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IFIF話 エイプリルフールのアスカ

「エイプリルフール?」


「そう!一年で1日だけ嘘をついてもいい日なんだ!」


客が引けた鳥の巣の食堂で私はリュートに説明する。


「変わった行事だね」


「凄いんだよ!そのために色々準備とかして、新聞だって偽の記事を出すんだよ」


「新聞?アスカそんなの読んでるの?やっぱりお金持ちだね」


「はっ!?」


そうだった。この世界じゃ、出版物は手書きか魔法のインクだ。新聞なんて月に一度ぐらい貴族向けに発行される程度だった。あとは商人向けの経済紙みたいなものだけど、これも情報が遅いからいまいち人気がない。


「でも、みんな知らないんじゃどうしようもなくない?」


「う~ん、そうなんだよね。だから、リュートに何か嘘ついてみるね!リュートはもう知ってるんだし」


「知ってたら騙されないでしょ」


「そうかなぁ。1日あれば何か思い付くと思うんだけど…」


「何々、何の話~」


「エレンちゃん!お昼食べられそう?」


「うん、もうあらかた片付いたよ。それでお姉ちゃんは何話してたの?」


私はエイプリルフールについてエレンちゃんにも説明した。


「う~ん、旅の人からもそんな話は聞いたことないなぁ~」


「エレンからも言ってあげてよ。分かってて騙される人なんていないって」


「そうだよね。しかも、お姉ちゃんだし」


「む~、そんなことないもん!絶対、騙して見せるんだから」


「じゃあ頑張ってね。僕は洗濯と掃除の仕方を教えてくるから」


「リュートさん行っちゃった…どうするの、お姉ちゃん?」


「何かいい嘘考えてみる」


しかし、普段からしないことを直ぐに思い付くはずもなく時間だけが過ぎていく。


「お姉ちゃんもう無理だって。わたしがご飯食べ終わるまで考えてても何も浮かばなかったんでしょ?」


「でも、このままじゃリュートに負けちゃう」


「いつから勝負になったの?」


「おや、こんな時間に2人でなにやってんのさ?」


「ジャネットさん!」


私は強力な助っ人である(断定)ジャネットさんにも話を聞いてもらう。


「嘘ねぇ~、アスカにゃ無理だろ」


「ジャネットさんもそう思うよね~」


「そっ、そんなことありませんよ!」


「だってアスカだよ?無理無理。なら試しでいいから、適当に思い付いたの言ってみなよ」


「えっと、それはそのう…」


「ないんだろ?人には向き不向きがあるんだから気にすんなって。そうだ!こいつならきっとリュートも騙せるよ」


何かジャネットさんには閃きが降りてきたみたいだ。


「えっ!?ほんとにそれ言うんですか?」


「ああ、これならあいつもきっと騙されるよ。本当はロビンの奴が良かったんだけどね」


「騙されてくれるかなぁ」


「ジャネットさん、いったいお姉ちゃんに何を…」


「まあ、後日を楽しみに…いや、エレンにはつまらないかもねぇ」


そうニヤリと笑うとジャネットさんは部屋に戻っていったのだった。




そして、私は仕事終わりのリュートに声をかけた。


「今から?いいけど…」


私はリュートを部屋に招き、ジャネットさんに教えてもらった嘘を披露する。


「リュート、私はあなたのことが好きです!」


ニヤリ。これがジャネットさん直伝の嘘『告白』だ!さあ、どう出るリュート。


「ア、アスカが僕のことを?そんな…」


うろたえてるうろたえてる。ちょっと心苦しいけど、勝負は私の勝ちかな?


「ん?このタイミングでって…」


一瞬で真顔になるリュート。心なしかちょっと怖い感じだ。


「ふ~ん、そう。アスカってば人の心をこうやって簡単にもてあそぶんだね。こんなことをする子だとは思わなかったなぁ」


「ち、違うの…これはリュートが騙されないって言うから!」


「僕が悪いの?嘘をつくにしても程度があるよね?」


「ジャ、ジャネットさんに相談して…」


「もちろんそれも分かってるよ。アスカ一人じゃこんなこと思い付かないだろうし」


それはそれでちょっと悲しいけど、今はこの空気を何とかしないと!


「で、でも、まるっきり嘘じゃないよ!おんなじパーティーだし」


「なら傷つけてもいいの?」


「良くないです…」


「あと、嘘じゃないってことはアスカは僕のこと好きなの?」


「す、好きかって言われると…」


さっきのだと告白みたいだったし、そこまでなのかなぁ。


「じゃあ…嫌い?」


「き、嫌いだなんて!そんなことない!」


「じゃあ、好きなんだね僕のこと」


「う、うん?」


「良かった。それじゃあ、明日2人で出掛けようね」


「うん。まあ、いいけど。予定もないし」


「明日は初めてのデートだね」


「ええっ!?デートなの?」


「アスカも僕もお互い好きなんだからデートでしょ?」


「そ、そっか」




こうしてお姉ちゃんはその日を境にリュートさんに言いくるめられて数年後に結婚したのでした。


「ねぇ、ジャネットさん。こうなっちゃうって予想してた?」


「大体は。変なのに捕まるよりは、誠実な奴の方がいいと思ってね」


「でも、あの人腹黒いよ」


「ちょっと位はそうでないとアスカの相手にはねぇ。それより今度また中央神殿から巫女様が来るんだってさ。料理の出前頼んだよ」


「は~い。アラシェル教もアルバじゃそこそこの信者を抱えてるし、ジャネットさんも護衛頑張ってね」


「護衛…ねぇ。あの2人に必要かねぇ」


「お姉ちゃんの非常識から守るんだよ」


「なるほど!エレンも言うようになったね」


「長い付き合いだもん!」


「それじゃあ、間借りしてるアルバのシェルレーネ教会に戻るかね。またな、エレン!」


「ありがとうございました」


チリンチリーン


ジャネットさんが教会に戻っていく。


「私も仕事に戻らなきゃ!旦那様もおまちかねだし」


リュート編  FIN




-------------


「アスカさん、なに悩んでるんですか?」


「あっ!ロビン君、こんにちわ。実は今日はね、エイプリルフールなんだ」


「なんですかそれ?町で流行ってるんですか?」


「ううん。私が前に住んでたところのイベントだよ」


「へぇ、アスカさんは物知りですね」


「あはは、そんなでもないよ。というわけで今日はロビン君をあっと驚かせる嘘をついてあげるね」


「そんなこと言われたら騙されないと思いますけど、楽しみにしてますね」


「あれっ?どこかでかけるの?」


「アスカさんに紹介してもらった商会に素材を卸しに行くんですよ。ウルフの毛皮とかボアの毛皮なんかですね。罠も弓もみんな腕が上がったんで、最近はいい稼ぎになるんです」


「それは良かったね。前はボア一匹で苦労してたのに…」


「アスカさんっていう良い師匠のお陰です。僕も一番弟子として鼻が高いですよ」


そういいながら私の前に立つロビン君。出会った頃と違って背も延びたし、体つきもガッチリしてきた。


「どうかしました?」


「ううん。ロビン君、またかっこよくなったなって思って」


「そう言ってくれるのはアスカさんぐらいです。姉には『上にだけ伸びて』なんて言われてますから」


「きっと寂しいんだよ、弟の成長が。私もビックリしてるもん。会った頃は弟みたいだったのに、なんだか今は…」


「今はなんですか?」


「おや、宿で堂々と逢い引きとはアスカもやるようになったね」


「ジャネットさん!」


「ジャネットさん、久しぶり…ではないですね」


「ああ、ロビンは昨日振りだね」


「ロビン君、今度はどこについて行ったの?」


「今回は王都までの予定だったんだけどちょっとね…」


「何かあったの?」


「緊急依頼だよ。ゲンガルにオーガロードが出たってんで、あたしらも駆り出されたんだよ」


「うわっ!?大丈夫だったんですか?」


「ああ、運良くというかジュールさんも王都に来ててね。一緒に行かされたよ」


「正直、僕は生きた心地がしませんでしたよ。矢はほとんど効かないし」


「ああ、オーガバトラーにオーガジェネラルまでいりゃあね。皮膚の固さは一級品だよ」


「ねぇ、ほんとにロビン君大丈夫なの?怪我してないよね?」


私は心配になってペタペタとロビン君の体をさわる。


「だ、大丈夫ですよ!もう治してもらいましたから!」


「やっぱり怪我したんだ!う~」


「ま、こいつにはいい経験だよ。なまじ腕がいいせいで今まで怪我といえる怪我はなかったんだから」


「怪我なんてない方がいいです!そうだ!今度からロビン君が依頼を受ける時は私を呼んで。絶対付いていくから!」


「うわっ!アスカ、あんたって重たい女だったんだね」


「ちょっ!それは聞き捨てなりませんよ、ジャネットさん!ロビン君、ちょっと私を抱いてみて。そんなに重くないって証明に」


「ええっ!?そんなの無理ですよ。大体、ここって宿の食堂ですよ」


「エレンちゃんたちが見てる方が分かりやすくていいよ。ほら」


私が早く早くと促すと、渋々ロビン君は私を抱き抱えてくれた。


「こ、これでいいですか?」


「うん。私重くないよね?」


「むしろ、軽いです。それにいい匂いが…」


「えっ、あっ!?そ、そのこれは違うの!私は軽いってことを証明したくて…」


「アスカったら大胆ね。ロビン君に横抱きさせるなんて」


「エ、エステルさん!これには事情が…」


「なんでもいいけどそろそろ降ろしてもらったら?お姉ちゃん」


「そうだ!ロビン君もう降ろして」


「嫌です。アスカさんを抱き抱えられるなんてチャンス、滅多にありませんからね」


「そ、そんなのロビン君の彼女に悪いよ」


「僕に彼女はいませんよ。アスカさんみたいな人なら大歓迎ですけど」


その言葉に私は顔が真っ赤になる。こんなかっこいい人にそう言ってもらえるだけでも嬉しいのに。私だって一応年頃の娘だし。


「そんなの急に言われても…冗談とかじゃないよね?」


「僕はアスカさんみたいに嘘を付こうなんて思ってませんから。何年でも待ちますよ」


「ま、前向きに善処します…」


抱えられたまま真剣な顔を向けられて、私はそう返すのがやっとだった。そして3ヶ月後…。




「何年でも待つんじゃなかったの?」


「ああ言うのは建前っていうんだよ、アスカ」


「くぅ、可愛かった頃のロビン君に騙された気分だよ」


「ハイハイ。うちのお嫁さんは純真ですね~」


「悔しい、なにも言い返せない…」


「ほら、それより式が始まるよ。折角、アスカの希望を取り入れたんだからちゃんとしないと」


「分かってますよ~だ」


「ふふっ、それじゃ行くよ」


「はい、あなた…」



ロビン編 了

うかつな嘘はよくないということで書きました。でも途中からエイプリルフールの話ではないですね。反省してます。

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