エステルとノヴァとリュートの冒険
今回は2巻発売記念ということで、エステル・ノヴァ・リュートがまだ孤児院にいた頃のお話です。
楽しんでもらえたらと思います。
「いらっしゃいませ~、あっ、リュートにノヴァ! ごはん食べに来たの?」
「うん、今月は少しだけ余裕もあるし、一緒に来たんだ」
「ここは飯が上手いからな~。あんまり高くもないし」
そう言いながら二人は席に着く。
「あら、二人とも珍しいじゃない。何にするの?」
「エステルかよ。Aセットの肉って今日は何なんだ?」
「かよは余計でしょ。今日はフットラビットのソテーよ。いつも野菜を仕入れてる村の人から貰ったの」
「えっ、いいなぁ。俺はそれにするぜ」
「僕も」
どうやら二人も今日の限定メニューに心を奪われたみたいだ。数も少ないから私の分も残ってるといいなぁ。
「なんだ、アスカも食べたいのか?」
「えへへ、まあね。でも、そんなに量がないから厳しいかも」
「あら、アスカも食べたいの。ライギルさんに言って一食分取っておいてもらうわ」
「いいんですか?」
「アスカにはいっぱい働いてもらってるし大丈夫よ。それじゃあ、伝えてくるわね」
フットラビットのソテーが食べられると聞き、お昼の接客にも自然と身が入る。何かいいことがあったのとお客さんに言われながら、念願のお昼になった。
「はい、アスカ。持って来たわよ」
「ありがとうございます、エステルさん。いただきま~す!」
「アスカはほんとに飯好きだよなぁ」
「ん~、美味しい! そりゃあ、活力の源だもん!」
フットラビットのソテーを一口食べてから、ノヴァの疑問に答える。
「アスカはノヴァとは違うのよ。上品に美味しく食べるの」
「何だよ、エステル。お前だって昔はこっち側だっただろ? いつの間にか、しおらしくなっちゃってよ」
「ちょっと、アスカの前で何を言うのよ」
あれ? エステルさんが慌ててる。今は頼れるお姉さんって感じだけど、前は違ったのかな?
「エステルの昔の話にアスカも興味ある?」
「うん、でも食べてからね」
リュートもノヴァも今は食事を終えてのんびりしている。二人が来たのは少し遅い時間だったから、席にも余裕があってそのままゆっくりしているのだ。
食事を終えると、いよいよリュートから気になっている話を聞く。
「あれは一昨年のことだったんだ。来年には孤児院を出なくちゃいけないから三人でお金を貯めようってなって町の西側に出たんだよ」
「ちょっと、リュート!」
エステルさんが話を止めさせようとするけど、私が聞きに入っているのを見て諦めてくれ、食事を始めた。ごめんね、エステルさん。どうしても気になるんだもん。
「それで話の続きは?」
「西側でも門を出て門番から見えるところまでは特別に出る許可を貰ってたんだ」
少し懐かしそうにリュートが話を始めた。
* * *
「何だ、また孤児院三人組か。今日も薬草採りか?」
「またって何だよ。そうだよ」
「門番さん、通りますね」
「ああ。そうだお前ら」
「何でしょう?」
門を通してもらうところで門番さんに呼び止められる。
「最近、近くでホーンカウを見たって情報が回って来ててな。絶対、俺の目の届くところにいろよ」
「分かりました」
「へ~い」
門番さんから情報を貰って僕らはそのまま薬草採取に向かう。本来、町の出入りには許可証の発行が必要なんだけど、僕ら孤児院三人組は来年に院を出なくてはいけないから特別に許可が出ている。
これは別に町の方が優しいとかではなくて、少しでも自立して手間がかからないようにと言うことだ。以前、孤児院を出たらすぐに問題を起こした人がいて、その対策らしい。僕らは助かってるけどね。
「う~ん。このままじゃ、あまり売り上げは良くないわね」
三人で採取をしていると、ぼそっとエステルが呟く。
「何だよ。今日も行こうって言ったのはエステルだろ? 何かないのかよ?」
ノヴァも目的のリラ草があまり採れないと文句を言い始めた。実際、僕の採れ高も悪いから、そう言いたくなる気持ちは分かるけどね。
「何よ! そんなのノヴァの腕が悪いんでしょ」
「俺のせいかよ!」
「二人とも落ち着いて……」
「リュートは口を挟まないで!」
「リュート、話に割り込むな!」
「はい」
全くこの二人は仲が良いのに、ことあるごとに喧嘩するんだから。
「落ち着きなって。エステル、何かいい情報はないの?」
「何? リュートもノヴァの肩を持つの?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
エステルの矛先がこちらに向く。本当にエステルは勝気なんだから。
「でも、言われてみればいい話があったような……」
「ほんとか、エステル!」
儲け話の匂いを感じ取ってすぐにノヴァが食いつく。全く現金だなぁ。
「ええ。この前、たまたま町でアールさんに会ったんだけど、この近くにルーン草が生えてるらしいのよ」
「アールの兄貴が!? でも、兄貴の言うことはちょっとなぁ」
アールというのは今年まで孤児院にいた僕らの一つ歳上の人で、十五歳ながら大人顔負けの体格の人だ。今はその体格を生かすため、冒険者として活躍しているらしい。
「でも、ノヴァの言う通り、アールさんの情報はちょっと怪しいかも」
アールさんは結構大雑把で話を盛ることもあったから、僕らも話半分で聞くことも多かった。正直疑わしい部分もある。
「何よ、リュートったら! それじゃあ、あなたも何か意見を出しなさいよ!」
「うっ、それはその……」
僕には冒険者の知り合いもいないし、言葉に詰まる。本当にエステルには勝てないなぁ。
「ほら見なさい! それじゃあ、ルーン草探しよ」
「でもさ、ルーン草って夜にしか見つからないんじゃなかったのか?」
「それはムーン草の方でしょ。院長先生に教えてもらったじゃないの!」
「そうだったっけなぁ」
「しっかりしなさいよもぅ」
「まぁまぁ、それでどの辺りかは聞いたの?」
また、話が脱線しそうだったので、流れを戻して聞いてみる。
「確かこの辺から南の林に入った辺りだったわ」
「えっ!? 林まで入っちゃうの?」
「しょうがないわよ。リラ草以外はこの辺に生えていないんだもの」
「そうそう、リラ草採りなんて諦めてそっちに行こうぜ。買取も高いんだろ?」
「ええ。それじゃあ、向かいましょうか」
「ちょ、ちょっと待って二人とも。さっき門番さんからこの辺にも魔物が出るって聞いたでしょ?」
慌てて僕は二人を止めに入る。確かに僕もお金は欲しいけど、怪我をしたら治療院で治療を受けることも難しいから大変なのに。
「じゃあ、リュートはお留守番よろしく」
「だな」
「待ってよ、二人とも!」
二人から煽られるように言われ、渋々ついて行く。
「じゃあ、門番さん。町に入りますね」
「ああ、町の中は安全だが、レディト方面に行くなら気を付けてな。ん? あいつらどこへ行ったんだ? まさか遠出してないだろうな」
こうして僕らは門番さんの目を盗み、町の西側の南にある林へと入って行った。
「うわっ!? ちょっと林に入っただけなのに思ってたより暗いな」
「本当ね。でも、逆にルーン草もありそうって感じよね」
「二人とも、もう帰らない?」
「リュート。これは私たちの将来のことだけじゃなく、院のためでもあるのよ」
「まあそれはそうだけど……」
孤児院の運営は毎月ギリギリだ。町の人からの寄付と、敷地内の小さな畑で採れた野菜で成り立っている。院長先生の食生活も子どもと変わらず、僕も心配はしている。
だから、エステルの言うことも分かる。ただ、僕らはアールさんみたいに戦えるわけでもないから危険なんだ。
「おっ! 二人とも見てみろよ。これがそうなんじゃないか?」
ノヴァが指さした先には黄色の花を咲かせた草が生えていた。
「確かにルーン草っぽいね。エステルにはどう見える?」
「私もルーン草に見えるわ。だけど、ノヴァが最初に見つけるなんてちょっと癪だわ」
「何でだよ!」
《ンオォォ~~》
二人が言い争っていると、林の奥から大きな声が聞こえた。
「まさか魔物⁉」
「は、早く逃げましょう!」
「おい、ルーン草はどうすんだよ」
「そんなことより今は逃げないと。逃げるよ、ノヴァ!」
「ちっ、分かったよ!」
僕たちは魔物に見つからないようすぐに門へと駆け出す。でも、途中で気づかれてしまい、すぐに追いつかれた。
「短くて太い角にジュムーアみたいな姿。あれが門番の人が言っていたホーンカウ⁉」
「エステル、見てないでもっと走れ!」
「走れって言われてもこれ以上早くなんて……きゃっ!」
「「エステル!」」
僕とノヴァが同時に叫ぶ。倒れたエステルは足をくじいたのか立つのがやっとだった。
「ふ、二人は先に逃げて!」
「んなことできるかよ! リュート、門番のおっさんに連絡を頼む!」
「で、でも!」
「早く! ここは俺が何とかする!」
「分かった。待っててよ二人とも!」
僕は急いで駆け出す。走れば門まではすぐのはずだ。
「はぁはぁ……も、門番さん!」
「ん? お前ひとりか。他の二人はどうした?」
「そ、それがホーンカウに……」
「ホーンカウが出たのか!? どこだ!」
「あ、あっち」
「分かった。おい、俺は出てくる。見張りは任せるぞ!」
「まて! せめて隊長に報告を……」
「待てん、行くぞ!」
「はいっ!」
僕は門番さんを伴って再び現場へと向かった。
* * *
「エステル、大丈夫か?」
「え、ええ。でも、あなたも逃げないと!」
私はノヴァにも逃げるように告げる。リュートは賢いからすぐに助けを呼んできてくれるはずだし、この魔物だってすぐには襲ってこないかもしれない。
「馬鹿言うなよ!」
「なっ、馬鹿ですって! せっかく人が心配しているのに!」
《ブモォォ~~》
「うっ、そんなことより今はこいつだ。エステル歩けるか?」
「あ、歩くだけなら……」
ただ、足が上手く動かなくて走れない。こんな私なんて置いて行けばいいのに。
「いいか、絶対助けてやるからな!」
「ノヴァ……」
胸が熱くなる。でも、このままじゃ私もノヴァも死んじゃう。
「おらぁ、こっちに来てみろ! 俺は強いぜ!」
動けない私に代わってノヴァがホーンカウの注意を惹きつける。
「危ない!」
ホーンカウがその自慢の角を使ってノヴァへと体当たりを敢行する。必死に避けるノヴァだけど、魔物が木に当たった時は倒れんばかりの轟音を辺りに響かせた。
「や、やべぇ。思ったより動きが早いな」
「エステル! ノヴァも大丈夫?」
その時、助けを呼びに行ってくれたリュートが門番を連れて帰ってきてくれた。
「こっち、こっちよ!」
* * *
僕たちが到着する少し前、ドォンと辺りに轟音が響き渡った。
「い、今のは?」
「焦るな。あれだけの音なら木にぶつかった音だろう。まだ生きてる証拠だ。それより音のした方向へ急ぐぞ!」
「はい!」
音を頼りに現場へと急ぐ。逃げる拍子に通ってきた道を外れた可能性もあったから、音がしたのは助かった。
「いた! あそこです!」
「分かった。お前は二人の状態を確認しろ。後は俺がやる!」
「はいっ。エステル! ノヴァも大丈夫?」
僕は門番さんの指示通り、すぐに二人に呼びかけて状態を確認する。僕の顔を確認したエステルは安堵の表情を浮かべている。何とか間に合ったみたいだ。
「エステル、歩ける?」
「な、何とか。それよりノヴァを」
「分かった。エステルはあの木の後ろに下がってて」
僕は身近に合った大きな木の陰へ隠れるようエステルに伝える。
「分かった。来てくれてありがとう」
「当たり前だよ。ノヴァ!」
続いてノヴァのところへ駆け寄る。
「よ、よう、リュート。戻ってきてくれたんだな」
「もちろん! って、怪我してるじゃないか!」
「当たり前だろ。装備も何もない上に、全部避けろなんて無理だって」
僕が側へと駆け寄ると、身体の数か所に角で付いたと思われる切り傷のような跡があった。
「だ、大丈夫? 痛みはない?」
「いてて。こらっ触んな。痛いだろリュート」
「ごめん。でも、ここは危険だからちょっと動かすよ」
痛いというノヴァをなだめながら僕はノヴァもエステルのところへ移動させる。
「ノヴァ! 大丈夫なの?」
「大丈夫だぜ。お前は平気かよ?」
「全く、そんなぼろぼろになってまで人の心配なんて……」
「へへっ」
その光景を見て僕はそっと離れる。ここなら安全だろうしね。
「門番さん、大丈夫ですか?」
「お前も隠れていろ。こいつ、他のホーンカウとは違う。ちょっと厄介そうだ」
「分かりました」
僕はまだ元気なので息を整えながらエステルたちとは逆方向の木の裏に隠れる。
「ここの方が相手から見えやすいから、あっちにはいかないはず」
《ブモッ》
「何の!」
門番さんはいつもの軽口を叩いている姿とは違って、槍を巧みに使いホーンカウの角を生かした突進をいなしている。
「なかなかやるな! だが、こっちも引けないんでな。うおぉぉぉ!」
《ブモッ?》
門番さんが槍を使ってホーンカウの真上へと飛び上がると、腰の剣を抜き放ち首に突き刺した。
《ブモォォォ~~~~!》
たまらずホーンカウは身体を大きく動く。しかし、門番さんはホーンカウの特徴である角を持ち、振り落とされないように踏ん張る。
「もう寝てろ!」
ホーンカウの動きを見切った門番さんが剣をさらに深く突き刺す。すると、とうとうホーンカウは息絶えたのか動きを止めた。
「やった!」
「ふぅ~、俺が何とかなる相手でよかった。お前ら、怪我はないか!」
「私は少しねん挫したぐらいです。でも、ノヴァが……」
「痛てて」
「何だ、えらく怪我してるな。ホーンカウに立ち向かったのか?」
「しょうがねぇだろ。エステルが動けないんだからよ」
「そうかそうか。できないなりに頑張ったな。応援を呼んできたこいつに感謝しろよ。門まで走ってきて、場所を教えるためすぐに戻ってきたんだからな」
「リュートわりぃな」
「いいよ。僕は二人が無事だっただけで」
本当に逃げている間は二人がどうなったか気が気じゃなかったしね。
「それよりさ。ルーン草ってまだあるかな?」
「何馬鹿なこと言ってるのよ、ノヴァ! 少しは自分の心配をしなさい!」
「痛っ! 叩くなよ、エステル。だけど、怪我の治療もあるし気になるのはしょうがないだろ?」
「うっ、まあそれはそうね」
ノヴァは軽口を叩いているものの、かすり傷ってわけじゃない。確かにこのまま帰ったら院長先生に怒られるどころか、治療費を払ったらみんなの食事だって危うい。
「しょうがねぇなぁ。おい、リュートって言ったか。俺をそこへ案内しろ」
「良いんですか?」
「ただし! 応援を呼んでるからそいつらが来るまでだぞ?」
「はいっ!」
こうして門番さんの好意で僕はルーン草を十五本、採ることが出来た。
「もうすぐあいつらが来るな。戻るぞ」
「分かりました」
「おっ、リュートのやつ戻ってきたな。どうだった?」
「何とか十五本は採ってこれたよ」
「すごいじゃない!」
「すごいものか。自分たちで身を守れるようになってから言え」
「すみません」
僕らの身を案じて門番さんから注意を受ける。
「全くしょうがない奴らだ」
「おお~い、無事か?」
「おっ、応援が来たみたいだな。ここだ!」
僕たちが注意を受けていると門番さんたちの応援がやって来た。ガタイのいい人が一人と、たまに見かける門番さんだ。
「こいつが最近問題になってたホーンカウか。思ったよりでかかったな。怪我は?」
「こっちのガキがホーンカウから攻撃されて怪我を、こっちは足をねん挫だと」
「その程度で済んでよかったな。普段見かける奴より大きい」
「そ、そうなのか?」
「ああ。助かってよかったな」
応援の人たちに改めて言われ安心するノヴァとエステル。僕もやっと安心してその場にへたり込んだ。
「で、この惨状をどうするんだ?」
「どうって?」
「お前ら孤児院に住んでるんだろ? 院長さんが怒るぞ」
「うっ、それは……」
「私から言います。ただ、治療費のこともあるからみんなしんどくなると思うけど」
「ん、治療費は大丈夫だぞ?」
「さっきのルーン草のことですか? でも、そんなにはいかないですし」
僕の採取の腕はそこまでじゃない。ルーン草でも十五本じゃ、銀貨一枚になるかどうかだろう。治療費には足りない気がする。
「なぁ~に言ってんだよ。ここにどでかい金のなる木、もとい牛がいるだろ」
門番さんは自分が倒したホーンカウを指差す。
「でも、これは僕たちが倒したわけじゃないですし……」
「なら、自分たちで治療費を払うか?」
「う、それは……」
「こいつ貰っていいのか? なら、肉も売らずにちょっとくれよ」
「ちょっと、ノヴァ!」
「いいだろエステル。くれるって言うんだから貰える物は貰わないと」
「別に俺は構わんぞ」
「やったぜ!」
「まあ、これぐらいないとお前たちも大変だろうしな」
不敵に笑う門番さんの顔は喜んでいる僕たちにはもう見えていなかった。その後、治療院で治療を受け、戦利品の肉をお土産に孤児院へ帰ると……。
「貴方たち! また勝手に外へ出たのですか!」
「い、院長先生。まあこれを見てくれよ」
なだめようとノヴァがお土産を見せたものの。
「知っています! 町の衛兵様からお聞きしました。本当に心配したのですよ」
お土産をテーブルの脇に置くと、ノヴァを抱きしめる院長先生。
「わ、悪かったよ。でも、土産の肉もあるし、リュートがルーン草を採ったから今月は楽できるぜ」
「はぁ、貴方という子は……。エステル、リュート」
「「はい」」
「こんな無茶をする子はなかなかいません。院を出た後は二人がちゃんと眼を光らせておくのですよ」
「分かりました」
「任せて下さい、院長先生。私が首根っこ掴んででも押さえておきます」
「なっ、二人とも何だよ。俺だってそこまで向こう見ずじゃないぜ。今日だってエステルが怪我したからだって!」
ぐぬぅとエステルが悔しそうに声を絞り出す。いつもは叱る立場だから悔しそうだ。
「だからこそです。人を思いやることは大切ですが、自分も大事にしなさい」
「何だよ。せっかく持って帰ってきたのにさ」
褒められると思っていたのか、不満を口にするノヴァ。
「まあ、これのお陰で子どもたちも喜びますし、今日はここまでにしておきましょう。エステル、手伝って貰いたいのですが、足は大丈夫ですか?」
「はい、料理ぐらいは大丈夫です」
「何だよ、結局嬉しいんじゃん」
「本当に貴方は……」
院長先生は呆れながらも温かい目でノヴァを見る。僕も密かにノヴァの面倒を見ようと決意したのだった。
* * *
「という感じで昔のエステルはぐいぐい引っ張っていく感じだったんだよ」
「へ~。でも、さっきの話だとノヴァが無茶したって感じだったね」
「そうなの! ノヴァったら昔から無茶ばっかりするのよ。この話より前にも……」
エステルが助けられた恥ずかしさと、お転婆さを隠すため話題を変える。慕ってくれているアスカにはこれ以上知られたくないこともあるだろうしね。
「ちょっと待てよ、エステル。そん時はお前が言い出したんだろ?」
「あ~ら、そうだったかしら? 実際に行動したのはノヴァよね?」
「ずっけーぞ!」
ちょっと話を始めたばかりなのにすぐ二人は言い合いになる。
「全く、仲が良いんだか悪いんだか」
「でも、二人とも嬉しそうだね」
「そうだよね」
本当に仲が良いよね、二人は。心の中で嘆息しながら僕はアスカと共に二人の喧嘩を見守ったのだった。