番外編 女神さまたちの会話
ここはアルトレインの神界。アルトレインの神々が住まう場所だ。その一室で今、アラシェル・シェルレーネ・グリディア三柱による女神の会話が行われている。
「アラシェル様お久しぶりですわ。やはりすべての世界の転生を司るとあって、あまりこちらには来られないのですね」
「まあ、転生神ほど忙しい神もいないだろうね。私たちは一つの世界でその中の一つ二つを司る神だしな」
「確かに皆さんの言う通りですが、私はこの度こちらに住まうことができるようになったのです」
「ええっ!? どうされたのです。何かあったのですか?」
「まさか、首にでも……」
「あっ、いえ、そういうのではありませんよ」
ほっと二神は胸をなでおろす。
「私が転生させた少女が今こちらにいるのですが、その少女が私を信仰していて、なおかつそれ以外の者も私を認識したことで、こちらに分霊を送ることができるようになったのです」
「これまでアラシェル様はどこの世界にも分霊を持ちませんでしたが、アルトレインへ来られるのですね」
「ええ。今までも信仰する例はありましたが、名前だけでなく姿も他人に認識させ、信仰を得た例は初めてで、そのお陰でここへ来ることができるようになったのです」
「じゃあ、これからはこっちに分霊が住むのかい?」
「はい。これまでは皆様と立場が違いましたが、今後は立派にこの世界の神の一員です。これからよろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそアラシェル様のような高位の神に来ていただけるなんて……」
「シェルレーネ様、気にせずに接してください。分霊ですので、あまり大きな力も持ちませんし……」
「いやいや、これは他の神たちと一緒に歓迎しないとね。私たちよりはるかに長く存在している神様が加わるんだから」
「お手柔らかにお願いします。こういうことは初めてですから」
「ところで転生させたのはどんな少女ですか?」
「それはですね……」
私はアスカの姿を見せ、これまでの出来事を見せてゆく。ここでは時間の流れが人の世界とは違うので、多少の未来も過去も簡単に見ることができる。
「まあ、確かに美しくアラシェル様のお姿をとらえた像ですわね」
「一応言っておきますが、加護は与えないようにお願いします。彼女は平穏を望んでいますので」
流石にこれからは私もずっといることですし、こう言えば大丈夫でしょう。
「ああ。でも、こういう綺麗な神像ならアタシも作ってもらいたいね。割と荒っぽいのが多いんだよな」
「まあグリディアは荒々しさが戦士に受けて、わざと綺麗に彫らない神像も多いものね」
「そうなのですね。でも見てください、ほら!」
私が時間を少し進め、グリディア様の像が作られるところに時間を合わせる。
「おお! アタシの像だ!! 今までで一番綺麗かもしれない。それにこの装備はかっこいいな。今度ガンドル様に作ってもらおう」
「ガンドル様ですか?」
「ええ、鍛冶の神よ。確かに綺麗に細工された鎧と剣ね。これなら私の像もさぞ美しく作ってくれてるわよね~」
「あ……」
「ん? どうしたんだアラシェル様」
「実はその、シェルレーネ様の神像はまだなのです。彼女は信徒でもありませんし、教会からの依頼でもないと……」
「そ、そんな、私だけ……」
「まあまあ、気にすんなって。いつかお前も作ってもらえるだろ」
「そんなこと言って! 自分は次の依頼で二体+小さい像も作ってもらえるからって、いい気にならないでよね。こういうのは量より質なの。教会ならきっと素晴らしい依頼をしてくれるわ」
「ま、まあまあ、落ち着いてください。シェルレーネ様」
「そうだわ! 近くの町に巫女がいたわね。神託を使えばいいのよ! 私ってば冴えてるわ」
いい案が思いついたとシェルレーネ様は駆けていった。
「あ~あ、行っちまった。神託はもうちょっと大事に使うもんなんだけどなぁ」
「彼女は慈愛の女神ですよね。神託をよく使うのですか?」
「月に何度かは使ってるね。神託が多い神でも年に一度も使わないぐらいだけど……」
「やはり、一つの世界をすべて見て愛を説いて回るのは大変な仕事なのですね。私は転生を司る女神ですが、そちらは本体が対応するためこちらではすることがないのですよ」
「それもそれで大変だね。何か探したら?」
「良いのでしょうか? 私のような新参の女神が」
「なら、次の会議で話し合おうよ。きっとみんな賛成するよ」
「そうですか。では、その時のために神力を抑えるよう、少し姿を変えますね」
「へ? ああ」
「アラシェルちゃんモードオン!」
光に包まれ、先ほどの五分の一程度の大きさになる。これがアスカによってできるようになった、私の力を抑えた姿です。エネルギー消費は八分の一以下というエコモードですね。
「どうでしょうか、グリディア様?」
「か、かわいい、かわいいよ」
グリディアは小さくなった私を撫で回したり、抱きついたりしてくる。
「や、やめて、やめてください!」
「あっ、つい」
「この姿では力もほぼ使えないので加減して!」
「お、おう?」
「ちょっと口調も変わるけど、気にしないで」
「はいよ」
こうして私は分霊とはいえ、この世界の神として住まうことになったのだ。