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9月SS アスカと紅葉狩り!?

「おねえちゃん、紅葉狩りってなに?」


「やっぱりこっちじゃわからないか…」


 季節は秋、そろそろ紅葉狩りや落ち葉見に良い季節だと思って、話を切り出してみたものの、エレンちゃんにはピンとこなかったようだ。


「あら、二人で何の話をしているの?」


 お昼終わりにそんな話をしていると、厨房の方が片付いたエステルさんもやって来た。


「おねえちゃんが紅葉狩りとかこの辺にはないのかって言うんだよ。エステルさんは知ってる?」


「紅葉狩り? う~ん、孤児院にも別の町からくる子がいるけど、聞いたことないわね。アスカ、それってどういう魔物なの?」


「ま、魔物じゃありませんよ! れっきとした行事……秋のイベントです」


「でも、狩るんでしょ?」


 ああそうか。アルトレインじゃ魔物が跋扈(ばっこ)しているから、狩りも身近なんだった。○○狩りって言えば、そうなるのも仕方ないのかも。


「えっと、紅葉狩りというのはですね、山とか河原に行って秋の景色の移り変わり……すなわち紅葉を楽しみながらご飯を食べるってことです」


「うう~ん、いまいちよく分からないわね。紅葉ってそもそも何なの?」


 あっ、こっちじゃ紅葉って言い方自体しないのか。それじゃあ、紅葉狩りが分からなくてもしょうがないね。私は改めて紅葉について二人に説明した。


「ああ~、木が落ち葉に代わることかぁ~。それならエレンにもわかるよ。でも、どうしてそれを見に行くの?」


「それはもちろん、都会の喧騒や季節の移り変わりを感じるために……」


「それならアルバ湖まで歩くだけでも十分よね? それにちょっと離れればワインツ村とかもあるし、城壁に登っても感じられるんじゃない?」


「うっ」


 エステルさんからひねりが入ったストレートを貰う。た、確かに自然の多いアルバ周辺じゃ、わざわざ出かけなくても簡単に季節を感じられる。


「それにさぁ、お外行くんだよね? 山とか危険じゃないの?」


「あっ……」


 そうか、さっきも思ったけど、山や森って魔物の生息数も多いから危険だよね。じゃあ、紅葉狩りの下地になる条件が揃わないのか~。残念だとは思ったけど、そういうことならしょうがないか。私が残念そうに肩を落とす横で、エレンちゃんとエステルさんは何やら話をしている。


「……テルさん、エレンはお父さんに言うから」


「なら私はノヴァのところに行って……」


「二人とも何の話ですか?」


「あっ、こっちの話よ。それで実際には山や河原で何を食べたりするの?」


「そうですね。季節が感じられる食材を使って食べるんです。本当は現地調達したいところですけど、キノコとかは危ないので、市販のものですね」


 まあ、ほぼお外と縁がなかった私からすれば、TVやネット知識なんだけどね。


「へ~、紅葉狩りは良く分からないけど、私も少しフィアルさんに聞こうかな?」


「フィアルさんに?」


「アスカに紹介してもらってあの店で何度か食事してるんだけど、フィアルさんって大森林の出身らしいじゃない。そういった自然の中での食材の扱いにも長けていると思うから、聞きたくて。私もこの地方で採れるものに関しては分かるけど、そういう地方出身の方がより詳しいと思うのよ」


「なるほど、頑張ってくださいね!」


 できれば、その知識を鳥の巣の食卓に並べられるぐらいに。私はその言葉を飲み込みつつ、エステルさんを応援すると、部屋に戻る。ちょっとやってみたかったけど、文化的にないものはどうしようもないもんね。



 それから四日後、特に予定もなく食堂で休んでいるとエレンちゃんから声を掛けられた。


「おねえちゃん、今日はもうお仕事しないの?」


「うん、細工の方も落ち着いたというか、続いてて疲れたから」


「それなら、二時間後にお部屋に呼びに行っていい?」


「いいけど、今でも大丈夫だよ?」


 エレンちゃんのためだし、別に用事もない。私はすぐに返事を返したのだけど……。


「あっ、ちょっと今はこっちの手が離せなくて」


「そうなんだ、分かった。それじゃあ、部屋にいると思うから呼びに来てね」


「は~い!」


 こうしてそのあともしばらく食堂でゆっくりしたあと、私は部屋に戻って軽くお昼寝をした。



「おねえちゃん起きてる~?」


「あっ、エレンちゃんだ」


 私が微睡みの中にいると、エレンちゃんの声がしたので目覚める。


「ちょっと待って~、今起きたとこ」


「は~い!」


 エレンちゃんを待たせないように簡単に髪をまとめ、着替えて外に出る。


「おねえちゃん、ひょっとして寝てた?」


「軽くね」


「まあそれぐらいならいいか。下に降りよう」


 エレンちゃんに先導される形で私は下に降りる。そのまま食堂に行くのかと思いきや、勝手口から井戸の方へと出た。


「おっ、アスカ来たな」


「ライギルさん、どうしたんですかこんなところで?」


 ライギルさんをここで見るのは初めてかもしれない。いつもは厨房だし、洗濯とかもエレンちゃんやミーシャさんのお仕事だしね。


「アスカの案に乗ろうと思ってな。ほら見てみろ」


 ライギルさんが指さした先には小さいかまどがあった。そこには既に薪がくべられ、小さいながらも火が起こっている。


「紅葉狩りってやつだ。アスカの話を聞いて、エレンやエステルが動いたんだよ。薪はノヴァが世話になってるアルベイン建築から廃材を貰ったんだ」


「エレンちゃん、エステルさん……」


 私が感動しているところへ、エステルさんもやって来た。手には食材が入ったかごを持って。


「さあ、今日は宿の食事も簡単なものにしたから私たちはこっちで楽しみましょう!」


「い、良いんですか?」


「もちろんよ。私たちも普段アスカにお世話になってるから、色々用意したんだから!」


 エステルさんは鉄板と網を半分ずつ火の上に載せると、食材を置いていく。その横ではエレンちゃんが椅子を並べてくれた。


「そう言えば、ミーシャさんは?」


「ミーシャなら食堂の方を見てる。今日は孤児院から来てるのと臨時のバイトだからな。まあ、こればっかりはな」


「ちょっと悪いですね」


「ふふっ、あっちが片付いたらすぐに来るわよ。それより、何から食べる?」


「うう~ん、まずはこのオーク肉からですね! 薄切りでやわらかそうです!」


「なるほど、アスカはそれを選ぶのね」


「どうかしたんですか?」


「その肉はリュートがジャネットさんと一緒に狩りに行って獲ってきたのよ。自分は準備に役立てないからって」


「そんな、気にしなくてもいいのに……」


「まあ、年頃の男の子だし、あとで一言言ってあげればいいわよ」


「そうします」


 こうして私の紅葉狩り計画は大成功に終わったのだった。



「おねえちゃん、ところで景色はどうしたの?」


「う~ん、よく考えたら依頼を受ける時に見られるからいいかな? みんなで見たいとは思うけど」


「じゃあ、次は城壁にでも登らせてもらおうよ!」


「うん!」






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