜちゃまずいよね。自分のバッグに入れとこう」
そして、ゴブリン三匹とオオカミを埋めた後、さっさと帰ろうと踵を返す。入り口へ向かう途中でちょっと明るいところがあった。恐る恐る近づいてみると。
「ひょっとしてこれ、ムーン草? ラッキー♪」
目的のものが見つかってさっきまでの恐怖はどこへやら、私は反省もなく摘んでいくのであった。
「ん~、これ以上は取りすぎちゃうな。しばらく置いてまた来よう」
二十本ほどムーン草を取ると薄暗い林を出る。外に出ると太陽が少し傾いているのが目に入った。
「いま、何時ぐらいだろう? そろそろ今日は戻ろう。風魔法で加速とかできないかな。体力も付けたいけど早くここを離れたいし……」
さっきまでのことを思い出して、身震いしながら私は加速するイメージで風魔法を使う。
「わ、わわわっ。はやっ、速い!」
すぐに魔法を使うのをやめたけど、一気に加速してかなりの距離を移動していた。
「誰も見てないよね~」
周りを見渡すが、誰もいないようだ。でも、あんなに強い魔法だっけ?
「ん~、能力でも上がったかな? ステータス!」
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:Fランク冒険者
HP:40
MP:1100/1200
腕力:6
体力:13
速さ:20
器用さ:25
魔力:285
運:50
スキル:魔力操作、火魔法LV2、風魔法LV2、薬学LV2、(隠ぺい)
わずかにだけど能力がちょっと上がってる。っていうか能力解放したままだった……。強い魔法になるはずだ。このまま町に戻ったら危ないとこだった。隠蔽隠蔽。ステータスを昨日と同じように隠蔽する。ただし、上昇した分はそのままだ。なので今の私の魔力は75。戦ってちょっと成長しましたって感じだね。
「これで戻る準備もできたし、今度こそ帰ろう」
寄り道はせず、街道を道なりにアルバの町へと帰っていく。さすがは開けた街道だけあって何事もなく帰路に就くことができた。
「お、お嬢ちゃん今帰りか?」
門に着くと出かけに色々教えてくれた門番の人が話しかけてくれた。
「はい。初めてだったけど色々教えてもらえて助かりました」
「そうかそうか、そりゃよかった。で、その弓は?」
「これですか、あはは……」
何とも言い難く言葉を濁して返事をする。門番さんも察してくれたのかそれ以上は聞かないでいてくれた。持っている弓だけど、あれから町までの間に試し撃ちでもと思ったら、なんと! 弦を引くこともできなかった。何とも貧弱な体だ。もうちょっと筋肉付けないと。
「それじゃあ、身分証を。一応ね」
「はい」
出る時と同じように冒険者カードを見せる。水晶については毎回ではないらしい。見なれない人や旅人だと確認するけど、冒険者は町ごとにギルドへ寄るかららしい。この辺もゆるいなと思ったけどそれだけここは平和なんだろう。
「ようやく帰ってきた……。ちょっとお腹もすいたし何か食べよう」
そう思って、屋台広場の方へ向かう。屋台はにぎわっており色々な店が並んでいる。私は体力をつけるためという名目で肉串を売っているところに並んだ。
「一本ください」
「はいよ、お嬢ちゃん。銅貨三枚だ」
私はお金を渡して串を受け取る。何の肉かなと看板を見るとボアの肉と書いてあった。塩の味付けのみだったけど癖もなくておいしかった。
「おじさん美味しかったよ、またね」
「おう!」
おじさんと別れてギルドへ向かう。薬草は今日のうちに渡さないと鮮度が落ちそうだし。
ギルドのドアを開けるとカランカランと音がする。受付の方を見ると、ホルンさんが手招きしていた。昨日も思ったけどホルンさんは仕事が早いのかいつも列にならないな。
「こんにちは、ホルンさん」
「早かったわね、アスカちゃん。明日ぐらいになると思ったんだけど」
「でも、依頼は十本だけですよね?」
「アスカちゃんも分かっていると思うけど、十本程度じゃ一食分にもならないからね。大体の人は五十本とか百本単位で持ってくるのよ。マジックバッグのレンタル料もかかるから」
「そうなんですね。多めに取っといてよかったです」
「じゃあ、中身を出していってもらえる?」
「はい。あ、でもこれどうやって出すんですか?一種類ずつ出せるかな……」
「大丈夫よ。リラ草って思いながら出せばリラ草だけ取り出せるわ。何かわからないものの時は中を見たいと思ってのぞき込めば見られるわよ」
「本当ですか? じゃあ、リラ草!」
適当に手を突っ込んだ私は薬草つかむと袋から出す。出てきたのは確かにリラ草だ。
「本当だすごい!」
「でしょう? だから、マジックバッグって高いのよ。これと同じものだと金貨十枚ってところね」
このマジックバッグが金貨十枚……。でも、力のない私にとっては十分魅力的だ。Dランクになったら借りるお金も高くなるし、ひとまずは宿に泊まるお金をためつつこれを買おう。
「取り出し方は分かったみたいね。じゃあ、どんどん出していって」
「はい!」
ホルンさんに言われた通り、私はリラ草を出していく。ホルンさんは後ろでかごをいくつか用意して、出したリラ草を順番に入れて行っている。とはいっても左のかごに殆んど入っていっているので、ランク分けしているんだろう。
多いという事はきっとCランクだろうな。根元のところを見ると、どうやらゆっくり摘んだものが多いみたいだ。逆に勢いよくぶちっと摘んだ方が真ん中とか右に入っていってる。リラ草は勢い良く摘んだ方が良さそうだと冊子を取り出して書く。
「これでリラ草は全部です」
「それじゃあ一旦分けた分を書くわね。Cランクが三十七本、Bランクが十二本、Aランクが三本ね。Aランクが三本なんてやるじゃない。さすが薬師の娘さんね。じゃあ、他に見つけたものも出してみて」
「はい。じゃあまずはルーン草ですね…」
私はルーン草を出していく。全部で十三本のルーン草を出した。
「め、珍しいものも見つけたわね」
ホルンさんが若干引いているような感じだったけど、やや希少とか書いてあるぐらいの薬草だし大丈夫だろう。
「次はムーン草です」
続けてムーン草を出す。いちいち数えていなかったが合計で十九本だった。
結果はルーン草がCランク八本、Bランク四本、Aランク一本。ムーン草はCランク十本、Bランク五本、Aランク四本だった。ルーン草とムーン草は大事に摘んだのでそっちの取り方が正解みたいだ。私は冊子に書き込んでいく。
「初めてでよく見つけたわね。って、何か書いているの?」
「はい。良い採り方を知りたいと考えながら採ったので、ホルンさんが鑑定してくれて助かりました。リラ草は根元に印をつけておいたんですけど、勢い良く採った方がいいみたいです」
「そう。色んな所に目がいって素晴らしいわ」
そういいながらもホルンさんは目線を外してどこかを見ていた。虫でもいたんだろうか?
「そうそう、ムーン草とルーン草の依頼もこれで受けたことにできるから依頼票を持ってくるわね」
そういうとホルンさんは依頼ボードに行って紙を二枚取ってきてくれた。戻る前に冒険者の人に声をかけていたんだけど何だろう?
「はい。これが依頼票ね。ルーン草は三本から、ムーン草は基本五本から依頼を受けられるから覚えておいてね」
「わかりました。次からは先に持ってきますね」
「ええ、でも流石ね。最初はみんな雑草を間違えて持ってくるんだけど全部本物だったわ」
「見慣れてるからだと思います」
「じゃあ、とりあえずは今回の依頼分の報酬ね。まとめてでいい?」
「はい。そうだ!せっかくなんで冒険者カードに入れてもらえませんか?」
「いいわよ。じゃあ今回の報酬はと…金貨一枚と銀貨1枚に大銅貨二枚と銅貨五枚ね」
「そんなに! いいんですか?」
「勿論よ。ムーン草は毒消しやまひ治しのポーションの材料だけど、Aランクのものを使うと万能薬もできちゃうから高いのよ。ルーン草もAランクだったら上級のMP回復用ポーションになるし、出来たものは魔法使いによく売れるのよ」
良く売れるといってもルーン草はAランク一本だけだし、それを使ったポーションなんてもっと高いんだろうな。私はお金を入れてもらうためにカードを渡す。
「じゃあ、入れるわね。それとカードは一般的な宿や店では使えるけれど、露店じゃ使えないから注意してね」
「はい」
そこらへんは電子マネーなんかと一緒なんだ。感心しながらも私はカードを返してもらった。
「他に採取したものとかはない?」
「後は……キノコがあります!」
「キ……ノコ」
ホルンさんはなんだか微妙な顔をしている。それには気づかないふりをして、私は出されたかごに向かってどさどさっとキノコを出していく。そこには色とりどりのキノコがちりばめられた。
「……もしかして、どうせ鑑定できるからちょっと危険そうなのでもいいかと思ってないわよね?」
ううう、ホルンさんが怒ってる。だけどその通りなのであははと誤魔化してみる。
「いい? 触るだけでも危険なものとかもあるから、あんまりこういうことはしちゃだめよ」
「分かりました……」
「分かればよろしい。残念ながらこれは手間がかかりすぎるから今回は引き受けるけれど買取は無しね。鑑定があってもなくてもそれなりには見分けられないとだめよ。代わりにこれをあげる」
「……これは?」
「食用キノコのすゝめよ。町で一時期ベストセラーになったの。残念ながらすぐに下火になったけどね」
「どうしてですか?」
「下手に町の人が森に入ってケガをしたし、間違って毒キノコを食べた人が運ばれもしたの。おかげでギルドには要らないと、もらった本が山積みなのよ。冒険者なら知っておいて損はないから、採取ができる人には渡しているのよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「あと、ちゃんと売れそうなキノコは教えておくわね。この茶色のものがマールキノコ。割と一般的で味もいいわ。そして奥のこれがクロクラよ。黒いのが特徴で少しだけど体力の回復とケガの治療にも使えるわ。そして、この白いのがコークスキノコよ。真っ白いのが特徴で、HPもMPも回復する上においしいの。見つけたら食べるもよし、売るもよしよ」
ジーっとホルンさんに言われたキノコを見つめる。もらった手帳を出してちゃんと特徴を書いておかなきゃ。
「ところでアスカちゃんは弓なんてどこで手に入れたの?」
こうして私はキノコやマジックバッグの知識と引き換えに、弓について追及されたのだった。ちなみに食用キノコのすゝめはこのあとも暇な時に読んで、ちょっとは頭に知識を入れられた。