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短編 エレンとフィクスの生活

「はぁ~、今日も疲れた~。おねえちゃんが旅に出たらおかしい人が落ち着くかと思ってたのに、行き先聞いてくるなんて……」


「まあ、それも少しの間よ」


「エステルさんは良いですよね。彼氏が色々やってくれて。フィクスは凄んでも、かわいいから~」


「あら、エレンもしばらく私が休んでる間に大胆になったわね」


「お母さん! もう、店に出られるの?」


「一時間ぐらいならね。悪いけど最初は人の来ないこの時間帯だけになるけど」


「いいよ~、わたしの時も大変だったんでしょ? お父さんに聞いたよ」


「あの時はまだ父さんが居てくれたからね。今はエレンがいるけれど」


「任せてよ! もうしばらくしたら料理人も連れてくるからね!!」


「エレンはしっかりしてるわね。将来有望な料理人を捜してくるなんて」


「ま~ね。わたしは料理苦手だから、そういう人を前々から捜してたんだ」


「誰に似たのかしらね、家の次女は」


「長女に似てないのは確かだよ」


「エレンったらアスカがいなくなって落ち込むのかと思ったら案外元気よね」


「宿を守らないといけないし寂しかったのに、おねえちゃんったら去り際に細工が間に合わないとか言い出したんだよ? 涙も引っ込んじゃったよ!」


「それが計算でないところが、うちの長女の才能よね」


「ミーシャさん、アスカのあれが計算だったら私もう誰も信じられませんよ」


「ふふっ、そうね。そろそろ新しい町についた頃かしらね?」


「もう出発して四日ですよ。流石に着いてますよ」


「いや~、わかんないよ。おねえちゃん、王都には絶対行かないって言ってたし、案外まだ野宿してるかも?」


「そんな筈ないわよ。女二人に男一人よ? 冒険者って言っても街道を経由してるわよ」



 その頃アスカたちは……。


「もう少しで細工の町に着きますか?」


「多分ね。王都から一日半ぐらいだから今日中かは怪しいところだけど」


「本当なら王都まで馬車でそこから一日ぐらいで着くんですよね?」


「ああ、だけどリーダーが王都に行けないってんだから仕方ないよ。レディトで一泊してからアルバ東の森を北上して、王都を避けつつ町に向かうなんてあたしも初めてだからね」


「途中に村はないんですか?」


「さあ?」


「さあってジャネットさん王都へよく行ってましたよね?」


「そんなこと言われてもねぇ。村なんて町で依頼がなければわざわざ行くこともないし。ギルドの支部があるところの方が珍しいしね。あったとしてもろくな依頼がないからね。冒険者でそういうことに詳しいやつはあんまりいないよ」


「じゃあ、村の人はどうしてるんですか?」


「大人しく、町のギルドまで来て依頼だね。ほら、そんなこと言って立ち止まってると明日にも着けないよ」


「わっ! 待ってくださいよ~」


 まだ、アルバを出発してから依頼の消化のためにレディトに泊まって、以後はどの町や村にも入っていなかった。




「それでさ、エレンが僕のところに忙しい合間を縫ってきてくれるのは嬉しいんだけど」


「うん」


「その頻度が増えたのがアスカさんが旅に出た後って言うのがね……」


「そりゃあ、おねえちゃんは期間限定の存在だからね!」


「そこは否定して欲しかったかな? でも、会える回数が増えたのは嬉しいよ。おやつは何にする?」


「ん~、たまに作ってくれるあれがいい!」


「良かった。材料が手に入ったところだったんだ。ちょっと待ってね」


「ねぇ、あれってあんなに美味しいのに店頭には出さないの?」


「安定して仕入れできないからね。エレンが思ってるより粉物は運ぶのが大変なんだよ。袋が破れるとひどいことになるしね」


「そうなんだ。ぜひ、宿に来るまでには安定させてね!」


「……分かったよ。商人さんにも頼んでみる」


「その商人さんって店の仕入れの人だよね。店員の注文も取ってくれるの?」


「いいや、買い付けてるのは別の商会だよ。そこの御者さんと知り合ってね。紹介してもらったんだ」


「へ~、その商会の人ならうちにも卸してくれないかな~」


「分かった。今度、ミスティさんに話しておくよ」


「ミス……ティ……?」


「うん。ベール商会っていうところに勤めてる御者さんなんだよ。元冒険者だからエレンも知ってるかもね」


「あ、会ったことはあるけど、どうやって知り合ったの?」


「あそこは輸入商品を扱うところだからちょっと物を覗いてたら、話しかけられてね。宿の話をしたらアスカさんと知り合いらしくてそこから話が弾んで。商会の人を紹介してもらって、それからは仕入れもしてもらってるんだよ」


「よく会ってるの?」


「まあ、向こうも仕入れに他国に行くからね。月に一度も合わないぐらいかな? 一体どうしたのエレン?」


「ミスティさんってとっても綺麗な人だったよね?」


「そうだね。怪我をしたからか腕はちょっと変だけど、それを動きには感じさせないし取引の時も結構声をかけられるんだって」


「だからフィクスも声をかけたの?」


「エ、エレン! それは誤解だよ! 声をかけてきたのは向こうだから!」


「それでほいほいついて行ったの?」


「行ってないって! 商品を見せてもらったりしてるだけだから」


「む~、あれを今すぐ出してくれたら信じてあげる」


「もうちょっとだけ待って、直ぐに作っちゃうから」


「早くしてよ~」


「はいはい。もう、エレンは甘えるのが上手いんだから」


「だって、うちにいたらそんなこと言えないもん」


「ほら、できたよ。みたらし団子」


「わ~い! これ好きなんだ~。食感もいいし、味が独特だしね」


「これも醤油を持ってきてくれたアスカさんのお陰だよ」


「ほんとにおねえちゃんの食へのこだわりには感謝だよ。実は私が一番恩恵を受けてるかも?」


「妹の特権だね」


「その分、悪い虫を寄せ付けないように頑張ったからご褒美だけどね」


「次はいつ帰って来るの?」


「分かんないんだよね~。子どもが生まれたら絶対連れて来てってお願いしたけど」


「アスカさんが結婚かぁ。あんまり想像つかないね」


「そうかな? 案外簡単にいっちゃうかもね~。おねえちゃんは鈍いだけで割と周りも見てるし、押しに弱いから」


「なら、その時までに僕はもっと色々な料理を考えるよ」


「じゃあ、その間の試食係はわたしね」


「もちろんだよ。向こうで働く様になったらそれこそ毎日でも食べさせてあげるからね」


「よろしくね。……旦那様」


「まかされました、奥様」



以上。旅立ちのちょっと後のエレンたちでした。次はフィアルの店です。実は店の名前を考えるのが苦手でまだ店名がないのです。多くの店に名前がないのもその関係です。

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