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森の探索

 木箱やハンガーなどの加工作業もほとんど終わり、夕食を食べているとやはり一人増えたことを実感する。


「こんばんは。メニューをどうぞ!」


 エステルさんが夕食時にも働いていて、お客さんの方も慣れてきている。中にはエステルさんの対応目当てのような感じの人まで見受けられる。来てまだ数日だけど、一生懸命働いてくれて助かっているとみんなも言っていたし、長く働いてくれたら嬉しいな。


「孤児院でも料理していたことがあるって聞いたし、他もすぐに追い抜かれちゃうかも」


「ん~、おねえちゃんどうしたの?」


「ほら、エステルさんって料理もできるでしょ? 私はあんまりできないし、すぐに他でも抜かれちゃうなと思って」


「まあ、得意そうだしね~。でもあの洗濯の仕方は真似られないから大丈夫だよ!」


 それは褒められているのかなぁ。


「よう、アスカ! この前は部屋の改装ありがとな!」


「ジャネットさん! 使った感じはどうです?」


「ああ、すごくいいよ。場所も邪魔にならないし、服も適当に置いとくといつの間にか汚れてたりするしね。後はあの木箱もいいよ。アスカは知らないだろうけど、ここぐらいの金額のところだと机すらないところも結構あるんだよ」


「えっ、それだと本を読む時とかはどうするんですか?」


「そういうところは、本当に寝るだけだからね。エレン、パンの変更と肉系のを」


「ジャネットさん、肉料理の種類はこっちで選んでも大丈夫?」


「ああ。それでさ、バルドーの奴に自慢してやったんだよ」


「それ、聞きました。前に依頼された女神像を渡したら、俺の部屋にも作ってくれって言われて今作ってるところなんです」


「なんだよあいつ。そりゃよかったって、澄ました顔してたけど欲しかったんじゃないか」


「でも、私も使ってますけど、服がしまえるのいいですよね。色落ちとかほこりも防げますし」


「アスカはそういう理由なんだな。あたしはベッドの上が散らからないようになったよ。ちょっと引き出して入れるだけだからね」


「それなら、大きいのがいいですよね。取り替えます?」


「えっ、いいのか? でもなぁ……」


 私はジャネットさんに提案したけど、ジャネットさんは作るのに時間がかかると思っているのか、遠慮がちに返事をする。


「作るのにかかる時間が大体分かってきたんで、ライギルさんやミーシャさんと話をして少しずつ導入しようとしていたところなんです。材料もありますし、すぐにできますよ」


「本当かい? なら頼むよ~。服もバサッと入れちゃうもんだからさ、かさが高いと嬉しいね」


 う~ん、ジャネットさんも見た目かわいい感じなのにもったいないなぁ。それにバサッてちょっとやな予感がする。


「そうそう、折角だから服とかも乾かす前に綺麗に洗いませんか? 実はちょっと石鹸が余ってしまって……」


 余ってるところまでは本当だ。この前、ベルネスへ行ってお手入れ用に数個買ってきたのだ。匂いがきついのは好きじゃないので、汚れも落ちてすっきりした感じのを買ってある。


「悪いね。アスカは最近、どこかへ行ってるのかい?」


「いいえ。ちょっと前までは細工と宿の改修のお手伝いにと、割と忙しかったので。一度だけ採取には行きましたけど」


「そっか、あたしはいったん今日で依頼は終わって、明後日からゆっくりしてるから暇だったら声をかけな」


「あっ、はい」


「持ってきたよ。ジャネットさん!」


「エレン、ありがとな。それじゃまたなアスカ!」


「はい」


 ジャネットさんと別れた私は厨房にお邪魔する。


「お、どうしたアスカ?」


「ライギルさん、パンのアイデアなんですけど……」


「ああ、明日は冒険に行くから試作に付き合えないってやつだろ。気にするな」


「それもそうなんですけど、たくさん実の成ってた果物あったじゃないですか?」


「ジャミの実だな」


「そうです。時間があればなんですけど、あれを天日干しにしてもらえませんか?」


「天日干し?」


「あっ、お日様の元で干すんです」


「ああ、干し肉と一緒だな。適当なかごに入れて、一つずつに分けてだよな?」


「はい。後でやるより楽だと思います」


「分かったよ」


 ライギルさんにお願いをすると私は部屋に戻って加工の続きをする。ハンガーを作る作業が少し残っているのだ。サイズ違いも作るのでちょっとだけ時間が多くかかってしまう。だけど、せっかくの設備もサイズが合わなくて使われないのは悲しいからね。


「完成!」


 無事に作り終えると後は片付けだ。木くずはいつも通りにゴミ箱に、ただし大きめの切れ端はしばらく保管しておく。火種や何かの加工に使えるかもしれないからね。でも、ちょっと置いて使わないなら捨てないと。細工もこれからしていくなら、こういう切れ端はいくらでも貯まるだろうし。


「アラシェル様、今日も一日無事に過ごせました。明日も無事でありますように……」


 一日の最後にはアラシェル様に祈りをささげて眠る。




「ん~、いい朝~」


 カーテンを開けると今日は絶好の冒険日和だ。私はすぐに着替えて、食堂へ向かう。


「おはようございます!」


「おはようアスカちゃん。今日は早いわね」


「はい、久しぶりの冒険なので……」


「ふふっ、そうね。はい」


 ミーシャさんが朝食を置いてくれる。あれから毎朝の朝食は新しく作ったパンだ。店としては料金に差があるから前のパンも作っているけど、ライギルさんがそっちはすごくやる気なく作っている。


「ふぅ~」


 このパンになってから、食事の時間が楽しみだ。それじゃあ、お腹もいっぱいになったし出発だ。


「じゃあ、行ってきます」


「ちょっと待って、これ」


 ミーシャさんから包みを渡される。中身はパンだった。


「すぐ傷むこともないから持って行って」


「ありがとうございます」


 お礼を言って冒険者ギルドへ。



「ようこそ……ってアスカちゃん久し振り」


「ホルンさんお久し振りです」


「前はちょうど休みの時だったから、会うのは結構前になるわね」


「そうですね。でも、他の人に見てもらって勉強になりました!」


「そういえばアスカちゃんは私以外には見てもらったことなかったわね。戸惑ったんじゃない?」


「はい。でも色々と教えてもらいました」


「残念だけど、そっちが普通の対応になっちゃうから、今だけでもここで十分学んでいってね」


「はい!」


 ギルドにはいつもより早く行ったせいか、まだ人はまばらだ。とはいえ、気を抜くとすぐに人がなだれ込むけどね。


「で、今日はどうするの?」


「東側の採取を受けようと思うんですが、採れる薬草が分からなくて……」


「ああ、それなら基本的には気候も同じだから変わらないわ。ただ、少し進めばすぐに森があるから、ムーン草やルーン草は見つけやすい傾向にあるわね。もちろん魔物も多いけれど。後はそうねぇ……たまにキキノコとかベル草も見つかるわ。結構いい金額になるから見つけたら引き取るわよ?」


「ん~。じゃあ、ムーン草とルーン草の依頼を取ってきます」


 私は掲示板まで行き、二枚の依頼票を取ってくる。


「はい、確認しました。くれぐれも気を付けてね。それとカードを更新しておく?」


「お願いします」


 依頼の受付とカードの更新が行われる。


「それじゃあ行ってきます」


「頑張ってね」


 私は、いつものようにマジックバッグを借りて、町の東門へと向かう。



「すみません、通してください」


「ん、お前ひとりか?」


「はい」


「気を付けてな。あまり森の奥に進まないように」


「ありがとうございます」


 門番さんに通してもらって進んでいく。最初は草原のようなところだったけど、少し進めばもう森が見える。


「前は依頼票に大体の位置が書いてあったけど、今回はそういうのもないしどうしよう? ひとまず適当に進んで奥に入ろうかな?」


 森といっても、本当に入り口のところへ足を踏み入れた私は、まず最初に風の魔法を使う。


「ウィンドバリア」


 この魔法は風を周囲にまとわせて身を守る魔法だ。魔力操作のおかげで、強度を緩くしているためかなりの時間使うことができる。そして、私は森の入り口から五分ほど進んだところで、以前にジャネットさんたちと入った方とは反対側へ進んでいった。


「ちゃんと物を取る時はそこだけバリアに穴も空けられるようになったし、楽ちんでいいなぁ」


 今回は一人きりなので奥まで入る気もないし、短い時間で出てくるならばと思い使ってみたのだ。


「最初に宿の裏で使った時は板を吹き飛ばしたし、ちょっと苦労したんだよね」


 本当に人がいない時でよかった。それはそうと早速採取だ。


「さすがに手前の方はないかな? お、あれはリラ草だね。こっちにも生えてるんだ。何気に森で発見は初めてかな?」


 ちょっとキラッとしてるし品質もよさそう。今日は久しぶりにホルンさんに見てもらえるんだし頑張らないと! それから少しだけ奥に入る。


「今度はルーン草か……やっぱりこういうところは質がちょっといいみたい」


 こっちの森にも人が入るのかなと思ったけど、見た感じはみんな次の町や王都への商隊の護衛で街道付近にいるのか、それほど薬草が採られた感じはない。そんなことを考えていると、近くで草を分けるような音が響いた。


「なに!?」


 音がした方を警戒して、木の陰に隠れて様子を見る。すると、ゴブリンが六匹に冒険者が二人確認出来た。どうやら戦闘中のようだ。


「ちっ、雑魚のくせに!」


「後ろもいるよ!」


「ああ!」


 これって手伝った方がいいんだろうか? でも、勝手に倒して手柄を取るなとも冒険者冊子に書いてあったし……危ない!


「ウィンドカッター!」


 私は三本の刃を作り出すと、軽装の子に真後ろから切りかかろうとするゴブリンへ魔法を放つ。


《ギャ?》


 木を薙ぎ払いながら刃がゴブリンを切断し、我が身に起きたことも理解できずにゴブリンは倒れた。


「残りは三体……ウィンド!」


 私は二人の冒険者がゴブリンたちの注意を引いているうちに、鈍器のごとく固めた空気を一匹の頭へ当てる。


「もう一匹にとどめを!」


「あ、ああ」


 私の攻撃で戸惑うゴブリンに二人が素早く攻撃を仕掛けとどめを刺す。


「だ、大丈夫ですか?」


「こっちは大丈夫だ。助かったぜ!」


 剣を持っていた少年が手を差し出す。私は採取で汚れてるのを気にしてローブで軽く拭いて手を差し出す。


「汚れなんて気にしなくていいのに、それよりありがとな」


「いえ、お邪魔でなくてよかったです」


「とんでもない。僕は軽装なので大怪我になるところでした。治療院もポーションも高くて、最悪廃業でしたよ」


 笑顔で言うもう一人の男の子。だ、大丈夫かな。笑えないんだけど……。


「それはそうとお前は一人で何してたんだ?」


「私は採取をしてたところなんです」


「採取? 一人でか」


「そうですけど……」


「助けてもらっておいてなんですけど、危なくないですか?」


「危険になったら風の魔法で逃げられるので大丈夫ですよ。そうだ! ゴブリンたちを埋めておかないと!」


 私はゴブリンに近づいて魔法で穴を掘って埋めていく。


「あっ、何か必要な素材とかありますか?」


「ないです。埋めるのまでやってもらってすみません。僕らの装備はこんなだから、そこまで手が回らないんです。よくないとは思ってるんですけど……」


「だったら、もう少し街道を外れて森に入ったところへ行く方がいいですよ。ここだと街道に近すぎて最悪、後で調べられて通報されますよ。ただ、危険も付きまといますけど」


 こういう主要な街道の近くで魔物の死体放棄をすると、魔物が街道にやってきてしまうから後でペナルティが付く場合もあるとホルンさんから前に注意を受けた。常習だと罰金だけでなく、最悪は領主様に捕まることもあるらしい。


「確かにそうだな。でも小さいのにお前強いな。Dランクか?」


「まだ、Eランクです。それも冒険者に最近なったばかりです」


「Eランクなら僕らと同じだね。僕らは半年前から冒険者になったんだけど」


「そうなんですか? 私は三十日ほど前かなぁ」


 二人は装備も揃ってないみたいだし、Dランクへの昇格試験はまだなのかな? ちょっと失礼かもしれないけど、冒険者になった日を聞いてそんなことを私は考えた。


「本当につい最近だな。歳は?」


「十三歳です」


「僕らは十五歳だよ。そうそう、まだ名乗ってなかったよね。僕がリュートで彼がノヴァだよ」


「よろしくな。そんなに歳も変わらないし敬語とかはいらないぜ!」


「それなら、リュートとノヴァだね。私はアスカ、二人は何の依頼中なの?」


「僕らはゴブリンの討伐依頼中だったんだ。二人だけだとまだちょっと早かったかもね」


「確かにな。まさか、いきなり六匹に囲まれるなんて思わなかった」


「最初は三匹いるのを見つけてついていったんだ。それでちょっと開けてるここで倒そうと思ったんだけど……」


 三匹で動いて……確か前にジャネットさんと来た時もそうやって動いてたよね。


「多分それがゴブリンの基本の動き方なんだと思う」


「え?」


「この前、パーティーで来た時も三匹ずつで何組かに分かれて歩いていたから少なくとも六匹、多い時は十二匹ぐらいが集まってくると思っていた方がいいのかも」


「げ、そんなに来たんじゃ俺たちじゃ無理だな」


 ノヴァがげんなりした顔で答える。まあ、二人だけだと周りは全部敵になっちゃうもんね。


「アスカは冷静だったけど、討伐依頼も結構こなしてるの?」


「違うよ。ただ採取中に襲われたり、この前はオークとも戦ったりしたからそこまで怖くないだけ。でも、数でいったらゴブリンの方が怖いかも」


「どうして?」


「オークはこん棒と剣を持っているのしか知らないけど、ゴブリンは弓とか色々な道具を持ってたから。それにパーティーみたいに襲ってくるし」


 やっぱり世の中、パーティーアタックが強いと思うのだ。


「あ~確かに。僕らみたいな軽装だとつらいよね」


「それにしても二人はまだ若いのに冒険者なんだね」


「自分だって若いだろ。まあ、俺たちは孤児だからな。もう十五歳になったから孤児院の世話にもなれないし、冒険者になるのが手っ取り早かったんだよ」


「えっ⁉ じゃあひょっとして、エステルさんと一緒の孤児院出身なの?」


「エステルを知ってんのか? あいつどこで働いてるんだ。まだ仕事が見つからないって困ってたのに」


「鳥の巣って宿屋だよ。私もそこで働かせてもらってるの」


 私はエステルさんの知り合いだと聞いて、本当に助けてよかったなと思った。別に知り合いじゃなくても助けるけど、あんなに頑張ってくれてる人の知り合いだからいい人だろうし。


「じゃあ、アスカってあそこの宿のん人なんだ。みんなが最近よく噂してる」


「噂?」


「うん。冒険者にも優しく丁寧に接してくれるって最近街で評判なんだよ」


 なにそれ恥ずかしいな。


「でも、本当に冒険者だったんだ。みんないつ見ても宿にいるから、単に休みの日に町の西側でリラ草でも取ってるんだろうって言ってたんだよ。あっちは町側ならまず魔物とも出遭わないし」


「そう言われる覚えはあるけど、納得はしたくない」


 実際にはもっと向こうまで行ってるしね。それにパーティーだって組んで、依頼をこなしたこともあるんだから。


「そうだね。Dランクの人に付いて行ったことあるけど、アスカの魔法も同じぐらい威力があったよ」


「後、穴を掘るのに風魔法を使うのは初めて見たぜ。土魔法使いがやるのは見たことあるけどな」


「まあ、属性なんて都合よく持ってないからね」


 そう、私も持ってない。持っていないのだ。


「それは言えてるかも。僕らも少しは魔力があるんだけど、使い方もよくわからないから結局、剣とナイフなんだよ」


「じゃあ、大変だね」


「でも、エステルの仕事が決まって良かったぜ。俺たちは孤児院を出ればつらいからな」


「どうして? 孤児院にいる間とは違うの?」


 簡単に思いつくのは部屋代がかかることぐらいだけど、他にもそこまで変わるのかな?


「孤児院にいる間に問題を起こしても最悪、院長が話をしてくれるけど、院を出ちゃったら何をするか分からないって思われてるんだよ。実際にそういう人がいたからなんだけどね。だから、いる間より出た後が大変なんだ」


 身元保証人がいなくなっちゃうわけか……。それは大変そうだ。お金だってないから信用してもらうしかないもんね。


「じゃあ、エステルさんってうちに来なかったらどうしてたの?」


「その日だけの仕事とか、最悪はどこかの家で愛人として過ごすとかそういう子も何人か聞いた」


「それは……」


 何とも嫌な話だ。だけど、道を歩いていても魔物に遭うこの世界だと、それが当たり前なのかなぁ。


「そういえばずっと話してるけど、ノヴァたちは討伐依頼しなくていいの?」


「してぇけど、これ以上のゴブリン狩りは今の俺たちには危険かもな」


「幸い、討伐目標の五匹は達成だからいいけど、どうするノヴァ?」


「だけど、これで帰っても報酬は知れてるんだよな」


 確かにゴブリンは素材もないし、持ち帰れそうなのはあの刃こぼれした剣だけだ。売っても宿代になるかどうかだろう。


「なら、一緒に薬草探さない?」


「えっ、いいのか。お前の依頼だろ?」


「それに依頼達成の邪魔になるよね。さすがに悪いよ」


「なら、見つけた人が半分、それ以外の人はその半分を分けるって形で採取するのはどうかな? それならいいでしょ。三人の方が魔物にも対処しやすいし、採取依頼なら帰ってからでも依頼票を取れるし」


「……確かにそうだな。リュートはいいか?」


「どの道、金欠だから仕方ないね。じゃあ、アスカお願い」


「よろしくね!」


 改めて二人と握手して一緒に歩き出す。先頭はノヴァ、続いて私、最後にリュートだ。三人でさっきのところから二十メートルほど進み、その後は街道沿いに進む。


「どうだ?」


「ちょっと待って……右のちょっと奥」


「あそこって木の枝が落ちてるだけだよ?」


「枝が被さってるのに下には緑が生い茂ってるから、きっと生えてると思う」


 一緒に近づいて枝を優しくどける。思った通り、品質のいいムーン草だ。それも、今まで見つからなかったみたいで目算で五十本はありそうだ。


「じゃあ、まずは私が採るからよく見ておいてね」


 優しく丁寧に茎に爪を入れて採る。採取ナイフがやっぱり欲しいな。そんなことを考えながら、二十本を採った。


「じゃあ交代だね」


 警戒係を代わり、次はリュートだ。見様見真似だけど私の採り方にちょっと近い。リュートが十本採って次はノヴァだ。


 ブチッ


「ちょ、ちょっとノヴァ。もうちょっと優しく採らないと傷んじゃう!」


「えっ!? そんなの一緒だろ?」


「ちゃんと見といてって言ったでしょ。こんな感じで採るの」


「お、おう」


 二本目からはぎこちないながらも、まだましになり採っていく。


「よし、残りも採るか……」


「だ、だめっ!」


「今度は何だよアスカ」


「全部採ったら残らなくなるからちゃんと少しずつ残すの。そうすれば、時間が経ったらまた採れるから」


「でも、次来た時に誰かに採られてたら勿体ないだろ?」


 うう~ん、それはそうなんだけど、どう言ったらノヴァは理解してくれるかな。私がそう考えていると、リュートがノヴァに話しかけた。


「ノヴァ、孤児院の裏で野菜育ててたでしょ」


「こんな時になんだよ。リュート」


「いいから聞いて。あの野菜を全部食べて種もなくなったら、僕らの次の子たちが何も食べられなくなるけど、ノヴァはそれでいいの?」


「……分かったよ。でもアスカ、お前ずっとこんなことしてんのか? 稼ぎが減るだろ」


「ここは他の人もあまり来ないだろうから。森の入り口とかは全部採るよ。どうせ誰かがいつか採っちゃうし、踏まれて採れなくなるのはもったいないしね」


「ちっさいのに色々考えてんだなぁ」


「ひどい! せっかく教えてあげたのに!」


「ごめんねアスカ。ノヴァはこういう感じだから」


 採取後はもう一度枝を被せて、また別の場所へ探しに向かう。それにしても他の人と一緒に冒険ができて楽しいな。やっぱり歳が近いということも関係してると思う。



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― 新着の感想 ―
リュートはわりと真面目で慎重そうだけど、ノヴァが危なっかしいな… 調子に乗って単独で森の奥へ行って死ななければいいけど
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