2000万PV達成記念SS アスカとリライア(続)
こちらは小説1巻に収録されていた、『アスカとリライア』の続きとなります。(ep39の後)
話としては独立しておりますのでこのまま読み進めて頂けます。
予備知識としましてワインツ村でキノコウモリという
魔力を食べてキノコを作る魔物に関する依頼をリライアの二人と受けた後の話となります。
今回の話の時間軸としましては小説2巻の後、ep74の後となります。
リライアの本文初出はep163、ワインツ村の初出はep178になります。
「おねえちゃん、お客さんだよ~」
「私に? 一体誰だろう?」
忙しい食事時も終わった昼下がり。ちょっと遅めの食事を終えて食堂でゆっくりしていると、エレンちゃんから来客のお知らせがあった。
「私にお客さんだなんて誰かなぁ。特に思い当たることはないんだけど……」
アルバでの暮らしに馴染んできたとはいえ、わざわざ会いに来る人に覚えはない。
「こんにちは、アスカちゃん」
私が色々考えていると横から声を掛けられた。
「あっ、ベレッタさんにヒューイさん! お久し振りです。前に依頼を一緒に受けて以来ですね。ひょっとして私に会いに来たのってお二人ですか?」
「ええ、そうよ。今日はアスカちゃんにお願いがあって来たの」
「お願い?」
う~ん、ヒューイさんもいるところを見ると依頼かな? でも、わざわざ私を訪ねたのはどうしてだろう? 一緒に依頼を受けるならもっと腕のいい冒険者を探すはずだけど……。
ベレッタさんとヒューイさんは二人で〝リライア〟というパーティーを組んでいて、ベレッタさんが前衛で敵を倒し、ヒューイさんは水の回復魔法を中心とした援護と、二人ながら役割がしっかりとしたバランスのいいパーティーだ。
「ほら、この前一緒にワインツ村の依頼を受けたでしょ? それで今回、近くの村から〝リライア〟に指名依頼が入ったの」
「わっ、指名依頼だなんてすごいですね。まだお二人ともランクが高くないのに」
指名依頼とはその名の通り、特定の人物やパーティーを対象とした依頼だ。大体は相場より高額の依頼料になっている代わりに守秘義務だったり、依頼内容が難しかったりとデメリットもある。
「それがね、これを見て欲しいの」
ベレッタさんが短く答えると一枚の紙をテーブルに置いた。
「何々……依頼内容:フォルカス村周辺の魔物の調査及び討伐 対象:パーティー リライア三名」
リライアはベレッタさんとヒューイさん二人だけなのに、どうして三人になってるんだろう?
「今回の依頼の経緯なんだけどな。俺たちがワインツ村で前に受けたキノコウモリの依頼があっただろ? ワインツ村出身の人が村へ里帰りした時に、その話を聞いて依頼してきたんだよ。だから、リライアはリライアでもアスカと臨時に組んだ三人パーティーの方を指名されててな。それでこうやってアスカの都合を聞きに来たんだ」
自分の出身の村を助けてくれた冒険者なら、うちの村の問題も解決してくれると思ったのかな? とりあえず、依頼内容を詳しく見てみよう。
「ひとまず依頼内容を確認してみても良いですか?」
「ええ、お願い」
【依頼内容:フォルカス村周辺の魔物調査及び討伐 対象:パーティー リライア三名 依頼詳細:最近フォルカス村周辺にスマリッシュボアが出没する原因の調査と、該当の魔物を含む調査中に出遭った魔物の討伐 調査報酬:一回につき銀貨一枚 討伐報酬:スマリッシュボア 大銅貨四枚、ウルフ 大銅貨五枚、ゴブリン 大銅貨二枚、オーク 大銅貨六枚 ※各四体迄、買取含む】
「村の依頼なのに報酬が良いんですね。ギルドで買い取ってもらうのと変わらないぐらいです」
以前、ベレッタさんから村の買取はギルドへの貢献ポイントも付かないし、買取価格も安めだって教えてもらったけど、今回の依頼はギルドと遜色ない金額だ。
「討伐報酬が魔物の引き渡しを含んでいるから、素材買取との合算なの。だから、ギルドでの買取と比べると結局安いのよ。まだましな方ではあるけどね」
「それでどうするんだ。依頼を受けるか?」
「う~ん、ちょっと待ってくださいね」
私は頭の中で予定を組み立てる。今日はこれから細工をするし、みんなと冒険へ行くのもそこまで頻度は高くない……。
「大丈夫です。ただ、予定があるので日付だけ指定しても良いですか?」
「もちろんよ。私たちは依頼を受けるだけだから、いつでも合わせられるわ」
「そうだな」
「じゃあ、二日後で良いですか? そこなら一日空けられると思いますし、次の日は予定もないので何かあっても対応できると思います」
宿の手伝いも入っているけど、エステルさんもいるしミーシャさんに相談すれば大丈夫だと思う。
「分かったわ。じゃあ、依頼を先に受けておきましょう。今は時間大丈夫?」
「はい。これから細工をするところでしたから大丈夫です」
内容は依頼票に書いてあるし、指名依頼ということで先に受け付けることとなった。
「ホルンさん、こんにちは~」
「こんにちは。アスカちゃんにリライアのメンツね。ひょっとして指名依頼の件かしら?」
「はい。依頼を受けに来ました」
どうやらリライアに指名依頼の説明をしたのもホルンさんのようで、内容を把握していた。
「じゃあ、依頼を受けに行ってもらうのだけれど、いつ受けるのかしら?」
「二日後になります。構いませんよね?」
「もちろんよ。先方が来たら伝えておくわね。もし来なかった場合は、村の見張り役の人に言うと良いわ。話は通っているから」
「分かりました」
一応、依頼票にも書かれていることを再度説明してもらって受付を済ます。
「アスカちゃん、二日後にまた会いましょう」
「ベレッタさんたちもそれまでお元気で」
私は二人と別れると早速ミーシャさんにお休みになることを伝える。
「あら、依頼を受けに行くのね。分かったわ。え~っと、リュート君は関係ないのよね?」
「はい。今回は別のパーティーと行動するので!」
「じゃあ、みんなにも伝えておくわ。それでどこへ行くのかしら?」
「フォルカス村って言うところなんですけど、ミーシャさんは知ってますか?」
「ああ、あそこね。小柄なボア種のスマリッシュボアが名産なのよね~」
ミーシャさんの話によると、スマリッシュボアが村の名産とのこと。ただ、村での消費と町への出荷の量が限られているため、なかなか鳥の巣での扱いはないみたいだ。
「じゃあ、持ち帰られるようなら持ち帰ってきますね」
「ありがとう。でも、気を付けるのよ?」
「もちろんです!」
こうして無事にお休みもGETして、私は準備を整えたのだった。
「アスカちゃん、出発するけど忘れ物はない?」
「はい。ベレッタさんたちの方は大丈夫ですか?」
「ええ、昨日散々二人で確認したもの」
「じゃあ、行きましょうか」
今日はいよいよ指名依頼を受ける日だ。私は二人と合流するとフォルカス村へと向かった。
「えっと、まず西門を出たらアルバ湖を越えてずっと真っ直ぐですね」
「そうね。しばらくは道なりよ」
街道沿いで魔物もほぼ出ないことから、私たちは横並びで話しながら目的地へと向かう。
「へぇ~。それじゃあ、ベレッタさんはもう少しでDランクへ上がるんですね」
「試験に合格したらだけどね。ほら、私って身軽なのが売りだけど一撃は軽いじゃない? だから、重量級の人や魔物には弱くて……」
どうやらベレッタさんは外皮が硬い魔物などに決定打を与えられないことへの悩みがあるようだ。
「う~ん、硬い相手に効果的な魔道具でもあればいいんですけどね」
「今は夢のような話ね。魔道具を買う余裕がないもの」
「そうだよなぁ。今の宿もボロ宿だし、まずは個室にすることだよなぁ」
「えっ!? お二人って一緒の部屋に泊まってるんですか?」
「あ~。まぁ、ベレッタには悪いと思ってるけど、金がなくてな。こういう時は幼馴染が相手でよかったよ。たまたま組んだパーティーじゃできないことだからな」
「そうね」
本当に助かったよ~と陽気に言うヒューイさんと何故か冷たく返すベレッタさん。どうしたんだろう? その後も順調にフォルカス村へと歩みを進め、とうとう村の入口が見えてきた。
「おっ、あれがそうじゃないか? まあまあ頑張ってるな」
ヒューイさんが頑張っているというのは村の囲い。木の杭を打ち込み居住区を囲っているんだけど、隙間もほとんどないしロープを使って組んでいる村は珍しいらしい。大体はただ杭を打ち込んでいるだけだと教えてくれた。
「本当ね。私たちの村だと森側にあるだけで田畑の方は杭すらなかったものね」
二人で村に住んでいたことを思い出しているみたいだ。私も旅に出る前には思い出を語り合える人を作りたいなぁ。
「ん? お前たち、村に何の用だ?」
「あっ、私たちは依頼を受けに来た者です」
「依頼? ああ、村長が言っていたやつか。少し待ってくれるか、伝えてくる」
「分かりました」
門番さんが私たちのことを伝えに村に入る。どうやら見張りが一人しかいないから、私たちがその間は見張りのようだ。
「待たせたな。入ってすぐに案内役がいるからついて行ってくれ」
「はい」
村に入ると言葉通り案内役の女性がいて、私たちを村長の家へと連れて行ってくれた。
「おおっ、お待ちしておりました。聞いておった通り、お若い方々ですな」
「どうも。私たちがリライアです。実際にはリライアと臨時の一名ですが」
ヒューイさんがワインツ村での依頼は合同だったことを説明してくれる。
「それはお手数をおかけしたようで」
「いえ、連絡も無事についたので大丈夫です。それでは依頼の説明を」
「うむ。実はですな……」
村長さんの話によると、ひと月ほど前からスマリッシュボアが村の近くで見られるようになったのだという。最初こそ狩人たちも森へ入る手間が省けると喜んでいたものの、最近では他の魔物もやってくるようになり、これは変だということで依頼をすることになったみたいだ。
「村にしては依頼が早いのね。私たちの村だと、こんなに早く依頼をすることはないけれど……」
「ははは、うちはスマリッシュボアである程度稼いでいるのでな。少々小さい種だが、たまに貴族も買ってくれるのですよ」
「それでですか、村の囲いも立派だったのは」
「普段村の近くで見かけるのはゴブリン程度ですが、それなりに出ますので。では説明を始めましょう」
軽く世間話もしたところでいよいよ依頼の説明をしてもらう。
「先程話した通り、ボアの出現に最初は喜んでいたのですが、あいつらは田畑を荒らすこともあり、困ってきたのです。そこへ来て狩人たちが森で聞き慣れぬ声を聞いたと報告がありましてな。狩人は村の貴重な戦力。何かあっては我々の生活に影響しますので、どうにか調査をする人間を探していたところ、ここにいるミルカがワインツ村へ里帰りした時にとある冒険者の話を聞いたのです」
「どうも」
村長さんの紹介でミルカさんが挨拶をしてくれる。どうやら村長さんの家に案内してくれた女性だったみたいだ。
「それで、できるだけ早くに調査をしてもらいたいのですが、狩人たちが声を聞いたエリアを優先して調査をお願いしたいのです」
そう言うと村長さんは周辺の地図を出して狩人たちが声を聞いた場所を示す。
「村からちょっと進むと森になるのね。目的地は森の奥の方だし魔物を避けて通れそうにないわ」
「そうだな。ひょっとして依頼票に色々な魔物の名前が載ってたのって……」
「ええ。この地点へ行くには魔物と出遭うでしょうから」
報酬に魔物が個別に載ってるのって、出遭う前提だったからなんだ。周辺で出る魔物を全部ただ書いてただけかと思ってた。これはちょっと覚悟して森に入らないといけないな。私はそう決意してリライアの二人と村長さんのやり取りを聞いていた。
「では、調査の方をお願いします」
「分かった。この地図は預かっても?」
「どうぞ」
ヒューイさんが地図を預かって村長さんの家を出る。
「さて、それじゃあ行くとするか」
「そうね。陣形は私が先頭でヒューイが後ろ、アスカちゃんはその間でいい?」
「分かった」
「分かりました」
調査場所も分かったので、私たちはいよいよ森へと向かう。
「この前のオーガのこともあるし、ちょっとだけ能力を解放しておこう。リベレーション」
私は普段140ほどに抑えている魔力を200まで解放する。今回はジャネットさんもいないし、人数も少ないからね!
「アスカちゃん、何か言った?」
「あっ、いえ。ちょっと準備を」
「そう? 私も警戒はするけど気を付けてね」
「はい。ありがとうございます」
こうして私たちは村の西から森へと向かった。
「はぁ!」
「行けっ!」
「右奥だ。まだいるぞ!」
「分かったわ!」
森へ入って二十分、私たちは魔物と戦っていた。しかも、これが初めてではない。今戦っているのは二匹のウルフだけど、その前はゴブリンが三匹出てきたのだ。
「終わりよっ!」
奥にいたウルフをベレッタさんが斬り、戦闘が終わる。
「ふぅ~、やれやれだわ。こんな森の入口近くに魔物だなんて」
「全くだよな。普段から狩人が森へ入ってるのに、こんな手前にウルフが出るなんてな」
「そんなに珍しいことなんですか?」
ところどころ木が切り倒されてはいるものの、それなりに暗くて魔物が出そうな森なのに。
「ええ。ウルフは匂いにも敏感だし、人の縄張りになかなか入って来ないはずなの。それがこんな近くに出てくるなんて……」
「狩人が聞いたって声は案外、こっちじゃ滅多に出ない魔物なのかもな」
「脅かさないでくださいよ~」
努めて明るく言ってみるけど、ベレッタさんの表情は浮かないままだ。
「弱い魔物たちが森の出口へと追い出されているのかも。スマリッシュボアもボア種の中じゃ小さい方だし、道具も使えないから真っ先に森から出てきている可能性もあるわ」
「うっ、そうだったら嫌ですね」
魔物の世界は弱肉強食とはいえ、ベレッタさんの推理通りならこの先にはボス的な魔物が待ち受けていることになる。さすがにそういうのは遠慮したい。
「サクッと原因を突き止めて、スマリッシュボアだけ討伐して帰りたかったのに……」
「あら、アスカちゃんはスマリッシュボアを食べたことないの?」
「はい。やっぱり美味しいんですか?」
「美味しいわよ。小柄で雑食ではあるんだけど、滅多に肉を食べなくて臭みが少ないの」
「そうだな。俺たちが住んでいた村でもたまに出てくるごちそうだったんだぜ!」
「いいな~、絶対持ち帰らなきゃ!」
美味しいとの裏付けも取れたし、ますますこの依頼は頑張らないと。思いも新たに森をみんなで進んでいく。その間にまたゴブリンに出くわした。だけど、森の奥の方だからか肝心のスマリッシュボアは出てこなかった。
「う~、出てきませんね~」
「ここまで奥に来たら他の魔物が多いみたいね。噂をすれば……」
ベレッタさんの合図で私たちは木の陰に隠れる。どうやらまた魔物を見つけたみたいだ。
「あら?」
「どうしました?」
「ん~、今までと影の大きさが違うわね。大型の魔物みたい」
「大型? オーガとかか。それなら俺たちには危険な相手だぞ」
「ううん、それより大きい反応ね」
ベレッタさんの言葉を受けて私たちはこっそり奥を確認すると、奥にいたのはボアだった。
「あれっ? ボアですね。他の魔物より弱いボア種が奥にいるなんてどうしたんでしょう?」
「待て、遠目だからあれだが、あいつ大きくないか?」
「そういえばこの辺にはスマリッシュボアしかいないのに大きいわね。ひょっとしてあいつが原因で他の魔物が森から出てきているのかしら?」
魔物は強さによって縄張りが決まってくる。今回の魔物の異変もこのボアが原因なのだろうか?
「大きさから言ってグレートボアではなさそうだし、スマリッシュボアの変異種か何かのようね」
「ならあいつが討伐目標だな。しかし、ここからどうする? あいつの皮は分厚そうだし、お前のナイフじゃ入らないだろ?」
「そうね。物理攻撃には強そうだし、ヒューイの魔法は……」
「ヒューイさんって確か補助系統に長けているんですよね」
「長けてるっていうかそれ以外はあまり使えないな」
「報告だけして帰るっていうのもできないし、アスカちゃんの魔法はどう?」
「何とかオーガの外皮も切れるので一度やってみます。無理ならまた考えましょう」
「分かったわ」
返事をしながら私は大きいスマリッシュボアの周囲を気にしていた。大きい個体のおかげでのびのびと通常サイズのボアたちが草を食んでいる。
「あのお肉たちを持ち帰ってライギルさんに調理してもらわないと!」
「アスカちゃん、殺気が漏れるわよ」
「おっと」
私は殺気を隠すとどうにか相手の不意を突けないか考える。
「とはいえボアの周りは草も生い茂ってるから音も立つし、こっち側は木々が邪魔して動きづらいしなぁ」
せめて相手から死角になる位置取りをしないといけない。ただ、それも困難な地形なのだ。相手だってそれを分かってここで食事をしているんだろうし。
「ねぇ、アスカちゃん。空から攻撃できないかしら?」
「できるとは思いますけど、魔物は魔力に敏感ですから私だけ飛んでも気づかれると思います」
「なら俺たちが囮になったらどうだ。それならやれるんじゃないか?」
「確かにそれなら誤魔化せるかもしれませんけど、ヒューイさんたちが危険ですよ?」
私はいつでも空へ逃げられるけど、二人はそうではないのだ。
「大丈夫。いざとなったらヒューイは私が担いで一緒に逃げるから」
「俺は荷物かよ」
そんな軽口を交えながらも私たちは覚悟を決めて配置につく。
「怪我したら何にもなりませんから気を付けて下さいよ」
「アスカちゃんこそね」
「分かってます。それじゃあ、作戦開始ですね」
まずは私が自分にフライの魔法をかけて少しだけ浮く。まだスマリッシュボアには気づかれていないみたいだ。続けて二人にウィンドバリアの魔法をかけたら行動開始だ。
「行くぞ、ベレッタ!」
「ええ!」
まずは二人が仕掛ける。ベレッタさんが正面から、ヒューイさんは魔法で後方から援護だ。スマリッシュボアたちは急な襲撃者に驚きながらも、二人だけと分かると正面から向き合う。
「よ~し、いいぞ。こっちに向かってこい」
「あなたは魔物を倒せないのに本当に大丈夫なの?」
「それを言うなよ。ほら、来るぞ!」
ヒューイさんの言葉を合図にしたかのようにスマリッシュボアが突撃してくる。しかし、相手を弱いと見たのか大きな個体は向かってこない。
「しめた! これなら狙いがつけやすい」
私は気づかれないように大空へと舞い上がり、魔法を唱える。
「ここは最大限に切れ味を高めたエアカッターで……」
今日は魔力も高めてるし、一撃の威力に賭ける。
「それに皮も素材として使えるだろうし、傷は少なくしないとね。行けっ!」
私の放ったエアカッターがスマリッシュボアの親玉へと向かう。しかし、さすがは親玉。当たる直前に刃に気づくと大きな角で真横に弾いた。
《ブモッ!》
「上手い! でも、まだ……」
弾かれた風の刃をもう一度コントロールして親玉へと向ける。それと同時に地上すれすれにもう一つの刃を生成する。
《フゴッフゴッ》
下りて来いと言わんばかりに親玉が挑発してくる。だけど、その視線は空中で舞う刃にも向けられており、なかなかの戦闘巧者でもあるようだ。
「その注意深さが仇だね。とどめ!」
私は地上すれすれで生成していた風の刃を首元に突き刺す。湾曲していた刃は脳まで達し、親玉はその場に倒れた。
《ブピッ!?》
頼りにしていた親玉が倒れたことでパニックになる他のスマリッシュボアたち。
「やったな、アスカ!」
「アスカちゃん、さすがね!」
「へへっ」
私は空で得意げに胸を反らす。しかし、すぐにそんな事態ではなくなった。
《ブピッ ピピ》
リーダーを失ったスマリッシュボアたちは一目散に逃げだしたのだ。
「ようし、これで任務達成だな」
「だ、駄目です。お肉が逃げちゃう!!」
「お、お肉って……はぁっ!」
私の言葉に面食らいながらもベレッタさんが逃げようとするスマリッシュボアたちの足をナイフで狙っていく。親玉と戦っている間はあまり見れなかったけど、軽装を生かした無駄のない動きだ。以前、一緒に戦った時より強くなっている気がする。
「私もお肉を確保しなきゃ!」
こうして私たちは親玉を失ったスマリッシュボアたちを仕留めた。
「ベレッタさん、そっちはどのぐらいですか?」
「こっちは三匹ね。アスカちゃんの方は?」
「七匹です。ただ、親玉もいますし全部はマジックバッグに入りませんね」
「調子に乗りすぎたか。もったいないけど入らない分は置いて行くか」
「ヒューイさん、食べ物を無駄にしたら駄目ですよ」
「アスカはそう言うけど持ちきれる量じゃないだろ?」
「ふっふっふっ。私に考えがあるんです」
私は息絶えたスマリッシュボアたちを風の魔法で浮かべる。普段なら難しいけど、今日は魔力を一部解放しているから問題ない。
「あっ、小さいやつを浮かした方が良いですか?」
「できれば親玉の方が良いわ。見せてる分は村に納品することになるかもしれないから」
「あ~、他の魔物も出てるって言ってたし、しばらく獲物が獲れてないなら言われるな」
二人の意見もあって親玉は報告に必要だから浮かせて運び、残りのスマリッシュボアたちはできるだけマジックバッグにしまい込んだ。
「俺たちも借りといてよかったな。こんだけスマリッシュボアが手に入ったんなら、しばらく飯の心配もしなくていいしな」
「ヒューイ、喜んでいるところに悪いけれど、一部以外はすぐに売るわよ?」
「あれ、リライトのお二人は売っちゃうんですか? 干し肉にできると思いますけど……」
スマリッシュボアが小さいといってもそれなりの大きさだ。売らずにいたらしばらく肉を買わなくてもいいと思うんだけどな。
「村長も言ってたけれど、サイズの割に良い値段で売れるからね。私たちが食べ切れる分以外は売ってお金に換えるわ。干し肉にするぐらいならその方が生活も楽になるもの」
「そう言われると言い返せないな」
村へと戻りながら所持金を確認するヒューイさん。二人で安宿に住んでいても、まだまだ生活は不安定なようだ。
「アスカちゃんは全部残しておくの?」
「私は宿へのお土産とジャネットさんとジェーンさん。後はリュートにノヴァに孤児院ですかね?」
「色々なところに配るのね」
「町のみなさんにはいつもお世話になってますから!」
私はエレンちゃんたちの顔を思い浮かべながら返事をする。きっと喜んでくれるだろうなぁと思いながら村へと帰還したのだった。
「おおっ! その浮いているのは……」
「こちらがどうやら魔物たちの異常を起こしていたとみられる個体です。ヒューイさんの見立てではスマリッシュボアの変異種か上位種だそうです」
「そうだったのか。もう少しだけ待ってくれ、すぐに村長と狩人を呼んでくる。ボアはそこへ」
私は指定されたところへ親玉とマジックバッグに入りきらなかったボアを置く。
「おおっ⁉ 早いお帰りと聞きましたがこちらが原因のボアですか?」
「ええ。この個体が強いせいでスマリッシュボアも森の奥にいたわ」
「だけど、俺たちは森の入り口で発見したぜ?」
村長さんと一緒にやってきた狩人の人が疑問を口にした。
「元々は違う縄張りを持っていたグループじゃないかしら? 同じ種族でも仲間ではないから真っ先に追い出されたのかも」
「なるほどな。それならおかしくはないか。スマリッシュボアは通常、縄張りが重なっても揉めないが、これだけ大きな個体だと縄張り意識も強いのかもな」
「それで依頼は達成したわけだが買取はどうする?」
「うむ。村としてはこれだけ大きなスマリッシュボア。是非買取させてもらいたい」
村長さんもこの大きさのスマリッシュボアに興奮気味だ。
「それなら買取価格の取り決めをしないとね。最初の表だとスマリッシュボアの買取が安いから、この価格だと労力に見合わないわ。グレートボアとは言わないけれど、これもランクの高い魔物よ」
「ううむ、そう言われてはしょうがありませんな。いかほどで?」
「そうねぇ。サイズも大きいし、苦労もしたわけだから金貨二枚ってところかしら?」
「金貨二枚? そいつは高すぎだろう」
「でも、こいつを倒して狩場も元に戻るわけだし、納品先にもいい報告が出来るでしょう。希少な大型の個体を手に入れたって」
ベレッタさんは貴族も買ってることを村長さんに仄めかしてるんだな。村長さんは余計なことを言ってしまったと苦虫を噛み潰したような顔をしてる。
「少し待ってくれ。それだけの金額になると村としても相談しないといかん」
村の人たちが話し合いを始めたので私たちも小声で話し合う。
「いいんですかあんな価格で。さすがに高すぎると思うんですけど?」
「良いのよ。だって考えてみて、あの肉の量だけじゃなくて綺麗な毛皮も手に入るのよ? はく製にしてもいいし、革製品にするなら相当な量が取れるわ。もちろんそのまま貴族へ納品もできるの」
「は~、言われてみればそうですね」
ベレッタさんの考えに私は感心するばかりだ。そう考えたら金貨二枚も高くないのかな?
「スマリッシュボアの買取って村の表じゃ大銅貨四枚だったよな。あれってそんなに安いのか?」
「市場なら安くても肉だけで大銅貨八枚。毛皮も入れれば銀貨一枚以上の価値よ」
「じゃあ、なんであんなに安く書いてあったんでしょうか?」
「本当の価値を聞いて持ち帰られても困るんでしょうね。自分たちの食い扶持なわけだから」
他の魔物はいわば害獣だけど、スマリッシュボアだけは生活を支える魔物だからか。でも、それだと値段を吹っ掛けたみたいでちょっと気が引けるなぁ。色々考えているとベレッタさんが話しかけてきた。
「別に気にしなくていいのよ。最初に低く見積もっていたのは向こうなんだから」
「言われてみればそうですよね」
私たちが話している間に向こうも意見がまとまったみたいだ。村長さんが提案をしてきた。
「オホン、ひとつ提案がありましてな。うちは基本的に納品先へ肉を卸すだけでして。そこで皮はそちらで、肉はこちらでの買取で行けませんかな?」
なるほど、村としてはあくまで肉だけが欲しいのか。でも、皮なんて貰っても私たちじゃどうすることもできないしなぁ。被るにも大きいし。そこまで考えたところで私はイノシシの着ぐるみを着た自分を思い描く。ちょっとかわいいかも?
「金額にもよるけれど、私はそれでも良いわ。アスカちゃんは?」
「あ、はい。私も革にすれば使い道はあります」
着ぐるみは冗談だけど、細工の一環で使いたいしね。
「では金額を決めましょう。それと冒険者の方に一つお願いが」
「何かしら?」
「取引先にこのような個体がいたということもお伝えしたいのです。一度、この状態で引き取ったのちに皮を後日お引渡しする形で構いませんか?」
「それは構わないけれど、その分は少し考えて欲しいわね。金額は良いから脱毛まではやってくれないかしら?」
「うっ、まあいいでしょう。それではこちらの用事が終わりましたらお送りいたします」
「それなら冒険者ギルドまで持って来てもらえる? ギルドにはこっちから伝えておくわ」
こうして今回のゴブリンの討伐に始まった依頼も無事に終了し、スマリッシュボアやウルフの買取も済ませた。もちろん、スマリッシュボアに関しては私から二匹、リライアから一匹だけの買取に留めたけどね。
「では、今回の報酬の金貨一枚と銀貨四枚に大銅貨四枚です」
「ありがとう。じゃあ、私たちはアルバへ戻ります。村の方もできるだけ早いうちにギルドへ報告をお願いします」
「分かりました」
報酬を受け取り私たちはアルバへの帰路へと着く。
「依頼が早く終わってよかったわね」
「そうですね。私もみんなとの依頼があるので早く終われてよかったです」
「俺はみんな無事でいられたのが一番良かったよ」
「全くだわ。アスカちゃんがいなかったら大怪我していたかもしれないし」
「ベレッタさんの動きはすごかったですし、そんなことないと思いますけど」
「いいえ、私は大丈夫でもヒューイがね。それに私があいつに致命傷を与えるには肉薄しないと駄目だったわ」
ベレッタさんはヒューイさんをスマリッシュボアに見立てて、懐に入る仕草をする。うう~ん、やっぱり無駄のない動きに見えるけどなぁ。
「じゃあ、報酬も入ったし町へ戻ったら早速宿を変えるか」
「いいけど、まだまだ個室は無理よ?」
「なんでだ? これだけ報酬があれば今の収入からしても大丈夫だろ?」
「さっきの話を聞いてなかったの? もうちょっといい武器も必要だし、あなたの防具だって新しくしないと駄目でしょう?」
ベレッタさんがヒューイさんの防具に指を押し付けながら話す。
「うっ、そうか。まだまだ先は長いなぁ」
「そうよ。帰ったら早速見に行きましょう。気が変わらないうちにね」
「分かったよ」
「アスカちゃん、それじゃあね」
「はい。また機会があったら一緒に依頼受けましょうね!」
こうして私とリライアの指名依頼は終わりを告げた。
その物語も忘れそうになったころ、ギルドにいる時にホルンさんから声を掛けられた。
「アスカちゃん宛に荷物が届いているわよ」
「私に荷物ですか? どこから届いてます?」
「送り主はフォルカス村からね。心当たりはあるの?」
「あ~、以前依頼を受けた時に大型のスマリッシュボアの皮を貰う約束になってたんですよ」
しかもあの後、ベレッタさんから皮は私に譲ってくれるという話が来た。買い取ると言ったんだけど、親玉を倒したのは私の功績だと押し切られてしまったのだ。
「そうだったの。でもこれ、まだ革になってないでしょ? うちに預けてみる?」
「良いですか? 加工先を探さないととは思っていたんですけど、忘れちゃってて」
日々の依頼もあるし、細工も頑張っていたので忘れてしまっていたのだ。手続きを済ませて皮をホルンさんに預ける。
「あっ、加工に角は邪魔だから切ってもらうわね。角は使うかしら?」
「角ですか? う~ん、使いたいですけど置き場に困りそうなので良いです」
「分かったわ。買い取りに出してみるから金額が決まったらまた言うわね」
「お願いします」
改めて角の処分もホルンさんに頼むとその日は帰った。そしてさらに数週間後……。
「アスカちゃん、この前預かった皮の加工が終わったわよ」
「本当ですか。思ったより時間がかかったなぁ」
「いつも店で貰う皮の袋もずっと作り続けてストックしてあるだけなのよ。だから、これぐらいかかるのが普通なの」
「へ~、いっぱい買うと付けてくれるから簡単に作れるのかと思ってましたけど、大変なんですね」
ある時から在庫過多になって貰うのは遠慮していたけど、こんなに手間がかかるならこれからも皮袋は大事にしようと思った。
「あの皮袋はオークを買取した時に出る皮を、ギルドで引き取って加工しているの。そうして加工したものが回り回ってみんなの元に届いているのよ」
「あっ、そうだったんですね」
「他にもジュムーアなどの魔物の皮も安く引き取って、安価に卸して町へ還元してるのよ」
もう少し詳しく話を聞くと、引き取った皮を安価で革職人へ提供することで、市場に安い皮袋として還元されているみたいだ。作業も簡単で弟子の育成にも役立つのだとか。物の流れも様々なんだなぁ。
「それじゃあ、ホルンさん。今日は帰りますね」
「ええ。またいらっしゃい」
「はい!」
私は革をマジックバッグへ入れて宿へと帰る。そして部屋であることをして食堂へ下りた。
「あっ、おねえちゃん帰ってたんだ!」
「うん。エレンちゃん今時間ある?」
「大丈夫だよ。ひょっとしてまたスマリッシュボアを獲ってきてくれたの?」
「残念。あれは狩場が決まってるからなかなか冒険者じゃ獲れないんだよ」
「そっかぁ。おねえちゃんもあの肉大好きだったのに」
「まあね。それより見てこれ! あの時に戦ったスマリッシュボアだよ」
私は革を簡単に繋いで着ぐるみのように被って、エレンちゃんに見せてみた。
「えっ!? こんなに大きい個体だったんだ」
「そうなの。だから、革もこんなに大きいの!」
私はあの時のことを思い出しながらエレンちゃんに話す。帰ってきてからはお肉のことばかりであまり現地での話をしてなかったからね。
「へ~、森から浮かせてかぁ~。それってみんなに見られてるの?」
「見張りの人ぐらいかな? その人も森からっていうのは知らないよ」
「うんうん、次からは手前で引きずるぐらいにしようね。それでこの革を使って何を作るの?」
「まだ決めてないけど、バッグとかお財布かな?」
「お財布ってどんなの?」
エレンちゃんに聞かれて作ろうと思っていたデザインを説明する。でも、みんな硬貨をいっぱい使うから、私が考えていた前世の財布みたいなのは人気がないみたいだ。それなら革袋の中に仕切りが欲しいと一蹴されてしまった。そこで財布はやめていくつかのバッグにすることにした。
「エレンちゃんにも出来上がったらひとつあげるね」
「本当? それならおねえちゃんと同じデザインで色違いの物がいいなぁ」
「彩色かぁ。細工屋のおじさんに相談してみるよ」
私はせっかくのレアな魔物の革を無駄にしないようにと思いを巡らせるのだった。




