リンネのとある一日
「もうリンネが来て一か月か~、時が経つのは早いなぁ~」
「おねえちゃん何をそんなにしみじみといってるの?」
「ううん。最近町の人がリンネを見てもびっくりしなくなったなって」
「まあ、ずっとうちの前で寝てるだけで、後はエステルさん送迎するだけだもん」
「でも、意外。エステルさんのことは気に入ってるのか、毎日送り迎えするなんて」
「運動のつもりなのかもしれないわよ? 私を気に入ってるというよりは、やっぱり体を動かしたいんじゃない?」
「そうですか? だったら、もう少し動いた方がいいと思うんだけどな。あんまり冒険にもついて行きたくないみたいだし」
リンネってば中々冒険について行かないんだよね。まあ、エステルさんの護衛みたいなものだから、その方がいいんだけどね。アルバは平和な町だけど、それでもたまに酔っぱらいに絡まれる人がいるみたいだし、お行儀の悪い冒険者もたまにいるしね。
「あっ、そろそろ今日も終わりだね。エステルさん、もう上がる時間だよ~」
「そう? このまま最後まで手伝おうと思っていたんだけど……」
「いいよ~、朝から疲れてるでしょ? はい」
「これは?」
「おねえちゃんからのお土産。エステルさんにもどうぞって」
「アスカ、本当に毎回悪いわね。これってサンドリザードでしょ? 最近、値上がってるのに……」
「それなりに冒険にも行ってますから大丈夫です。でも、明日はこれで美味しい料理をお願いしますね!」
「分かったわ。ライギルさんとも相談して必ず美味しい料理にするからね」
「それじゃあ、表に行きましょうか」
私もついでに外に出てリンネに会いに行く。
「リンネ~、今日もよろしくね!」
《わぅ》
「リンネって本当にエステルさんの送り迎え好きだなぁ~。普段の散歩は雨だと行かないのに」
「そうなの?」
「はい。雨の日なんて絶対小屋から出ないのに、それでも送り迎えだけはするんですよね。不思議です」
「こっちとしてはありがたいけれど」
「そうですよね。さっ、今日も頑張ってね、リンネ!」
《わぅ!》
俺はリンネ。アルバという町に住んでいるグレーンウルフという魔物だ。今、目の前で話していた背の低い少女がアスカ。俺の主人である。野生で暮らしていた俺に屋根付きの家と食事を運んでくれる善人だ。隣にいる背の高い少女はエステル。こちらはこの宿に通っている少女で、俺に美味しい食事を運んでくれる。
(それにしても今日も送り迎えか。いい加減、面倒なんだよなぁ。とはいえ……)
ちらりと二人に気づかれないようにアスカの部屋を見る。そこから小さいゴーレムがこちらを見ていた。
(また今日も見張ってる。ティタの奴しつこいなぁ。はぁ、今日も面倒だけどエステルを送ってくるか。口調を直せとか本当にあいつはうるさいなぁ)
《わぅ~》
適当に鳴き声を上げ、アスカの注意を引いて今日もエステルを送っていく。
「それにしても、あなたって本当に魔物なの? 暴れたりしないし、宿でも大人しくしてるし。みんながあなたみたいな魔物ならよかったのにね」
《わぅわぅ》
『全くだ。ローグウルフたちは集団で襲ってくるし、ガーキャットは夜にうるさいし、静かに暮らしたいもんだぜ』
エステルの言葉に同意しながら俺たちは孤児院を目指す。アスカから土産をもらった日は大体ここへ行く。孤児院の子どもたちに飯を分けてやるなんてお人好しだな。
(だけど町の奴らの視線も変わったよなぁ~)
最初に町を歩いてた時は皆引いてたのに、今や子どもですら近寄って来るもんな。
「リンネ、そろそろ孤児院に着くからよろしくね」
《わぅ!》
『はぁ~、ちょっと面倒だけど仕方ないか』
孤児院に行くのは別に何ともない。ただなぁ……。
「あ~~~~、エステルおねえちゃんだ!」
「ほんとか! おっ、リンネもいる!」
「ほんと⁉ 急いで玄関に行かなきゃ!」
「こら、あなたたち!」
いつものように院長の制止も聞かず、子どもたちがこっちにやってくる。そう、孤児院に行くと子どもたちが絡んでくるんだよなぁ。別にエヴァーシ村で子どもの相手は慣れているが、あっちは本当にたまの相手だったからな。
「リンネ~、こっちこっち」
《わぅ~》
(しょうがないなぁ)
俺は小さい子どもが落ちないよう背に乗せながら庭へと向かう。
(庭も野菜や薬草が植わってるから、踏まないように誘導しないとな)
とはいっても、相手は所詮子ども。野生の魔物を相手にしてきた俺にとっては誘導なんて簡単だ。
《わぅ~♪》
「おっ、リンネはこっちに行きたいのか? よ~し!」
こうして子どもの相手をした後はご褒美の時間だ。
「いつも子どもたちの相手をありがとう、リンネ。少ないけどこれ」
そう言って、木の皿にサンドリザードの肉を置いてくれるエステル。
《はぐっ》
(うん、アスカが持って帰っただけあって新鮮だぜ)
「わっ⁉ リンネのやつまたひと口だ!」
「かっけぇ~」
「皆は真似しちゃだめよ。しっかり噛んで食べるのよ?」
「「は~い」」
俺がぱくっと肉を平らげてしばらくぼーっとしている間、子どもたちはゆっくりとご飯を食べている。全く、人間は食べるのが遅い。そんなんじゃ、野生では生きていけないな。
そして、お楽しみの食事が終わったら宿に帰る。
「リンネ。今日もありがとう」
《わふっ》
『ま、いい暇つぶしになるから別にいいぜ!』
エステルにそう返事を返して俺は宿に戻っていく。
「ふわぁ~」
「ちゃんと送って来たでしょうね?」
「うわっ⁉ びっくりさせるなよ」
「全く、言葉遣いがなっていない犬ね」
「またかよ。うるさいやつだな、ティタは。それより前から気になってるんだが、その犬って言うのはなんなんだ?」
「アスカの国の言葉よ。うらやましいでしょう? これも、私が大量の魔力をもらって生きてるからなのよ!」
えっへんと自慢げに話すティタ。本当にこいつも変わってるよなぁ。
「それはいいから、俺たちにも分かる言葉を使ってくれよな」
「あなたが覚えればいいでしょう。ねぇ、ミネル?」
《チッ?》
空からはまた喧嘩なのかと降りてくるミネル。こっちはこっちで俺に警戒心がない。人間には警戒する癖に変な奴だ。
「ティタ、それよりもうすぐアスカが帰ってくるわよ」
「そうなの? 急いで戻りましょう」
ミネルとティタはアスカに気づかれないように部屋へ戻る。いくら主っていっても対応が過保護なんだよ。俺なんて話しかけられてもめんどくさかったらほったらかしなのにな。
「ふわぁ~、俺もそろそろ寝るか……」
「あっ、リンネ帰ってきてる。私はこれからおやすみだよ。じゃあまた明日ね~」
《わふっ》
「そうそう、子どもはもう寝る時間なんだよ」
家に帰るエレンに軽く挨拶をして、今日も俺は小屋で寝るのだった。
みなさん、700万PVありがとうございます。ひとえに読んで頂いている方のお力で、今日も元気に書くことができております。という訳で、本日UPしたお話は先日UPしたお話の続きの時間帯のものとなりました。
5月のGW中にも一話、更新していこうと思っておりますのでお付き合いくださいませ。m(_ _)m