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キッチン改装

 美味しい朝食を頂いた後は日課の仕事をこなし、お昼ご飯を終えたらキッチンの改装作業なのだけど……。


「意気込んでるところで悪いがアスカ、もうちょい待ってくれ。何とか大工連中に材料だけでも運んでもらうよう言ってたんだが、まだ来てないんだ」


「大工さんも忙しいですし仕方ないですよ。それより材料がなくても剥がすことはできるので、先にいらない部分は剥がしていきましょう」


「確かにそうだな。それじゃあ、道具をすぐに外に運ぶからちょっと待っててくれ」


 十分ほどキッチンで音がしていたと思うと、ライギルさんが入って来いと手招きをする。


「わわっ、本当に物が消えてる」


「ああ、調理器具もほこりが入って欲しくないからな、一緒に避難させた」


「それじゃあ、とりあえずはもらってるオーブンの寸法に切っちゃいますね。エアカッター!」


 手の先に風を集めて鋭利な刃物にする。そして、寸法に合わせて壁を切っていく。木製の壁は瞬く間に切り開かれ、向こう側が見えた。


「これぐらい奥行きがあれば入替式にもできそうかな?」


 簡単に壁の一部を取り外しできるようにして、オーブンが傷んだり改良したものができたりしたら入れ替えられるようにする。その為にちょっと床板を浮かせて薪を使って土台の杭を打ち込んで……。


「ここに板を張れば大丈夫かな?」


「あっ、そこはこのブロックも置いてくれ」


 ライギルさんの指示でブロックも置く。これで杭が傷んで沈み込んでも床は沈まないだろう。後は二か所ぐらい換気口を設よう。これも着脱式で下向きにしておけばいいかな? 材料はあったので先に作っておいた。


「なんだか流行りの組み立て家屋みたい。質も規模も全然違うけどね」


 ライギルさんにも手伝ってもらいながら、一時間ぐらい作業を進める。さっきからライギルさんは届いた後のことを考えてるのか、感慨深そうに穴の開いた壁を見ていてちょっと面白い。


「そんなに待ち遠しいですか?」


「ああ。すまんなアスカ、手間かけさせちまって。あのパンがここでも作れると思うとな」


「じゃあ、出来上がったら一度みんなで市場に行きましょう。せっかく看板メニューになるんですから色々なものと組み合わせてみましょう!」


「そうだな。ギルドに店番を依頼して大々的にやってみるか。人気が出てきたらそんな暇もなくなるだろうしな」


「じゃあ、きちんとした依頼にしといてくださいよ。きっとその後は大忙しです」


「間違い無いだろうな。そうそう、部屋の改装の件も暇な時でいいから頼んでいいか? ミーシャから聞いたけどあれは受けそうだ。ジャネットも欲しそうにしてたから、今度部屋が空いた時にでも作ってやってくれ」


「分かりました。でも、少しずつでいいんですか?」


「急にやって、こっちと重なったら手が回らなさそうだからな」


 そんな話をライギルさんとしているとエレンちゃんからお呼びがかかった。


「二人とも~、きたみたいだよ~」


「ああ、分かった!」


「今行くね~」


「こいつも前の時と一緒で裏に運べばいいか?」


「ああ、そうしてくれ。悪いな頼んじまって」


「こっちこそ、立て込んでて申し訳ねえよ。それにしても井戸の周りも終わってんのか? 結構いい仕事だな。金も弾んだんじゃないか?」


「あ、ああ。そうなんだよ。まあ、こっちも同じ奴に頼むんだけど、これもあって今回はちょっと多めに払おうと思ってる」


「そうしてやってくれ。こんな裏口のところを熱心にやる奴なんざ、あんまりいねぇからな」


「おいおい、本職だろ?」


「だからだよ。店の奴からしたら見えもしないところなんだから、手を抜いて早く安く済ませて欲しいのさ。きちんとやって怒られた時もあるぐらいだ」


「それは災難だったな。運んでくれてありがとな」


「良いってことよ。そうそう、道具もいくつか使うんだったな。置いとくからまた返してくれ。そうだな……四日ぐらいは大丈夫だ」


「じゃあ、とりあえずの料金と残りは返しに行く時な」


「毎度、じゃあな!」


 木を運んで来た人たちが帰っていく。親しそうだなぁ。


「おう、アスカ待たせたな。あそこはこの宿を建ててくれたところでな。こうやって改築や改修の時は世話になってるんだ」


「良いお付き合いですね」


「まあな、それじゃ裏に行こうか」


 運ばれてきたのは見事な木と鉄の板だった。木は張り合わせるとして、鉄も防火用に必要な部分に貼っていかないと。


「どうするアスカ。オーブン自体が届いてないからここまでにするか?」


「う~ん、少しぐらい大きくなっても大丈夫なようにはしてますから、枠だけ作っておきたいです。明日一気に作っても時間取られちゃいますし」


 魔道具を使って図面通りに加工していく。まずは奥側の壁から。こちらは取り替える必要がないので丈夫でしっかりした作りにする。後は換気口をつけられるようにすれば完成だ。


「ここも雨が当たりにくいように、上に屋根を追加しておこう」


 そして、貼り合わせるだけじゃ心配だから、お高い釘の出番だ。これは仕方ないよね。


「直接風雨にさらされないように何か上から塗っておこう。一応カバーも付けてと」


 私の方は大体終わりだけど向こうはどうかな?


「ライギルさんそっちはどうですか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれアスカ、早すぎだ!」


「じゃあ、残りはライギルさんの担当部分だけなんでお願いします」


 ある程度組み立てた分は濡れないように奥へしまって食堂へと戻る。


「あら、アスカちゃんもう終わったの?」


「後はライギルさんの担当分なので……」


 ミーシャさんが入れてくれたジュースを飲んで答える。


「じゃあ、お菓子を食べながら戻ってくるのを待ちましょうか」


「やった~!」


 二人でお菓子を食べながらライギルさんを待つ。結局帰ってきたのは夕方の仕込み近くで、ろくに休憩も取らずにそのままキッチンに戻っていった。


「ああ~、道具の運び込みからだ~!」


「しょうがないか……」


 私はさすがに可哀そうだと思い、魔法を使って調理器具を戻すのを手伝った。




「さて、とうとう今日はオーブンが来る日なんだが」


「あなたやめなさい。さっきから」


「そうだよお父さん……」


 コツコツコツコツ


 翌日の昼過ぎ。今日はお客さんも少ない日なので早々にお昼を終わらせたんだけど、そこからライギルさんの貧乏ゆすりがひどい。何度も二人に注意されているのに全く収まる気配がなくて、いつものお父さん的な感じが最近みじんも感じられず、ちょっと私の中の評価も下がり気味だ。


「あの~」


 その時ドアを開けて一人の男の人が入ってきた。


「なんだ!」


「その……ご注文の荷物をお持ちしました」


「そうか! よく持ってきてくれた!!」


 入ってきた男の人の背中をバンバンと叩いて迎えるライギルさん。もしも~し、娘さんがえらく冷たい目で見てますよ。


「じゃあ、ここにサインとお金を」


「分かった。金はこれで足りてるな。残った分は取っておいていい」


「ありがとうございます!」


 男の人はそそくさと出ていく。前もって話してあったみたいでオーブンは裏に運んでくれたようだ。


「あなた! さっきの態度は何です。宿の女将として看過できません!」


「あっ、いや」


「お父さんってああいう人にはお金あげるんだね。わたしだって直接おこづかいもらうなんてめったにないのに……」


 これは今日の夜にでも家族会議かな? とりあえず私は依頼もあるので、一抜けさせてもらおう。


「ライギルさん。裏でオーブン設置の準備してきます」


「あ、おい!」


「あなたもさっさと行ってきなさい! 待たせちゃだめじゃない」


「そうだよ」



「おい、アスカ。何も置いていかなくても……」


「すみません。でも、ちゃんとこのオーブンで日ごろの感謝を伝えれば、二人とも許してくれると思いますよ」


「そ、そうか?」


「だけど、導入費用も高かったでしょうから、しばらくは大人しく働かないとだめですよ?」


「分かった」


 なんだか今日は私の方が大人みたいだ。とりあえず梱包を外して中身を出す。外した梱包材を使ってサイズを測ったけど、ほぼ仕様書の通りだな。


「これなら設置だけでいけそうです。離れててくださいね」


 意識を集中させて魔法を唱える。


「ウィンド!」


 地面からオーブンを持ち上げてゆっくりとキッチンにはめ込んでいく……できた。


「完了です!」


「おお! これで今から……」


「ラ、ライギルさんちょっと待ってください。壁、壁!」


「お、おお、そうだった」


 オーブンの実物が確認できなかったため、組み立てはせずにいたので、奥の壁以外はまだ設置できていなかった。


「じゃあ、そっち持ってくださいね。いきますよ~。せ~の!」


「はっ」


 私は魔法でライギルさんは手で一緒に一面ずつ壁を置いていく。そして重なるところには接着剤を塗る。最後に換気口をつけておしまい! じゃなかった、屋根を追加で作ったんだった。屋根は高いところになるからまた風魔法を使って、接着剤をつけた屋根を浮かせて付ける。


「ふぅ~。全工程完了です」


「ああ、ありがとうアスカ。お前のお陰で早く作ることができるよ」


「頑張りましたので!」


 きっといい汗かいたってこういう時のことなんだろうな。満足感と疲労感を覚えながら私は食堂へ戻った。



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