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冒険者心得初級編

 冒険に出発する日が決まったところで、ジャネットさんから話があった。


「ところでノヴァとリュートのステータスはどのくらいだい? まあ、見せたくないなら別にいいけどね」


「構いませんよ」


 そう言って二人ともステータスを見せてくれた。


 名前:ノヴァ

 年齢:15歳

 職業:冒険者Eランク

 HP:170/170

 MP:30/30

 腕力:58

 体力:52

 速さ:68

 器用さ:37

 魔力:19

 運:23

 スキル:剣術LV2、格闘術LV1


 名前:リュート

 年齢:15歳

 職業:冒険者Eランク

 HP:146/146

 MP:80/80

 腕力:43

 体力:49

 速さ:72

 器用さ:53

 魔力:46

 運:34

 スキル:短剣LV2、当的LV1、調理LV1、風魔法LV1


「ああ、うん、まあこの時は大体こんなものだよな」


 予想通りといった感じでジャネットさんが感想を述べる。


「リュートって調理スキル持ってるんだね」


「一応、院長先生の手伝いとかしてたから……」


「ノヴァは体つきがいいから、もっと力を付けた方がいい。リュートは魔力がそこそこあるし、それを生かした戦い方を覚えないといけないねぇ」


「そ、そうか……」


「というのも二人はスキルがあたしらと被ってるんだよ。教えるのはいいけど、前衛はともかく弓も使えない中衛が増えてもね」


「でも、僕は使える魔法もアスカと被るんですけど……」


「なら補助の魔法を覚えればいい。風魔法は補助も多くあるから便利だよ」


「そうそう、町との往復も一気にできて便利だよ」


 ちょっと目立っちゃうけど、体力も温存できるし。


「まあ、フィアルの奴もそうそう冒険にはいけないから、リュートはその代わりをできるだけのスキルが必要だね」


「ど、どれくらいですか?」


「投擲、短剣、調理、索敵、解体ぐらいかね。スキルとして身につかなくてもこれぐらいは欲しいね」


「多い……」


 リュートは顔を引きつらせている。確かに多いもんね。じゃあ、私も頑張って何かに挑戦してみよう。


「だ、大丈夫。私も調理は取るから」


「アスカは解体には興味ないのか?」


「ノヴァ、あんたアスカが笑顔でオークを解体してるところを見たいかい?」


「あっ、いいやアスカは」


「なんで? まあ、ちょっと遠慮したいのは確かだけど」


「だけど、ノヴァも基礎は知っておいた方がいいよ。短剣じゃ大物の解体は難しいから、剣で必要な形に切るところは覚えておくといい。あたしでさえそこは押さえてるからね」


「ああ……」


「どうしたのノヴァ。さっきからボケッとして?」


 いつもは元気なノヴァだけど、ジャネットさんの言葉を聞き始めてからぼーっとしているように見える。


「いや、今まで俺たち生きるのに精いっぱいでここまで来ただろ? こんな風にこれからのことを考えるなんてことなかったからな」


「そういえばそうかもね。僕も短剣だけじゃなくて何か使ってみようかな?」


「でも何にするんだ? 鞭とかか」


「鞭はねぇ。対人ならともかく魔物相手には相性が大き過ぎるね。それなら槍の方がましかもね。高いけどいいのがあるよ」


 ノヴァの意見に渋い顔をして答えるジャネットさん。冒険者としてメインの武器はオールマイティに使えるのが一番良いらしい。

 その観点から言うと、中型以上の魔物に効きにくくなる鞭はあまり良くないんだって。


「どんなのですか?」


「魔力投擲槍って魔槍さ。魔力を込めれば、属性の魔力弾が発射されるし、近距離用の槍としても使える。どう転ぶか判らないけど、リュートは魔力もそこそこあるんだから、伸びればそういうのもありかもね」


「そんなものが……」


 輝いた眼でリュートがジャネットさんの方を見ている。


「ただし! めちゃくちゃ高いよ」


「いくらぐらいですか?」


「最低でもこれぐらいかね」


 そう言ってジャネットさんが指を二本見せる。


「金貨二枚かぁ」


 そう呟くとお金の勘定を始めるリュート。しかし、ジャネットさんはそれを打ち砕く一言を言い放った。


「何言ってんだい。実用的な魔槍だよ。二十枚だよ」


「高い……」


「それでもこれからCランク、Bランクを目指すなら必要だよ。あたしは魔法がほぼ使えないからメインは普通の剣だけど、それでも銀合金製で金貨五枚はしたんだよ。それだって定期的にメンテナンスへ出すし、最悪は買い替えだってある、必要な支出さ。それで自分に個性がついて売り込みできるんならね」


 実際、Cランク冒険者として活動しているジャネットさんの言葉だけに説得力がある。


「そうだな。俺も話を聞いただけでもすごい武器だって思うぜ」


「じゃあ、明日からまたお金を貯めないと……」


「まあ、焦らずにまずは防具からだね。アスカがいるうちにまずは甘えて、身を守って安定的に稼げるようにしないとね。それから武器を買って恩返しすればいいんだよ」


「それだとアスカに迷惑がかかっちゃいますよ」


「私は別にいいよ。一緒に冒険する時、その方が安全なら」


 そもそも私の目的は旅を安全にすることだ。この町にしばらくいるのも、この世界の常識と力を蓄えるためなんだから。二人にも安全な冒険をしてほしい。


「でも、アスカもそんなローブ姿じゃなくて内か外にレザーでいいから、胸当て以外にも付けとかないといつか大怪我するよ」


「ええ、でも魔法使いってこういう格好なんじゃ……」


 冒険者としての正装に近い感じだと思うんだけどな。私は自分の格好を見ながらそう答えた。


「どこの魔法使いだよ。出てくる魔物に対してきちんとしたものを装備しないと駄目だってことだ。まあ、もうしばらくは大丈夫だと思うけどね。でも、回復魔法は使えないんだろ?」


「あっ、そういえばジャネットさんに聞きたかったんですけど、回復魔法って水属性しか使えないんですか?」


「はあ? それこそどこ情報だい。ちゃんと各属性にあるよ。使いこなせる奴とそうでない奴がいるけどな」


 よかった。これで水属性や聖属性を持たなくても回復魔法が使えそうだ。


「本当にアスカは知識が偏ってるね。ちょっとこれから本屋に行くよ。あんたたちも付いてきな」


「お、俺たちも?」


「ああ、冒険者として必ず知っておかないといけない知識が、どうにもないみたいだからね」


「じゃあ、お願いします」


「それじゃあ、早速行くか」


 私たちは宿を出て本屋に向かう。目的の本は初級魔法書だ。魔法の基本的なことと、属性についても載っている。ジャネットさんはそんなに高い本でもないと言っていたので大丈夫だろう。



「婆さんいるかい?」


「おや、ジャネットか? どうしたんじゃ」


「初級の魔法書を二冊くれないかと思ってね」


「それは一冊、銀貨一枚じゃな」


「えぇぇ、そんなにするのかよ!」


「何じゃこいつは? 失礼な奴じゃな。適正な価格じゃぞ?」


「ご、ごめんなさい。ノヴァ謝って!」


「なんでだよ。いいじゃんか別に高いと思っただけなんだからさ」


「謝りなノヴァ」


「……ちぇ、悪かったよ」


 ちょっとふてくされながら謝るノヴァ。ノヴァは高いって言うけど、紙がそもそも高いんだからしょうがないと思うけどね。


「生意気な小僧じゃ。お前には今後売ってやらんぞ」


「今日は俺のじゃないし別にいいよ」


「これからもじゃ。別に冒険者の一人ぐらいいなくとも店はつぶれんわい」


「ごめんなさい」


 さすがに今後のことを思って今度は素直に謝るノヴァ。


「ふむ、まあ今回はいいじゃろ」


「済まないね」


「いいや、それじゃあ銀貨二枚だよ」


「はい、おばあさん」


「おや、お前さんは……あの本は役に立ったかの?」


「はい、おかげでいいものが作れました」


「そうかそうか。また来なさい。予算さえあれば色々あるでな」


「よろしくお願いします」


 私は銀貨二枚を渡して本を受け取る。


「ほっほっほっ。これは王都の魔法学院でも使われている由緒ある本じゃぞ」


「それって横流しなんじゃ……」


「再利用じゃ。ただあまり人前で見せんようにな」


 リュートのツッコミに間髪入れず答えるおばあさん。どうやらあまりいいルートではないらしい。


「分かりました」


 じゃあ、また来ますと言って店を後にする。


「ノヴァ! あんたはもう少し店との対話から学ぶべきだね」


「なんでだよジャネット。別に俺は思ったことを言っただけだぜ? 本だってそんなに読まねーと思うし」


「それは今の話だろ。解体だってやり方は本を見ないと分かりにくいところもあるし、一緒に来てるやつが買えなくなったらどうするんだい? 今のは本屋だけど、鍛冶屋でそれをやって生きて行けるのか?」


「……悪かったよ」


「今回は婆さんが引っ込んでくれたけど、同じことはしなさんな」


「ふふっ、いい先輩ができてよかったね、ノヴァ!」


「うるさい」


 そんな感じでみんなと一緒に話していた私だったけど……。


「そういうアスカはこっちに来てよかったのかい?」


「ああっ、そういえば洗濯物が途中でした! リュート、これ本ね。今日は二人とも来てくれてありがとう!」


 急いで本を渡して宿に引き返す。



「あれ、おねえちゃん早かったね。遊びに行ったんじゃないの?」


「ちょっと、買いたいものがあったからそれだけだよ。それよりごめん、すぐに洗濯の続きやるから」


「あっ、それは別に……あ~あ、行っちゃった。別に今日でなくてもいいのに」


 ばたばたと荷物を部屋に置いて、食堂横から井戸へ出る。さあさあ続きだ。


「いちま~い、にま~い、さんま~い、ちゃんとたりてる~」


 即席のシーツの歌を歌いながら手洗いを続ける。やっぱり手洗いは時間がかかるから、ちょっとこういう気の抜ける時間が出来ちゃうんだよね。普段は三十分ぐらい手洗いで後は魔法を使うから気にしたことないけど。


「今が十五時過ぎだから、後二時間ぐらいか……間に合わせないとね」


 ちらりと隣を見ると、まだ二十枚近く残っている。乾燥にはそんなに時間がかからないから洗う時間だけだ。気合入れていこう!



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― 新着の感想 ―
そうして、本代をアスカ持ちにしたことに気付かない三人
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