パーティーバッヂを作ろう!
「ただいま~」
「あっ、アスカおかえりなさ……い?」
「よう! 久し振りだなエステル」
「元気だった?」
「ノヴァにリュート! 二人とも大丈夫だったの? 院長先生から冒険者になったって聞いて心配してたのよ」
宿へ帰ると、ノヴァたちに声をかけられたエステルさんがびっくりしながらも返事する。その様子を見たミーシャさんもこちらへやってきた。
「あら、エステルちゃんの知り合い?」
「ミーシャさん。同じ孤児院の出身なんです」
「そうなの。じゃあ、ちょっと休憩していいわよ。久しぶりでしょ?」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、みんなこっちのテーブルに座りましょう」
私はカウンターに近い空きテーブルへみんなを案内する。
「エレンちゃ~ん!」
「どうしたのおねえちゃん? わわっ! 男連れだ~、それも二人も!」
「何言ってるのエレンちゃん。エステルさんの知り合いだよ。あとこれどうぞ」
私は森の探索時に見つけていたキノコを渡す。コークスキノコが四個にマファルキノコが七個、マールキノコ十個だ。
「こんなにたくさんいいの?」
「うん、代わりといっては何だけど、ライギルさんに今日か明日の夕食にキノコ料理をお願いって言っておいて」
「は~い」
「さっきの子はアスカの妹なの?」
「妹みたいなものかな? この町に来た時からずっとこの宿に泊まっていて、お手伝いしてたらいつの間にか呼ばれるようになったの」
「俺らみたいな感じだな。孤児院に来た奴も最初はみんなお前とか言ってるのに、だんだんそうやって呼ぶようになるんだよ」
「ノヴァはしばらく意地張っていたけど」
「なんだよエステル。別に昔のことだろ」
エステルさんが軽口を叩くなんて、本当に仲良しなんだな。幼馴染がいない私からするとちょっと羨ましい。
「そういえば、二人は何でアスカと一緒なの? 今日は一人で出かけるってアスカから聞いてたけど……」
「……」
私は心配かけちゃうし言ってもいいのかな? と思いリュートたちの方を見る。すると、リュートが話し始めた。
「それがね。ゴブリンに囲まれてるところをアスカに助けてもらったんだ」
「あなたたち、無理して危ないところへ行ったの!」
「ち、違う。ちょっと東側の森に入っただけだって。昨日も行ったし安全だと思ってたんだよ」
「ちゃんと話を聞かせて」
どうやら、三人は同い年だけどエステルさんが精神的にお姉さんのようだ。二人から事情を聴いてため息をつくエステルさん。
「はぁ~、ありがとうアスカ。あなたが居なかったらきっとこの二人は大怪我……ううん。死んじゃってたかもしれないわ」
「そ、そんな。私はただ危ないと思って魔法を放っただけなので」
「いいえ、パーティーだって怪我を負ったら、足手まといだと置いていく人もいると聞いたわ。何も関係ないあなたが助ける必要もないのに二人を助けてくれたんだもの」
「い、いえ」
何だかエステルさんにそう言われると恐縮しちゃうな。この人しっかりしてて、私から見てもお姉ちゃんって感じだから。
「話も弾んでるようね。新しいお客さんへのサービスです」
ミーシャさんがみんなの分のジュースを置いてくれる。
「いいんですか?」
「ええ、エステルちゃんのお友達だし、アスカちゃんにはお土産のお礼よ」
「ありがとうございます」
私たちがお礼を言うと、早速ノヴァが喉を鳴らしながらジュースを飲む。
「ん~、うめ~。宿代とかが気になって普段はこういうの我慢してたからな~」
「ノヴァっておじさん臭いね」
「は、はぁ? アスカそれはないだろ」
「そういえば初めて会ったにしては二人ともアスカと仲いいのね」
「助けてもらったあとも、薬草の取り方を教えてくれたりして、まるで院長先生みたいだったんだよ。それでかな?」
「げほっげほっ」
リュートの言葉に思わずむせる。先生って言われるようなことを言った記憶はないんだけど。
「おい、アスカ大丈夫か?」
「せ、先生って、私そんなに偉そうだった?」
「あ、いやそういうことじゃなくて、僕らが分からないこととか手を抜いているところを、きちんと理由を付けて教えてくれたから」
「ならよかった。知らない人と組むことも普段ないからちょっと心配だったの」
「謙虚な先生でよかったわね、二人とも」
「ああ、すごく感謝してるぜ。俺たちがあれだけの報酬を得られたのって初めてだし」
「そうなの?」
「ちょっと耳かせ……」
ノヴァがエステルさんの耳元で何か囁いている。何を言ってるんだろう?
「そっ、そんなに!? 二人ともすごいじゃない!」
「だろ? だけど、アスカはそれよりはるかに多いんだぜ!」
「あれを見たら、真似するのは難しいけど討伐中心より、今は採取中心の方がいいかもって思えたよね」
エステルさんの驚きと三人の会話の内容から採取依頼の報酬のことらしい。そんなに私は多いのかなぁ?
「だけど俺、採取苦手なんだよな。もっとかっこいい剣とかも欲しいけど、それだとアスカやリュートにばっかり行っちゃうじゃんか」
ため息をつきながらノヴァが愚痴をこぼす。まあ、見てる限りだと採取には向いてなさそうな性格だしね。
「それは努力しろってホルンさんも言ってたでしょ。剣の為と思って諦めようよ」
「あ、でも、アスカと一緒のパーティーならその間は採ってもらえばいいんじゃないか?」
ノヴァが名案を思いついたと口にする。
「えっ、練習しないの二人とも?」
「そうよ。迷惑かけてるだけじゃだめよ」
「だけどさ、報酬の合計額が下がっちゃうだろ?」
「でも、私じゃ採れない時とか、ずっと一緒にはいないんだから練習しといた方がいいよ」
今は一緒でも、私は旅に出る予定だしね。
「二人とも本当にアスカが女神みたいな子でよかったわね。自分の儲けよりあなたたちのスキルアップだなんて」
「エステルの言う通りなんだよね。僕らは装備も揃ってないから、パーティーに入れてもらったけど、アスカの魔法に頼りきりになりそうなんだ……」
「私も使ってるところを見たけどすごいわよね。魔法を自在に操ってるし」
エステルさんは褒めてくれるけど、あれは魔力操作のスキルがすごいのであって、私ではないんだけどなぁ。
「にしても、お前も良くここで働けたよな。こういうとこって審査が厳しいって聞いてたけどな」
「私がまだ半年経っても日雇いだって知って、院長先生が一緒についてきてくださったの」
「それでも今までかなりの人が断られてたでしょ?」
エステルさんってここに来るまでは日雇いだったんだ。孤児院を出ても就職は難しいって本当に大変だなぁ。
「そうね。この宿の人たちが優しい人だったからかな。アスカも色々世話を焼いてくれるしね」
「わっ、私ですか?」
「うん、シーツの取り換えに洗濯の仕方も、自分用に考えたやり方を色々教えてくれたでしょ?」
「だってこれから一緒に働くこともあるし、私は冒険者なので毎日働けないので代わりにと思って……」
別にエステルさんのためにやったわけじゃないんだけどな。
「ね。こういうところなのここは」
「そっか……よかったな」
「私はもう大丈夫だから、あなたたちも無理しないで。アールさんみたいになっちゃだめよ」
「アールさん?」
聞きなれない名前だけど誰なんだろう?
「アールさんていうのは一歳上の人で、去年に院を出た人なのよ。体格も良くて力もあったから迷わず冒険者になったんだけど……」
「ゴブリンとオークの集団にかち合ってそのままやられたらしいんだよ」
ノヴァが吐き捨てるように言う。リュートの方を見ても険しい表情だ。
「らしいっていうのは?」
「その時、五人のうちパーティーで帰ってきたのが三人。みんな中衛から後衛の人間だったんだ。前衛の二人が命がけで逃がしてくれたなんて言ってたけど、そんなの本当かどうか今となってはわからないよ」
「結成してまだ二か月のパーティーだったしな。だから、俺たちはそうならないように二人でやってたんだ」
「そうだったんだ。でも、だからって二人きりだとやっぱり危ないよ!」
事情は分かったけど、魔法も使えないし装備もない今の二人が魔物たちと戦うのは危険すぎる。
「ま、まあ、それは今日で分かったから、もう無茶はしないぜ」
無茶といえば……。
「私も回復魔法は使えないから、ポーションとかもちゃんと買っておいてね」
「あれ? アスカって回復魔法は使えないんだ」
「風属性だし。リュート、ひょっとして風魔法にも回復魔法ってあるの?」
冒険者冊子は生活魔法と初級魔法ぐらいしか載っていないから、ないのかと思ってた。
「僕はあるって聞いたんだけど……誰かに聞かないと分からないや。僕も魔法は詳しくないから」
「じゃあ、今度ジュールさんに聞いてみる」
「誰だか知らねぇけどそうした方が良いと思うぜ。あんなに魔法が使えるんだからな。にしても、折角パーティーに入ったんだからこう……証みたいなの欲しいよな」
「証?」
パーティーを証明する目印みたいなものかな?
「そういうのにばかり興味を持つんだからノヴァは」
装備もろくにないのにと続けるエステルさんだったけど、意外なところからノヴァへの援護が来た。
「だけど、僕も冒険者をやってるとちょっと憧れるかな。信頼してる仲間同士な感じがして」
「リュートまで……あなたがノヴァ寄りになったら誰がこいつを止めるのよ」
そう言いながら、エステルさんはノヴァの頭を軽く叩く。
「痛えな、エステル」
でも、証か……。アニメとか戦隊物で付けてるやつだよね。男の子ってそういうの好きそう! 二人ともまだまだ十五歳だし。なら、前世的にはお姉さんがいっちょやりますか!
「いいでしょう、私が作りますよ!」
「え?」
「ほ、ほんとか?」
「私、細工のスキル持ちだから、そういうのを作るのも自分のためになるし、それでみんなのやる気に繋がるなら作るよ。でも、デザインが変になっても怒らないでね?」
「あ、ああ、いい、作ってくれよ!」
「だけど、結構時間かかるよね。それに金属加工もできるの?」
「そこは魔道具で加工できるから、時間はかからないよ。……これから時間はあるし、明日の午後にまた来てくれる?」
私は窓から空を見上げて時間を探ると二人に返事をする。
「楽しみに待ってるな! じゃあ、今日は帰ろうぜリュート」
「えっ、もう?」
「だって、アスカの作業の邪魔になるだろ?」
「ちょ、ちょっと……」
ズルズルとリュートを引っ張る勢いで、ノヴァが店から出ていく。
「騒がしいのでごめんなさいアスカ。これからも二人をよろしくね」
「はい、二人ともいい子だし、エステルさんの知り合いならますます頑張ります」
「そこは別にいいんだけど……」
「あっ! 作るなら材料を買ってこないと。ちょっと出かけてきます」
「行ってらっしゃい」