短編 エステルとノヴァのほのぼの生活
何というか短編を書くにあたり、一番のんびりと生活している二人です。
「ただいま~」
「おかえり、ノヴァ。ご飯できてるからね」
「おっ、今日は鳥の照り焼きか~。旨いんだよなこれ!」
「ノヴァ好きだものね」
「おう! あと、これ土産だ。今日はオークアーチャーの肉だ」
「ありがとうノヴァ。いつも通り、フィーリン(フィアルの店)に半分は使わせてもらうわね。でも大丈夫なの? 衛兵の仕事って肉は本来分けてくれないんでしょ?」
「まあな。でも、俺はマジックバッグも持ってるし、その分の代金も払ってるからな。大体、今の守備隊の中じゃ強い方だしへ~きだぜ」
「じゃあ、ありがたくいただくわね。残った分は明日にでも煮込み料理にして出すから」
「頼んだぜ! でも、エステルは店長なんだろ? こんなに早く帰ってきて大丈夫か?」
「ええ、今の副料理長は朝食の仕込みまでなら出来るから」
「わりぃなこっちに合わせてもらってよ」
「それぐらいいいわよ。ノヴァはみんなの町を守ってくれてるんだし。それで、東門の門番はまだ固定なの?」
「そうだな。今鍛えてる連中の腕がもうちょっと上がったら何とかなるかもな。それまではずっと固定だ」
ノヴァが東門の専属衛兵として働き始めてもう数年も経つ。しかし、衛兵の実力は中々底上げできずにまだ専属のままだった。腕が良いから任されてるのは分かるんだけど、やっぱり私としては心配だ。それだけ危険なところで守ってるわけだし。
「でも、いつになく最近ノヴァ張り切ってるわね。どうしてなの?」
「そ、そりゃあ、俺もエステルと結婚してもう五年も経つだろ? エレンにもディースさんにも先を越されちまったし、そろそろな……まあ、エステルも店長と料理長の兼任だから難しいと思うけどな」
「ノヴァ、それって……」
「俺に似てたら心配だけど、きっとエステル似だと思うぜ!」
「もう! でも、もうちょっと待ってね。あと三か月ぐらいすれば店の体制も整うと思うから」
「そっか。それはそうとして普通には良いんだよな?」
「いちいち聞かないでよ。恥ずかしいじゃない」
「俺はお前みたいに賢くないからな。毎回言葉で確認しないとな」
「ノヴァ……直ぐに洗い物済ませてくるからね」
エステルがキッチンに行くと俺は腕を組んで考える。
「う~ん、兄貴に頼んでこの家にも風呂作ってもらおうかな。確か、レディトの宿とも提携して個人用の風呂も大きさ選べたはずだしな」
片手間でも冒険者をやっていてよかった。やっぱり、あっちの方が実入りは良いからな。ちょっとした改築なんかも臨時のパーティー参加で稼げるし。
「まあ、折角のエステルとの休日がつぶれんのは残念だけどな」
「何か言ったノヴァ?」
「いいや、エステルはやっぱ綺麗だなって」
「もう、お世辞なんてどこで覚えてきたのよ」
「ほんとだって!」
「なら、証明して見せてよね。それだけほれ込んでるって」
「任せろ」
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「こらリーザ! また男を泣かして」
「父さん、私より弱いあいつらが悪いのよ」
「全く、料理の片手間に習いたいっていうから教えたが、護身術なんて教えるんじゃなかった……」
「まあまあ。それより父上、僕の稽古を見てくださいよ」
「カルナック、もう十分じゃないか?」
「いいえ、父上の跡を継いで将来は衛兵隊長になるんです。このぐらいで満足できませんよ」
あれから十数年、一女・一男をもうけた俺たちの家は騒がしくなっていた。エステル同様に料理は得意だが、俺の格闘術の才能を引き継いだ長女は街で暮らすというのに、自分より強いやつじゃないと結婚しないと言っている。街に住んでいる人間は精々、馬車で王都へ行くぐらいまでなのに何をそんな力を求めているのか。
「あなた達、またノヴァに迷惑かけて……。程々にしなさいよ」
「店長! じゃなかった、母さん。そういうけど、大事な娘が嫁に行ってもいいの?」
「その娘が悩みの種なんだけど。貴方、もうそろそろ落ち着きなさい。いくつになっても男に混ざって喧嘩しないの。この前、ジャネットさんにも言われてたでしょ?」
「ああ~、ジャネット様! 素晴らしい腕前でした。私が異性なら絶対に結婚を申し込んだのに……」
「はぁ、護身術を習い始めた時に力がつけば食材の荷運びが楽になるなんて思わなきゃよかったわ。カルナックも守備兵になったのなら、隊長の休日をあまり取らないの」
「そんなこと言って母上が父上とデートしたいだけでしょう?」
「そ、そんなことないわよ。普段から買い物に付き合ってもらってるし……」
「買い物って、店の買い出しでしょ?そんなんでうれしがるなんて母さんたら、純情なんだから」
「こら、リーザもカルナックもエステルをからかうなよ」
「「は~い」」
「全く、こういう返事だけ口をそろえるんだから。困った子たちね」
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それからさらに数年後……。
「今日で俺はアルバ守備兵の任を解かれる。これまで、みんなよく俺の指揮に従ってくれたな」
「いえ、隊長のお陰で以前より戦死者も減ったと聞いております。我らはさらに努力を重ね、よりよい結果が出せるよう精進いたします!」
「うむ。無念に散っていった者たちのためにも頼んだぞ」
「では、アルバ守備隊隊長ノヴァ!」
「はっ!」
「本時刻を持って、その任を解く。また、長年にわたる治安向上と兵の質の向上に報いるため、一代限りではあるが、リンガー伯爵より騎士爵に任ずる旨、頂戴している」
「お……私が騎士ですか?」
「うむ。ここに居る者たちは知らぬかもしれぬが、元々アルバはオークも珍しいような土地であった。それが、現在のようにオーガやオークの亜種が住む地域になった。さらに、ノヴァ殿はあのハイロックリザード強襲時にもその剣を振るった町の英雄のひとりだ。危険が増し衛兵にも犠牲者が出る中、多大な貢献をしている貴殿にならとのことだ」
「身に余る光栄です」
「少ないながらも今後十年は騎士爵として特別手当が給付される。すぐに剣を置かれるとは思わぬが、旅に出るなり、家族に何かするなり役立ててくれ」
「ありがとうございます!」
「で、騎士になったって訳?」
「そうだ。でも、正直まだ信じられん。俺が騎士なんてな」
「そうね。ノヴァが騎士なんて、傭兵にでもなって手柄を立てない限りありえないわよね」
「そこまで言うことはないだろう、エステル」
「なら、冒険者になってから今までを振り返って、何か騎士らしいことをしたことある?」
「それぐらい…何かあったか?おおっ!あったぞ」
「何よ?」
「エステルに告白された時は紳士だった」
「ばっ!な、何変なこと言い出すのよ。大体何十年前よ」
「いやいや、あれは中々忘れられんな。今でも昨日のことのように思い出せる」
「くっ!」
「じいちゃ~ん、稽古つけてくれよ~」
「おお、トリスタンか。相変わらずお前は剣一本だな」
「だってさ~、ジェシカさまを守りたいんだもん」
「ジェシカさまってジャネットの孫のか?」
「うん!」
「彼女はれっきとした貴族だぞ。お前のような平民が仕えるのは難しいだろう」
「それじゃ、剣を習ってもダメなの」
「ダメということはないが…ん?俺は今日から一応騎士爵だからな。もしかしたら推薦できるかもしれん」
「本当、じいちゃん!」
「ああ。だが、俺が騎士でいられるのは10年だけだ。それより前でないと推薦は出来んぞ。もちろん、今の腕でもな」
「俺結構強いと思うけど?」
「この街ではな。だが、ジェシカさまもジャネットの孫だろう?ジャネットには俺は一度も勝ったことがないからな。少なくとも俺に負けないようにならんと話にならんぞ?」
「それ本当?」
「こんなことで嘘をついてどうする。しかし、修行相手か。アスカの孫にでも…」
「ノヴァ、それはやめなさい!」
「そうだな。やる気を削ぐのはよくないな。後、俺の知り合いって言うと…ベイリスさんの孫がいたな」
「それこそだめよ。あの子は戦闘狂でしょ。ベレッタさんのところはどうかしら?」
「ああ、確かサンディだったか?」
「げっ、サンディかよ。あいつ、双剣で手数が多くて嫌なんだよ」
「騎士を目指すのに苦手も何もないだろう。よし!俺が今から双剣ではないが、2刀流を見せてやる!」
「じいちゃん出来るの?」
「当たり前だ。ナイフと剣の2刀流だが、まだまだその辺の奴らには負けんぞ!」
「ほどほどにね、ノヴァ」
「分かっている。腹を空かせて帰ってくるから飯を頼む」
「任されました」
「それと…」
「何?」
「旅行先を考えておいてくれ。ようやくお前を連れて行ってやれる。ちょっと遅いが新婚旅行だな」
「なっ!?何を言ってるの今更…」
「だからだよ。この歳になって恥ずかしいもないからな。どこでも連れて行ってやるぞ?」
「…分かったわ。考えておく」
街に残った当初は旅に出たアスカたちをうらやましく思ったこともある。だけど、いつの間にかそんな考えは吹き飛んでいた。それもこれもエステルのお陰だ。どこに行くというか分からないが、どこへでも連れて行ってやるよ!!
Ende
ノヴァ騎士爵の次回生にご期待ください!という訳で、2人の街での生活を描いてみました。街を守る衛兵と街を代表するレストランの店長。残念ながらほとんど街の外に出ることのない2人の生活でした。でも、充実していたようです。