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初めての依頼

「依頼を受けたはいいけど、どこに行けばいいんだろう?」


 改めてもう一度依頼票を見てみる。すると依頼のところにリラ草十本以上/採取候補地アルバ西草原と書いてあった。


「なるほど。採取依頼は取れる場所も書いてあるんだ。他の場所にもあるとは思うけど、とりあえず行ってみよう」


 町に入る時に通った門の前まで行き、改めて案内図を見る。


「へ~、この町は東西に門があるんだ。じゃあ、明日は東側に行こうかな?」


「お嬢ちゃん、東側には行かない方がいいぜ」


 声をかけられて振り返ると昨日の門番さんが門の前にいた。


「あ、こんにちは。東って危ないんですか?」


「この辺はまだ安全な方だがな。西側は魔物の目撃情報も少ないが、東側はちょっと多いんだ。それに東側は王都への街道にもなってるから、森から盗賊が出ることもあるんだよ。どっちにしろ森まで行かなきゃ問題ないけどな」


「門番さん、西に立ってるのに東のことにも詳しいんですね」


「ああ、町に来たばっかりだったな。この町の門番は週交代で東と西が変わるんだよ。だから、どっちのことも詳しいんだ」


「そうなんですね。ありがとうございます」


「ここに来たってことは採取か何かの依頼だろ? 森まで行かないように注意しろよ」


「はい、気をつけます。じゃあこれ」


 私は身分証の冒険者カードを見せて門を出ていく。いざ、依頼開始だ。




「でも、草原のどこにあるんだろ? 昨日、目覚めた辺りまでは遠いし、ちょっと奥まで行けばいいのかな?」


 森までは安全って言われたし大丈夫だろう。そう思って三十分ほど歩き続ける。


「やっぱり街道は歩きやすいな。でも、そろそろ薬草を探さないと。覚えはないけど記憶だとどうだったかな」


 う~んと首をひねって薬草のありかを思い出す。昨日冊子で絵を確認したから、どの薬草がどれか判っているので、あとは記憶から引っ張り出すだけ。

 リラ草リラ草……草原に生えている。小さいつぼみから白い花をつけるが、花は有毒でつぼみを付けるまでに採取した方がいい。


「え~と、これかな? 念のため冊子で確認して……」


 私は見つけた薬草を見ながら冊子を取りだし確認する。うん、間違いない! 一本目確認だ。でも、摘むのってどうやったらいいんだろ。勢いよくやるのがいいのかな? それともゆっくり? 両方試してみようかな。後で渡す時に受付のお姉さんに鑑定してもらえばいいし。

 でも、袋に入れたら見分けつかなくなっちゃうな。そうだ! 片方は根元をちょっとだけ折ることにしよう。そうと決まれば一本目GETだ!


「さて、後は同じように探さないと……」


 他の人と被らないようにちょっと離れたところまで来たから、周りに人はいない。森からはちょっと距離があるけど、そこそこ近くまで来たので普通はあんまりここまで来ないみたいだ。


「よしよし二十四本目~。順調順調」


 あれから一時間半ほど辺りを見回して依頼の本数は採り終えている。ここまで来たら他の薬草も探していこう。


「でも、この辺だともう見つからなさそうだし、もうちょっと奥に行こう」


 再び私は三十分ほど奥へと向かう。しかし、体力のない私はそこでちょっと疲れたので休憩を取ることにした。


「本当に体力ないなぁ。少しずつつけなきゃね」


 そう思いながら、街を出る時に買っていたパンと水を昼ごはんにする。ひもじいけどまだまだ儲けのない私にとっては我慢すべきところだ。景色を見ながら食べていると気になる草があった。


「あれってルーン草?」


 食事もそこそこにまた冊子を取りだし確認する。森というより林の入り口近くに生えていたのは紛れもなくルーン草だ。ちょっと触ると、とても柔らかい薬草のようだ。


「こういう草を一気に引き抜くのはやっぱりまずいよね。そーっと、そーっと」


 そして、ルーン草をマジックバッグにしまう。よく見るとちょっと奥にもまだあるようだ。でも、数が少ないから注意して取らないと。


「他の人に見つからないように、入り口近くは全部取って奥の方は間引く感じで……」


 追加で合計十三本のルーン草を取ることができた。だけど、林はちょっと薄暗いし不気味な感じもするのでこれ以上は入らないでおこう。


「思いもよらない収入になったかな? じゃあ、本題にかかろう」


 林から出た私は当初の予定通り、さらにリラ草を集めていく。この辺はさっきのところよりも多く生えているようで一時間で二十八本も見つかった。



「この調子でいくと結構取れ高も良さそうだし、ちょっと他の薬草も探そうかな?」


 私が目を向けたのはムーン草だ。記憶によれば群生地は森の入り口から森の中で、闇夜に光る性質を持っているけど、日中でも見分けはできるので採れないこともない。それに、夜は魔物も出やすいので採るなら実は日中なのだ。


「でも、ここから森ってまだ二時間ぐらいあるよね……」


 昨日の森からはまだ離れているし、私の体力のなさから行くと、帰りは夜になりそうだ。他にどこかないかなと辺りを見渡すと、奥に背の高い木が生えている林が見えた。このぐらいの林なら生えているかも……。新たな目標(薬草)に向かって私は歩き出した。



「ここら辺から背が高いみたい。木の根元付近に生えるはずだから調べながら行こう」


 私は木の根元を確かめながら進んでいく。途中キノコが生えていたのでそれも適当に失敬する。毒キノコ? へ~きへ~き! なんといってもこの世界には鑑定持ちの人がいるから。


「ムーン草や~い」


 一人きりで何かしゃべっていないと落ち着かない私は、そんな謎の言葉をつぶやきながら先に進んでいた。進むといっても一株ずつ見ていくので、それほど先へは進んでいない。まだまだ入り口も見えるし……。


 ガサガサ


「ん? 動物か何かかな? ウサギとかだったら触ってみたいな~」


 なんて、のちの私が聞いたら激怒するようなことをつぶやきながら近づく。

 近づくにつれ小動物が発する音ではないと気が付いた。他の冒険者だろうか? 恐る恐る木の陰からのぞいてみる。


《グルゥゥゥ》


《ギャギャ》


 そこには大きな犬、いやオオカミの魔物とゴブリンが対峙していた。オオカミは群れからはぐれたのか一匹だけど、ゴブリンの方は剣を持った個体が一匹と弓矢を持った個体が二匹いた。

 剣を持ったゴブリンが斜めから近づき、後ろにいるゴブリンたちが弓でもってフォローしている。三対一でも陣形を組んで行動しているんだ……。

 オオカミはすでに手傷を追っているようで、後ろ脚をやや引きずっている。覚悟を決めたオオカミが剣を持ったゴブリンにかみつこうと跳びつく。


《キャン》


 小さい鳴き声とともに襲いかかろうとしたオオカミは後方のゴブリンの矢によって射られた。この調子だとばれたら私にも向かってくるだろう。杖をつかんで気づかれないように後退する。


「わわっ!?」


 後退しようとした時、バキッと小さいけれどはっきりとした音が辺りに響いた。どうやら小枝を踏んづけたらしい。ここにきて木の根元にいたことが仇になった。ゴブリンたちも音に気付いて何事かとこちらに目を向ける。やばい、逃げなきゃ!

 相手は三体。追いつかれたりしたら……。こんな時なのに前世で読んだ小説やアニメの話が目まぐるしく頭を駆け巡る。


「こんなところで死にたくない……リベレーション!」


 逃げられないと思った私は、言葉を紡ぐ。そして、隠されていた力が解放された。ゴブリンたちは私に気づいたけど、一気には距離を詰めてこない。でも、私しかいないと分かると、ニイッと汚い顔をゆがませ笑顔を浮かべるとこちらに寄ってきた。


「よ、よらないで! ウィンドカッター!」


 私はおびえながらも三つの刃を作り出す風の魔法を放つ。しかし、集中できていなかったため目標から外れて大空へ。それを見たゴブリンたちは今だといわんばかりに一気に襲いかかってくる。


「こ、来ないで!」


 私は恐怖で続けて魔法を唱えることもできずに近寄るなと手を動かす。しかし、そんなことをしてもどうにかなるはずもなく奴らは近づいてくる。


《ギャウ?》


 その時、スパッという音とともに弓を持った一匹のゴブリンの体が真っ二つに裂けた。急な背後からの攻撃にゴブリンたちが周りを警戒する。私もわけが分からなかったが、空中で音がすることに気がついた。

 

「あれって……」


 空を見上げるとさっき放ったウィンドカッターが空で舞っていた。魔力操作のおかげか外れた魔法はまだ効果が続いている様だ。


「そうと分かれば!」


 まだ事態がよくわかっていないゴブリンたちに、私は上空を舞う風の刃を振り下ろす。


《ギャギャアァァ》


 体を切られて一瞬にして何が起こったか分からなかったゴブリンたちが痛みを感じ、地に伏せる。そして、致命傷を負った彼らはすぐに息絶えた。


「はっ、はっ、はっ……」


 さっきから私は肩で息をしている。もうゴブリンたちは倒したけど頭が警戒を解いてくれない。次はどこからか来るのかと頭を左右に振る。二分後、ようやく動悸が収まってきた私は警戒を解き、その場にへたり込んだ。


「たすかった~、うえ?」


 安心したのかあまりの緊張に泣けてきたみたいだ。涙をぬぐいながらも冷静になろうと深呼吸をする。


「すぅ~、はあぁ~」


 落ち着いてきたところでこの後はどうしようかと考える。……そうだ冒険者冊子! これまで私を助けてくれた冊子に思い当たりページをめくる。なんてったって初の討伐だ。依頼は受けてないけど。きっと討伐証明とか必要だよね。



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