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アスカとノヴァとお手伝い⁉

こちらは2巻に収録されている話から、ep76のあれからの間の物語になります。


「ん~、今日はどうしようかなぁ?」


 リュートやノヴァと冒険に行くのは三日に一度だから週に二日。他にも細工の日が週に二日。残り三日が私の休みの日になるんだけど……。


「特に娯楽もないから結局は休みの日も細工をして暇を持て余すんだよね~」


「おねえちゃん暇なの?」


 朝食を終えて暇そうにしているとエレンちゃんから声がかかった。


「そうだよ~。休日に細工はもう前にやっちゃったし、他にやることがないんだ~」


「羨ましいなぁ。わたしはこれからお掃除だよ。まあ、今日はリュートさんも入ってくれるから楽だけどね」


「そっか。手伝おうと思ったけど、それなら大丈夫か」


 リュートは以前自分で言っていた通り、掃除ならエステルさんより上手だ。当然、私より腕もいいので出番がない。


「ん~、こうなると本当にやることがないなぁ。そうだ! あそこへ行こう」


 私はある行き先を思いつき準備のため部屋に戻ろうとするところで、エステルさんに声をかけられた。


「あらアスカ、どこかへお出かけ?」


「あっ、エステルさん。実は……」


「なるほど。それならお弁当を作ってあげるわ。少し待ってて」


 行き先を告げるとお弁当を作ってくれるというので、ゆっくり着替えをする。


「お待たせしました!」


「ちょうどできたところよ。はい、お弁当」


「ありがとうございます、エステルさん」


 バスケットに入れられたお弁当を受け取る。重量からしてサンドイッチ系かな?


「食べるかどうか分からないけど、一応二食分入れておいたから」


「分かりました。それじゃあ、行ってきます!」


「いってらっしゃい」


 エステルさんに見送られて目的地へと向かう。



「こんにちは~」


「ん、アスカちゃんか。ライギルのお使いかい?」


「おじさん、こんにちは。お使いじゃなくて、作業を見学したいなって思って」


「見学? 大丈夫だと思うけど、親方に聞いてくるよ」


「お願いします」


 私が訪れたのはアルゼイン建築だ。ちなみにさっき対応してくれたおじさんは鳥の巣近くの現場だと、お昼に食事をしに来てくれるのでその時に知り合った。


「おう、アスカ。見学とはどうしたんだ? 大工の嫁にでもなりに来たのか?」


「親方さん、違いますよ~。ほら、ノヴァがそちらにお世話になってもう一か月じゃないですか。仕事の紹介を頼んだ手前、どうしてるのか気になって」


 リュートの仕事ぶりは宿で直接見る機会があるけど、ノヴァは伝聞だけだからいい機会だと思ったのだ。


「なんだ。せっかく息子を紹介しようと思ってたのにな。それじゃあ、連れて来る」


「あっ、いえ。普段の仕事ぶりを見るだけでいいのでお構いなく」


「そうか? なら、こっちが作業場だから見ていくといい」


 親方さんに案内された先では、枝切りされた丸太が大量に置いてあった。


「うわぁ~、壮観ですねぇ」


「俺たちには見慣れた光景だがな。おい、お前ら! 今日は見学者付きだ。アルゼイン建築の無様な姿をさらすなよ!」


「「はいっ!」」


 見学者という言葉に反応して返事をした後、みんながこちらを見る。


「何だよ。見学者って言うから誰だと思ったら、アスカかよ」


「かよは余計でしょ。それでノヴァは何してるの?」


「何って丸太から木材に加工してるんだよ。見りゃ分かるだろ?」


「こらノヴァ。いくら知り合いでも今日は客だぞ。ちゃんと話せよ」


「へ~い」


「ノヴァ、怒られてる」


「うるせぇ」


 親方さんに注意され、小声で私に文句を言ってくるノヴァ。実際に来てみてよかった。私やリュートと話をするみたいな感じかなと思っていたけど、親方さんとはうまくやれてるみたいだ。


「アスカ、座ってな」


「あっ、親方さん。ありがとうございます」


 椅子を用意してもらい腰かけてしばらく作業を眺めていると、鳥の巣に来てくれるおじさんから声をかけられた。


「なぁ、アスカちゃん。暇じゃないかい?」


「そんなことないですよ。細工と一緒で最初はただの塊からどんどん形作られていくのも似てますし、見ていて楽しいです」


 最初は一本の丸い木が柱になったり、板になったりと見ていて飽きない。余った部分も捨ててしまうことはなく、分厚い部分はそのまま家具の材料になったり、端材も薪になったりと無駄がない。それを間近で見られるんだから来てよかった。


「アスカはそう言うけど、やってるこっちは大変なんだぞ」


「分かってるって。ノヴァはさっきからずっと(のこぎり)を引いてるもんね」


「これだってまだ早くなった方なんだぞ? 最初はすぐ木に引っかかってたんだ」


「えっ⁉ 鋸ってただ引けばいいんじゃないの?」


「そんなわけないだろ。親方、ちょっとアスカにやらせてもいいか?」


「うん? 構わんが怪我や鋸を壊さないようにしっかり見てろよ」


「う~い。いてっ!」


「ハイだろ、ノヴァ」


「……はい」


 コントのようなやり取りの後、ノヴァから鋸を貸してもらう。


「さっきも言ったけど、気を付けて使えよ」


「分かってるって!」


 細工で細かい作業にも慣れている私は自信をもって鋸を使い始めた。


「あ、あれ? 引っかかって全然進まないし、引いても引いても奥へ進まない」


「な、難しいだろ? 力ずくでも駄目だし、慣れないと無理なんだよ」


「うう~」


 負けてなるものかとその後も少し頑張ったけど、結局一センチ進んだかどうかで腕が痛くなり諦めた。


「細工も大変だろうけど、こっちもなかなかだろ?」


「そうだね。ノヴァも頑張ってるんだ」


「まぁな」


「一丁前なこと言いやがって。おっ、そろそろ飯だな。みんな休憩だ!」


「「はい!」」


 私たちが話しているとお昼を知らせる鐘の音が鳴り、みんなが作業場のテーブルに集まる。


「家の中で食べないんだ」


「いちいち戻るのが面倒だからな。鐘の音が鳴る頃には向こうも準備が終わってる」


 親方さんの言葉通りテーブルに着いて話していると、料理が運ばれて来た。


「はい、今日のお昼だよ。おや? 見学者かい。珍しいねぇ」


「ああ。ライギルのところで世話になってるアスカって娘だ」


「こんにちは。今日は見学させてもらってます」


「何もないところだけど、好きに見ていってね。飲み物を追加で持ってくるわ。食事は……」


「あっ、食事なら大丈夫です。宿で貰ってきてますから。そう言えば、ノヴァの分もあるんだけど食べる?」


 私は出発前にエステルさんから貰ったバスケットをノヴァの前に出して見せた。


「おっ、ひょっとしてこれって宿で焼いてる新作のパンか?」


「そうだよ。ノヴァのところへ行くって言ったらエステルさんが持たせてくれたの」


「何だよ、エステルのやつ気が利くじゃねーか」


「ノヴァ、あんたそんな感想だけかい?」


「女将さん、他にどんな感想があるんだよ」


「はぁ~、こいつは全く。先が思いやられるぜ」


「あんたが人のこと言うんじゃないよ」


 その後も女将さんを交え、みんなで楽しくお昼を取った私は再び見学に戻った。



「ねぇ、ノヴァ」


「何だよ?」


「これって魔法とかで加工しても大丈夫なの?」


「そりゃあ問題ないと思うけど、急にどうしたんだ?」


「さすがにずっと見てるのも退屈だし、ちょっと動こうと思って」


 午前中は少しだけ鋸を使わせてもらったけど、それ以外はずっと見学だ。午後も見学だけとなれば身体を動かしたいのが人の性だ。


「ん? アスカは魔法が使えるんだったな。風魔法はどうなんだ?」


「使えますよ。何か切りましょうか?」


「それなら試しにそこの丸太を切ってみるか? 線は引いてあるからそのまま切ればOKだ。ただし、内側に切って土台を削らないでくれよ」


「分かりました、親方!」


 私はビシッと直立不動になり敬礼をすると、すぐに丸太の正面へ向かう。


「えっと、線が一直線に引いてあってこれに合わせるだけでいいから……」


 狙いを定めると数歩後ろへ下がる。そしてエアカッターを地面すれすれに放つと、丸太を()り終えた。


「うん。これで少し待てば端が落ちるはず」


 予想通り、風の刃で切断された丸太の外側がゴロンと倒れた。


「おおっ、すげぇ。いつもは水車を使ってゆっくりやるのによ」


「切り口は……滑らかだな。それに真っ直ぐだ。ちなみに先をこういう形にも切れるか?」


(くさび)型ですね。大丈夫ですよ」


 親方さんに指示されると私はそれに合わせて木を切っていく。切る度に褒められるので嬉しくなってどんどん作業を進めると、気が付けば周りは角材だらけになっていた。



「アスカ、こんなに切ってどうすんだよ」


「あはは、親方さんが褒めてくれるからつい……」


「何言ってるんだ、ノヴァ。アスカのおかげで次の現場が早く終われそうだ。お前も気にせず冒険に行けるんだぞ?」


「親方がいいならいいけどよ」


 ノヴァったら本当に親方さんの子どもみたい。ちゃんと心配までして。


「にしても、アスカちゃんが腕のいい冒険者って言うのは本当だったんだなぁ。鳥の巣へ行って飯食ってる時もちらほら聞こえてたけど、てっきり冗談だと思ってたぜ」


「おじさん、ひどいよ」


 私の方もおじさんの一応冒険者という認識を改められて嬉しい。


「ノヴァ、今日は見に来てよかったよ」


「そうか?」


「うん、いつもの仕事ぶりも分かったしね」


「なら、リュートの方も見に行けよな。俺ばっかり見ないでさ」


「リュートなら宿で会ってるからね」


「そういやそうか」


「じゃあね」


「おう!」


「アスカちゃん、またな」


「アスカ、いつでも来ていいからな。それまでにノヴァはもっと鍛えて、アスカと変わらないペースで木が切れるようにしておくから」


「あはは、親方さんったら。頑張ってくださいね。みなさんもまた」


 最後にもう一度、大工さんたちに挨拶をして踵を返すと、ノヴァが声をかけて来た。


「アスカ」


「なぁに、ノヴァ?」


「あ、あの、宿に戻ったらエステルのやつに美味かったって言っといてくれ」


「は~い」



「アスカ、ただいま戻りました~」


「お帰りアスカ。見学はどうだった?」


 宿へ戻ると受付にいるエステルさんに声をかけられた。ついでに報告を済ませておこう。


「大成功って言って良いんですかね? ノヴァ頑張ってましたよ。みんなとも仲が良かったですし」


「そ、そう。他には?」


「他ですか? あっ、ちょっとだけ私もお手伝いしてきました」


「手伝い? 給仕か何か?」


「あっ、え~っと、そんな感じです」


 実際には木をスパスパ切っていたんだけど、絵面が良くなさそうだったので、誤魔化しておいた。


「それとですね……」


「それと?」


「ノヴァがエステルさんの料理美味しかったって言ってました!」


「そう、ノヴァが……」


 エステルさんがにやけていると、私はニンマリとそれを眺める。


「アスカ、さっきから何を眺めてるのよ」


「エステルさんが嬉しそうだなって」


「アスカ!」


「おっと、掴まりませんよ!」


 顔を真っ赤にして私を掴もうとするエステルさんを尻目に、宙に浮いて二階へと逃げる。


「別に照れることないのになぁ」


 このことを誰かに話したいとも思ったけど、残念ながら今は相手がいない。


「そうだ! この前、ムルムル様からお手紙が届いてたっけ。返事もしなくちゃいけないし、ちょっと書いちゃおう」


 こうして心温まるエピソードを誰かに伝えたくなった私は筆を取ったのだった。




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