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アスカと幻想世界

「それでこの辺にはどんな薬草があるの?」


「さあ?」


「さあってアスカが薬草があるっていったんでしょ?」


「うん。薬草があるのは間違いないよ。ただ、何がどれぐらいかは詳しく見てみないと分からないかな」


「それじゃ、調査も一緒にしよう」


湖の薬草群生地に着いた私たちは手分けしてどんな薬草が生えているか調査した。1時間ほどで大体の目途がついた。


「この辺にもシャルパン草生えてるんだね。後はムーン草だけみたいだね」


「こっちも一緒だったよ。でも、こんな湖の近くにムーン草が生えてるなんてね。きっと、夜になると幻想的な風景なんだろうなぁ」


「そうだね」


にやけてロビン君が返事をするのでちょっと気になった。


「どうかした?」


「ううん。アスカも女の子なんだなって。湖とムーン草で夜の景色なんてね。僕はてっきり…」


「てっきり?」


「何でもない。それより採取は明日にしようか?」


「どうして?」


「折角、幻想的な景色が見れるかもしれないんだから見てからにしようって。採っちゃったら二度とこの景色は見れないかもしれないしね」


「良いの?」


「明日の狩りも朝早めで昼すぎぐらいには終わる予定だから。時間はあるよ」


「ならそうしよっか」


「じゃあ、約束だね。でも、夜だとあまり騒がしくしてもダメだから、

悪いけどアスカの魔法で連れてってくれる?」


「いいよ。それじゃ、帰ろうか」


私たちはまた明日にここに来ることにして、今日は家に戻ることにした。


「ただいま、母さん」


「あら、もっとゆっくりかと思ったら意外に早かったわね~」


「そう?結構ゆっくりしたと思ったんだけど…」


「それよりもうすぐ食事よ。今日はあなたの取ってきたボアの肉よ。さっき、カシウス君が持ってきてくれたの。明日も狩りに行くんでしょ?お礼を言っておきなさい」


「カシウスならその分、大目に分けてあげたから大丈夫だよ」


「そうなの?でも、あんまり気前良くしないでよ。うちも付き合いがありますからね」


「分かってるよ。今日は解体を代わりにやってもらったからその分だから」


「それじゃ、夕飯にしましょう。アスカちゃんはどのぐらい食べる?」


「私はそこまで食べませんのでお気遣いなく」


「そう?ロビンが狩りに行くようになって食卓もにぎわうようになったから遠慮しないでね。この子がこれだけ活躍しているのもアスカちゃんの指導のお陰なんだから」


「そんな。私はちょっと後押ししただけですよ」


「そんなことないよ。実際、貰った弓も使い易いし矢の件だってアスカがいなかったらまだ村中、自作の矢だらけだったよ」


「そういえば職人さんが現れたんだよね?」


「うん。腕は悪くはなかったんだけど、血を見るのが苦手でね。狩りに行きたくないって言ってた子なんだよ。今は弓と矢を作る仕事をしていて、狩りに行かなくても肉がもらえるから助かってるって言ってた」


「職人さんも割り当てがもらえてよかったね」


「実際、矢が変わると外れることもあるし、狩りの最中は命に関わるからね。どっちかというとベテランさんの方が言い出したんだよ」


「ま、俺たちが狩ってた頃はもっと安定していたからな。今の上の連中も薄々は気づいていたんだろう。言い出すきっかけがなかっただけでな」


「デレクさん。畑の方はもういいんですか?」


「ああ。一日かけてやっても狭い畑じゃ知れてるからな。罠を教える方が大事だよ」


デレクさんは最近は村の娘たちにも罠の張り方を教えているらしい。狩人たちが狩りに専念できるようにと、自分たちだけでも何とか身を守れるようにということらしい。


「でも、急に罠なんて教えたりして何かあったんですか?」


「アスカはアルバの東が危険になったの知ってるよね?」


「そりゃもちろん。自分も当事者だし」


「その不安が最近西の方にも流れて来ててね。もしかしたら西側もそうなるかもしれないって。村の人間も街に行けばその話を聞く回数が増えて、それを村に帰ってから話をして広まったんだよ」


「そう言われると仕方ないのかもね。東は冒険者だって、Dランク未満は立ち入り禁止になっちゃったし」


「この村は比較的安全なアルバに近いから、そういうことにもあまり気を使ってこなかったんだけど、流石に今回の件でみんなも何かできないかって話し合って決めたんだ」


「そっか。でも、ロビン君からしたらちょっと安心でしょ?」


「そうだね。今のところ西側は前と変わりないから安全だし、村の防衛力が上がれば気兼ねなく狩りに行けるからね」


「そういえば明日はアスカちゃんを連れて狩りに行くんでしょ?ちゃんと守ってあげなさいよ」


「もちろんだよ」


「そんなこと言って、ロビンは守られる方でしょ。弓の腕からして追いついてないじゃない」


「ヘレン姉さん。余計なことは言わないでよ」


「実は私も久しぶりにこの前、街に行ったのよね。ちょっとアスカちゃんのことを聞いたら、道行く人が知ってたわよ」


「そ、それはきっと細工の件ですよ」


「そうかしら?門番さんもえらく褒めてたわよ。未熟な冒険者を助けただけじゃなく、回復魔法までかけたんですって。私、冒険者はお金のことばっかりだと思ってたけど、その話を聞いて見直したもの」


「へぇ~、さすがアスカだね」


「そういう評価はいりません。あっ、私の泊まる部屋ってどこですか?明日早いからもう寝ないと…」


食事も終わっていたので、話を切り替えるついでに今日の寝床を聞く。


「そうだったわね。宿は流石にひとりに出来ないし、この部屋にどうぞ」


ヘレンさんに案内されて奥の部屋を見せてもらった。小さいながらも手入れされていていい部屋だ。


「もう今日は寝る?」


「はい。明日に備えて寝ちゃいます。多分、寝ると起きないと思いますので」


「分かったわ。鍵は一応かけておいてね」


「分かりました」


ヘレンさんにお休みの挨拶をして部屋に入る。そしてすぐさま窓の確認だ。このタイプの鍵なら魔法で外からでも開けられそうだ。


「念のため、アルナは中にいてもらえる?」


ピィ~


ええ~と残念がるが、渋々了承してくれた。ありがとうアルナ。街行きの服をマジックバッグから取り出して着替え、いざ窓から外へ。5分ほどでロビン君が外に出てきた。


「見つからなかった?」


「ううん。明日の狩りのためにちょっと練習してくるって堂々と言って来た」


「くぅ、実家の余裕だね」


こっちは寝起き悪いですって嘘までついたのに。それはそうと早く行って帰ってこないと、騒ぎになっても困る。ロビン君の手を取って一気に風魔法で空へと昇る。


「わっ、すごい。空飛んでるよ」


「うん。ちょっと注意してね。慣れてないと酔うかもしれないから」


「大丈夫だと思う。木から木へ飛び移ったりしてるから」


「流石は狩人ね」


「そういえばアルナは?」


「悪いけど留守番してもらっちゃった。窓は開け閉めできると思うけど念のためにね」


「…そっか」


いきなり黙り込んでロビン君どうしたんだろ?ま、いっか。幸い酔わないようだしこのまま加速しちゃえ!


「行くよ!」


ドンッとさらに加速して目的地に向かう。時間も限られてるからしょうがない。ほんとは夜の森とかもちょっと気になるから歩いてみたかったけどね。今度、エヴァーシ村にでも行った時にやろうかな。


「着いたよ」


ちょっとだけ手前に降りて後は徒歩だ。そしてムーン草があったところに向かうと…。


「わぁ~、綺麗…」


「本当だね。村の近くなのにこんな景色があったなんて知らなかったよ」


湖面近くに生えているムーン草の光が月明かりと相まって、湖に映し出されている。月のくっきりした明かりとムーン草のぼんやりとした光の差も幻想的な光景を後押ししている。


「薬草だから採っちゃってこの景色が消えちゃうのが残念」


「でも、この辺だと水を飲みに魔物が来るかもしれないから、観光にはできないね」


「じゃあ、ここに来れる狩人の特権だね」


「ふふっ、そういうことになるね」


「そうだ!ちょっと湖の方見ててね。絶対こっちみないでよ?」


「う、うん。でも急にどうしたの?」


「見ないでって」


「分かったよ。それじゃ、大丈夫になったら言ってよ」


「は~い」


私はマジックバッグからあるものを取り出した。そして2分後。


「ロビン君、もういいよ」


「じゃあ、振り返るよ。アスカ?あれ、居ない」


「こっちだよ、ロビン君」


私は巫女服に着替えて空を飛び声をかけたのだ。そして、今私がいるのは湖面のムーン草と月の光が移り込んでいるところだ。風魔法で浮いて、ぎりぎり靴が水面に着く位を維持している。


「どう?私の信仰する女神さまの題材に湖面にいるのがあったから真似てみたんだけど…」


「とても、とても似合ってるよ。本物の女神様みたいだよ」


「それは言いすぎだよ。本物を見ると絶対そう思うって」


「ううん。僕には女神様に見えるよ。きっと、本物でもこんなに感動しないよ」


「もう…ロビン君たら口が上手いんだから」


それから数分間、私はそうやってちょっとポーズを取ったりしてこの景色を楽しんだのだった。



----------------


おまけ

未来かもしれないしそうでもないかもしれない先の話。



「ねぇ、お父さん。今日連れて行ってくれた夜の湖ってお母さんと行ったの?」


「そうだよ。告白する時もね」


「じゃあ、一生懸命そういうところ探したんだ」


「残念だけど別の人に教えてもらったんだよ」


「えっ、どんな人?」


「女神さまだよ。…そう、彼女は女神さまだった」


「え~、ほんとなの?だってこんな何もない村だよ。せめてアルバだったらわかんないけど」


「お前にもいつか分かる時が来るよ」


「そんなこと言って、お父さんどうせ振られたんでしょ?」


「そうかもしれないね。一緒に見たのに何もなかったんだから」


「わっ、お母さんに言いつけちゃお」


「母さんも知ってる人だよ」


「そうなの?」


後日、気になってお母さんにも聞いてみた。


「ああ、その話なら知ってるわよ。彼女が女神なら、パパは使徒だから。流石にママも神様とは張り合わないわ」


「ちぇ~、つまんないの」


「そんなこと言って、いい人は見つかったの?早い者勝ちなんだからのんびりしていると誰も残らないわよ?」


「いいよ~、どうせ誰かに決まるだろうし」


「はぁ~、どうしてこうなっちゃったのかしらね」


「さあ?」


その時、来客だとおばあさんがやって来た。


「こんな村に珍しいですね。ヘレンお義姉さんかしら?」


いいから早くとお母さんが急かされている。来客を一目見たらお母さんは驚いていた。


「まぁ!いつこちらに?」


「たった今です。そうそう、今日は紹介したい子がいるんです。村に来る間も元気でこまっちゃって…」


そういうとその女性の後ろから綺麗な髪の少年が現れた。


「お、お母さん!」


「どうしたの?お客様の前ですよ」


「この、この子にする!」


「あらあら、パパと一緒で目利きね。でも、あなたで釣り合うかしらね~」


「頑張る!」


「そっちの子は…」


私のロマンスは今この瞬間に始まったのだ…。






----------------

この話のタイトルは当初、狩りと実力でした。こうやって物語が伸びていくのです。たまにおかしいサブタイトルの時は察していただけるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
ここまでロマンチックな雰囲気になってもロビン君とアスカは結婚しないのか~ いや、ifとして結婚した未来もあるかも知れないって感じかな?
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