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エステルとノヴァの仕事探し

 


 アスカの旅立ちを見送ったその日、俺とエステルは鳥の巣の食堂でこれからの話しをしていた。


「でさ、街に残るのは良いんだけど、俺はこれから何の仕事をしようかなって思ってよ」


「前みたいにアルゼイン建築で働くのは駄目なの?」


「駄目っていうかあそこは冒険者としてやってくのに未熟だから、最低限の力を付けるために働いていからな。流石に親方に悪いよ。もう出る話しはしちゃったしな」


「そっか。じゃあ、やっぱり冒険者としてやって行くの?」


「いや、それはあんまり考えてないな」


「どうして? それ以外だと私は思いつかないけど?」


「そうだけどよ。やっぱり冒険者でずっとやって行くのは危険だし、もし俺に何かあったらエステルはどうするんだよ? 新しい旦那でも探すか?」


「ば、バカ言わないで! ノヴァ以外なんて嫌よ!!」


 な、なんか直接言われると恥ずかしいな。みんな居るし。


「ヒュー、お二人さん熱いねぇ」


「おじさん、飲み過ぎですよ昼から……」


「何言ってんだ。アスカちゃんも旅に出て、エステルちゃんはお手付きになっちまって、これが飲まずにいられるかよ!」


 エステルの制止も何のその、おっさんは再び飲み始めた。あれは放っておくしかないな。エステルのやつもそう判断したのかこっちに向き直った。


「で、そんなこと言ってノヴァには当てがあるの?」


「ない!」


「自信満々に言わないでよ……」


「なんだノヴァ仕事探してんのか?」


 俺たちの話しを聞いていたのか、よく鳥の巣に昼を食べに来るおっさんが話しかけてきた。駄目もとで聞いてみるか。


「おっさんも何かしらねぇか? そりゃ、俺には剣しかないと思うけど、それでもあんまり冒険者としてやってく気はないんだ」


「ん~、仕事かぁ~。そういや、最近は町の守備兵の募集が出てたかな? お前にはぴったりじゃないか。町にいられるし、間接的にエステルや孤児たちを守れるぞ」


「衛兵か……」


 う~ん、いいとは思うけど安全とは言い難いよなぁ。


「だけどな、このままじゃ厳しいからな。言葉遣いは偉くならないならそこまでいらないが、相手に手出しは厳禁だということを証明しないといけないぞ!」


「そうよね。ノヴァにそれは難しいかも……」


「エステル、なんでだよ。出来るってそれぐらい!」


 俺だって成長してるんだ。さすがに最近はすぐに殴ったりしねぇと抗議の声をあげた。この前だって揉めただけだしな。


「そうかしら? ノヴァといったら私の中じゃ盗みか喧嘩なのよね」


「いつの話だよ。そんなのもう何年もしてないぜ」


「そういや、ノヴァの喧嘩してる姿を久しく見てねぇな。前は金がないのを当たり散らしてたこともあったのによ」


「そ、それは冒険者始めてすぐの頃だろ? 何年前の話しだよ」


「どうだろうなぁ? 金がある今だけかもしれんしな」


 しつこいおっさんだな。話題を変えてみるか。


「それより、受かりやすくなる方法とかないのか?」


「あるぞ」


「ほんとか!?」


「でもなぁ、俺もまだ飲み足りないし思い出すのに時間がかかりそうなんだ」


「分かったよ。いくらでも飲んでいいぞ。でも、ちゃんと教えろよな」


「よっしゃ! エステルちゃん、つまみ三人前とエールを四杯だ。もちろん、グラスが空いてからだぞ? この店のは冷えててうまいからな~。夏にぬるいエールを飲まなくていいなんて、贅沢な宿だぜ!」


「分かりました。少々お待ちください」


「んで、おっさん。方法は?」


「街のな、商店や有力な知り合いに推薦状をもらうんだよ。町の衛兵っていや門番として立つか街を巡回するかだが、どっちにしろ街の人間から信頼されるのも重要だ。そこで有力者や商店なんかに推薦をもらえるってことはかなり評価が上がるんだ。ただし、問題を起こしたらそっちにも迷惑がかかるから気を付けろよ」


「それなら、俺でも取れそうだぜ! 早速兄貴に話してこよう」


「おい待て! そんなところに行かなくてもここで頼め。住まわせてもらっていたアルゼイン建築より無関係なこの宿からの推薦の方が効くぞ。それに、この宿の先代って昔は街の上役だったからな。今の役員たちも早々無下には出来んだろう」


「へ~、おっさん詳しいな。ありがとよ」


「そういうならまた今度奢れよ」


「わぁったよ」


「お待たせしました。ノヴァ、大丈夫そうなの?」


「任せとけ! 絶対受かって、エステルたちを守ってやるからな!」


「あ、ありがとう」



 俺は宿にいたおっさんから話を聞いて、直ぐにライギルさんに推薦状をもらって、町の守備兵の募集に応募した。


「で、途中に夜勤が挟まるが大体、月二十二日ぐらいの労働だ。後、君には悪いが働いてもらうなら町の東側の専属にしたい」


「どうしてだ……いやなんです」


「話し方はそう堅苦しくなくていい。君も冒険者なら町の東側の魔物が強くなったのは知っているな?」


「ああ」


「以前までの守備兵の基準は二、三人いればオークが相手に出来る程度だった。それで間に合っていたからな。だが、最近では町の近くにオーガが出るようになってしまって、今までの衛兵では太刀打ちできないのだ。かと言って募集時にそれでいいと言ったのはうちだし、首にもできん。でだ、実力者の君ならオーガも倒せるね?」


「まあ、流石に四体五体となったらわからないけど、二体ぐらいなら簡単だぜ!」


「だから、君には東側の専属守備兵として勤めてもらいたい。もちろん、その分の手当ては出す」


「いいぜ」


 危険なのは避けたいけど、結局エステルたちを守るのには都合がいいしな。そのうち、他にも強いやつが来るだろうし。俺はそう思ってすぐに返事をした。


「本当か!? しかし、こういっては何だが君の危険度は増すのに良いのかい?」


「ああ、今の話が本当なら俺以外のやつが守ってる時に街に魔物が入ってきちまうかも知んねぇんだろ? エステルやみんなを守りたいからな!」


「ありがとう! すぐにでも働けるように上司にも掛けあうからな!」



 ---

「そう言って雇ってくれたのは良いんだけどよ。なんだよ、この月給銀貨九枚ってのは。安すぎないか?」


 衛兵として初めて東門に立ちつつ俺は呟く。今は特に仕事もないから契約書類の確認をしている。今日正式に発行されたものだ。


「なんだノヴァ、給料も見ずに衛兵になったのかよ。そりゃ、冒険者のお前からすりゃそんなの端金だろうな。だが、ちゃんと魔物と戦闘があれば特別手当も出るぞ。オーク以上だと危険手当もだ!」


「オークぐらいで危険手当とか大丈夫なのか?」


 特に強い魔物でもないのに簡単に特別報酬んなんて出したら大変なんじゃないか?


「お前はそういうけど、俺たち普通の衛兵や一般人からしたらあの体格は恐怖だぞ。大体、俺がなったころは月に銀貨七枚だったんだから文句言うなよな」


「それならまあいっか。はぁ。暇だし剣の練習でもするか……」


「まてっ、ノヴァ!」


 俺が剣を抜こうとすると、すごい勢いで止めて来た。何かあるのか?


「なんだよ。別にいいだろ暇なんだから」


「そうじゃなくて、むやみに剣を抜かないでくれ。衛兵が武器を持ち出すと旅人たちも何かあったのかとビビっちまうからな」


「げっ! そうなのか……。しょうがない、明日ゲインのおっさんに木剣でも売ってもらうか」


「それなら別にいいと思うぞ。にしてもお前もまじめなんだな。わざわざ暇な時間に訓練なんてよ」


「そういうけどな、毎日振ってないと腕が錆びるぞ? まだ剣術LV4の俺でもそうなんだから、お前も気を付けた方がいいぞ」


「げっ、ノヴァって本当に強かったんだな。俺なんてまだLV2だぞ」


「ジャネットなんてLV6だからな。あいつはやばいぞ。俺でも勝てる気がしないからな」


 それどころか稽古で一本取るのすら難しい。


「あの人そんなに強かったのか。通りで周りも一目置くはずだ」


「でも、こうしてると暇だな……ん?」


「どうした?」


「いや、なんか気配がしてな。ちょっと見てくる!」


「お、おい!」


 門からしばらく進むと、森から旅人らしき人間が出てきた。


「その恰好、町の衛兵か! 助かった、奥に魔物が!」


「任せろ!」


 出てきたのはオークガーダーだ。オークの亜種で槍や棒状の武器を使うやつだ。結構色んな攻撃にも対応するけど、所詮はオーク。そこまで器用じゃない。


「はっ、やっ!」


 最初に剣の一撃、そして続けざまに切り返して最後は左手のナイフで仕留めた。


「まっ、所詮は一体だな。これぐらいなんでも……っと」


 トスッ


 気配を感じ身を引くと、近くの木に矢が刺さった。どうやら奥にまだアーチャーがいたみたいだな。こいつは逃すと面倒だから即倒さねーとな。弓を射った地点を予測してナイフを投げる。


 ブツッ


 どうやら狙い通りに当てられたらしい。近づいてみるとオークアーチャーは倒れていた。


「なんだよだらしねぇなぁ。まっ、苦労せず倒せたしいいか」


「き、君、大丈夫だったか?」


「おっさんこそ怪我はないか?」


「あ、ああ、必死で逃げたからな」


「なら、とりあえず詰所に来てくれ。報告書を書かないといけないからな。その前にっと」


 俺は倒した魔物をマジックバッグに入れると詰所に向かった。


「ノヴァ、何かあったのか?」


「ああ、オークの亜種が出てきただけだった」


「だけって、よく倒せたな」


「あれぐらい普通だろ?」


「そ、そうか。俺も頑張らなくちゃな」


「とりあえず俺は隊長のところにこの人連れて報告に行くから」


「ああ」


 俺は早速、働いたことを伝えに隊長のところに行く。


「で、倒した魔物は?」


「ちゃんとマジックバッグに入れたぜ。でも、衛兵になったらそのまま持ち帰りは出来ないんだろ?」


「ああ。悪いが取り分の半分は守備隊の運営資金に回る。残りの半分が当日対応した人間のものだ。買取もこっちからギルドに渡すから、奥においてくれ。残念だが対応した人間というのは戦っただけでなく、該当の門番の当日担当者全員と、応援を呼んだらその分の頭割りになるからな」


「それは良いぜ。見張りがいないと町が大変だしな」


「すまんな。冒険者上がりのやつはこれが納得いかない奴が多くてな」


「昔の俺だったら文句言ったかもな。でも、倒してる間に門を破られたら意味ねぇし、全員で分けるのは分かるぜ」


「ありがたい。じゃあ、報告書だが……」


「一応書いたけどこんなもんか?」


「ちょっと読ませてくれ。ん? ノヴァ、このオークガーダーとアーチャーのよくいるレベルってどの程度なんだ?」


「そう言われてもな。特別強い個体じゃないってことだけど」


「あいつらがそもそも強いということではなくか?」


「いや、弱いだろ? 隊長だって腕良いんだろ?」


「それはそうだが、戦い方とかで気になる点は?」


「言ってもガーダーは三撃、アーチャーはナイフ投げただけだから分かんねぇな」


「う~ん。冒険者ギルドに身辺調査で問い合わせたら、『フロートはそもそも依頼達成100%のおかしな集団だから常識が通じない』って言うのは本当だったのか」


「何ぶつぶつ言ってるんだ? 俺なんてパーティーで一番弱いんだからこんなもんだよ。他のやつなら反撃じゃなくて先攻して倒してるぞ?」


「弱い? 確かに先攻されたなら弱いのか? いやいや、弓兵相手に先攻取る前衛はおかしいだろ? 相手は森にいたんだぞ」


「お~い、隊長? 聞いてないな。おっさん、こっちの用は終わったし、いい宿知ってるから案内してやるよ」


「本当ですか? いやぁ~この辺は初めてですから助かります」


「おう、任せとけ! なんてったって俺の彼女がやってるんだぞ」


「それは楽しみですね。ですが、門番は良いのですか?」


「ああ、報告のために代わりの人間が行ってくれてるからな。宿って言っても近いし大丈夫だって」


「ではお願いします」


「おう!」



「お~い、エステル。客だぞ~」


「あら、ノヴァ。今日は初出勤じゃなかったの?」


「そうだったんだけどな、魔物が出て来てこの人が襲われてたんだよ。今は報告が終わって宿に案内したとこだ」


「そうなの? いらっしゃいませ」


「はい。おい、綺麗な方ですね。うらやましいですよ」


「だろ? でも、料理だってうまいんだぜ」


 小声でおっさんと話す。中々わかるオヤジだ。


「受付はこちらです。後、三十分ぐらいで夕食が出来ますからね。最終は二十時の鐘が鳴るぐらいまでには来てください」


「分かりました。では、記帳します」


 こうして、俺たちのアルバでの日々が過ぎていく。アスカたちには悪いけど、やっぱ俺にはこの町が合ってるな。それからしばらくして、アルバの書店には一冊の本が並んだ。それはアスカが読んでいた小説の最新刊だ。



「はい、おばあさん。これ最新刊です」


「おや、エステル。久しぶりだね。行き詰っていたのに続きが書けたんだね」


「お待たせしてすみません。ようやく書けるようになりました」


「意地悪な魔法使いはどうなったかね?」


「意地悪な魔法使いはいませんでした。でも、少年は町に残ることにしたみたいです」


「そうかい。そりゃよかったねぇ」


「どうでしょうか? 少年は広い世界を見に行けたチャンスをふいにしてしまったので……」


「いいんじゃないかい?」


「え?」


「広い世界って言っても、良いものとは限らないよ。それに、大人になれば好きなように行けるさね。それこそ好きな相手と一緒にね」


「そうですね……そうなるといいですね」


 私も本の主人公に負けないようにしなくっちゃ!



結局、機会がないので明かされませんでしたが、アスカが読んでいた小説『まちびと』の作者はエステルです。最初は何とかお金を稼ぐために色々手を出して作ったものでした。エステルがアスカを悪女だと思っているわけではなく、アスカの旅をするために外に出る考え方と、エステルの安心して街で暮らすという考え方の違いが出たものでした。えっ、そんな話あった?という方はぜひ再読を!長い?だらりと読書とストックと鉄板に話が載ってるみたいですよ。

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