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パーティーコイン完成

 私はパーティーバッヂを作る材料を調達に、宿を出て細工物のおじさんの店に向かう。


「おじさ~ん、いる~?」


「何だ。もう次ができたのか?」


 おじさんにこの間、細工を渡したらいたく気に入ってくれて、銀貨五枚で買い取ってもらった。割といい稼ぎになりそうだけど、残念ながら今日は別件だ。


「違うの。ちょっと別で作りたいものがあるから、銀の塊を小さいのが一つと大きめのを一つください」


「じゃあ、小さいのが銀貨三枚。大きい方が金貨一枚だ」


「うぇ、結構するなぁ」


「そりゃそうだ。お前さんは細工だが、剣とかにも使うんだぞ?」


「あっ、そうですよね」


 軽く雑談をしてをしておじさんと別れる。さあ、ここからが腕の見せ所だ。宿に戻って荷物を片付けたら、ワンピースに着替えてと。


「これは大事なパーティーの証なんだから全力で行こう!」


 まずはデザイン。一応考えてるのはコインのようなもの。上部にチェーンを通せば、裏と表でデザインが二種類作れる。万が一、気に入らないデザインでもどちらかは使ってもらえるだろう。


「片方はどうしようかな? 冒険者らしいものか……」


 考えを巡らせていると冒険者ギルドの紋章が思い浮かんだ。そうだ!


「一つ目はみんなの武器を詰め合わせたものにしよう。剣が二本と弓が一つに短剣が一本と杖が一本か。並んでるだけじゃ面白くないから、やっぱり交差してる方がいいよね。だけど、結構大変そう……」


 絵に起こしても中心が武器で重なり合ってぐちゃぐちゃになってしまう。


「う~ん、せめてもう少し交差が少なければな~。やっぱり別々かなぁ」


 唸りながら何かいい手がないか考える。時間もあまりないし、一度それぞれを描いてみる。


「これがどうやったらうまくいくかなんだよね。重ねようとするとやっぱり……」


 う〜ん、一度描いた絵を切り抜いて置いてみよう。それなら立体的になって描けるかも。はさみは持っていないので、細工道具で切っていく。左側には剣と弓、右側には杖と剣を交差させ、最後に中央上から短剣が下りてくるという形にした。


「あとはこれで作っていくんだけど……やっぱりここまで来たらこだわりたいよね」


 私は魔力を解放して作業に入る。まずは小さいコインを作るところからだ。厚みもないので簡単にひな形ができる。上部には穴を空けてチェーン用の場所を確保。ここからが細工師の腕の見せ所だ。

 その人の使う武器が必ず中央に来るよう順番に武器を彫っていく。そして、その武器だけを縁取りして、目立つようにする。こうすれば同じパーティーの人でも誰のものか一目瞭然だ。


「あったまいい~」


 片側のデザインを五枚とも彫り終えた。後はもう片側だけど、これはパーティー名とは少し違うんだけど、フロートの浮くからふわっと風の流れるイメージを連想して天使の翼を描く。天使がこの世界にいるかは知らないけどね。これでジャネットさんにもおしゃれを楽しんでもらえる。


「それじゃあ、裏側も……」


 集中して作業を行い、無事に両面ができたので後はチェーンのところだ。


「普通のネックレスみたいに首のところで取り外したいんだけど、冒険者だし丈夫な方がいいよね」


 頭からかけられるように、残った塊からチェーンを作り出す。ちょっとねじった感じでチェーンを作るとして、長さはどれぐらいかな? 自分を基準に体格に合わせて少し余裕を持たせる。


「とりあえず、私のサイズのが一つ。ジャネットさんはちょっと大きめで、リュートとノヴァは同じ長さでいいよね。フィアルさんはみんなより背が高いし、長めだね」


 最後にチェーンの頭をコインの穴に通してコンッと衝撃を加え、開いている端のチェーンを閉じれば完成。


「よし、できた! パーティーバッヂというよりパーティーコインだね」


 最後に銀は魔力が通りやすいと本に書いてあったので、横一列に並べる。


「アラシェル様、アラシェル様、私たちのパーティーにご加護を……。できれば私の魔力でみんなを守る力をお与えください」


 祈っていると一瞬光ったような気がした。でも、目を閉じていたから気のせいかも? 何にせよこれで完成だ。明日はお披露目してみんなに配ろう。

 ついでだから、おじさんの依頼のデザインも少し作っておこうかな?


「手元にあるのは前に見たベル草のデザイン。ベル草を描いて長さを短く、ベルの部分が外に来るようにして、裏側にはひもを通せる作りでと。完成~! ベル草の髪留め。リボンやひもを通して髪を束ねられるし、紐の色でアレンジ可能。私も欲しいからちょっと数を作ろう」


 そして私は夢中で作り続け、十個出来上がってからふと気づいた。


「これって売れなかったら代金は私持ちになるのかな……」


 この世界は一点物が普通だから結構やばいかも。何か考えないといけない。そうだ! 銀一色で飾りっ気が無いし、ベルのところを抉ってここに好きな宝石を組み込めるようにしよう。これならいけるでしょ。

 こうして夜は更けていくのだった。



「ふぅ、結構昨日は頑張っちゃったから、今日はちょっとゆっくりしようかな」


 朝の仕事があるけど、それまではちょっとおやすみする。朝食もちょっとだけ贅沢して、洗濯の合間に取ろう。


「そうと決まれば。一服~」


 しばらくぶりのごろごろタイムだ。最近は宿の部屋の改修や冒険で疲れちゃったし。


「こういう時に余裕のある自営業っていいよね」


 働きたい時に働き、休みたい時に休みが取れる。こんな生活なんて前は思い浮かばなかったな。


「まあ、入院生活は休み休み休みって感じで、逆に退屈だったけどね」


 特に気を紛らわせるのが最初は大変だった。本を読むのも同じ本になってきたし、ペンを取って絵を描き始めてから、少しは時間がうまく使えるようになったけど。そんなことを考えながらゆったりしていると時間が来てしまった。


「あ~あ、さらば私の休憩タイム……」



「おはようございます」


「アスカちゃんおはよう。今日は遅いけどどうしたの?」


「あっ、ちょっとごろごろしたくて部屋でゆっくりしていました。朝食は仕事の途中に食べます」


「そう? 疲れているならお休みでもいいわよ?」


「今日はエステルさんもお休みだしいいですよ。それに、体調はばっちりです!」


「ならいいんだけど……」


 心配してくれるミーシャさんに返事をして、今日もシーツの回収だ。今日はエステルさんがお休みなので回収は一人だ。エレンちゃんはすでにお掃除に向かっている。

 最近ちょっと宿を休業することが多くて、シーツも結構ぎりぎりみたい。今日のうちに溜まってる分もやっちゃおう。


 「じゃぶじゃぶ〜」


 まずは一度目に回収したシーツを手洗い。最近は手洗いでも中々のスピードで洗えるようになってきた。もうすぐ病弱キャラを抜け出せそうだ。十枚ほどを洗い終え、いったん朝食を取るため休憩する。


「ライギルさん、すみません。こんな時間にご飯なんて」


「別にいいぞ。それに宿泊客の中にも普段からいるんだ。冒険者って依頼の後に飲むだろ? そういうやつは大抵次の朝はこれぐらいの時間なんだよ」


「そうなんですね。でも、それにしてはみんな早いですね。もっと寝るのかと……」


「そいつらも分かってるんだろうな。あんまり羽目を外すと次の依頼に行くのが遅れるって。余裕をもって生活できる冒険者なんてあんまりいないんだよ」


 なるほどなぁ。私も旅をすることになったら、お金がいっぱいあった方が良さそうだな。金貨五十枚……いや、百枚かな?


「それじゃあゆっくりしてていいぞ」


 朝食をライギルさんが置いていってくれる。スープもきちんと温めてくれたんだ。


「ん~、ちょっと働いた後のスープにパン! 美味しい~」


「あれ? おねえちゃん今日は遅い朝ごはんだね。お休み?」


「ううん。朝はゆっくりしてただけ。エレンちゃんはもういいの?」


「うん。廊下の掃除はばっちり、あとはおねえちゃんがやってくれてるシーツ回収の続きと、お部屋の掃除だね。最近ちょっと空き部屋の掃除まで行き届かなかったから」


「そうなんだ。頑張ってね! そういえば私は出られなかったけどパンの試食会どうだった?」


「えっ、ああ~うん。みんなのはそれなりにおいしかったよ、お父さんの以外は」


「ライギルさんのはダメだったの? 意外……」


「それが、また具材は魚だったんだけど、焼き加減を絶妙にしたって言うから楽しみにして食べたの。でもね、単体なら美味しい魚がパンにはさんだら、ちょっと生臭く感じて……」


「ああ~、ツナとかも味がついてるから大丈夫だけど、ただ焼いたのだったらそうなるかも」


「ツナ?」


「う~んとね、こう焼いたか蒸したかの魚の身をほぐして油にからめて保存する食品……なのかな? 特定の魚で作ってたはずだけど、私も料理人じゃないからそれぐらいしか分からないの」


「そうなんだ。今度話しとくね。そうそう、結局おねえちゃんのカツサンドは衣がうまく作れなくて再現できなかったよ」


「そっか、時間がある時にまた説明するよ」


 エレンちゃんは仕事に戻り、私も朝食を食べ終えて朝一に回収済みの残りのシーツを洗う。


「別に予定はないし、今日はできるところまで手で洗おう」


 これもいい冒険者になるためだ。そういえば最近は体力と腕力はついてきたけど残念ながら速さの伸びが悪い。


「風魔法で動いてもいいけど、フィアルさんみたいに素早く駆けるのもあこがれるよね~」


 そんなことを考えながら、一枚また一枚とシーツを洗っていく。すると第二弾をエレンちゃんが運んできた。


「おねえちゃ~ん、これよろしく! あれ? 今日は魔法使ってないの?」


「うん、これも修行と思ってね。残った分は午後にやるから」


「でも、それだと他の洗いものとかもあるし、乾かないよ?」


「大丈夫。そこは魔法でパパッと済ますから」


「それなら大丈夫だね。頑張ってね」


「は~い」


 それから、三十分ほどで作業を中断した私はお昼の接客のために食堂へと戻った。



「はい、こちらBセットですね。パンはどうしますか? 変更ですね。お待ちください」


「こちら、Cセットのパンです。エールの追加ですね。すぐ持ってきます。あっ、追加のお代は後ですので」


 今日も店は大賑わい。前回のパンの試作だけど、採用するにも定期的な食材の納品をしてもらう話が出来ず、ストップしているそうだ。キノコは意外にも汁気を抑えることができたのと、前世よりも更に身近な食材なのでみんな気に入るだろうとのこと。

 ちょっと高くなりそうだけど、人気商品になると嬉しいな。何よりエレンちゃんとエステルさんの監修だし。


「どこか空いてますか?」


「いらっしゃいませ! 少々お待ちください」


 案内しながらふと思う。そんなに席の多い食堂じゃないし、もう少し幅を広げて一人席を作ってもらったりした方がいいかも。大体が四人掛けで、テーブルがすぐに埋まるのも最近困る案件だ。冒険者なら多少の相席も融通してくれるんだけど、昼間は街の人が多いからなぁ。


「ああ、ここに連れて来ていいよ。アスカ」


 声をかけてくれたのはジャネットさんだ。確かにあのテーブルは一人だから相席してもらえると助かる。


「ありがとうございます、ジャネットさん。お二人ともこちらに……」


「あ、ああ……」


「はい」


 なんだか変な感じだけど何だろう? とりあえず今は他の注文を持って行かないと。


「では、注文のメニューが決まりましたらお呼びください」


 笑顔で対応しつつ、忙しさからほとんど目を合わせることなく、私はカウンターに戻っていった。



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分不相応な素材で作られて、そんなもんをつけてたら、変なやつに奪われるんじゃない? 木とかで作ればいいのに、わざわざ、銀なんかで作ったら
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