神界騒動 アラシェルの勘違い
※アラシェルは駄女神ではありません。力を抑えているためちょっと考えが短絡的になっているだけなのです。
「大変、大変、たいへ~ん」
「どうしたんだいアラシェル。また騒いで」
「または余計なの。大変なんだよ」
「はいはい、それは分かったから理由を言いな」
「えっとね…アスカが消えちゃったの!」
「はっ!?」
余りの発言に口をぽかんと開けてしまう。いや、アタシも暇で下を見てたけど、確かにいたと思ったんだけどなぁ。ひとまず、地上で異変が起きていないか確認する。…うん、特に異常は感じられない。となると、何か強い魔物とでも遭ったのか、アースホールとか言う1キロ近くもある変わった魔物でも生まれたのか?
「アタシが見る限り異変はないけどね」
「異変とかじゃないの。アスカがいないんだよ!」
「いやいや、やばい魔物が出たわけでもないし、ありえないでしょ」
「じゃあ、もっとちゃんと覗いてみてよ、グリディア!」
「あ~、はいはい。よっと…」
力を抑えるためにちびキャラ状態のアラシェルが耳元でうるさいので仕方なく地上に目をやる。ん?確かにアルバに今はいないな。でも、確か…。
「ほらほら、いないでしょ!私の言った通りなんだから」
「ん?また何騒いでるの?」
「騒いでないよ。大変なの!」
「いや、だから…まあ、それはいいわね。で、どうしたのアラシェル?」
「アスカがね。消えちゃったの」
「アスカが?あなたの加護を持ってるのに?」
「そうなの…私の加護持ってるのに」
「わっ!バカっ!」
「えっ、あっ。そ、そうなの、でもきっと大丈夫よ。まずはどうして気付いたか教えてくれるアラシェル?」
危ない泣きに入るところだったわ。このモードの時は本当にお子様だから手がかかるわね。オトナモードですぐに説教してくる姿とはえらい違いだわ。
「しばらく、色んな人を選別してたからアスカを見れなかったの。それで、数日ぶりに見たらアルバにアスカがいなかったの」
「でも、アスカだってレディトとかエヴァーシ村まで出かけることがあっただろ?」
「それが…ひと月先もふた月先を見てもいないの!」
「へぇ、そりゃ慌てるよね」
「でしょ、だから騒いでるんじゃなくて大変なんだよ」
それを騒いでるっていうんだけどね。
「だけど、この前旅に出るって言ってたよね。そっちの線はないのかい?」
「旅?誰が?」
「いや、アスカが」
「そんなの私聞いてないよ」
「えっ、でもアスカってアラシェルに毎日祈りをささげてるわよね?それでわからないの」
「うん。でもあれは大人の私に祈ってるから私には来ないんだ。一応、2月に一度ぐらい共有してるけど」
「えっ!?別にモードが違うだけで一緒の存在よね?」
「ん~、そうなんだけど、やっぱり神様ってどういう姿でどう思われてるかっていうのも大事だと思うんだ」
「そんなつまんないことにこだわってないで、さっさと同期しな。いいかい、今アスカは旅に出てるんだよ。今はアルバの北にあるショルバって街にいるよ」
「ええ~、たった数日見ないだけでなんでそんなことに…」
「まあ、人間の寿命は短いからしょうがないわよ」
「とりあえず見てみる」
じーっと地上を見るアラシェル。それからしばらくして満足したのか顔を上げる。
「ほんとだ。この町にいるんだね。よかった~、てっきり何かに巻き込まれたのかと…」
「まあ、あれだけの力があったらそうそう巻き込まれないだろ」
「ふっふ~ん、グリディアは甘いね。この世界、というか他の世界も含めると何が起こるか分かんないんだよ。アルトレインじゃ他の世界からの召喚は基本認められてないけど、他の世界は違うんだよ。突然異世界にポーンと飛ばされたり、引き込まれたりするんだよ」
「それって大丈夫なのか?」
「まあ、発展重視の世界だしね。異界から異なった力とか考えを取り入れることで進歩を促すんだよ」
「でもさ~、それって元の世界の神様とか怒んないの?わたしは嫌よ。巫女が名前も知らない神に盗られるなんて」
「まあ、影響の少ない人物が選ばれるからね。シェルレーネもいつもすべての人は見てないでしょ?注目されない人間が一人消えたぐらいじゃ、世界は歪まないからね」
「そういや、アタシの加護を持ってた中にも行方が分からなくなった奴がいたなぁ」
「でしょ!一応ここも結界が張られてるけど、まれに穴から呼ばれちゃうんだよ」
「でも、あんたの加護を持っている奴が行ったらまずいんじゃないの?」
「いや、そこそこ才能はあったけど、何とか国一番に成れるぐらいだった。それぐらいなら何人もいるからどうかしたのかと思ってたんだけど」
「それより今はアスカだよ。はぁ~、よかった~」
神界で上下左右に移動しながら下界を見るアラシェルはまさに子供そのものだ。心なしか最近精神年齢が下がった気がする。そんな風に思っているとシェルレーネがじっと見てきた。
「ん?どうした?」
「前から思ってたんだけど、あんたとジャネットって似てるわよね」
「あ~、まあ、一応子孫だしな」
「子孫!?あんた、いつ地上に降りたのよ!無断で降りるのは厳禁のはずよ」
「いや、シェルレーネより前に降りただろ?」
「えっ!?私が降りたのって数千年前よ?あんたの言う子孫って…」
「そろそろ500代ぐらいになるかもね」
「うわ~、聞いたアラシェル。あんたはこんなに愛の重たいやつになっちゃだめよ」
「シェルレーネは結婚しなかったのか?」
「するわけないでしょ!30ぐらいまで面白おかしく生きた後、飽きたから帰ってきたわよ」
「もったいないことしたな。まだまだ文明は発展してなかったけど楽しかったぞ」
「いや、10000年近くも結婚相手の子孫を追い続けてるって病んでるわよ。普通そういうのって3、4代まででしょ」
「そうは言うけどさぁ、相手に孫が似てるとその孫のさらに孫はどこか似てる訳だろ?気にならないか?」
「ならない!そこまで来たらもう面影じゃなくて別人でしょ」
「そうかなぁ」
「アラシェル、どうかしたの?」
「ス、ストーカーの本物だぁ!」
「なっ、そんなんじゃねぇって!」
「いちまんねんも追いかける神様なんて初めてだよ。本体に連絡しとこ」
「ちょっ、本体って転生神か?」
「うん。こっちに干渉は出来ないけど、信号を送って連絡するぐらいはできるの」
「やめろ!そこに連絡されたら全世界に知れ渡るだろ」
「いいんじゃない?そんな危ないストーカーを生み出さないように注意喚起出来て」
「いや、ストーカーじゃないって!アラシェルだって、アスカの子孫ならそれぐらい追うよな?」
「えっ!?う~ん、どうだろ?いっても別人だしなぁ」
「でも、あれだけ熱心に見てるんだろ?」
「まあ、そうだけど。でも、どっちかというと転生させて初めて私を呼んでくれたって言うのが大きいしなぁ。そりゃあ、息子とか娘は気になるだろうけど、流石にずっと見るかといったらなぁ。まあ、毎回巫女に選ばれるかもしれないけどね」
「そうよね。わたしもそうだけど、特に才能がなくても巫女になれるから毎回巫女に血族がなるなら可能性はあるわね」
「そんな…アタシって重かったのか」
「大体、そんなに気になるなら使いとして死んだら呼べばよかったんじゃない?」
「それはダメだ」
「何でよ?」
「アタシは下にいる時は自分がどういう存在か誰にも言わなかった」
「まあ、言う必要ないし普通言わないわよね。神の因子があるだなんて」
「だから、あいつが死んでこのアタシが呼ぶのは違うと思うんだ」
「はぁ、あんたがどうしていつまでも中級神なのかわかったわ。まさか、性格に難ありだなんて。これはしばらくは上がれないわね」
「それじゃ、アスカも確認できたし私はこれで」
「アラシェルどこ行くんだ?」
「日記書きに行くの」
「何に使うんだ?」
「趣味!」
「ああそう。あんたもあんたで神格上がらなさそうよね」
「神格よりアスカだよ!えっと…今日は探していたアスカが見つかりました。まだ小さいのに旅に出ていたみたいです。今後はもっと探しやすくするために光の神の残滓を利用したいと思いましたまる」
「おい、口に出てるというか地上に過度な干渉は禁止だぞ」
「大丈夫。神の残滓に干渉するだけだから」
「ならいいのか?」
「ヤバい。まじめに仕事してると思ってた中級神と新しい神が思ってる以上にヤバかった。誰がこれを見るのよ」
「おおっ、いいところに3柱揃っておるな」
「ガンドル様!このシェルレーネ、実はお願いが…」
「この度、我らで会議をしてな。久しぶりに生まれた神の補助役としてグリディアが任命された。さらにその補佐役はシェルレーネだ。仲良くは…大丈夫だろうが、ちゃんとやるんだぞ」
「はいっ!ガンドル様!」
「はっ、拝命いたします」
「あの…私の補佐はどちらの…」
「分かっておるな?任せたぞ。大丈夫じゃ、何かあると思ったらお前の直感スキルが何か感じるじゃろ」
「人任せかよ…」
「何か言ったかの?」
「…拝命いたします」
こうして、人知れず2柱のお目付け役となった私だったが、前途多難である。何せどちらも主張が強い。
「ちょっと、先を見てみるか。おっ、何だまだまだ血統は続いていくんだな」
「それより、こっちだよ。仕事はほどほどにしてどこに行ったか分からなくならないように見とかないと」
「あんたら今週の仕事は?」
「3日でまとめてやる」
「きょうはしゅーりょー。続きは明日しま~す」
「早く上級神になりたい…そうだ!神託を出そう!そうすればもっと信仰が広がるわ。何なら過去の私にも伝えて実績を水増ししないと!」
今日も平和な神界でした。なお、神託が増えたシェルレーネ教は大衆化し信者が増えたものの、神秘性が薄れ熱心な信者が減り、大勢には影響を及ぼしませんでした。
おかしい、”神は偉大なり”そんな言葉があるぐらい素晴らしい存在なのにどうしてこうなったのか…。